臨時法制調査会における諮問第一號「憲法の改正に伴ひ、制定又は改正を必要とする主要な法律について、その法案の要綱を示されたい。」に對する答申書

昭和二十一年十月二十六日付

臨時法制調査会における諮問第一号
「憲法の改正に伴ひ、制定又は改正を必要とする主要な法律について、その法案の要綱を示されたい。」に対する答申書

臨時法制調査会

臨時法制調査会における諮問第一号に対する答申書

目次
一、答申書(本文)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二、民法中改正法案要綱に対する附帯決議送致の件(書簡)・・・・・・・・・・・
三、刑法の全面的改正に対する参考資料送致の件(書簡)・・・・・・・・・・・・
第一部会関係(皇室及び内閣関係)
四、皇室典範改正法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
五、皇室経済法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
六、内閣法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
七、行政官庁法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
八、官吏法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 一〇
第二部会関係(国会関係)
九、国会法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 一二
一〇、参議院議員選挙法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 一四
第三部会関係(司法関係)
一一、裁判所法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 一五
一二、検察庁法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 二五
一三、行政訴訟に関する特則案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 二九
一四、裁判官国民審査法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 三〇
一五、裁判官弾劾法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 三一
一六、民法中改正法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 三二
一七、刑法中改正法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 三五
一八、刑事訴訟法改正法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 三六
一九、刑事補償法中改正法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 四四
二〇、基本的人権保護法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 四五
第四部会関係(財政関係その他)
二一、財政法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 四六
二二、訴願法中改正法案要綱・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 四七

昭和二十一年十月二十六日

臨時法制調査会会長 内閣総理大臣 吉田 茂
内閣総理大臣 吉田 茂 殿

本会は諮問第一号について、慎重審議の結果、左記のものについて、別冊の通り議決致しましたので、ここに答申致します。



一、皇室典範改正法案要綱
二、皇室経済法案要綱
三、内閣法案要綱
四、行政官庁法案要綱
五、官吏法案要綱
六、国会法案要綱
七、参議院議員選挙法案要綱
八、裁判所法案要綱
九、検察庁法案要綱
十、行政訴訟に関する特則案要綱
十一、裁判官国民審査法案要綱
十二、裁判官弾劾法案要綱
十三、民法中改正法案要綱
十四、刑法中改正法案要綱
十五、刑事訴訟法改正法案要綱
十六、刑事補償法中改正法案要綱
十七、基本的人権保護法案要綱
十八、財政法案要綱
十九、訴願法中改正法案要綱


昭和二十一年十月二十六日

臨時法制調査会会長 内閣総理大臣 吉田 茂

内閣総理大臣 吉田 茂 殿

民法中改正法案要綱に対する附帯決議送致の件

本調査会は、別途答申の民法中改正法案要綱について、希望意見として左記の通り、附帯決議を致しましたので、ここに送致致します。

 記

一、直系血族及び同居の親族は、互に協力扶助すべきものとすること。


昭和二十一年十月二十六日

臨時法制調査会会長 内閣総理大臣 吉田 茂

内閣総理大臣 吉田 茂 殿

刑法の全面的改正に対する参考資料送致の件

次の一項は、大体においてこれを承認するも、今囘の刑法改正についてはその決議を留保し、刑法の全面的改正に対する参考として、これを送致する。
刑は共同生活の規律を正し、社会秩序を保全するを目的とするものにして、その性質上報復的害悪を加ふるを精神とするものに非ず、而して刑は、犯罪事実に対し影響を及ぼし得るものに非ずして犯罪人に対し機能を営むべきものなるが故に刑の適用においては、特に犯罪人の道徳的再生を趣旨とし、希望が恐怖よりも効果的なるものなることを十分に考慮すべき旨を明かにするの規定を設くること。

皇室典範改正法案要綱

一、皇位継承
(一)皇位は、皇統に属する男系の嫡出男子が、これを継承すること。
(二)皇位継承の順序及び順序の変更は、現制通りとすること。
(三)皇位継承の原因は、崩御に限ること。
(四)胎中皇子の出生は、既成の皇位継承の効果に変更を及ぼさないこと。
(五)改元の規定は、典範より除くこと。
二、皇統譜
天皇及び皇族の身分上の事項は、皇統譜に登録する旨規定を設けること。
三、成年及び立后
(一)天皇、皇太子及び皇太孫の成年を十八年とすること。
(二)立后は、皇室会議の議を経ること。
四、敬称
陛下、殿下の敬称は現制通りとすること。
五、摂政
(一)未成年天皇のために置かれるものを除き、摂政は、天皇に重大な事故がある場合、皇室会議の議を経て、これを置かれるものとすること。
(二)摂政就任の順序及び順序の変更は、現制通りとすること。
(三)摂政は、その在任中刑事の訴追を受けないこと。
六、太伝
太伝の制は設けないこと。
七、皇族
(一)皇族は、皇后、太皇太后、皇太后、皇太子、皇太子妃、皇太孫、皇太孫妃、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王とすること。
(二)嫡出の皇子及び皇孫は男を親王、女を内親王とし、その他の嫡出の皇族は、男を王、女を女王とすること。
(三)皇族の婚姻は、皇室会議の議を経て勅許せられること。
(四)内親王、王及び女王は、勅旨又は情願があつた場合に於ては、皇室会議の議を経て、皇族の身分を離れること。
(五)皇族の身分を離れる王の妻、直系卑属及びその妻は、他の皇族に嫁した女子及びその直系卑属の外、同時に皇族の身分を離れること。他の皇族に嫁した女子も離婚した場合は、皇族の身分を離れること。
(六)皇族以外の女子で親王妃又は王妃となつた者が、その夫を失つたときは、情願により、皇族の身分を離れることができること。その者が離婚したときも皇族の身分を離れること。
(七)皇族の身分を離れた者は、皇族男子との婚姻によるほか、皇族に復することができないこと。
(八)皇族は、養子をすることができないこと。
(九)皇族の訴訟及び懲戒の規定は典範より除くこと。
(十)皇族に対しては、一位継承、摂政就任等に関するもののほか、一般法令の適用があるものと考へ、一般法令によるものは、典範より規定を除くこと。
八、皇室会議
摂政設置並びに皇位継承及び摂政就任の順序の変更等典範によりその権限に属せしめられた事項を審議するため、皇室会議を置くこと。
(一)皇室会議の構成員は、皇族二人、内閣総理大臣、宮内府(仮称)の長、衆議院及び参議院の議長並びに最高裁判所の裁判官二人とする。
(二)皇族及び裁判官の会議員の任期は六年とし、半数づつを三年ごとに、各々成年男女皇族と裁判官のうちから互選する。
(三)召集者と議長は、内閣総理大臣を以てあてること。
九、その他
(一)即位の礼及び大喪儀に関し、規定を設けること。
(二)陵墓に関し、規定を設けること。

皇室経済法案要綱

一、憲法により国有となる皇室財産中、皇室が引続いて直接使用せられる財産、例へば宮城離宮、京都皇宮、御用邸、陵墓等は、国有財産の一種皇室用財産として、これを認めること。
二、皇室用財産については
(一)その財産には収益を目的とするものを含まないこと。
(二)その編入並びに用途の廃止及び、変更は、皇室経済会議の議を経ること。
(三)その他の事項については国有財産法中の公用財産に関する規定を適用すること。
三、皇室の財産の授受のうち、通常の経済取引による財産の授受、別に定める一定価額以下の授受並びに調度(御身廻り品を含む、以下同じ)及び食饌に関する進献は、その都度国会の議を経るを要しないこと。
四、前項以外の財産の授受のうち、内帑金による賜与及び別に定める一定価額以下の授受で皇室経済会議の議を経たものについても、亦前項と同じであること。
五、天皇、皇后、太皇太后、皇太后、皇太子、皇太子妃、皇太孫、皇太孫妃及び婚嫁しない未成年の皇子の財産に関しては、租税に関する法令を適用しないこと。
六、皇室経費は、これを内帑金、宮廷費及び皇族費(以上何れも仮称、以下同じ)に分けること。
七、内帑金は、天皇及び第五項に掲げる皇族に関する調度、食饌その他の内廷諸費をその内容とし、別に定める定額を以て国庫から支出すること。
八、宮廷費は、内帑金を除く宮廷諸費をその内容とし、年々の所要に応じ、予算に計上して、国庫から支出すること。
九、皇族費は、皇后、太皇太后、皇太后、皇太子、皇太子妃、皇太孫、皇太孫妃及び婚嫁しない未成年の皇子を除く皇族に対する年々一定額の支給をその内容とし、国庫から支出すること。
十、皇族費は、皇族各一人に対し、別に定める定額を基礎とし、親王、親王妃、内親王、王、王妃、女王、成年、未成年、既婚、未婚、摂政就任等の区別により年々の一定額を定めること。
十一、皇族が、皇族の身分を離れるときには、離れる皇族御一方の一定額の十倍以上十五倍以下に当る金額を国庫から支出すること。但し未婚又は未成年の王については、その成年既婚者となつたときの一定額を、未婚の内親王又は女王については、王妃の一定額を基準とすること。
十二、皇室経済会議の構成員は、内閣総理大臣、宮内府(仮称)の長、大蔵大臣、衆議院及び参議院の議長並びに会計検査院長とすること。
十三、皇室経済会議の召集者と議長は、内閣総理大臣を以てあてること。

内閣法案要綱

一、内閣は、首長たる内閣総理大臣及び 人以内の国務大臣を以て、これを組織すること。
二、内閣総理大臣は、国務大臣の中から、各省大臣を命ずること。
三、内閣総理大臣に故障あるとき(欠けたときの暫定的の場合をも含めて)は、内閣総理大臣の予め指名した国務大臣が、その職務を代理すること。
四、主任の国務大臣に故障あるとき(欠けたときの暫定的の場合をも含めて)は、内閣総理大臣又はその指名する国務大臣が、その職務を管理すること。
五、内閣の職権に属する事項は、すべて閣議を経ること。但し、閣議を以て、これを内閣総理大臣又は主任の国務大臣に委任するを妨げないこと。
六、主任大臣間の権限について明瞭でない場合のその決定及び意見不一致のある場合のその裁定は、閣議を経ること。
七、各大臣は、その所見により何等の件を問はず、内閣総理大臣に提出して閣議を求めることを得ること。
八、内閣に内閣官房、法制局その他政令を以て定める必要な機を設けること。

行政官庁法案要綱

一、行政官庁法は、行政官庁に関する一般法とすること。
二、本法では、現行の各省官制通則中中央行政官庁の組織及び権限の基本に関する事項を中心とし、これに各省の外局、地方官衛、各省の管理又は監督する官庁、委員会等の設置その他必要な事項を規定するものとすること。
本法中必要な規定は、内閣総理大臣を主任とする行政事務に関してこれを適用すること。
三、以上の方針により、本法は凡そ次の如き事項を規定するものとすること。
(1) 本法の適用せられる各省の名称及びその所管事項の大綱
(2) 各省大臣の主任事務についての責任
(3) 各省大臣の主任事務についての法律及び政令の制定改廃の発動
(4) 各省大臣の命令制定権
(5) 各省大臣の地方庁に対する指揮監督権
(6) 各省大臣の所部の官吏の身分に関する権限
(7) 大臣官房、局部等各省の省務分掌の基本機構
大臣官房、局部等について、その分掌事務の政令への委任
(8) 各省に置かれる職員の官名及び職掌
各省に置かれる首脳職員以外の職員の定員及び特別な職員の設置の政令への委任
(9) 各省の外局、地方官衛、各省大臣の管理又は監督する官庁、委員会等の設置、権限等の政令への委任
(10) (2)乃至(5)及び(9)は、法律又は政令により、内閣総理大臣を主任とする行政事務に関してこれを適用すること。なほ内閣総理大臣に普通行政事務を担任せしめることは、なるべくこれを避けること。
前項の事務分掌の機構及び職員等の政令への委任

官吏法案要綱

本会は官吏制度に関し、改正憲法の施行に伴つて必要な事項を中心として検討の結果、左記のやうな官吏法案要綱を答申する。しかしながら、官吏制度は新日本建設の途上において、又改正憲法の十全な運営を期する上からも、各般の事項に亙つて慎重且周到に検討されねばならぬものと思はれる。よつて政府は、官吏制度の根本的改革につき、今後更に調査研究を遂げ、なるべく早い機会に之が実現を期すべきものと考へる。
一、官の区分
官を分つて、一級官、二級官及び三級官とすること。
一級、二級及び三級を通じて同一官名とする現行制度の原則に再検討を加へること。
二、任用及び敍級の資格
特別の官の任用資格に関するものを除く外、一級、二級及び三級の別並びに事務系統の官及び技術教育系統の官の別に応じて、大体において現行制度を踏襲して、法律を以て規定すること。
三、高等試験及び普通試験
高等試験及び普通試験に関する根拠規定を法律を以て定めることとし、これに基いて概ね現行制度に準ずる内容の政令を発すること。この場合、外交科試験を行政科試験から分離する制度を考慮すること。
四、任用及び敍級手続
(1) 一級官吏の任用及び敍級は、天皇の任命するもの、任命について天皇の認証するものその他特別のものの外、主任大臣の申出により、内閣において、これを行ふものとすること。
(2) 二級官吏の任用及び敍級は、特別のものの外、主任大臣の申出により、内閣総理大臣が、これを行ふものとすること。
(3) 三級官吏の任用及び敍級は、特別のものの外、主任大臣又は政令の定める各庁の長等が、これを行ふものとすること。
五、分限
(1) 官吏は、その意に反して降敍又は、減俸せられることのないものとすること。但し懲戒による場合は、この限りでないこと。
(2) 官吏の休職については、概ね現行制度を踏襲して、これを法律を以て規定すること。但し、官庁事務の都合による必要により休職を命ずる場合には、政令の定めるところにより官吏分限委員会の議に付することとすること。
(3) 免官及び退官については、概ね現行制度を踏襲して、これを法律を以て規定すること。
免官の手続は、任用及び敍級の手続を準用するものとすること。
六、服務
現行官吏服務規律は、これを全面的に改め、大要次の事項を規定すること。
(1) 官吏は、全体の奉仕者たることを本分とすること。
(2) 官吏は、清廉に身を持すべきこと。
(3) 官吏は、親切丁寧であるべきものとすること。
(4) 官吏は、常に研究につとめ、工夫と努力をつくすべきこと。
(5) 官吏は、相互に親和協力すべきこと。
(6) 官吏は、上司に対する服従義務を有すること。但し、上司の命令について、意見を述べることを得るものとすること。
(7) 官吏は、秘密を守る義務があること。
(8) 官吏は、みだりに職務を離るべからざること。
(9) 官吏の勤務時間、服制、居住地その他服務上必要な事項は、これを政令で定めることができるものとすること。
(10) 官吏は本局長官の許可を受けなければ、営利事業団体の役員、職員等となり又は営利事業に従事することを得ないこと。
本局長官は、その所属官吏が前号以外の団体の役員、職員等となり又は同号以外の事業に従事することが、官吏の職務執行上支障があると認める場合においてはこれを禁ずることを得ること。
七、給与
(1) 官吏の俸給については、政令を以て、これを定めること。この場合、一級、二級及び三級を通じて同一号表の俸給額による現行制度に再検討を加へると共に、勤務年限長く且つ成績優秀な者に対しては、特別俸を設ける等優遇の途を講ずることを得るものとすること。
(2) 俸給の外、手当その他の官吏に関する給与について必要な事項は、これを政令を以て定めることができるものとすること。
八、懲戒
(1) 官吏の懲戒については、懲戒として降敍を加へるの外、概ね現行制度を踏襲して、重要な事項はこれを法律を以つて然らざる事項は、これを政令を以て規定すること。
(2) 降敍は、一級官は二級官に、二級官は三級官にこれを敍級するものとすること。この場合、同一官名に、当該級がないときは、臨時その官に当該級がおかれたものとすること。
降敍せられたるものは、一年間原級以上に敍級せられることを得ないものとすること。
九、考課表制度及び研修制度
(1) 本局長官は、政令の定めるところにより、その所属官吏について、考課表を作成し、これに必要な記載をなすものとすること。
(2) 二級及び三級の官吏は、政令の定めるところにより、研修を受けるものとすること。
(3) 考課表及び研修の成績は、これを官吏の人事管理の資料となすこと。

国会法案要綱

一、議院法を国会法として全文改正すること。
二、会期
(イ)通常会の会期は、四箇月とすること。
(ロ)臨時会及び特別会の会期は、召集の際内閣がこれを定めるものとすること。(第五十三条後段の場合も亦同じ)
(ハ)会期延長は、(通常会、特別会、臨時会の各場合ともに)いづれかの一院が議決し、他の一院がこれに同意するものとすること。
政府は、両議院の同意を経て、会期延長を定めることができるものとすること。
(ニ)通常会の召集は、集会の期日を定めて、少くとも二十日前に公示せられること。
(ホ)会期は、国会召集の日からこれを起算すること。
三、開会式は、両議院成立の後にこれを行ふものとし、国会の主催する儀式として、これに陛下の親臨を仰ぐものとすること。
四、第五十三条後段の場合には、各議院の議員は連署の書面を以てその議院の議長を通じ、要求の趣旨及び会期予定日数を具して、臨時会の召集の決定を政府に要求すること。(この場合にも会期の決定権は内閣にあること。前述参照)
五、第五十四条の緊急集会に関しては、内閣から参議院議長に対し、集会を請求し、議長から参議院の各議員に対し、右の請求のあつた旨を通知すること。(なほ集会中の参議院議員の身分保障は、国会開会中に準ずるものとすること。
六、第四十九条に関連しては、歳費の費額を国会法中に法定すること。
費額は三万円と定め、議長及び副議長には職務手当の如きものを別に支給するものと法定すること。旅費、無賃乗車等の規定は現行通りに存置すること。
七、第五十条に関連しては、両議院の議員が会期中逮捕されるのは(イ)現行犯罪(ロ)内乱外患に関する罪(ハ)その院の許諾のあつた場合に限り、又、会期前に逮捕された議員は右の(イ)(ロ)の場合を除いては、その院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならないものとすること。
八、第五十七条第三項に規定する事項は、現在の記名投票の方法を利用するものとすること。
九、第五十八条第一項に関しては、役員の範囲は議長、副議長、仮議長及び全院委員長とし、両議院において、おのおのこれを選挙するものとすること。
〔備考〕同項の役員の内には入らないが、両議院事務局の職員は官吏とせず、公務員たるものとし、事務総長は、議院において議員以外の者から選挙するものとし、その他は事務総長の任命するものとすること。
十、両院協議会の規定を設けること。
十一、休会は、両院の決議の一致した場合に限るものであることを法定し必要があれば手続を定めること。
十二、第六十二条に関しては、所要の手続を法定し、旅費、実費弁償等の規定を整備すること。
十三、第六十七条に関して、所要の規定を設けること。
十四、継続委員会及び常置委員会に関する規定を設けること。
十五、第五十五条に関しては、資格審査に関する手続を法定すること。
十六、憲法に特別の規定のある場合(例えば第五十九条)を除き、両議院の一において否決した法律案は、同会期中において再び提出することができない旨の規定を設けること。
十七、政府委員に関する規定を設けること。
十八、国会に両院共同の国会図書館を附置し、国会議員(できれば議員外一般民衆をも加へて)の調査研究に資することとすること。

参議院議員選挙法案要綱

一、議員定数。衆議院議員の定数の三分の二内外とすること。
二、選挙区
(イ)略々半数については各都道府県の区域により、定数の最小限の割当は各選挙区につき二人、爾余は各都道府県に於ける人口に按分し、偶数を附加する。
(ロ)残余については全国一選挙区とする。
三、年齢。選挙人は二十歳以上。被選挙人は四十歳以上。
四、選挙方法。直接選挙。単記、無記名投票。

裁判所法案要綱

第一、最高裁判所
一、裁判官
(一)定員
裁判官の定員は十五人とし、内一人を長官とすること。
(二)任用資格
裁判官の内少くとも十人は左の資格を有する者の中から任命することを要するものとすること。
(イ)十年以上高等裁判所又は地方裁判所の裁判官(判事補を除く)の職にあつた者
(ロ)二十年以上検事の職にあつた者
(ハ)二十年以上弁護士の実務に従事した者
(ニ)二十年以上帝国大学令又は大学令による大学に於て法律学の教授、助教授又は専任教員の職にあつた者
(ホ)右に列記した職の二以上に在職し、その年数を通算して二十年以上の者
司法官試補又は弁護士試補として実務を修習し且つ考試を経た者で前記の(イ)乃至(ニ)に掲げる職にあつた者については、簡易裁判所の裁判官、判事補、最高裁判所調査官、下級裁判所調査官少年審判官、司法研修所の教官又は司法事務官の在職を以て弁護士の実務に従事したものとみなしてその年数を計算すること。
(三)定年
長官年齢七十五年、その他の裁判官年齢七十年に達したときは退官するものとすること。
(四)報酬
金額は別に法律を以てこれを定めるものとすること。
(備考)長官の俸給及び待遇は内閣総理大臣、その他の裁判官の俸給及び待遇は国務大臣の俸給及び待遇より下ることを得ない。
(五)地位
長官は総理大臣、その他の裁判官は国務大臣と同様とすること。
二、裁判管轄
最高裁判所は法律命令規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定し、又は法令の解釈適用を確定し特にその統一を保持する為めに次の事件について裁判権を有するものとすること。
(一)上告事件
(二)法律により特に最高裁判所の権限に属する抗告事件
(三)訴訟法の規定によつて下級裁判所から裁判を求められた事件
(四)その他法律により最高裁判所の権限に属する事件
〔備考〕民事訴訟法中に左の趣旨の規定を設ける。
(一)上告は左の場合に限り之を為すことを得
(イ)原判決若は原審の手続が憲法に違反すること又は法律命令規則若は処分が憲法に適合するや否に付原審が為したる判断の不当なることを理由とすると
(ロ)判決理由に於ける法令の解釈適用の不当なることを理由とするとき
(二)裁判所は事件に付適用すべき法律命令若は規則又は判断すべき処分が憲法に適合せざる疑あるときは其の点に付最高裁判所に裁判を求むることを得
(三)抗告裁判所の決定に対しては更に抗告を為すことを得ず
(四)高等裁判所が為したる決定及命令に対しては抗告を為すことを得ず
前項の裁判を受けたる者は其の告知ありたる日より一週間内に異議の申立を為すことを得但し決定に付ては裁判前審訊を受けざりしときに限る
前項の期間は之を不変期間とす
異議の申立は執行停止の効力を有す
異議の申立ありたるときは裁判所は申立人の陳述を聴きたる上決定を為すことを要す
(五)本法に依り不服を申立つることを得ざる決定及命令に対しては法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するや否に付原裁判所が為したる判断の不当なることを理由とするときに限り其の裁判の告知ありたる日より三十日内に最高裁判所に特に抗告を為すことを得
前項の期間は之を不変期間とす
刑事訴訟法中に左の趣旨の規定を設ける。
(一)左の場合には、第二審の判決に対して上告することができるものとすること。
(イ)原判決若しくは原審の手続が憲法に違反すること又は原審において法律、命令、規則若しくは処分が憲法に適合するかしないかについて不当な判断をしたことを理由とするとき。
(ロ)前号の場合を除く外、判決に影響を及ぼすべき法令の違反を理由とするとき。
(二)下級裁判所は、適用すべき法律、命令若しくは規則又は判断すべき処分が憲法に違反する疑ひがあるときは、その点について最高裁判所の裁判を求めることができるものとすること。
三、審理及び裁判
(一)小法廷(仮称)
(イ)裁判官三人を以て構成し、長官又は先任の者、任命の日の同じ者が二人以上あるときは年齢の多い者を以て裁判長とすること。
(ロ)最高裁判所が受理した事件は、すべて小法廷に於て審査するものとすること。
(ハ)小法廷に於て、裁判官の全員が事件に対する判断に於て一致し且大法廷を開く必要がないと認めたときは、自ら裁判を為すことができるものとすること。
但し、左の場合にはこの限りでないものとすること。
1 法律の同一の点について、曽て大審院、行政裁判所又は最高裁判所に於て為した判決を相当でないと認めたとき。
2 法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めたとき。
(二)大法廷(仮称)
(イ)裁判官全員を以て構成し、長官を裁判長とし、長官に差支がある場合は、先任の者、任命の日の同じ者が二人以上あるときは年齢の多い者を以て裁判長とすること。
(ロ)定足数
九人を以て定足数とすること。
(ハ)裁判は過半数の意見によるものとすること。
(ニ)判決書には裁判官各自の意見を明確に表示することを要するものとすること。
四、裁判官会議(仮称)
(一)設置
最高裁判所に裁判官会議を設けるものとすること。
(二)構成
裁判官の全員を以て構成し、長官がこれを主宰するものとすること。
(三)権限
裁判官会議は左の事項について権限を有するものとすること。
(イ)下級裁判所の裁判官の指名
(ロ)訴訟に関する手続、その他の事項についての規則の制定
(ハ)下級裁判所に関する規則の制定の委任
(ニ)調査官その他主要な職員の人事に関する事項
(ホ)最高裁判所に設置する委員会に関する事項
(ヘ)その他重要な事項
〔備考〕最高裁判所には次のやうな委員会を設ける。
(イ)人事に関する委員会
(ロ)規則の制定に関する委員会
(ハ)裁判例の整理、公刊に関する委員会
(ニ)その他必要な委員会
五、附属機関
(一)調査官(仮称)
(イ)最高裁判所に三十五人の調査官をおき、必要を調査をさせるものとすること。
(ロ)調査官は一級官吏又は二級官吏とすること。
(ハ)調査官の任免については、第五、その他の事項の三、の(ニ)の項参照。
(二)事務局
(イ)最高裁判所に事務局をおき、事務局に於ては左の事務を掌るものとすること。
1 下級裁判所の裁判官に指名した者の名簿の調製その他人事に関する事項
2 訴訟に関する手続その他の事項の規則の制定に関する事項
3 裁判例の整理、公刊に関する事項
4 裁判官、調査官及び裁判所書記の研究、修養に関する事項
5 調査、統計に関する事項
6 会計に関する事項
7 その他司法行政に関する事項
(ロ)事務局に事務局長一人をおくこと。
事務局長は長官の監督を受け事務局の事務を掌理するものとすること。
事務局長は一級官吏とすること。
(ハ)事務局に相応な員数の事務官をおき、事務官は一級官吏、二級官吏及び三級官吏とすること。
(ニ)事務局長及び事務官の任免については、第五、その他の事項の三、の(ニ)の項参照。
六、名称
「最高裁判所」と称すること。
長官たる裁判官の官名は「最高裁判所長官」、その他の裁判官の官名は「最高裁判所判事」とすること。
第二 高等裁判所――下級裁判所の一
一、設置
現在の控訴院の設置に準ずる外、その管轄区域内の地方裁判所に支部を設置することができるものとし、高等裁判所及びその支部の設立、廃止及び管轄区域並びにその変更は法律を以てこれを定めるものとすること。
二、裁判官
(一)各高等裁判所に相応な員数の裁判官をおき、内一人を長官とすること。
裁判官の員数は法律を以てこれを定めるものとすること。
(二)任用資格
(甲)裁判官に任ぜられるには、(乙)に定めた者を除く外、左の資格を有することを要するものとすること。
(イ)十年以上判事補の職にあつた者
(ロ)司法官試補又は弁護士試補として実務を修習し且つ考試を経た者で、五年以上簡易裁判所の裁判官の職にあつたもの又は十年以上最高裁判所調査官、下級裁判所調査官少年審判官、司法研修所の教官若は司法事務官の職にあつたもの
(ハ)十年以上検事の職にあつた者
(ニ)十年以上弁護士の実務に従事した者
(ホ)十年以上帝国大学令又は大学令による大学に於て法律学の教授、助教授又は専任教員の職にあつた者
(ヘ)右に列記した職の二以上に在職し、その年数を通算して十年以上の者
(乙)十年以上一級又は二級の行政官の職にあつた者は、裁判官に任ぜられることができるものとすること。
〔備考〕行政訴訟についてこの必要が認められる。その員数は法律で定める。
(三)定年
長官年齢七十年、その他の裁判官年齢六十五年に達したときは退官するものとすること。
(四)報酬
別に法律を以てこれを定めるものとすること。
〔備考〕下級裁判所の裁判官の報酬額には級別を設け、その各金額は法律を以て定める。
(五)地位
長官は最高裁判所の裁判官と同様とすること。
二、構成
合議裁判所とし、三人の裁判官を以て合議体を組立てること。但し次項「裁判管轄」の(二)の事件は特に五人の裁判官を以て組立てた合議体で審問裁判するものとすること。
四、裁判管轄
高等裁判所は次の事件について裁判権を有するものとすること。
(一)第二審として
(イ)地方裁判所の第一審判決に対する控訴事件
(ロ)地方裁判所が為した決定及び命令に対する法律に定めた抗告事件
(二)第一審として
(イ)法律によつて特に審査裁決を経ることを要するものと定められた行政事件
(ロ)東京高等裁判所の特別管轄
(1) 中央行政官庁がなした命令又は処分の取消又は変更を求める行政事件
(2) 刑法、第七十三条第七十五条第七十七条乃至第七十九条の罪の刑事事件
(三)その他法律により高等裁判所の権限に属する事件
〔備考〕
(一)高等裁判所が第一審として為した判決に対しては控訴を認めず上告のみを許すものとする。
(二)特許法を改正して抗告審判の審決に対し不服あるときは東京高等裁判所に出訴することができるものとする。
五、裁判官会議
(一)設置
各高等裁判所に裁判官会議を設けるものとすること。
(二)構成
裁判官の全員を以て構成し長官がこれを主宰するものとすること。
(三)権限
裁判官会議は左の事項について権限を有するものとすること。
(イ)裁判官の配置及び事務の分配
(ロ)最高裁判所から委任された規則の制定
(ハ)調査官その他主要な職員の人事に関する事項
(ニ)高等裁判所に設置する委員会に関する事項
(ホ)その他重要な事項
〔備考〕高等裁判所には次のやうな委員会を設ける。
(イ)人事に関する委員会
(ロ)規則制定に関する委員会
(ハ)裁判例の整理、公刊に関する委員会
(ニ)その他必要な委員会
六、附属機関
(一)調査官(仮称)
(イ)各高等裁判所に相応な員数の調査官をおき、必要な調査をさせるものとすること。
(ロ)調査官は二級官吏とすること。
(ハ)調査官の任免については、第五その他の事項の三の(二)の項参照
(二)事務局
(イ)各高等裁判所に事務局をおき、事務局に於ては左の事務を掌るものとすること。
1 人事に関する事項
2 訴訟に関する手続その他の事項の規則の制定に関する事項
3 裁判例の整理、公刊に関する事項
4 裁判官、調査官及び裁判所書記の研究、修養に関する事項
5 調査、統計に関する事項
6 会計に関する事項
7 その他司法行政に関する事項
(ロ)事務局に事務局長一人をおき、事務局長は長官の監督を受け事務局の事務を掌理するものとすること。
事務局長は一級官吏又は二級官吏とすること。
(ハ)事務局に相応な員数の事務官をおき、事務官は二級官吏及び三級官吏とすること。
(ニ)事務局長及び事務官の任免については、第五その他の事項の三の(二)の項参照。
七、名称
「高等裁判所」と称すること。
長官たる裁判官の官名は「高等裁判所長官」、その他の裁判官の官名は「高等裁判所判事」とすること。
第三、地方裁判所――下級裁判所の二
一、設置
現在の地方裁判所の設置に準ずる外区裁判所が設置されてゐる場所にはすべて支部を設置するものとし、地方裁判所及びその支部の設立、廃止及び管轄区域並びにその変更は法律を以てこれを定めるものとすること。
〔備考〕区裁判所は廃止する。
民事地方裁判所及び刑事地方裁判所の刑を廃止する。
二、裁判官
(一)長官の定年を六十五年とする外高等裁判所の裁判官の項(一)乃至(四)に定めたところと同様とすること。
(二)判事補(仮称)
(イ)司法官試補又は弁護士試補として実務を修習し且つ考試を経た者は、前掲の任用資格に拘らず判事補として裁判官に任ぜられることができるものとすること。
(ロ)判事補は単独で裁判をなし又は合議体の裁判長となることができないものとすること。
三、構成
(一)単独制及び合議制を併用し、合議体は三人の裁判官を以て組立てることとし、裁判官はすべて何れかの合議体に属するものとすること。
(二)
(イ)民事につき――
審問裁判は原則として単独の裁判官が行ふこと。但し第二審事件のとき、事案が重大で当該裁判官が合議体で審問裁判することを相当と認めたとき又は当事者双方の申立があつたときは、その所属する合議体の評議により、合議体で審問裁判するか否かを決定するものとすること。
(ロ)刑事につき――
一定の刑に該る罪の事件は合議体で審問裁判し、他は単独の裁判官が審問裁判することを原則とすること。
四、裁判管轄
地方裁判所は次の事件について裁判権を有するものとすること。
(一)第一審として
簡易裁判所の権限又は高等裁判所の「裁判管轄」の(二)に定めた高等裁判所の権限に属するものを除き、その他の訴訟事件
(二)第二審として
(イ)簡易裁判所の判決に対する控訴事件
(ロ)簡易裁判所の決定及び命令に対する法律に定める抗告事件
(三)破産事件、和議事件及び非訟事件中簡易裁判所の権限に属しない事件
五、裁判官会議
高等裁判所について定めたところに準ずるものとすること。
六、附属機関
高等裁判所について定めたところに準ずるものとすること。
七、名称
「地方裁判所」と称すること。
長官たる裁判官、その他の裁判官の官名は、高等裁判所の裁判官について定めたところに準ずるものとすること。
第四、簡易裁判所――下級裁判所の三
一、設置
全国の警察署単位毎に設置し、必要に応じて多少の増減をなすものとし、その設立、廃止及び管轄区域並びにその変更は法律を以てこれを定めるものとすること。
二、裁判官
(一)各裁判所に一人又は二人以上の裁判官をおき、一人を長とすること。
裁判官の員数は法律を以て定めるものとすること。
(二)任用資格
(甲)裁判官に任ぜられるには、(乙)に定めた者を除く外左の資格を有することを要するものとすること。
(イ)五年以上判事補の職にあつた者
(ロ)司法官試補又は弁護士試補として実務を修習し且つ考試を経た者で五年以上最高裁判所調査官、下級裁判所調査官少年審判官、司法研修所の教官又は司法事務官の職にあつたもの
(ハ)五年以上検事の職にあつた者
(ニ)五年以上弁護士の実務に従事した者
(ホ)右に列記した職の二以上に在職し、その年数を通算して五年以上の者
(乙)学識経験者で銓衡委員会の銓衡を経た者は、裁判官に任ぜられることができるものとすること。
〔備考〕銓衡委員会は各地方裁判所単位に設け、地方裁判所の長官、地方検察庁の長官、府県知事、府県会議長、弁護士会長、その他を以て組織するものとすること。
(三)定年
年齢が六十五年に達したときは退官するものとすること。
(四)報酬
高等裁判所の裁判官について定めたところと同様とすること。
三、構成
単独性とすること。
四、裁判管轄
簡易裁判所は次の事件について裁判権を有するものとすること。
(一)民事につき
(イ)和解事件
(ロ)督促事件
(ハ)調停事件(現在区裁判所の管轄に属するもの)
(ニ)非訟事件(現在区裁判所の管轄に属するもの)
(ホ)訴訟事件
訴訟物価額が一定額以下の事件及び当事者双方の合意により簡易裁判所の管轄に属せしめた事件但し裁判所が簡易手続によることを相当としないと認めたときは事件を地方裁判所に移送することができるものとすること。
(二)刑事につき
(イ)拘留又は科料に該る罪に係る事件
(ロ)罰金以下の刑に処することを相当と認める罪に係る事件但し地方裁判所に公訴を提起されたもの及び地方裁判所に移送されたものを除くものとすること。(移送は判事による職権移送のみに限ること)
〔備考〕違警罪即決例及び略式手続はこれを廃止すること。
五、司法委員
民事に関し裁判官は必要があると認めたときは司法委員を審理に立会はせ裁判についてその意見を徴することができるものとすること。
六、裁判所法人は適当の法律中に次の趣旨の規定を設けること。簡易裁判所は、訴訟法の精神に則り、健全な常識によつて、簡易且つ迅途に手続を行ひ、民事においては、法律に従ひ、実情に即して紛議を衡平に解決し、又、刑事においては、刑の適用につき、公共の福祉を保持すると共に犯人の更生を考慮するものとする。
〔備考〕
(一)民事訴訟法中に左の趣旨の規定を設ける。
(イ)訴の提起は口頭によることを得るものとすること。
(ロ)当事者に審訊を受ける機会を与へることを要する外は一切の手続を裁判官の自由裁量とすること。
(ハ)調書には手続の要領を記載するを以て足るものとすること。
(ニ)裁判官には主文、請求の趣旨及び原因を記載し、必要と認めるときは理由の要旨を掲げるものとすること。
(ホ)判決に対する控訴は地方裁判所の管轄とし、控訴審の訴訟手続は第一審の訴訟手続を基礎とせず、改めて第一審の訴訟手続によるものとすること。(所謂続審主義によらず覆審主義による)
(二)刑事訴訟法中に左の趣旨の規定を設ける。
(イ)公訴の提起は口頭によることを得るものとすること。
(ロ)調書には手続の要領を記載するを以て足るものとすること。
(ハ)調書判決を認めるのは勿論有罪判決には主文、罪となるべき事実、適用した罰条の記載を以て足るものとすること。
(三)公判開廷場所につき考慮すること。
七、名称
「簡易裁判所」と称すること。
裁判官の官名は「簡易裁判所判事」と称すること。
第五、その他の事項
一、心身の故障による裁判官の罷免
(イ)裁判官が身体若は精神の衰弱に因り職務を執ることができなくなつたときは、内閣は最高裁判所の裁判により、その裁判官を罷免することができるものとすること。
(ロ)右の裁判については最高裁判所大法廷の項の中(イ)乃至(ハ)を準用すること。但し当該の裁判官は、その裁判に関与することができないものとすること。
二、裁判官の懲戒
判事懲戒法を改正して、減俸、転所及び免職の懲戒処分はこれを廃止すること。
三、司法行政の職務及び監督権
(一)監督権
(イ)最高裁判所の長官は最高裁判所及び各下級裁判所を監督するものとすること。
(ロ)高等裁判所の長官はその高等裁判所、その支部及びその管轄区域内の各下級裁判所を監督するものとすること。
(ハ)地方裁判所の長官はその地方裁判所、その支部及びその管轄区域内の簡易裁判所を監督するものとすること。
(ニ)簡易裁判所の長はその裁判所所属の書記を監督するものとすること。
(二)職員の任免
最高裁判所調査官、下級裁判所調査官、事務局長、事務局事務官、裁判所書記及び執達吏は最高裁判所の長官又はその委任を受けた各下級裁判所の長官がこれを任免するものとすること。
〔備考〕裁判所に属する官吏の任免も内閣に於て掌理するものとの見解にたてば、右の任免は、最高裁判所の長官の具状によつてこれをなすものとする。
四、試補の制度
(イ)司法官試補及び弁護士試補の別を廃して、司法修習生(仮称)とすること。
(ロ)試補の実務の修習及び考試は最高裁判所の定めるところによるものとすること。
五、予算
裁判所の予算は司法省の所管とすること。
〔備考〕裁判所構成法はこれを廃止する。
裁判所法案要綱附帯決議
判検事は一定の年限弁護士の業務に従事した者より、これを任用することを将来実現することを希望する。

検察庁法案要綱

第一 検察庁は、最高検察庁、高等検察庁、地方検察庁及び区検察庁(簡易裁判所に対応するもの)とすること。
司法大臣は、高等検察庁又は地方検察庁の事務の一部を取扱はしめるため支部を設けることができるとすること。
第二 検察庁に検事を置くとすること。
地方検察庁及び区検察庁には、副検事を置くことができるとすること。
第三 検事及び副検事は、捜査及び公訴を実行し、刑事裁判の執行を指揮し、その他公益上必要な事項について法令の定める職務を行ふとすること。
第四 最高検察庁の検事は最高裁判所の管轄に属する事項、高等検察庁の検事は高等裁判所の管轄に属する事項、地方検察庁の検事及び副検事は地方裁判所の管轄に属する事項、区検察庁の検事及び副検事は簡易裁判所の管轄に属する事項について、その職務を行ふとすること。
司法大臣は、簡易裁判所の管轄に属する事項についての検事の職務をその庁の検察補佐官又は司法官試補をして取扱はしめることができるとすること。
司法大臣は、簡易裁判所の管轄に属する事項については、当分の間、その庁の所在地の警察官をして検事の職務を取扱はしめることができるとすること。
第五、最高検察庁に検事総長、高等検察庁に検事長、地方検察庁に検事正を置くこと。
検事二人以上をおいた支部又は区検察庁においては、その一人を上席検事とすること。
第六 検事総長は最高検察庁の長、検事長は高等検察庁の長、検事正は地方検察庁の長となり、その庁の行政事務を掌るとすること。
高等検察庁支部の一人の検事又は上席検事は検事長の、地方検察庁支部若しくは区検察庁一人の検事又は上席検事は検事正の命をうけてその庁の行政事務を掌るとすること。
第七 検察庁の設置及び管轄区域は、別に法律でこれを定めるとすること。
第八 検事は、左の者よりこれを任用するとすること。
一 司法官試補として二年以上裁判所、検察庁及び弁護士会において実務を修習し且つ考試を経た者
二 弁護士の資格を有する者
三 三年以上帝国大学令又は大学令による大学において法律学の教授若しくは助教授たりし者又は専任教員として法律学の教授を担任した者
四 高等試験に合格した者で、三年以上二級の内閣事務官、各省事務官又は地方事務官であつた者
五 三年以上副検事であつた者
前項第二号乃至第五号に規定した各職の在職年数は、これを通算するとすること。
第九 副検事は、左の者より命令の定める委員会の銓衡を経てこれを任用するとすること。
一 三年以上二級の検察補佐官であつた者
二 三年以上二級地方事務官として庁府県の警察官であつた者
三 三年以上二級の内閣事務官、各省事務官又は地方事務官であつた者
四 高等試験に合格した者
前項に規定した各職の在職年数は、これを通算するとすること。
三級の検察補佐官であつた者、三級地方事務官として庁府県の警察官であつた者又は三級の内閣事務官、各省事務官若しくは、地方事務官であつた者については、その在職年数の半数を第一項各職の在職年数に通算することができるとすること。
第十 左の各号の一に該当する者は、検事又は副検事に任ぜられることができないとすること。
一 禁錮以上の刑に処せられた者
二 懲戒の処分若しくは第十七の規定による委員会の決議によつて免官若しくは退官となつた者又は弁護士法によつて除名された者であつて免官若しくは退官又は除名後五年経過しない者
三 禁治産者及び準禁治産者
四 破産者にして復権を得ない者
第十一 検事は、親任、一級又は二級とすること。
検事総長は、親任検事をもつて内閣これを補するとすること。
検事長及び検事正は、一級検事をもつて、その他の検事の職は、一級又は二級検事をもつて司法大臣これを補するとすること。
副検事は、二級とし、その職は司法大臣これを補するとすること。
検事の待遇は概ね判事の待遇に準ずるものとし、特に検事総長は最高裁判所の判事、最高検察庁の検事中若干名及び検事長は高等裁判所の長官、検事正は地方裁判所の長官の待遇に準じてこれを定めること。)
第十二 司法大臣は、新任の検事を一時予備検事として地方検察庁又は区検察庁に勤務させることができるとすること。
第十三 検事及び副検事は、在職中左の諸件をなすことができないとすること。
一 公然政事に関係すること。
二 政党の党員又は政社の社員となること。
三 国会又は都府県市町村の議会の議員となること。
四 商業を営み又は営利を目的とする法人の役員となること。
第十四 検事総長の任期は四年とし、再任を妨げないとすること。
第十五 一級検事が年齢六十五年に達したとき、二級検事又は副検事が年齢六十年に達したときは、各退官とすること。
第十六 検事又は副検事が禁錮以上の刑に処せられたときは、その官を失ふとすること。
第十七 検事又は副検事が心神の故障により又は職務を不当に行ひ若しくは行はざることにより、その職務をとるに適しなくなつた場合には、委員会の決議を経て罷免せらるるものとすること。
前項の委員会に関する事項は、別に法律で定めるとすること。
第十八 前三項の場合を除いては、検事又は副検事は、懲戒の処分によらなければ、その意に反して免官又は転官されることがないとすること。
第十九 検察庁に検察補佐官を置くとすること。
検察補佐官は、二級又は三級とすること。
検察補佐官は、検事及び副検事の補佐として、その指揮をうけ捜査に従事するとすること。
前項の外、検察補佐官は、審問に立会ひ、書類記録を調製保管し、上官の指揮をうけて検察庁の庶務を掌り、その他法令の定める事務を取扱ふとすること。
第二十 二級検察補佐官は、命令の定めるところにより、考試又は銓衡を経て、司法大臣これを任じ及びこれを補するとすること。
三級検察補佐官は、司法大臣の定めるところにより、考試又は銓衡を経て、最高検察庁においては検事総長、高等検察庁においては検事長、地方検察庁及びその管轄区域内の検察庁においては検事正これを任じ及びこれを補するとすること。
第二十一 検察庁に通訳官を置くことができるとすること。
通訳官は、二級又は三級とすること。
通訳官の職は、司法大臣これを補するとすること。
第二十二 検察庁に鑑識官を置くことができるとすること。
鑑識官は、二級又は三級とすること。
鑑識官の職は、司法大臣これを補するとすること。
第二十三 司法大臣は、捜査及び公訴の実行について検事及び副検事を指揮するとすること。
検事総長以外の検事及び副検事に対する前項の指揮は、検事総長を経由してこれを行ふとすること。
第二十四 検事総長、検事長及び検事正は、各その庁及び管轄区域内の検事及び副検事を指揮する。但し、最高検察庁、高等検察庁及び地方検察庁のその他の検事は、事務取扱につき何等の事件に拘らず特別の許可を受けずしてその庁の長を代理する権を有するとすること。
第二十五 検事総長、検事長及び検事正は、その庁及び管轄区域内の検察庁において、ある検事又は副検事の取扱ふべき事務を自ら取扱ひ又はこれを他の検事又は副検事に移すことができるとすること。
第二十六 区検察庁の上席検事又は一人の検事は、その庁の副検事を指揮するとすること。
第二十七 検事又は副検事は、司法警察官又はその職務を行ふ者を指揮するとすること。
司法省又は地方検察庁は、内務省又は庁府県と協議して、庁府県の警察官中各地方検察庁の管轄区域内において司法警察官として勤務し、常時前項の指揮をうけ及びこれを執行するものを定めるとすること。
第二十八 司法大臣は、検察庁を監督するとすること。
第二十九 検事総長、検事長及び検事正は、各その庁及び管轄区域内の検察庁を監督するとすること。
支部又は区検察庁の上席検事又は一人の検事は、各その庁を監督するとすること。
第三十 検事総長、検事長及び検事正は、各その庁及び管轄区域内の検察庁の検事をして、監督事務の一部を取扱はしめることができるとすること。
第三十一 検事総長、検事長、検事正又は支部若しくは区検察庁の上席検事に差支があるときは、各その庁の検事は、司法大臣の定めた席次の順序によりこれを代理するとすること。検事一人の高等検察庁支部の検事に差支があるときはその庁を監督する検事長、検事一人の地方検察庁支部若しくは区検察庁の検事に差支があるときはその庁を監督する検事正は、その職務を代理する者を命ずるとすること。
第三十二 司法警察官及びその職務を行ふ者に対する監督は、前四条の例によるものとすること。
第三十三 検察庁の事務取扱の延滞又は不適当な執務若しくは処分に対しては、利害関係人は一定期間内に直近上級の監督官庁に抗告することができる。但し、裁判所において取消又は変更を命ずることができる検事又は副検事の処分は、この限りでないとすること。
抗告は、原検察庁を経由して、書面を以てこれをするとすること。
第三十四 抗告に対する処分は、抗告申立人に通知するとすること。
第三十五 検察庁の事務章程は、司法大臣がこれを定めるとすること。
第三十六 司法大臣は、第二十八の監督事務を行ふため、相当員数の参与を置くことを得るものとすること。

行政訴訟に関する特則案要綱

左の訴訟は本要綱によるものとし、本要綱に特別の定がない場合に於ては民事訴訟法によるものとすること。
(イ)行政庁を被告として、その違法は命令又は処分の取消又は変更を求める訴訟
(ロ)当事者間の公法上の権利関係に関する訴訟
一、行政庁を被告とする訴訟はその行政庁の所在地の裁判所の管轄に専属するものとすること。
二、命令又は処分の取消又は変更を求める訴訟については、出訴期間を定めること。
三、法律の規定によつて審査裁決を経た後でなければ行政訴訟を提起することができない場合には、審査の請求後三箇月内に裁決がないときは却下の裁決をしたものとみなし、出訴期間はその時から起算するものとすること。
四、訴状に於て被告の指定を誤つた場合に於ても、正当な被告に対する訴訟として取扱ふことができるものとすること。
五、共同訴訟人が多数である場合に裁判所は総代の選定を命じ得るものとすること。
六、裁判所は関係官庁その他第三者を訴訟に参加させることができるものとすること。
七、行政庁はその庁の職員を訴訟代理人とすることができるものとすること。
八、裁判所は当事者の申立又は職権を以て行政処分の執行の停止を命ずることができるものとすること。
九、当事者全部の申立があつたときは、書面審理に基いて裁判をなすことができるものとすること。
十、関係ある官庁又は団体は、裁判所の許可を得てその代理人をして口頭弁論に立会はせ意見を述べさせることができるものとすること。
十一、請求の認諾及び裁判上の自白に関する規定は適用しないものとすること。
十二、裁判所は職権を以て証拠調をなし且つ当事者が提出しない事実を斟酌することができるものとすること。
十三、原告の請求が理由ある場合に於ても、裁判所は事情により命令又は処分の取消又は変更に代へて除害施設又は損失補償その他の救済を与へることができるものとすること。
十四、確定判決は関係行政庁を羈束するものとすること。
〔備考〕
(一)書類には民事訴訟用印紙法の規定に準じて印紙を貼用させるものとする。
(二)行政訴訟の提起は訴願裁決を経ることを要しないものとする。
(三)裁判所法中に左の趣旨の規定を設ける。
行政訴訟は地方裁判所を第一審とする。
但し、中央行政官庁の処分の取消又は変更を求める訴訟又は法律の規定により特に審査裁決を経ることを要するものと定められた訴訟は高等裁判所を第一審とする。

裁判官国民審査法案要綱

一、審査権
衆議院議員選挙法により選挙権を有する者は、すべて審査権を有するものとすること。
二、投票
(一)衆議院議員選挙法により選挙投票をすることができない者は、審査の投票をすることもできないものとすること。(衆議院議員選挙法第二十九条、第三十条参照)
(二)審査の投票は、選挙の投票と同時に、同一の用紙を以てなさしめるものとすること。
(三)投票の方式
投票者は、投票用紙に罷免を可とする各裁判官について、その氏名を記載して投函するものとすること。
(四)審査の投票の効力は、選挙の投票の無効により影響を受けないものとすること。
(五)審査の投票及び開票は、選挙の投票及び開票と共に処理するものとすること。
(六)内閣総理大臣を審査長とすること。
選挙の各選挙長は、審査の投票について、開票の結果を審査長に報告すべきものとすること。
(七)審査長は右の報告を調査して、審査の結果を告示し、且つ審査に付された裁判官に通知するものとすること。
(八)投票の総数の過半数が罷免を可とした裁判官は、右の通知を受けたときに、当然罷免されたものとすること。
三、審査前の措置
投票の期日前に審査に付される裁判官の氏名を周知せしめる方法を講ずること。
四、審査の効力に関する訴訟
審査の効力に関して異議のある者は、審査長を相手方として、審査の結果の告示の日から三十日以内に弾劾裁判所に出訴することができるものとすること。
右の訴訟手続については、弾劾裁判所の定めるところにより民事訴訟に関する規定を適用するものとすること。
以上

裁判官弾劾法案要綱

一、弾劾裁判所
(一)弾劾裁判所は両議院の議員各々七人の裁判官を以て構成し、内一人を裁判長とすること。
(二)定足数は九人とすること。
(三)裁判官罷免の判決は過半数の意見によることを要するものとすること。
(四)裁判長は弾劾裁判所を代表するものとすること。
(五)弾劾裁判所に相応な員数の書記を置くものとすること。
(六)弾劾裁判所は、これを常置するものとすること。
一、訴追機関
(一)衆議院はその議員二十人を以て組織する訴追委員会を設けるものとすること。
(二)弾劾の訴追は、訴追委員会がこれを行ふものとすること。
(三)訴追委員会は検事総長に捜査すべきことを求めることができるものとすること。
(四)訴追は委員の過半数の意見によることを要するものとすること。
(五)訴追委員会は、これを常置するものとすること。
(六)訴追委員会が訴追すべきことを決定したときは、最高裁判所の長官にその旨を通知するものとすること。
三、弾劾の事由
裁判官は左の場合には弾劾によつて罷免されるものとすること。
(一)著しく職務を怠つたとき
(二)裁判官として甚しく品位を辱しめる行為があつたとき
四、審理及び裁判
(一)弾劾裁判所は国会から独立してその職権を行ふものとすること。
(二)裁判の対審及び判決は、これを公開するものとすること。
(三)審判の手続については弾劾裁判所の定めるとことにより刑事訴訟に関する規程を適用するものとすること。
(四)判決に於ては、訴追された裁判官を罷免するか否かのみを決するものとすること。
(五)罷免の判決を受けた者は再び裁判官に任命される資格を失ふものとすること。但し、判決の宣告から五年を経過した後、最高裁判所の長官の請求により弾劾裁判所が資格囘復の決定を為した場合はこの限りでないものとすること。
五、その他
弾劾の訴追を受けた裁判官は、訴追を却下し又は棄却する裁判があるまでその職務を行ふことができないものとすること。

民法中改正案要綱

第一 民法の戸主及家族に関する規定を削除し親族共同生活を現実に即して規律すること。(第八、第十六、第十八、第二十五、第三十三等参照)
第二 系譜、祭具及墳墓の所有権は被相続人の指定人は慣習に従ひ祖先の祭祀を主宰すべき者之を承継するものとすること。
其の他の財産は遺産相続の原則に従ふものとすること。
第三 継父母と継子、嫡母と庶子の間は舅姑と嫁の間の法律関係と同じくすること。
第四 姻族関係は夫婦共に婚姻の解消に因りて止むものとすること。
第五 養子縁組に基く親族関係は離縁に因つて止むものとすること。
第六 婚姻は両性の合意にのみ基きて成立し成年者に付ては父母等の同意を要せざるものとすること。
未成年者が婚姻を為すには父母の同意を要するも父母の孰れか一方の同意を得ること能はざるときは他の一方の同意を以て足るものとすること。
第七 婚姻年齢を男は十八年以上、女は十六年以上とすること。
第八 夫婦は共に夫の氏を称するものとすること、但し入夫婚姻に該る場合に於て当事者の意思に依り妻の氏を称するを妨げざるものとすること。
第九 夫婦は同居し互に協力扶助すべきものとすること。
第十 未成年者が婚姻したるときは成年に達したるものと看做すこと。
第十一 妻の無能力に関する規定を削除すること。
第十二 夫婦法定財産制に関する規定を左の如く修正すること。
一 婚姻より生ずる費用は夫婦の資産、収入其の他一切の事情を斟酌して適当に協力負担すること。
二 夫婦の一方が日常の家事に関し第三者と法律行為を為したるときは他の一方は之に依りて生じたる債務につき連帯して其の責に任ずること。
三 夫又は妻が婚姻前より有したる財産及婚姻中自己の名に於て得たる財産は其の特有財産として夫婦の孰れに属するか分明ならざる財産は夫婦の共有と推定すること。
第十三 協議による離婚を為すには父母等の同意を要せざるものとすること。
第十四 詐欺又は強迫に依る協議離婚の取消に関する規定を設くること。
第十五 裁判上の離婚原因を左の如く定むること。
一 配偶者に不貞の行為ありたるとき。
二 配偶者又は其の直系尊属より著しく不当の待遇を受けたるとき。
三 自己の直系尊属が配偶者より著しく不当なる待遇を受けたるとき。
四 配偶者の生死が三年以上分明ならざるとき。
五 其の他婚姻を継続し難き重大なる事由あるとき。
裁判所は前項の事由あるときと雖も一切の事情を斟酌して婚姻の継続を相当と認むるときは離婚の請求を却下することを得るものとすること。
第十六 父母が離婚するときは子の氏及子の監護を為すべき者其の他監護に付必要なる事項は協議に依り之を定め、協議調はざるときは裁判所之を定むるものとすること。
第十七 離婚したる者の一方は相手方に対し相当の生計を維持するに足るべき財産の分与を請求することを得るものとし、裁判所は当事者双方の資力其の他一切の事情を斟酌して分与を為さしむべきや否や並に分与の額及方法を定むるものとすること。
第十八 子は父の氏を称し、父の知れざる子は母の氏を称するものとすること。
第十九 「庶子」の名称を廃止すること。
第二十 父が認知を為す場合は子の監護を為すべき者其の他監護に付必要なる事項は父母の協議に依り之を定め協議調はざるときは裁判所之を定むるものとすること。
第二十一 婿養子を廃止すること。
第二十二 遺言養子を廃止すること。
第二十三 未成年者を養子とするには裁判所の許可を要するものとすること。
第二十四 養子縁組に付父母等の同意を要せざるものとすること。
第二十五 養子は養親の氏を称するものとすること。
第二十六 協議に因る離縁に付第十三及第十四に準ずること。
第二十七 裁判上の離縁原因を左の如く定むること。
一 他の一方又は其の直系尊属より著しく不当なる待遇を受けたるとき。
二 自己の直系尊属が他の一方より著しく不当なる待遇を受けたるとき。
三 養子の生死が三年以上分明ならざるとき。
四 其の他縁組を継続し難き重大なる事由あるとき。
裁判所は前項の事由あるときと雖も一切の事情を斟酌して縁組の継続を相当と認むるときは離縁の請求を却下することを得るものとすること。
第二十八 親権は未成年の子に対するものとすること。
第二十九 父母共に在るときは親権は其の共同行使を原則とし、第三者の保護に関しては別に適当なる規定を設くること。
父母が離婚するときは子に対し親権を行ふ者は父母の協議に依り之を定め、協議調はざるときは裁判所之を定めるものとすること。
父が認知を為す場合も前項に準ずること。
第三十 母の親権に付ての制限は撤廃すること。
第三十一 親族会を廃止し、後見の監督機関としての親族会の権限は一部を後見監督人に、一部を裁判所に移すこと。
第三十二 後見監督人は指定後見監督人の外必要ある場合に裁判所之を選任するものとし、後見監督人なき場合に於ては其の権限は裁判所之を行ふものとすること。
第三十三 氏を同じくする直系姻族の間に於ても扶養の権利義務を認むること。
第三十四 相続人の範囲及相続順位は配偶者の外(一)直系卑属(二)直系尊属(三)兄弟姉妹とし配偶者は左記に依り相続人となるものとすること。
一 直系卑属あるときは子と同順位
二 直系卑属なきときは直系尊属と同順位
三 直系卑属直系尊属共になきときは兄弟姉妹と同順位
四 直系卑属、直系尊属兄弟姉妹共になきときは単独
第三十五 代襲相続は直系卑属及兄弟姉妹のみに付之を認むること。
第三十六 同順位の相続人数人あるときは各自の相続分は相均しきものとすること、但し嫡出に非ざる子の相続分は嫡出子の相続分の二分の一とし配偶者の相続分は左の通りとすること。
一 直系卑属及配偶者が相続人なるときは三分の一
二 配偶者及直系尊属が相続人なるときは二分の一
三 配偶者及兄弟姉妹が相続人なるときは三分の二
第三十七 遺産の分割に付共同相続人間に協議調はざるときは其の分割を裁判所に請求し得るものとし、其の手続は非訟事件手続法に依るものとすること。
前項の場合に於て裁判所は遺産の全部又は一部に付期間を定めて分割を禁ずることを得るものとすること。
第三十八 遺留分は左の通りとすること。
一 直系卑属のみが相続人なるとき並に直系卑属及配偶者が相続人なるときは二分の一
二 其の他の場合は三分の一
第三十九 遺言の方式に関する規定中従軍中の軍人軍属及海軍艦船中に在る者に付ての特別方式に関するものを削除すること。
第四十 民事法に関する憲法改正案の大原則を民法中に明文を以て掲ぐること。
第四十一 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が其の職務を行ふに付故意又は過失により第三者に損害を加へたるときは国又は公共団体に於て之を賠償する責に任ずるものとし、当該公務員に故意又は重大なる過失あるときは之に対し求償権を有するものとすること。
第四十二 親族相続に関する事件を適切に処理せしむる為速に家事審判制度を設くること。
附帯決議
直系血族及び同居の親族は互に協力扶助すべきものとすること。

刑法の一部を改正する法律案の要綱

(総則)
第一(一)三年以下の懲役又は禁錮の言渡を受けた者に対し、刑の執行を猶予することができるものとすること。
(二)簡易裁判所においても刑の執行猶予を言渡すことができるやうに、執行猶予を言渡すことのできる範囲を拡張すること。
第二 一個の行為が数個の罪名に触れ、若しくは犯罪の手段、結果たる行為が他の罪名に触れ、又は連続した数個の行為が同一の罪名に触れるときも、これを数罪とすること。但し、その処断はその最も重い罪について定めた刑によるものとすること。
第三 裁判確定後に再犯者であることを発見したときにも、改めて加重すべき刑を定めることができないものとすること。
第四 刑の執行を終り、又は刑の執行の免除を得た者が、罰金以上の刑に処せられることなく十年を経過したときは、刑の言渡はその効力を失ふものとすること。
(罪)
第五 皇室に対する罪の規定に於て、天皇及び皇族に対する不敬罪の意義を明確ならしめること。
第六 外患に関する罪の規定を、外国よりの武力行使に関する罪の規定に改めること。
第七 国交に関する罪の刑を引上げること。
第八 姦通罪に関する規定を削除し、これを道義及び民法上の問題に譲ること。
第九 公務員職権濫用罪(刑法第一九三条)、特別公務員職権濫用罪(同第一九四条)及び特別公務員暴行陵虐罪(同第一九五条)の刑を引上げること。
第十 重大な過失により人を死傷に致した行為を業務上過失傷害及び致死と同一に取扱ふやうに刑法第二百十一条を改めること。
第十一 少年、少女、虐待、酷使に関する罪の規定を設けること。
第十二(一)脅迫罪(刑法第二二二条)及び強要罪(同第二二三条)の範囲を拡張し、その刑を引上げること。
(二)これに伴ひ、公務執行妨害罪、職務強要罪(刑法第九五条)の刑を引上げること。
第十三(一)名誉毀損罪(刑法第二三〇条)及び侮辱罪(同第二三一条)の刑を相当程度引上げること。
(二)出版物により名誉毀損罪を犯した場合の刑を加重する規定を設けること。なほ、印刷物、貼札又はラヂオによる場合をも考慮すること。

刑事訴訟法改正案要綱

(裁判所の管轄)
第一 被告人の現在地による土地管轄は、国内に犯罪地又は被告人の住所若しくは居所のないときに限り、これを認めること。(刑訴第一条第一項参照)
(弁護)
第二 被疑者の弁護権を次の要領により認めること。
一 弁護人の選任
イ 被疑者は弁護人を選任することができるものとすること。
ロ 被疑者の法定代理人、保佐人、直系尊属、直系卑属及び配偶者並びに被疑者の属する家の戸主は被疑者のため、独立して弁護人を選任することができるものとすること。
ハ 勾引又は拘留せられた被疑者には、弁護人を選任する機会を失はせないやう、特に考慮を払ふこと。(後記第二十により準用される第九参照)。
ニ 拘留中の被疑者であつて、貧困その他の理由により弁護人を選任することのできないもののためには、官選弁護人を附するものとすること。(後記第三参照)
二 弁護権の範囲
イ 拘留に対する異議申立権(後記第二十により準用される第十四参照)
ロ 拘留の取消、保釈、責付、拘留の執行停止を請求する権利(後記第二十により準用される第十二参照)。
ハ 証拠保全請求権(後記第十八参照)。
ニ 検事の押収、捜索、検証、鑑定に立会ふ権利(後記第二十により準用される刑訴第一五八条、第一七八条、第二二七条参照)。
ホ 弁護人は故意に捜査を妨げるやうな行動を採つてはならないものとすること。
(なほ証拠書類及び証拠物の閲覧、謄写権については後記第三十四参照)
第三 官選弁護の制度を次の要領により、整備拡充すること。
一 被告人が貧困その他の理由によつて、弁護人を依頼することができないときには、裁判所は申請により被告人のため弁護人を選任することができるものとすること。(刑訴第三三四条、第三三五条は現行法通りとすること)。
拘留中の被疑者についてもまた同様とすること。
二 官選弁護人は弁護士の中より、これを選任することができるものとすること。
被疑者のためには、前項の規定によることが困難な場合に限り、司法官試補、弁護士試補及び裁判所書記の中からも弁護人を選任することができるものとすること。
三 官選弁護人には、旅費、日当、止宿料及び裁判所の相当と認めた報酬を支給するものとすること。
前項の旅費、日当、止宿料及び報酬は訴訟費用の一部とすること。
なほ貧困者のため訴訟費用の負担を全部又は一部免ずることができるものとすること。(後記第五十三参照)。
第四 特別な事情があるときは、裁判所は、弁護人の数を三人までに制限することができるものとすること。
第五 被告人又は被疑者一人について数人の弁護人あるときは主任弁護人を定めて裁判所、検事又は司法警察官に届出でなければならないものとすること。
前項の場合において弁護人に対する通知又は書類の送達は主任弁護人になせば足りるものとすること。
(書類)
第六 公判廷における被告人、証人等の訊問及び供述については、公判調書にはその供述の要領を記載すれば足りるものとすること。(刑訴第六〇条参照)。
第七 訊問調書及び公判調書の作成については随時速記者を用ひることができるものとし、その速記録を調書に代へ又は調書の一部とすることができるものとすること。
なほ録音器等の使用についても考慮すること。(刑訴第六五条参照)。
(被告人の勾引及び拘留)
第八 次の場合にも被告人を勾引又は拘留することができるものとすること。
一 死刑又は無期若しくは短期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したこと疑ふに足るとき。
二 再び罪を犯す虞があるとき。(刑訴第八七条参照)。
第九 被告人を勾引又は拘留したときは被告人に対し、直ちにその理由及び弁護人を選任することができることを告げなければならないものとすること。
前項の場合に被告人が弁護人を指定して選任の申出をしたときは直ちにその申出を被告人の指定した弁護人に通知しなければならないものとすること。この場合において被告人が数名の弁護人を指定したときはその中の一名に通知すれば足りるものとすること。
被告人が特に弁護人を選任しないで、前項の申出をしたときはその旨を弁護士会に通知すれば足りるものとすること。
第十 被告人を拘留したときは、直ちに被告人の法定代理人、保佐人、直系尊属、直系卑属及び配偶者並びに被告人の属する家の戸主の中被告人の指定する者にその旨を通知しなければならないものとすること。
被告人が既に弁護人を選任してゐるときは、前項の通知はその弁護人にこれをなすものとすること。
第十一 拘留状には拘留を必要とする理由をも記載しなければならないものとすること。
拘留更新の決定にも拘留の継続を必要とする理由を示さなければならないものとすること。
第十二 拘留及び拘留の更新は検事の請求により拘留の取消、保釈、責付及び拘留の執行停止は検事、被告人、弁護人、被告人の法定代理人等の請求により原則として相手方の意見を聞き、これを行ふものとすること。
第十三 保釈、責付、拘留の執行停止の取消並びに接見及び文書の授受の禁止は検事の請求により、原則として相手方の意見をきいてこれを行ふものとすること。
第十四 次の要領により拘留に対する異議の申立を認めること。
一 拘留せられた被告人又は弁護人等は拘留に対し拘留状を発した裁判所に異議を申立てることができるとすること。
二 異議の申立があつたときは公判廷において訴訟関係人陳述をきき、決定しなければならないものとすること。この場合には被告人が出頭しなければ開廷することができないものとすること。
検事は審理に先だち拘留の理由を告げなければならないとすること。検事、被告人、弁護人及び被告人以外の申立人に対しては第一項の期日を通知しなければならないものとすること。
監獄の長その他被告人を拘禁する者に対し、被告を出頭させることを命ずることができるものとすること。
三 異議の申立に理由があることを認めたときは、拘留を取消さなければならないものとすること。
四 異議の申立を却下する決定に対しては不服申立を認めること。
(被告人訊問)
第十五 被告人は自己に不利益な供述を拒むことができる旨を明かにすること。
(押収及び捜索)
第十六 公判廷以外において押収又は捜索をする場合には押収すべき物又は捜索すべき場所、身体若しくは物を指定した令状を発しなければならないものとすること。
令状には被告事件及び押収又は捜索すべき理由を記載裁判長がこれに記名捺印しなければならないものとすること。
令状はこれを司法警察官に交付して、押収又は捜索をさせることができるものとすること。
勾引状又は拘留状を執行する場合には令状なくして被告人の捜索を行ひ及びその場所で犯罪に関係ある物の押収、捜索を行ふことができるものとすること。
(検証)
第十七 公判廷以外において検証をする場合には、検証すべき身体、物又は場所を指定した令状を発しなければならないものとすること。
令状には、被告事件及び検証をなすべき理由を記載し裁判長がこれに記名捺印しなければならないものとすること。
(証拠保全請求権)
第十八 検事、被告人、被疑者及び弁護人に次の要領による証拠保全請求権を認めること。
一 被告人、被疑者又は弁護人は裁判所に対し証拠保全の申立をすることができるものとすること。
二 公訴提起後は検事も前項の申立をすることができるものとすること。
三 証拠保全の手続は、ほぼ民事訴訟法の規定に準じてこれを定めること。
(捜査)
第十九 捜査は検事及びその補助機関がこれを行ふものとすること。
捜査補助機関は検察庁の検察補佐官を司法警察官とする外ほぼ現行法通りとすること。
第二十 検事の強制捜査権は次の要領によりこれを認めること。
一 検事は捜査を行ふにあたつて、強制の処分を必要とするときは公訴の提起前に限り押収、捜索、検証、被疑者の召喚、勾引及び拘留、被疑者及び証人の訊問をなし鑑定、通訳及び翻訳を命ずることができるものとすること。
前項の処分については別段の規定がある場合を除く外裁判所の行ふ前項の処分に関する規定を準用するものとすること。
二 検事のなした拘留の期間は一箇月とし特に継続の必要があるときは区検察庁検事は検事正の許可、地方検察庁検事は検事長の許可を受けて一箇月毎に拘留の期間を更新することができるものとすること。但し、通じて三箇月を超えることができないものとすること。
三 検事が証人、鑑定人、通事及び翻訳人を訊問する場合には宣誓をさせることができないものとすること。
第二十一 司法警察官にも或る程度の強制捜査権を認めること。
但し、拘留の期間は十日を限度とすること。この場合においては速かに検事の指揮を受くることを要するものとし且つその拘留日数は検事が為す拘留日数に通算するものとなすこと。
附帯決議
司法警察官は之を検察庁の所属に移すべきものなるもその適当なる時期に至るまで検察庁は司法警察官に対する指揮監督及びその教養訓練を厳にし捜査の適正と迅速とを期すべきものとす。
第二十二 現行犯に関する強制処分についての規定は整理して捜査の章に移すこと。
現行犯の場合には、令状なくして犯人の逮捕、身体の捜索及び現場における押収、捜索、検証を行ふことができるものとすること。
(公訴)
第二十三 公訴権は検事がこれを行ふものとする原則は現行法通りとすること。
第二十四 告発にかかる事件についても、検事はその処分の結果を告発人に通知するものとすること。(刑訴第二九四条参照)。
第二十五 公訴を提起しない処分をした場合において、告訴人又は告発人の請求があつたときは、検事はその理由を告げなければならないものとすること。
第二十六 いはゆる人権蹂躙事件について、検事の不起訴処分に対し、事件を公判に付する裁判を求める手続を次の要領により認めること。
一 刑法第一九三条乃至第一九六条の罪について告訴又は告発をなした者が、検事の不起訴処分に不服があるときは、一定の期間内に、検事の職務執行地を管轄する地方裁判所に対し、事件を公判に付する裁判を請求することができるものとすること。
二 裁判所は、事実を取調べた後、請求を理由あるものと認めたときはその罪について、公判に付する決定をするものとすること。
前項の場合において、公訴の維持は、裁判所の指定した弁護士がこれを行ふものとすること。この場合にはその弁護士を公務員とみなすものとすること。
三 請求をするについては、原検察庁の検事に請求書を提出するものとし、前の不起訴処分を取消して公訴を提起する機会を検事に与へるものとすること。
(予審)
第二十七 予審はこれを廃止すること。
(公判準備)
第二十八 第一囘の公判期日と被告人に対する召喚状の送達との間に置くべき猶予期間を延長して七日とすること。(刑訴第三二一条参照)。
第二十九 第一囘公判期日の取調準備のため裁判所は当事者の請求により証人、鑑定人、通事又は翻訳人に対して召喚状を発するものとすること。
前項の請求を却下する決定をするには、公判期日において当事者の意見を聞かなければならないものとすること。
第三十 第二囘以後の公判期日の取調準備のためには裁判所は当事者の請求により、又は補充的に職権によつて次の手続をなすことができるものとすること。
一 証人、鑑定人、通事又は翻訳人に対して召喚状を発すること。
二 証拠物又は証拠書類の提出を命ずること。
三 鑑定若しくは翻訳をなさしめ、又は押収、捜索若しくは検証をなすこと。
四 公務所等に照会して必要な事項の報告を求めること。
前項の請求を却下する決定をするためには公判期日において当事者の意見を聞かなければならないものとすること。
(公判手続)
第三十一 証拠裁判主義(刑訴第三三六条参照)及び自由心証主義(同第三三七条参照)の規定は現行法通りとすること。但し「何人も自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には有罪とされ、又は刑罰を科せられない」ものとすること。
第三十二 証拠能力に関する規定をほぼ次のやうな趣旨に改めること。
一 証拠は左に掲げる場合を除く外、原則として、公判期日において直接に取調べたものに限るものとすること。
(一)公判期日において証拠を直接に取調べることができない場合又は著しく困難な場合において、これに代る検証調書、訊問調書、鑑定調書、鑑定書その他の証拠書類。
(二)公務員が職権で証明することができる事実について公務員が作つた書類。
(三)前項の事実について外国の公務員が作つた書類であつて、その真正なことの証明があるもの。
二 証人その他の者の供述又はその供述を録取した書類はその供述に際して被告人にその訊問の機会が与へられた場合でなければ、原則としてこれを証拠とすることができないものとすること。(憲法草案第三四条第二項参照)。
三 証拠とすることについて、訴訟関係人に異議がないときは一及び二の制限によることを要しないものとすること。
四 「強制、拷問若しくは強迫の下での自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることはできない」ものとすること。
第三十三 証拠能力のない証拠の提出又はその証拠調については当事者は異議を申立てることができるものとすること。
第三十四 証拠を提出するには提出すべき証拠の標目をあらかじめ相手方(被告人に弁護人があるときは弁護人)に通知しなければならないものとすること。
前項の通知があつたときは相手方はその証拠を閲覧又は謄写することができるものとすること。
前項の規定による閲覧の機会が与へられなかつた証拠については相手方は著しく不利益を受けることを理由としてその提出につき異議を申立てることができるものとすること。
第三十五 証拠調に関する規定を次のやうな趣旨に改めること。
一 当事者は証拠調の請求をすることができるものとし、この請求があつたときは裁判所は当事者の意見を聞いてこれを許すかどうかを決定すべきものとすること。
裁判所は必要と認めるときは、職権により証拠調をすることができるものとすること。
二 当事者の申出た証人、鑑定人、通事又は翻訳人は当事者の双方がこれを訊問すべきものとし、その順序はこれを申出た当事者を最初とするものとすること。
裁判長又は陪席判事は必要と認めるときは何時でも補充的に自ら訊問することができるものとすること。
裁判所が補充的に職権によつて喚問の決定をした証人、鑑定人、通事又は翻訳人は裁判長又は陪席判事が先づこれを訊問すべきものとし、当事者にもその訊問の機会を与へなければならないものとすること。
三 証拠書類はこれを申出た当事者が朗読するものとし、裁判長は自ら朗読し又は裁判所書記をして朗読させることができるものとすること。
四 証拠物はこれを申出た当事者が相手方に示すものとし、裁判長は自らこれを示し又は裁判所書記をして、これを示させることができるものとすること。
第三十六 被告人訊問は、先づ検事がこれを行ふものとし、弁護人もこれを行ふことができるものとすること。
裁判長又は陪席判事は必要と認めるときは、何時でも補充的に自ら訊問することができるものとすること。
第三十七 公判期日における手続の順序はほぼ次のやうにすること。
一 裁判長による被告人の人違の有無を確めるための訊問。
ニ 検事による被告事件の要旨の陳述。
三 公訴事実に対する被告人の意見の陳述。
四 被告人訊問及び証拠調。
(一)被告人訊問及び検事の申出た証拠調。
(二)被告人又は弁護人の申出た証拠調。
(三)裁判所が職権によつて決定した証拠調。
五 当事者の弁論
(公判の裁判)
第三十八 公判の裁判の種類は現行法通りとすること。
第三十九 有罪判決の判決書には罪となるべき事実、これを認めた理由及び法令の適用を示さなければならないものとすること。
(控訴)
第四十 控訴については全部現行法通りとすること。
(上告)
第四十一 左の場合には第二審の判決に対して上告することができるものとすること。
一 原判決が憲法に違反すること又は原判決において法律、命令、規則若しくは処分が憲法に適合するかしないかについて不当な判断をしたことを理由とするとき。
ニ 前号の場合を除く外法令の違反を理由とするとき、但し、その違反が判決に影響を及ぼさないことが明白な場合を除く。
第四十二 第四十一の一の場合には第一審の判決に対して控訴をしないで、上告することができるものとすること。
第四十三 上告裁判所は上告趣意書、答弁書その他の書類によつて上告の理由がないことが明白な場合には弁論を経ないで判決で上告を棄却することができるものとすること。
第四十四 上告審では事実の審理を行はないものとすること。
第四十五 原判決が憲法に違反したことを理由とする上告を理由があるものと認めた場合においてその違反が判決に及ぼさないときは、その違反した部分を破毀するものとすること。
(抗告)
第四十六 再抗告はこれを認めないものとすること。
第四十七 高等裁判所の決定に対しては、抗告することができないものとし、高等裁判所に異議の申立を許すものとすること。
第四十八 他に不服申立の方法のない決定については原決定若しくはその手続が憲法に違反したことを理由とするとき又は原決定において法律、命令、規則若しくは処分が憲法に適合するかしないかについて不当な判断をしたことを理由とするときに限り最高裁判所へ不服の申立をする途を開くこと。
(憲法問題について最高裁判所の裁判を求める手続)
第四十九 下級裁判所は、適用すべき法律、命令若しくは規則又は判断すべき処分が憲法に違反する疑ひがあるときは、その点について最高裁判所の裁判を求めることができるものとすること。
(大審院の特別権限に属する訴訟手続)
第五十 大審院の特別権限に属する訴訟手続はこれを廃止すること。
(再審)
第五十一 被告人に不利益な再審(第四八六条等)はこれを廃止すること。
(略式手続)
第五十二 略式手続はこれを廃止すること。なほ簡易裁判所の新設と関聯し簡易手続を考へること。
(裁判の執行)
第五十三 貧困者のため訴訟費用の支払を免除することができるものとすること。
この場合には判決の言渡をなした裁判所に対して申立をするものとすること。
(私訴)
第五十四 私訴はこれを廃止すること。

刑事補償法の一部を改正する法律案の要綱

第一 刑事補償法第一条第一項及び第二項の場合の外、刑事訴訟法による通常手続又は再審若しくは非常上告の手続において、無罪の言渡を受けた者が、現行犯人として逮捕され、勾引状の執行を受け又は刑事訴訟法第二百二十二条第三項の規定による留置を受けた場合には、国は、その者に対して、抑留又は拘禁による補償をするものとすること。
第二 刑事補償法第一条第一項及び第一の規定により補償を受くべき場合において、補償の原由である抑留又は拘禁を理由として、被害者より国に対し、民事上の損害賠償を請求できる場合には、これを請求することを妨げないものとすること。但し、民事上の損害賠償請求訴訟において、請求を認める確定判決があつたときは、刑事補償法第一条第一項及び第一の規定による補償は、これをしないものとすること。
第三 刑事補償法第四条第一項乃至第三項の場合においては、補償をしないことができるものとすること。
第四 刑事補償法第五条第一項、第二項及び第一の補償金は、一日二十円以内とすること。
第五 裁判所が補償の決定をしたときは、その決定を受けた者の申立によつて、速かに、無罪の裁判の主文及び要旨並に補償をしたことを官報又は新聞紙に掲載しなければならないものとすること。
第六 裁判所は、事実の取調をするに当つて、証人訊問、押収、捜索、検証、鑑定等をすることができるものとし、この場合においては、刑事訴訟法中の証人訊問、押収、捜索、検証、鑑定等に関する規定を準用するものとすること。

基本的人権保護法律案要綱

一 不法若は不当に身体の自由を拘束された者があるときは、本人又は関係者に於て最高裁判所に拘禁の理由に付取調を要求することができるものとすること。
ニ 右の要求があつたときは、最高裁判所は速かに拘禁者に対し、一定の日時、場所を指定して、本人を出頭せしめることを命じ、又同時に拘禁の理由につき答弁することを命ずるものとすること。
三 本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で取調べた上、法律上適法の又は正当の理由がないと認めたときは直ちに本人を釈放し又は保釈を許すものとすること。
四 拘禁者が本人を出頭させないか又は拘禁の理由につき答弁をしないか若は是等を遅滞したときは制裁として自由刑及び罰金刑を科するものとすること。

財政法案要綱

一、総計予算主義を原則とすること。
特別会計の設置は、法律に依り一般会計と異る予算及び会計の制度を、定めることができるものとすること。
二、会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終るものとすること。
三、年度独立の原則を規定すること。
四、特別資金の保有は、法律に依るものとすること。
五、予算の編成及び実行並びに決算の調製に関する統括的事務は、大蔵大臣が行ふものと
すること。
六、追加予算は、必要で避けることのできない経費及び法律又は契約に基き経費に不足を
生じた場合に限ること。
七、総予算は、大蔵大臣の定める所に依り、部及び款項に区分すること。
八、継続費の制度を規定すること。
九、予算外国庫の負担となるべき行為をなすには、予め国会の議決を必要とすること。
現行会計法十一条の予算外契約権を規定すること。
十、会計年度開始前に予算が成立せず又は成立しない虞のあるときは、内閣は暫定予算を編成して、国会(衆議院解散の場合は参議院の緊急集合)の議決を経て国費の支出をし、その他国庫の負担となるべき行為をすることができること。
此の場合暫定予算に基いて支出した金額又は負担した行為は、総予算が成立したときは之に基いてなしたものとみなすこと。
十一、大蔵大臣は、総予算に基いて各省の支出することができる経費の定額を決定して之を配布すること。
十二、予備費は、大蔵大臣が管理すること。
十三、大蔵大臣は、予算実行の適正を期するため、各省又は各庁に対して、収支の実績又は見込につき、報告を徴し又は適宜の指示を与へることができること。
一四 毎年度の予算決算、国民所得の概況、国債の状況、その他国の財政状況に関する事項につき、定期に又は必要の都度、官報、新聞、ラヂオ、映画、市町村長に対する通知、その他適当なる方法に依り、国民に発表すること。
〔備考〕
(一)現在の会計法の爾余の条文は、必要な整理を行ひ会計法の改正を行ふこと。
(三)会計検査院法中機密費に関する規定及び出納官吏の賠償責任に関する規定等については、所要の改正を行ふこと。

訴願法中改正法案要綱

一、行政庁の違法又は不当の処分によつて権利又は利益を侵害されたとする者は、訴願を提起することができるものとすること。
法律によつて審査の請求ができる事項その他事案又は処分行政庁の特殊性に鑑み法令で訴願事項から除外する旨を定めた事項については、訴願を提起することができないものとすること。
二、訴願の裁決を経た事件については、違法を理由としては、更に上級行政庁に訴願を提起することができないものとすること。
三、訴願と訴訟とは、当事者の自由な選択により、何れかの一又は両者を提起することができるものとし、両者が繋属したときは、訴訟の判決の確定するに至るまで訴願の審理は、これを中止するものとすること。
四、訴願の違法な裁決によつて、権利を侵害されたとするものは、裁判所に出訴することができるものとすること。
五、未成年者又は禁治産者の訴願は、未成年者が独立して法律行為をすることを得る場合を除いては、その法定代理人によつてのみ、これをすることができるものとすること。
六、処分を受けた者以外の者が訴願を提起する場合においては、六十日の訴願期間は、処分の公示を必要とするものについては公示の日から、公示を必要としないものについては処分のあつたことを知つた日からこれを起算するものとし、処分のあつた日から一年を経過した後は、訴願を提起することはできないものとすること。
七、行政庁において宥恕すべき事由があると認めるときは、期間経過後の訴願でも、これを受理しなければならないものとすること。
八、処分行政庁を経由せず直接に、上級行政庁へ提起された訴願でも、これを却下してはならないものとし、この場合には訴願書を処分行政庁へ送付して、弁明書を提出する機会を与へなければならないものとすること。
九、訴願書の経由に当る行政庁が訴願書を受取つたときに、弁明書及び必要文書を上級行政庁に発送すべき期間を、二十日に伸張すること。八の規定により上級行政庁より訴願書の送付を受けた場合に弁明書を発送すべき期間も、これと同様とすること。
十、裁決庁は処分庁の弁明書の写を訴願人に送付し、且つ訴願人に弁駁書を提出する機会を与へなければならないものとすること。
十一、訴願の裁決の結果について利害関係を有する第三者がある場合において、裁決庁に対して、意見書を提出することが出来るものとすること。
十二、行政庁又は公共的な団体は、訴願の審理にあたつて、公益を支持するために意見を述べることができるものとすること。
十三、訴願人は、訴願を提起した日から一定の期間を経過しても裁決を受けない場合においては、訴願の要求を斥ける趣旨の裁決があつたものとみなして、更に上級行政庁に訴願を提起し、又は裁判所に出訴することができるものとすること。
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