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第三章 印刷とブック・デザイン

印刷とブック・デザイン

紙すき作業

英語のペーパーという言葉はエジプト原産のパピルスに由来していますが、パピルスが本や文書の原材料 (文字の支持体) として使われたのは7〜8世紀頃までで、その後ヨーロッパでは獣皮が写本の材料 (支持体) として使われました。中国起源の製紙技術がヨーロッパに伝わったのは12世紀のことで、スペイン、イタリア、フランス、ドイツの順に広がりました。ぼろ布を原料とする紙は獣皮の代用品でしたが、印刷にはインクののりが良い点など獣皮より適していましたので、15世紀の後半以降、製紙業は大きく発展しました。

ヨーロッパの紙はぼろ布を細かく裁断して発酵させ、それを水車小屋ですりつぶしたあと漉き桁ですくって乾燥させるという方法で作られています。現在ボローニャ市立中世博物館に残されている碑文によりますと、大きさは740×500mmのImperialleと呼ばれるものから450×315mmのReçuteと呼ばれるものまで四段階のものが作られました。しかし、現在のような規格化が進んでいませんので製紙業者により大きさには違いがありました。漉き桁には針金で模様がつけられ、漉きあがった紙にはその模様が紙の薄い部分として転写されました。紙を光にかざすとその部分が浮き上がって見え、この透かし模様をウォーターマークと呼んでいます。このマークにより製紙業者が特定され、紙の年代がわかるのではないかということから、20世紀に入って透かしの研究が進められています。

参考コラム「ウォーターマークの世界」

全紙(横長 縦横比1:1.4142)
フォリオ(一回折った状態 縦長 縦横比1:0.7071)
クォート(二回折った状態 横長 縦横比0.7071:0.5) オクターヴォ(三回折った状態 横長 縦横比0.5:0.3536)

中世以後、書物は巻物ではなく冊子 (codex) として製本されるようになりましたので、印刷本も全紙を折りたたんで折丁 (quire) を作るようになっています。折丁は紙の中央部に糸を通すことで小冊子となる最小の単位で、折丁をいくつも重ねて糸かがりをすることで1冊の本ができます。全紙を折りたたんだ回数により本の大きさが決まりますので、この回数に応じた本の大きさの名称を判型 (format) と呼んでいます。全紙を1回折りたたんだ判型をフォリオ (folio) 、2回折りたたんだ判型をクォート (quarto) 、3回折りたたんだ判型をオクターヴォ (octavo) と言い、それぞれ2o、4o、8oと略記します。この名称は全紙1枚からできる折丁の葉数からきています。 普通、ウォーターマークは横長な全紙を中央で2つ折にしたとき、どちらかの側の中央に位置するように入れられています。そこで本の各葉のどのあたりにウォーターマークが見られるかを調べることで、その本の判型がわかります。またインキュナブラ時代の手漉き紙 (laid paper) は横長な全紙の縦方向に少し太めの鎖線 (chain line) が、横方向には細い密線 (wire line) が透けて見えますので、これらの線の方向により判型を判定することもできます。

ウォーターマークと鎖線の表れ方 (2o)
クリックすると、他の例を見ることができます。
また、4oの例をアニメーションで見ることもできます。[Flash版] [HTML版]
展開後(1r,1v,2r,2vの順)

インキュナブラ の折丁は全紙1枚を折りたたんだものだけでなく、複数の全紙を用いて折丁 (gathering) が作られています。『42行聖書』はほとんどの折丁が10葉 (20頁) から成っており、この折丁をquinternionと呼びます。これはフォリオを5枚重ねて作られています。折丁は糸でとじるのに都合のよい枚数で作られ、また本を分担して製作するのに都合のよい個所で折丁が変わるようにデザインされています。折丁は葉の数に応じて、4葉ならduernion、6葉ならternion、8葉ならquaternion、10葉ならquinternion、12葉ならsexternと呼ばれます。quaternionは2oですと4枚、4oですと2枚、8oですと1枚で作ることができます。当館所蔵インキュナブラの例で見ますと、アルベルトゥス・マグヌス『マリアーレ』 (1488) は判型は4oですが、すべての折丁がquaternionでできています。またアリストテレス『問題集』 (1494) も判型は4oですが、すべての折丁がternionでできています。ランピゴリス『聖書の姿』 (1496) は判型は8oで、ほとんどの折丁がquaternionでできています。

2o(2葉、4頁)表 左が2頁、右が3頁2o(2葉、4頁)裏 左が4頁、右が1頁
2oの組版の例

印刷本を作る場合、テキストの分量に応じて折丁の構成を決め、それに従って版面の組付が行われます。全紙の片面を一度に印刷する場合、組版はページの順に並ぶのではなく、少し複雑な順に並んでいる必要があります。全紙を折りたたんだときに各葉がページの順にきちんと並ぶ必要があるわけですから、全紙1枚で1丁を作る場合、全紙の各位置にくる葉の表裏あるいはページ付けは左の図のようになります。また全紙2枚の4oでquaternionを作る場合の位置は下の図のようになります。

全紙2枚の4oで8葉を作る場合の組版
全紙1の表裏 全紙2の表裏
全紙1の表裏 表 左上から右回りで14頁、15頁、2頁、3頁、裏、16頁、13頁、4頁、1頁全紙2の表裏 表 左上から右回りで10頁、11頁、6頁、7頁、裏、12頁、9頁、8頁、5頁

印刷のできあがった全紙を折りたたむ順番を示すため、各葉表面の右下すみに折丁記号 (signature) という記号が印刷されている場合があります。これは本全体での折丁の順番と各折丁での葉の順番が製本師にわかるようにする記号で、普通折丁の順番は a、b、c、d...というアルファベットで示し、葉の順番は1,2,3,4...あるいは1、2、3、4...のように数字で示してあります。折丁についてはこの他に、折丁記号の全体と各折丁の前半の各葉の冒頭の語を一覧にしたレジスターと呼ばれるページが巻末に作られている場合があります。現代の本と違って、インキュナブラの時代は本にページ付けを印刷することはまだ行われておらず、ページ付けの印刷は16世紀後半に定着しました。また、インキュナブラの各葉に通しページをふること (丁付け) も一般的ではありませんでした。

折丁記号(Aii) 折丁記号(Aiii) 折丁記号(Bi) 折丁記号(Bii) 折丁記号(Biii)

インキュナブラ特有の本のデザインについては以下について小事典で説明していますので、ご覧ください。

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