国会法立案過程におけるGHQとの関係

国会法立案過程におけるGHQとの関係

本稿は、占領体制研究会の委嘱により、昭和二十九年十一月十日東大法学部長室で、口述したものの速記である。
なお、本稿は、大池事務総長の校閲を煩わしたことを附記する。

衆議院法制局長
西沢哲四郎

国会法立案過程におけるGHQとの関係

目次

要綱の起草、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
第一次草案、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
第一次の指示、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
第二次草案、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 一四
第二次の指示、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 一五
第三次草案、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 一八
第三次の指示、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 一九
第四次草案、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 二五
第四次の指示、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 二六
一〇 最終案、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 二九
一一 第二回国会以後における改正に関するGHQの指示、、、、、、 三〇
一二 立案過程における委員会制度の変遷、、、、、、、、、、、、 三六
一三 立案過程における審議手続の変遷、、、、、、、、、、、、 四八
────────────────────────────────
質疑応答、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 五三
────────────────────────────────
資料
新憲法ニ基キ国会法ニ規定スル事項(議院法規調査委員会)、 六四
議院法改正の項目(臨時法制調査会) 、、、、、、、、、、 六八
GHQ第一次指示の原文、、、、、、、、、、、、、、、、、、 七一
新国会法について(昭和二十一年十一月二十一日新聞発表)、 七二
────────────────────────────────
出席者名簿、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 七五

一 要綱の起草

国会法の起草については、御承知のように、昭和二十一年第九十回帝国議会に憲法改正案が提出されましたにつきまして、従来の議院法を改正しなくてはならないというところから、衆議院事務局でも研究いたしますし、また内閣でも臨時法制調査会を設置いたしまして、その第二部会で議院法の改正問題を取上げて研究したわけでございます。私どもの方では、すなわち、衆議院としては、昭和二十一年六月十八日の各派交渉会で、議院法規調査委員会というものを設けることにいたしまして、八月の九日から三十日までの間に三回会合を開きまして、「新憲法に基き国会法に規定する事項」(資料一)というものを決定いたしまして、九月の四日にこれを新聞紙上に発表いたしております。これは先般佐藤先生がお見えになりましたときに、参考資料としてお渡ししたものでございます。これより先に、内閣の臨時法制調査会の第二部では、衆議院の法規委員会より一足先に、八月の十三日に「議院法改正の項目」(資料二)というものを決定いたしておりまして、たしか九月の中ごろであつたかと思いますが、総会を開いてこれも発表いたしております。この時代が結局要綱の時代ということが言えるだろうと思います。従つてこの間にはGHQは全然タツチいたしておりません。今の議院法規調査委員会、これは法規委員会というふうに簡単に申し上げますが、衆議院の法規委員会で決定した案と、それから内閣の臨時法制調査会で決定した案との相違点をこの際申し上げておくのが、あとお話を進める上に便宜かと思いますので、これはGHQとは関係がありませんが、一応申し上げておきたいと思います。
まず、第一に会期の問題でありますが、法制調査会ではこれを四箇月といたしております。それから衆議院側ではこれを五箇月といたしております。これはわれわれの方の事務的な見解からいたしましても、今後法律案が多くなるだろう、少くなるということは予想できない。従来でも三箇月の会期では短いということが言われておりましたのですから、四箇月ではとても無理だろうというので五箇月という案をつくり上げまして、法規委員会でもそのように決定を見た次第であります。
それから臨時会及び特別会の会期は、法制調査会では内閣がこれを決定するということになつておりまするが、法規委員会の方では両院合議の上でこれを決定するということになつております。会期延長の問題につきましては、内閣の法制調査会では、一つの院が発案して、それから他の院がこれに同意して決定するというのが一つと、それから政府が両院の同意を得て決定する、この二本建になつております。これに対しまして法規委員会の方では、会期延長はすべて両院合議の上で決定するのだ、こういうふうな建前になつております。内閣の側、政府が両院の同意を得て決定するというこの考え方は、やはり行政部の方が立法部よりも上だという考え方に出ていたものではないかと推測せられるわけであります。
次に臨時会の召集要求の問題でありますが、内閣の法制調査会の方では、議員が連署して議長を経由、要求の趣旨及び会期の予定日数を具して内閣に要求する、こういうことにしていたのでありますが、われわれの方ではそれを簡単にいたしまして、ただ単に議員が憲法上の成規の員数さえそろえて連名で議長を経由して要求すればいいというようなぐあいになつております。
それから秘密会を開く場合の規定でありますが、この点については内閣の側では触れておりませんが、われわれの方では、議員十名以上または議長の発議によつて院議でこれを決定するのを原則としておりますが、ただ秘密会で行われました議事をいかなる範囲で公表するかという問題につきましては、政府側の要求があつた場合には院議で決定して行くのが原則であるけれども、しかし行われた言論が、散会後秘密を要するということが認められたときには、次の会議で議院の承認を経て、これを会議録から削除するというような方法を講じた方がいいじやないかというような見解を持つていたのであります。
それから委員会の問題でありますが、これは常任委員会、特別委員会は双方ともにこれを認めておりますが、全院委員会というものを内閣の法制調査会ではそのまま認めて行く、衆議院の側では全院委員会はこれを廃止する。他面また常置委員会というものを、内閣の法制調査会においても、衆議院の側においても新設したい、こういうことがはつきり現われております。常置委員会の新設に伴つて、議院法に規定されておりました継続委員というものがございますが、これは衆議院の側では不要と認めて廃止する。それに対して法制調査会では、これをやはり存続するという考え方をとつております。
以上が内閣の法制調査会と衆議院の法規委員会との相違のおもな点でございます。

二 第一次草案

先ほど申し上げましたように、八月一杯でこの要綱がほぼ決定いたしましたので、実は私が中心になりまして、衆議院事務局の議事課で起案に着手いたしました。憲法そのものも御承知のように十月の六日に貴族院を通過いたしましたので、議院法改正の基礎ができ上つたわけであります。従つてわれわれの方では正式の起案に着手し得ることとなつたわけであります。十月の十二日には九十回議会の閉院式も行われましたので、事務局では本格的な準備に入つたわけでありまして、議事課の素案もでき上つておりましたので、十月の十四日から十月一杯、連日連夜事務局の幹部が集まつて会議を開き、ようやく第一次の草案を得たわけであります。この草案の大体の組立ては、議院法というものを基礎といたしまして、先に申し上げました要綱で決定されたものを取入れ、また新憲法の規定にマツチさせるという点に主眼を置いて起草したのであります。これとほとんど時を同じくいたしまして、一体議院法の改正を内閣提出とするか、あるいは衆議院議員の提出とするかという点について、内閣側と議院の側とで相当議論があつたのでありますが、結局新憲法の趣旨にのつとりまして、議員提出とした方がいいだろうということに相なりましたがために、この次の議会、すなわち、第九十一回議会には衆議院からこれを提出するのだということを、議長からそのときの内閣総理大臣あてに公文で通知を出しております。この第一次草案ができましたので、ここでこれをGHQに送付したのでありますが、これまでの間にいろいろな面でGHQとは話し合つたことはございましたけれども、具体的の問題についてはあまりデイスカツスしたことはございませんでした。ただ、どうして国会法という法律が必要か、ハウス・ルールでいいじやないか、憲法に内部規則の制定権があるのだからそれで足りるのじやないかということを非常に強く主張していた人がこざいました。これに対しまして私どもの方では、国会法では、衆議院、参議院の共通の事項だとか、あるいは内閣を拘束するような事項を定めておきたい。ハウス・ルールの中できめるということはおかしいじやないかということで、この点非常にがんばりまして、それでは国会法をつくつてもいいだろうという結論になつたことをつけ加えておきたいと考えます。
なおこの第一次草案の段階では、GHQはまだ何も言つて来なかつたのでございます。第一次草案ができたのは、先ほど申しましたように十月の三十一日でございます。

三 第一次指示

これを見まして十一月の四日でありますが、GHQのガバメント・セクシヨン(Government Section)の国会課を担当しておりまするドクター・ジアステイン・ウイリアムズ(Dr. Justin Williams)が、当時はまだキヤプテンでありましたが、キヤプテン・ウイリアムズがミス・ヘレン・ローブ(Miss Helen Loeb)という婦人をつれて参りまして、山崎議長に初めてサゼスチヨン(資料三)を与えたのであります。以後ウイリアムズが数回参つておりますが、いつもこのミス・ローブをつれて来て、相手になつたのはそのときの山崎議長、大池書記官長、それから当時の終連の日向精蔵君というのが通訳としてタッチしておりまして、これだけが議長室でウイリアムズ等と議論をしたのであります。その後数回参りましたが、話のグループは同じようなことになつたわけであります。
なお、これとほどんど同時であつたかと思いますが、例のアメリカのLegislative Reorganization Act立法改革法と申しますか、これのアメリカの上院を通過したものがウイリアムズの手元に来ておりまして、これがGHQの種本じやなかつたかと想像されます。そして十一月の中ごろであつたかと思いますが、このリオーガニゼーシヨン・アクトのコピーをわれわれの方にもよこしてくれまして、それを翻訳して、その後の国会法の立案の参考に供したのであります。これが非常に役に立つたことを記憶いたしております。
さて、十一月の四日にウイリアムズが参りましたときの意見というものは、われわれが持つていた日本の国会のあり方についての考え方の基本に触れるようなことを言つて来たのであります。このうちでもまたおもなことを申し上げてみたいと思います。
まず第一が常任委員会であります。
A おもなる活動分野について少くとも一個、原文で申しますれば、one for each major field of activity 政治活動のおもな部門毎に一つずつの常任委員会をつくれ、こういう意味だと思います。
B 各常任委員会及び予算の分科会に対しては、事務所、それから事務員、それから専門的な補助員、技術的な補助員の意味でありますが、専門的補助員を国費をもつて提供すると言いましようか、備えつける、こういうことであります。
Cといたしまして、常任委員会の委員は、任命後その任期中--これは原文にはfrom session to session という言葉が使われていますが、会期から会期までという意味でなくて、セツシヨンからセツシヨンであれば、あちらではtwo sessionsでone Congressを構成しております関係上、任期中という意味になると思いますが、任期中常任委員として残り、あるいはその委員が欲する期間委員として残る、自分はこの委員会はいやだというまでその委員を継続させよ、こういう意味であります。
D これは必要ないことでありますが、委員会の討論を行うことに対し、一連の議院規則を定め、かつ、かかる委員会の討論を記録し、かつ報告する統一的な組織を考案するということがここに書いてございますが、これは今のリオーガニゼーション・アクトがこの考え方で進んでいるのでありまして、私どもの方では、昔の帝国議会時代から、この点については完全なものができておりまして、アメリカの方がむしろルーズ過ぎたくらいじやなかつたかと今から考えております。
E 常任委員会は、一般的関心及び目的を有するすべての法案につき、公聴会、パブリツク・ヒヤリングを催し、かつ法案に対し真に利害関係を有するすべての人及び組織は(persons and organizations)公聴会に出席して、それらの者の意見及び議論、(observations and arguments)を述べるようにする。これが常任委員会に関する申入れであります。
第二といたしましてLegislative Councilであります。今われわれの方で使つております両院法規委員会、当時はまだそういつた言葉がわかりませんので、翻訳には法制協議会、あるいは法制調査会というような言葉を用いております。これを設ける。
AとしてLegislative Councilは両院の議員をもつて組織する。そしてこれは合同委員会(joint committee)の意味だと申しておりました。
B その機能は、法制的必要及び問題について、内閣及び両院に勧告し、かつ国会法及び両院規則の改正を絶えず研究し、提案する、こういう機能を持つたカウンシルをつくれ、こういうことを言つて参りました。
三として、議会図書館、それから議会法制部、それから参考資料部、参考資料部は、これはレフアレンス・サービス(reference service)の意味であります。レフアレンス・サービスをやるようなところを国会法に明らかにはつきり規定せよ。
第四といたしまして、本会議及び委員会は、差別なく一般公衆に公開する。ただこの場合、委員会についてヒヤリングという字を用いております。そして最後に、但し、あちらの言葉で言えば、executive sessionsと言つておりますが、それは除いて、それ以外の本会議及びコミテイー・ヒヤリングズは、区別なしに一般公衆に公開をせよ、こういうことを言つております。このexecutive sessionsということは、その当時われわれも不勉強でありましたが、よくわからなかつたのでありますけれども、後になつてあちらで実際を見ますとexecutive sessionとは、ヒヤリングが終つた後に、委員だけで非公開の委員会を開き法案に対する態度、すなわち、可決するとか、修正するとか、否決するとかいうことを決めることをいうのでありまして、討論及び採決も当然その中で行われています。その当時ウイリアムズと議論したことでありますが、委員会の内容まで公開するというのはおかしいじやないかというので、大議論をやつた問題でありますが、世界中にこんなに委員会を秘密会にしているところはないのだということを申しておりました。非常に強くつつ張つておりましたが、私どもの方ではこのexecutive sessionという言葉がわからなかつたがために、非常に不利益と申しましようか、相手方と十分応酬のできなかつたことを、今になると残念に思つております。
それから第五といたしまして、討論、これはdebateという言葉でありますが、今申しております自由討議であります。
Aといたしまして、各議員に対し、少くとも二週間に一回、国家の政策及び重要なる施政に関し、壇上に立ち、自由に演説する機会を与うるよう規定を設ける、これは場合によつては全院委員会にしてもよろしい。
B 各議員の発言に時間の制限を設ける場合は、時間制限のため発言を終らなかつた部分を公の記録に掲載する特権をその議員に与うべし、これが自由討議に関する問題であります。
第六といたしまして、質疑者に対し、これはインターペレイシヨン(interpellation)という言葉を使つておりましたが、質疑者に対し、明確なる時間的制限を付し、あらゆる国家の政策に対し政府に質疑する機会を与うるべしということを言つて来ております。この点については、もうすでに憲法議会のときから、議長が時間的制限をしてもさしつかえないということが交渉会で認められまして、実際にもやつておりました。それで私どもの方でも、初めからすべて発言については時間制限をすることができるというような規定を設けておりましたので、さほど痛痒は感じなかつたわけでございます。
第七にこういうことを言つております。選挙せられたる代表の威信The dignity of elected representativesということで、国会の犠牲において政府の役人を威信づけるような習慣(practices)、それから手続、(procedures)それから形式、(rituals)それから式典(ceremony)を禁止するということを、非常に抽象的な言葉ではありますが言つて来ております。これが、その後にもいろいろありましたサゼスチヨンの中で大きな影響を及ぼしていることを申し上げておきたいと考えます。
第八は議会の予備金であります。contingent fundの問題であります。
A 予算中に予備金を設くべし。
B 各議院において右予備金額を決定し、各議院は適当と思う際にこれを使用すべし。
それから第九は郵便無料送達の特権(franking privileges)の問題であります。議員は議会によつて発行せられたる公の書類及びその他公の性質を有する郵送物を無料で郵送する特権を有すべし。但し右に対しては国会において条件を付する必要がある。
第十といたしまして、事務室及び事務補助。各議員に対し国費をもつて事務室並びに事務補助、現在の秘書を提供すべし。
第十一 議員の歳費についてであります。歳費は最高の官吏の俸給及び手当の全額よりも少なからざることを要する。
以上が十一月四日に受けましたサゼスチヨンであります。ところで、申し上げましたように、とり得るものもございますし、またとる必要のないものもあつたわけであります。

四 第二次草案

これに対しまして、あちらの申出をいかにわれわれの側で入れるかということについて、また連日事務局の会議を開き、かつ内閣の法制局とも連絡いたしまして、その意見を聴取し、また数回法規委員会をも開会いたしまして協議を進めたわけであります。そして十一月の十六日にようやく第二次草案の大体を内定いたしまして、これをGHQに連絡いたしました。しかしながらこれに対してはOKがなかつたのでありますが、二十一日に開会いたしました法規委員会では、一応、衆議院としての第二次草案を決定したわけであります。しかしその際に、GHQからはまだOKが与えられていないのだから、条文の発表は遠慮されたいという注意がございましたので、新聞には「新国会法について」(資料四)という概略を発表いたしまして、同時に各新聞社あてには、条文発表は差控えられたいということを、特に議長から依頼状を発送したような事実もございます。この第二次草案で結局新国会法の骨組ができ上つたものと私どもは考えるのであります。これが十一月二十一日までの経過でございます。

五 第二次の指示

この第二次草案に関連して、十一月の二十二日にウイリアムズが再び参りまして、そして重要な事項を指示して参りました。
まず第一番に常任委員会の名称を法律に書くこと。そしてその所管をも明らかにせよ。実はこれまでの考え方は規則できめて行きたいという考え方であつたのでありますが、ウイリアムズはこれを国会法で書けということを言つて来たわけであります。
第二といたしまして、各常任委員会及び予算分科会に専門委員を少くとも二名配置し、かつ、調査員をも置くこと、これはこの前の指示の中にあつたわけではありますが、私どもの方では、これは何も国会法に書かなくともいいじやないか、あるいは国会職員法というようなものも考えておりましたので、それ等に規定すれば足りるものだというので、この点は第二次草案にも入れなかつたわけでありますが、これをも書けということを言つて来たわけであります。
それから各院の該当する常任委員会及び予算分科会は、合同審査会を開き得ることとせよ。これは審議能率向上のためにはぜひこうしなくちやいけない。先ほど申し上げましたリオーガニゼーシヨン・アクトには明らかにそのことが出ているわけでありまして、種本はこれでわかつているわけであります。
ところが四といたしまして非常に重要な事柄は、常置委員会はとりやめろ、常置委員会はいけないということを言つて来たのであります。これにはわれわれは非常なシヨツクを受けたのであります。後ほど委員会制度についての一貫した経過をあらためて申し上げたいと思いますので、その際に譲りたいと思いますが、常置委員会はいけないということを言つて来た理由は、閉会中に国会を開会中と同じような状態に置くということは、ガバメントが二つできるおそれがあるからどうしてもいけないのだということを強く主張しておりました。
従つて五といたしまして、常任委員会及び特別委員会は会期中のみ開会し得ることというようなことも言つて参りました。
六といたしまして、議案は両院同時にこれを提出し得ることとしてはどうか、但し予算は衆議院に先議権があるから、衆議院に提出した日の翌日に参議院に提出し得ることにしてはどうかということを言つて参りました。これは現在、予備審査という制度のもとに予算及び法律案についてわれわれの方で採用しておりますが、非常に便利な制度であります。あちらの文章通りではありませんが、非常に便利な制度だと考えております。
七といたしまして、秘密会開会に関する政府の要求権を削除すること。秘密会を要求する権限は政府に認めちやいけない。これが先ほど申し上げましたように、議会の犠牲において行政府の権威を高めるようなことをしてはいけないという、その抽象的な言葉の一つの現われだと思つております。従つて現在では議員の発議によつて秘密会を開くことになつておりますが、ともかく今申しましたように、秘密会開会に関する政府の要求権はこれを削除せよということを言つて参りました。
それから議決した議案の奏上は、従来の第二次案までの考え方では、最後に議決した議院の議長が奏上することになつていたのでありますが、それを改ためて、衆議院優先の建前から、議決案の奏上は衆議院の議長から全部やれということを言つて来たのであります。
九といたしまして、質問については、われわれの方では従来通り二十人以上の賛成があれば質問書を提出することができることになつていたのでありますが、その二十人以上の賛成ということはいけない、小会派の保護にならないからいけない、それを削除して、かわりに議長がこれを承認することを要する。コンセントすることを要することにせよということを言つて参りました。
十として、内閣、官公署から各議院へ提出する報告及び記録について、第二次案では特に秘密にわたるものを除いては出さなければいけないという規定があつたのですが、この「特に秘密にわたるものを除いては」という文字をとつてしまえということを言つて来たのであります。それで現在ではこの文字はないわけでありますが、先般の決算委員会で問題になりました、検察庁から書類を出すか出さぬかというようなことを思いあわせますと、まことに感慨無量なものがあるわけなのでございます。
以上、十項目のほかにも四、五の申入れがございましたが、これは小さいことでありますから省略させていたゞきます。

六 第三次草案

ちようどこれを申し入れて来ました十一月の二十二日は、第九十一回議会が十一月の二十五日に召集になつておりますのでその二、三日前であります。そこでこの九十一回議会ではぜひ国会法を出さなければならないという羽目になつておりましたので、これらの申入れに対しまして直ちにいろいろと対策を協議いたしまして、成案化に努めたのでありますが、しかしながら先ほど申しましたように、年来の強い主張でありました常置委員会が取りやめられたという点については、非常に困つたのであります。このときはこの問題について法規委員会だけではなくして、わざわざ各党の幹事長、書記長会談まで行いまして、GHQに強く当つたのでありまするけれども、どうしてもGHQの方ではこの閉会中審査ということを許してくれない。常置委員会制度を許してくれない。そこでやむを得ず一歩後退せざるを得なくなりまして、常置委員会を削除して、十二月四日に法規委員会を開いて第三次草案を決定して、GHQに連絡したのであります。

七 第三次の指示

この第三次草案について、十二月六日にまたウイリアムズが参つております。この日は項目別に議論しながらあちらの話を聞いたがために、私の記録では、午後二時に来たウイリアムズが、夕方の七時過ぎまでねばつていたということが書いてあります。腹が減つたから途中でサンドウイツチを食つたりなんかして、お互いに議論しながらあちらの申出を一々聞いたわけであります。
このときの申出は、まず第一に「常会は毎年十二月上旬召集し」となつていたのでありまするが、会期が百五十日であります関係上、その会期中に議員の任期が満了する場合にはどうなるか。この点をもう少しよく研究したらどうかという話がございました。これはごもつともな話でありますので、第四次案ではある程度具体的にこれを書いたのであります。
それから二といたしまして、各院別の休会は七日以内に制限せよ、これは従来七日以内という言葉がなくて、ただ単に各院は単独で休会をすることができるということになつておりましたが、それは七日以内に制限するがよかろうということを言つて参りました。
それから三番目に例の議員の国鉄無料乗車の問題でありますが、原案では「議員は別に定める規則に従い無賃で国有鉄道に乗車することができる」ということになつていたのであります。この点が非常に議論になりまして、あちらの方ではどうしてもこれを認めてくれないのであります。しかしながらこれをとられますことは、議員としての職務上の活動に大きな支障を来たすことになると考えられます。それでアメリカ等の事例をそのときに聞いたのでありますが、アメリカにおいては、あれは国鉄じやなくして、私鉄会社であります関係上、従来発行していたパスを最近戦争直前かなんかに全部断つたというような事実があるそうです。それを根に持ちまして、こちらの方でもどうしても無料乗車はいけないということを言つて来たのであります。それでだんだん話をしてみますと、遂にはこれは極東委員会の関係もあつて、GHQだけで承認できないからどうしても駄目だという強い言葉まで用いた記憶がございます。そこでお互いに話している間に、それではこれをとつてしまえば、旅費も出さなければならなくなるし、予算の金額もふえることだから、何とか会期中だけはというようなことで、会期中は無賃で国有鉄道に乗車できるというようなことにしてくれないかというような話合いをいたしましたら、ようやく先方が、それでは僕らの方も一応再考することにするから案文をよく考えて作成してみて相談せよということになつて、現在ありますように「会期中及び公務のため、自由に国有鉄道に乗車することができる」ということで、無賃という字はとつてしまつたのであります。このときにもう一つ記憶しておりまするが、通訳に当つた日向君が、こんなスモール・プリヴイレジのことをウイリアムズのような大官がやかましく言うのはおかしいじやないかと言つたら、実に困つたような顔をしておつたがウイリアムズもこの問題についてはわれわれの主張をよく飲み込んで極東委員会との関係について随分骨を折つてくれてケリになつたような次第であります。
四番目といたしまして、議員はその任期中、法律で定められた場合及び国会で承認された場合のほか、行政各部の委員、顧問、嘱託等の職務につくことができないこととすること、これも実は非常に大きな問題ではありまするが、私どもの考え方からもこれは当然に議員さんはこうあつてもらいたいと思つていたことでありまするから、この点は喜んで頂戴をいたしました。
五番目といたしまして、常任委員会に関係して、議員は少くとも一個の常任委員となることということを条文にはつきりせよ。これもやはりリオーガニゼーシヨン・アクトの影響だと私は考えております。
六番目といたしまして、常任委員会及び特別委員会ともに各党派の所属議員数に比例して委員を選出せよ、こういうことを言つて参りました。これは当然なことでありまして、たとえこの規定がなくてもわれわれの方では、昔からと言つてはなんですが、古い時代から政党の所属議員数に比例して、委員を選出しておりましたので、別に痛痒は感じませんでした。原則をこれにはつきりしておく方がいいだろうというので、これも喜んで頂戴をいたしました。
ところが七番目といたしまして、これは先方の大譲歩でありますが、常任委員会及び特別委員会は議院で認めた場合のみ、閉会中も活動し得ることということを認めて来たのであります。この前のときにあれほどやかましく言つて、閉会中にやれば政府が二個できることになつて、行政部が非常に困るからという理由でやめさせたものですが、これを常任委員会及び特別委員会で閉会中の審査をやつてもいい、ということに折れて来たのであります。この点はわれわれの方は古くから主張していた事柄であつて、議員さんの方でも強く要請していた点であつたので、この様な形で認めさせることにGHQを説得させるのに書記官長などは数回GHQに足を運んだと記憶しております。
それから八番目といたしまして、公聴会の問題で、予算及び歳入法案については、必ず公聴会を開くこととせよということを言つて参りました。これも後ほどまたくわしく申し上げることがあると思います。
九といたしまして、少数意見書が提出されたときは会議録に掲載することを規定せよ、これも従来衆議院規則でこの点は出ておりましたので、ただ法律に格上げするだけでありますから受け入れたわけであります。
ところが十といたしまして、こういうことを言つて参りました。
「すべて議員は議案を発議することができる。議案が事務総長の手元でファイル( file )されたときは、登録されたときとでも訳す方がよくないかと思いますが、とにかくファイルされたときは提出されたものとみなされる。提出された議案は、議長が適当な委員会に付託する。付託された議案は、当該委員会の承諾のある場合及び二十人以上の議員の賛成がある場合においては、本会議で直接審議することができる。」こういうのを入れよということを言つて来たのであります。これは後ほど申しますけれども、審議手続が非常に変化することになります。つまりわれわれの従来の考え方は、常任委員会であつても特別の予算、決算等を除いては議案は一応本会議で荒ごなしをして、そして委員会に付託するという建前で進んでいたのでありますが、ここへ来て完全にそれが米国式に直接に全部常任委員会へ持つて行けということを言われまして、審議手続が大きく変化したということが言えると思います。なお後段の「付託された議案は、当該委員会の承諾ある場合及び二十人以上の議員の賛成のある場合において、本会議で直接審議することができる」ということは、これは実はその当時意味がわからなかつたのでありますが、あとになつて考えると、これがいわゆるデイスチヤージ(discharge)の考え方であつたように思われるのであります。この点についても後ほどまた申し上げることがあるかと思います。
次に十一といたしまして、質問の提出につき二十人以上の賛成というのをわれわれの方ではあくまでも主張したのでありますが、それはどうしてもいかぬ。議長の承認とせよ。この前の指示のときに同じことがあつたわけですが、われわれの方では原案でつつぱねたわけですが、先方も負けないでまた言つて来たわけであります。と同時に議長が承認しなかつた質問については、提出者の要求によつてその趣意書を会議録に掲載するようにせよ。議長がいけないと言つた場合においては、提出者の意思を重んじて会議録に掲載するようにせよ。こういうことを言つて参りました。
それから十二といたしまして、一事不再議に関する原則でありますが、国会の議決を要する議案で両議院の一において否決したものは同一会期中において再びこれを提出することができない旨の規定が、第三次案の五十八条にありますが、これは削つてしまえということを言つて参りました。これについてはわれわれの方でも研究したのでありますが、会期が五箇月にもなりますと、実際の必要上から、会期初めは不必要であつても、会期の終りになつて事情変更等の原則に基いてまたいろいろなことが起つて来るのではないか。その場合にこの一事不再議の原則があると困る場合があるかもわからないというので、この条文はあちらの申出通りに削除することにいたしました。しかしながら、一事不再議の原則、それ自身はやはり精神的には生きているのだという考え方は持つております。事情が変つて来た場合においてのみ、同一事件が再び取上げられることがある、そういう考え方をいたしているわけであります。
以上十二項のほかにもまだこまかいテクニカルな問題がありますが、それは省略させていただきます。

八 第四次草案

ただいまの十二月六日の申入に関しましては、もちろん議会開会中でもありましたので、事務局も徹夜せんばかりの仕事をやりまして、九日に第四次草案を法規委員会で決定しております。

九 第四次の指示

この第四次草案にまたウイリアムズが意見を言つて来たのは十二月の十四日のことでございます。
主要点は通常会の会期と、議員の任期の点についてでありますが、先ほど申しましたように会期内に議員の任期が満了する場合はどうするか。この点を研究せよということでありましたので、第四次案では「常会は毎年十二月上旬にこれを召集する。但しその会期中に衆議院議員の任期が満限に達する場合にはこの限りでない。」というのを第二条といたしまして、別に「国会の会期中に衆議院議員の任期が満限に達した場合に国会は閉会となる」ということにして調和を図つたつもりでおりましたが、あちらの言い分は、これだと、たとい但書があつても内閣によつて常会の会期が故意に短縮されるおそれがあるのではないかというので、これはいけない、何とかもう少し考えろということを言われました。言われて見ればごもつともなわけでありますので、ただいま現行法になつておりますように、「但し、その会期中に議員の任期が満限に達しないようにこれを召集しなければならない。」ということにしたのであります。それが昭和二十七年の八月召集というおかしな結果を見ることになつておりますが、しかしながら、これは結局四年の任期中に通常会を四回やらせるか、会期が半ばでも議員の任期が来ればその点に重点を置いて、常会半ばでも打ち切つてしまうかという点が問題であろう、問題の所在はそこにあるものだと考えております。
二番目といたしまして、会期中の議員及び緊急集会中の参議院の議員の不逮捕の特権の問題でありますが、これにつきまして私の方では議院法の規定にならいまして、「各議院の議員は、現行犯罪または内乱、外患に関する罪のほか、会期中はその院の許諾がなければ逮捕されない。」ということを第四次草案に入れておいたわけでありますが、これに対しましてあちらでは、内乱、外患に関する罪を除いてしまえ、そして院外における犯罪で刑法の規定によつて現行犯と定義された場合だけに限定せよということを言つて参りました。この理由はちよつと私ども記憶がございませんが、とにかく現行犯だけに限れということを言つて参つたわけでありまして、それがために今日の条文になつているのであります。
三番目に公聴会についてでありますが、先ほど申しました十二月の六日のあちらの申出に、予算及び歳入法案については、公聴会を必ず開くようにという話があつたのでありますが、私どもの考え方としてごく少額の更正予算というものについても、公聴会を開く必要があるだろうか。いろいろ予算にも種類がありますから、追加予算でも重要な性質でない追加予算、あるいは今申し上げました少額の更正予算というようなものについても、公聴会を開くとすればたいへんじやないか。また歳入法案全部についてということでありましたけれども、歳入法案と言えばほとんどすべての法律がリベニユウ・メジヤーズということが言えるのではないか。だからそれをのむことはできないというので、第四次草案では予算は除いてしまつて、重要な歳入法案についてのみ、公聴会を開くこととしておいたのでありますが、十二月の十四日に再びすベての予算及び歳入法案、all budget and revenue measuresについて公聴会を開けということをやかましく言つて来たのであります。このときもずいぶん議論はしたのでありますが、結局予算についてはすべての予算が含まれることとし、歳入法案については、こちらの要求通り「重要な」という字を入れてもらつて了解がついたのであります。しかし、これは、後に貴族院で修正されて、総予算及び重要な歳入法案だけについては、公聴会を開かなければならないということになつて、それが現行法規になつております。
四番目に質問でありますが、十二月六日には議長の承認を必要とするということに重ねて指示がありましたので、やむを得ずその条文を改めたのでありますが、このときに再び議長の不承認の場合には議院に異議の申立てができるような道を開けということを言つて参りました。別に悪いことではないので、これはこのままのんだわけであります。その他一、二技術的な問題がありましたが、これは省略せていただきます。

一〇 最終案

右でようやく最終案が決定いたしました。結局最終案と申しますと、第五次案になります。これについて十二月十六日に漸くOKをとつたのでありまして、ここにそのOKをとつた原文を持つております。OKと申しましてもただ単に自分の名前を署名するというだけでございます。そして十六日にそのOKがとれましたので、翌十七日に衆議院に提出いたしました。
右の経過でおわかりになりますように、両院協議会と、それから請願に関する規定につきましては、ほとんど何らの指示がなかつたことは、私は注意して見なくてはならない点ではないかと考えております。これは先ほどもちよつと雑談中に申し上げましたように、当該係官が議会の運営の実際にタツチした経験がなかつたがために、こういうことになつたのではないかと考えております。

一一 第二回国会以後における改正に関するGHQの指示

以上で国会法が成立したわけであります。これによりまして第一回国会をやつてみたのでありますが、その第一回国会中にまたいろいろな問題が起りまして、不備なところが発見された点が多々ありましたがために、第二回国会におきまして改正の研究をいたしたのであります。そして昭和二十三年六月二十二日に衆議院へ提出して、六月二十五日に可決してこれを参議院へ送付いたしまして、七月五日に参議院の審議が終り、即日公布になつたのでございますが、この改正の中でわれわれの方の創意によりまして改正した重要な点もございましたけれども、中にはGHQの指示によつたものがあつたと記憶している点が数点ございます。その点について触れてみたいと思いますが、これらは結局今日の国会法にGHQがやはり及ぼした影響の一つと言えるだろうと考えます。
第二回国会であちらの指示があつたと思われる点をかいつまんで申し上げますと、一といたしまして事務局職員の任免についてでありますが、これは第二次案では事務総長が任免するとなつていたのでありますが、十一月二十二日の来訪の際に、議長の同意を得て事務総長が任免するということにせよと指示されたものでありますが、今度は議長の同意だけではいけない、議長及び議院運営委員会の同意を得て事務総長が任免すると改正せよと言われたのであります。つまり議運がもう一枚ここにつけ加わつたのであります。これは事務局の職員の中立性保持、あるいは身分確保という意味において、運営委員会の同意を得ておく方がよいではないかという考え方によるものと思われるのであります。
二といたしまして、常任委員長の解任の問題であります。これは第一回国会中にその例があつたのでありますが、当時の常任委員長は全部与党側から--与党と申しましてもこれはアクテイング・マジヨリテイacting majorityの意味でありますが、アクテイング・マジヨリテイから選出されるということが第一回国会から了解事項として残されておりますが、そのアクテイング・マジヨリテイから出た委員長が第一回国会中に党籍を変更した事態があつたのであります。そのときにその委員長がなかなか辞めなかつたのでありまして、これに処するがために規定を設けよというので、各議院において特に必要のあるときは、その院の議決をもつて常任委員長を解任することができるという規定を設けよと言つて参りました。
三番目といたしまして、各派交渉会についてでございます。この点については少しく古いことに触れるようでありますが、第三次の案で常任委員会を列拳せよと言つて参りまして、列拳いたしましたときには、議院経費委員会という名前が出ております。これはその当時、今のリオーガニゼーシヨン・アクトは、下院のルールの変更について何ら触れていなかつたのであります。これは下院の分は下院にまわつてからさし加えたものでありますから、その当時わからなかつたのでありますが、昔のあちらのハウス・ルールを見ますと、議院会計委員会というものがあります。その例によつてわれわれの方では議院経費委員会という名前で拳げていたのであります。そしてこのときの考え方では、運営面は交渉会でやはりそのまま続けてやつて行くつもりで、経費面だけは議院経費委員会へ持つて行くという考え方でありました。これはなぜかと申しますと、先刻一番初の指示にありました予備費の支出等については、やはり議院経費委員会でやる方が穏当ではないかというような考え方からして、議院経費委員会としたわけであります。そして運営面は交渉会でやるという考え方で進んでいたのであります。しかるに十二月の四日の法規委員会で、これは第三次案の確定のときでありますが、社会党からこの経費委員会を拡大して、議院運営委員会としたい。そして交渉会もこの中に入れてもらいたい。交渉会を明朗にするために、かつ、公開にする必要から言つても、議院運営委員会としたい。必要なときには委員会を秘密会となし得られるわけだからという提案がありまして、この主張が通りまして、第三次案の確定の際に議院運営委員会ということになつたのであります。そうしてそれが最後案までずつと続いて来たわけであります。しかしながら第一回国会では、議院運営委員会と交渉会とは並行して開かれております。その考え方は、前者、すなわち、議運の方は基本的な、原則的なことをとり上げるという建前のもとに進んだのに対しまして、交渉会は、日々の議事運営、つまり政治的な話合いが行われるという建前で進んだのであります。もちろん議運の方は公開であり、交渉会は議長の諮問機関として秘密会で行われていたのであります。これがどうしてもGHQに気に入らなかつたのであります。議事運営というような重大なことは、ガラス張りの中でやつてもらわなければ困る。交渉会の記録というものもございませんししますから、やはり委員会でやるなり、あるいは法規に根拠のある形においてやつてもらいたい。こういうふうな強い指示がございまして、結局議院運営委員会小委員協議会というものを設けたのであります。これが今日の五十五条の二の規定でございまして、「議長は、議事の順序その他必要と認める事項につき、議院運営委員会が選任する小委員と協議することができる。但し、議長は、小委員の意見が一致しないときは、これに拘束されない。」という小委員協議会というものができた理由がここにあるのであります。
四番目といたしまして、両院法規委員会についてまた新たな指示が参りました。九十二回議会で確定した国会法には、両院法規委員会についてはこういう規定があります。
両院法規委員会は、両議院及び内閣に対し、新立法の提案並びに現行の法律及び政令に関して勧告し、且つ、国会関係法規を調査研究して、両議院に対し、その改正につき勧告する。
こういうことになつていたのでありますが、これをもう少し具体的に書き改めようというので、参りました指示によつて改めたのが
両院法規委員会は左の各号の事項を処理する。
一、国政に関し問題となるべき事案を指摘して、両議院に勧告する。
二、新立法の提案又は現行の法律及び政令に関して、両議院に勧告する。
三、国会関係法規を調査研究して、その改正につき両議院に勧告する。
両院法規委員会は、毎会期終了前に、前項に掲げた事項についての報告書を、両議院の議長に提出しなければならない。
こういうふうに改めろということを言つて参りまして、これは別に痛くもなし、かゆくもなしというのでこのことをも入れたのであります。
五といたしまして、最初のサゼスチヨンにありました議院法制部というものを、今度は、法制局に格上げして、議長直属の機関とせよということを言って参りました。これは先ほども雑談中にもお話がありました入江さんをこの局長に迎えたいという考え方が、私の方にもあり、またGHQの方もそれには賛成でありましたし、他面議員立法の重要性から行われたことだと私は考えております。
もちろんこの第二回国会の改正は、その他重要な部分がございますが、これらについては、GHQのサゼスチヨンは全然ございませんから、その点は触れないでおきたいと思います。なおこの後、第三回国会、第六回国会においても改正はされておりますが、これは常任委員会を行政機構の改革に伴つて改編したものでございまして、いずれもわれわれの方の発意にかかるものでありまして、GHQは関与していなかつたということを申し上げておきたいと考えます。
以上でほぼ国会法全体を通じてのGHQのタツチした事柄を申し上げたわけでありますが、今度はこの中から特に国会法に規定されている重要な事柄であつて、しかもその立案経過において、GHQからの指示をも合せ考えて、われわれの考え方にどんな変化があつたかということを、事項別にひとつ述べて参りたいと思います。

一二 立案過程における委員会制度の変遷

まず、第一番が例の委員会制度の問題であります。これも古いことを申し上げてはなはだ恐縮でありますが、話の順序といたしましてお許しを願いたいと思いますが、議院法時代の委員会は、常任委員会、特別委員会、全院委員会であつたことは申すまでもございません。そして常任委員会の種別は衆議院規則、貴族院規則に譲られておりまして、そして両院共通のものは、予算、決算、懲罰、請願、そのほかに貴族院には、資格審査委員会がございました。そのほかに衆議院では第六十三回議会以来、建議委員会というものをずつと設けておりますが、これは規則にはございません。規則第四十四条の終りにある「其他議院ニ於テ必要ト認メタモノ」というので、毎会期建議委員会を設けるということを決議いたしまして、常任委員会として設けていたわけであります。
それから継続委員会の問題でありますが、これは御承知のように第一回議会以来一回も開かれたことがございません。ときに法案を継続審査したいということを議院側で議決いたしましても、政府の側が同意をしなかつた。それがために一回も開けなかつたのであります。この継続委員会は議院法第二十五条でありますが「各議院ハ政府ノ要求ニ依リ又ハ其ノ同意ヲ経テ議会閉会ノ間委員ヲシテ議案ノ審査ヲ継続セシムルコトヲ得」ということに相なつておりまして、結局政府が要求するか、あるいは政府の同意がなければ、継続委員会は開かれなかったのであります。一番新しい事例としては東京都制案がたしか昭和八年第六十四回議会でありましたか、提出されたことがあります。そのときに継続審査したいということを院議で議決したのでありますが、政府がこれに同意しなかつたという事例がございます。
話はずつとまた先に戻りますが、昭和五、六年ごろの浜口内閣で幣原さんが内閣総理大臣臨時代理をやつていた当時に、衆議院に非常な騒ぎがありまして、その自粛を求める声があらゆる方面で高くなつたのであります。これにつきましてその当時衆議院議長をしておられました秋田清さんが主唱いたしまして、議会振粛各派委員会というものを設けまして、そうして議会の自粛を図りたい、振粛をしたいというので、昭和六年ごろから七年にかけて研究を進めて参つたのであります。そうして昭和七年七月十五日に最後的な決定をいたしまして、議会振粛要綱というものを発表したのでございます。
これは非常に歴史的な意味が強いのでありまして、これから後、新しい国会法ができ上るまでの間は、ずつといつもこの議会振粛要綱をいかにして実現するかということに各派が非常に努力をいたしました。戦争中にもこれの実現についてかなり努力をしていた跡が今日でも残つているのであります。この議会振粛要綱は各派の長老連中が集りまして、連日真剣になつて検討を進めたように私ども記憶いたしております。非常にまじめであつて、しかも超党派的にこの成案を得ることに努力をせられたと聞いております。この議会振粛要綱の中の第九というところにこういうことがございます。「常置委員ヲ設ケルコト、議会ノ開会中閉会中ヲ通ジテ常置ノ委員ヲ設ケ、議会中未決議案ノ審査ヲ要スルモノハ之ヲ審査セシムルハ勿論、閉会中審査ヲ要求セラルル案件ニ就テモ亦之ヲ審査シ、会期ノ短キヲ補ウト共ニ時代ノ問題ニ対シ政府ニ説明ヲ求メ、質問ヲ為シ議会ノ行政監督権ヲ発揮セシメントス」とありまして、継続委員を廃止すること、常置委員を設けて、現行継続委員の職務はこれに包含せしむることとするということが、議会振粛要綱の中に拳げられております。この常置委員を設けるということは、先ほど申し上げたように各派とも非常に熱心でありまして、これに関しまする議院法の改正案を、六十四回議会、六十五回議会、六十七回議会と三通常議会を通じまして衆議院では即決して貴族院に送付いたしておりますが、貴族院ではいずれも握りつぶしをしてしまつたという歴史がございます。この常置委員会の考え方については、六十五回議会に提案者を代表して浜田国松君が提案理由の説明をしております。それによりますと「常置委員の組織は各政党の代表者を網羅し、議会閉会中においても、常に政府と折衝をなし、国策遂行について両者の間に、意思の疏通を図り、次期議会に対する所の審議の準備をなし、之に由つて、以て議会機能を全からしめんとする所の基礎工作にほかならないものであります。而して之に由て議会短期の欠陥を補い、議会と政府との関係を円滑ならしめ、議会政治完成の一階梯といたしたい、というのが、この制度新設の眼目であります。」ということになつております。しかしながらこの常置委員会の考え方は、今申し上げましたように、いつも貴族院で握りつぶしにされております。昭和十一年に内閣にできました議会制度調査会というのがございますが、そのときにもやはりこの常置委員会制度が衆議院側の委員からやかましく叫ばれております。それでもこの議会制度調査会では、常置委員会は憲法違反ではないかという点に難点があつて、結論は得られなかつたのであります。常置委員のことがいろいろと論じられておりまする間を通じて、政府はあくまでも憲法違反の疑いあり、結局会期というものがきめられている以上、常置委員会が閉会中活動するということは憲法違反だという見解で一貫していたように考えます。ところが戦争中になりますと、この常置委員会の実体を何とかして実現させたいというようなところから、衆議院調査会というものが昭和十六年ごろから開かれております。これは全議員を調査会の会員といたしまして、各議員をそれぞれの部門に分つて、それを第何部、第何部として調査するという建前であつたのであります。これが後ほど内閣で設けました各省委員というものと共通のメンバーになつてしまつております。そしてこの衆議院調査会ではどういうことをしたかと申しますと、主として議会前に開きまして、議案の事前調査ということをやつておりました。またこの調査が行われたがために、政府が立案したものが調査会の意見によつて変更されて、そして議会に正式提案になつたというような事例もしばしばあつたように記憶いたしております。そして戦争中はこの調査会があつたがために、議会としては審議が非常に速かであつたと申して差支えございません。
さて、ここで終戦後新憲法に基いて国会法を起草するということになつたにつきましては、この常置委員制度を採用したくなるのは、当然のことだと私は考えておりますが、そういつた考え方からいたしまして、国会法の起草に際しましては常任委員、特別委員及び常置委員の三本立てとして、それから先ほど申しましたように全院委員及び継続委員は廃止するということを建前として進んで参りました。第一次草案ではこういうことを書いております。
1 「常任委員は、一定の事件を審査するため、会期の初め議院において選挙し、会期中その任にあるものとする。但し臨時会においては前回の任を継続する。」通常会の度毎に常任委員は改選することとするという考え方であります。
2 「特別委員は、一事件を審査するため、議院において選挙し、附託された事件の議決せられるまでその任にあるものとする。」
3 「常置委員は、左の事件の調査または審査をするため、会期の終り議院において選挙し、次の常会において改選せられるまでその任にあるものとする。」
一、「議院から附託された国政の調査」これは新憲法によつて国政の調査権が国会に与えられた関係上、さつそくその文字をとつて来たわけでありますが、議院から附託された国政の調査。
二、「議院において閉会の後引続き審査を要するものと議決した事件。」
三、「閉会中内閣から審査を求められた事件。」
こういうふうにして第一次草案はつくり上げたのであります。そして常任委員長と常置委員長は、いずれも議院の役員といたしまして、議院において選挙することを建前といたしたのであります。
この第一次草案での常任委員の種別だとか、あるいは数というようなものは、これは規則に譲るとの考え方でございまして、やはり議院法と同一の考え方であつたのであります。また常置委員会の数等についても、この場合はそう具体的に考えが及ぶところまでは行つていなかつたように思われるのであります。そこで十一月四日のウイリアムズの最初の指示があつたわけであります。指示は先刻朗読いたしましたが、委員会に関する重要部分だけをもう一度読んでみたいと思います。
常任委員会、A、おもな活動分野において少くとも一個、B、各常任委員会及び予算分科会に対しては、事務所、事務員--事務員というのはこれはセクリタリアル・アシスタントsecretarial assistantという言葉であります。それから専門補助員、これはエキスパート・アシスタントexpert assistantという言葉を使つております。それを国費をもつて提供する。C、常任委員会の委員は任命後その任期中、あるいはその委員が欲する期間中、その委員として残る。E、常任委員会が一般的関心及び目的を有するすべての法案につき公聴会を催し、かつ、法案に対し真に利害関係を有するすべての人及び組織は公聴会に出席して、それらのものの意見及び議論を述べるようにするという指示が参つたわけであります。
右について第二次案を起草するにつきましては、あるいは内閣の法制局と打合せをしたり、また法規委員会も三回ばかり開会されたことは先刻申し上げた通りであります。ここで第二次案が一応でき上つたわけであります。これも内容の変更はございませんが、幾分か変つておりますので、朗読させていただきます。
1 常任委員は、一定の部門に属する事項を審査するため、会期の初めに議院において選挙し、議員の任期中その任にあるものとする。
2 特別委員は、特定の事件を審査するため議院において選挙し、附託された事件がその院で議決されるまでその任にあるものとする。
3 常置委員は、閉会中法律執行の成積を調査し及び左の事件を審査するため、議院において選挙し、次の常会において改選されるまでその任にあるものとする。
一、議院において閉会中引続き審査を要するものと議決した事件。
二、閉会中内閣から審査を求められた事件。
こういうことに相なつております。すなわち第二次草案では、一定の部門に属する事項を審査するために常任委員会を設けるというふうに大分変つて来ているわけであります。それから特別委員会は特定の事件を審査するというふうに、常任委員会と特別委員会の区別がはつきりとなつて来ているわけであります。この二次案の起草中に起りました疑問がございます。それは常任委員会と常置委員会との関係をどうするかということでありましたが、しかし、このときには常任委員会は、その任期こそ議員の任期と同じですが、活動は会期中のみに限るのが当然であるといたしまして、常置委員は閉会中の活動を主とするものといたして行くような考え方で進んでおります。そしてその数は常任委員会はほぼ十箇くらい、常置委員会は二箇ぐらいと予想して、これに当てる委員は、常任委員会は当然専門家がなるべきであるし、常置委員会の方は専門家でなくとも各党の幹部、いわば大物がこれに当るものではなかろうかというような予想のもとに、第二次草案ができ上つたわけであります。
この第二次草案に対する十一月二十二日のウイリアムズの指示は、先ほど申しましたようにわれわれの考え方の根底に触れるようなものがあつたのであります。それは常置委員会を認めない、また常任委員会及び特別委員会は、会期中のみ活動し得ることをはつきりさせろというような点が、非常にわれわれにシヨツクを与えたのであります。そしてあらゆる手段を尽して、とにかく常置委員会を復活して、それから閉会中も行政監督の実を挙げたいというので、議員も事務局も一諸になつて当つたのでありますが、遂に空しく、第三次案ではそれを削除せざるを得なくなつたのであります。そして第三次案では、
1 「常任委員は会期の初めに議院において選挙し、議員の任期中その任にあるものとする。
各議院の常任委員会は左の通りとし、その部門に属する議案、請願、陳情書その他を審査する」といたしまして、ここで事項別の常任委員を二十一箇つくることといたしました。このときは事項別でございます。それから、もちろん常任委員会には例の専門委員を付置するというような規定も、この三次案ででき上つたものでございます。
特別委員会につきましてはそうかわつたことはございませんが、規定としては、
2 「特別委員会は、常任委員会の所管に属しない特定の事件を審査するため、議院において選挙し、その委員会に付託された事件が、その院で議決されるまでその任にあるものとする」といたしまして、特別委員会は常任委員会の所管に属していない特定な事件だけを審査するのだということが、ここではつきりと現われて来ております。なお、先方のサゼスチヨンによりまして、「常任委員会及び特別委員会は、会期中に限り付託された事件を審査する」ということも書かざるを得なくなつたのであります。
ところが、十二月の六日のウイリアムズの三度目の来訪のときに、先ほど申しましたように、常任委員会及び特別委員会は、議院で認めた場合のみ閉会中も活動し得る、常任委員、特別委員とも、所属議員数に基く比率により選出するのだということを指示されまして、また考えが元に戻つたわけではございませんが、少しくわれわれの希望にかなつた委員会ができ上るということになつて来たのであります。すなわち第三次案の四四条に「常任委員会及び特別委員会は、会期中に限り付託された事件を審査する」という規定を設けたのに対しまして、次の第二項を加えたのであります。「常任委員会及び特別委員会は、各議院の議決で特に附託された事件については、閉会中もなお、これを審査することができる」ということにいたしまして、閉会中の今日の審査が行われているようなわけであります。
なお、委員の所属議員数の比率に基く割当に関する条文も新たに入れまして、各派に割当てるという以上は、これは議場選挙では無理だというので、この点は選任という言葉を使うことにいたしまして、しかも衆議院規則では、選任はすべて議長の指名によるということに相なつているわけであります。
ところが、この十二月六日のウイリアムズの指示によつて閉会中も審査ができることになりましたに拘らず、われわれの方で一つミスをやつてしまつたのであります。それは、例の会期不継続の原則でありますが、「会期中に議決に至らなかつた案件は後会に継続しない」そして、従来の常置委員会がありましたときには、「但し常置委員会に附託された事件についてはこの限りでない」という但書があつたのでありますが、それが常置委員会がいけないと言われたものですから、その但書を削つてしまつて、そしてこの十二月六日に言つて来たときに、またそれを復活しなくちやならなかつたのを、実は忘れてしまつたのであります。そうして第一回国会が終りかけたときにそのことに気がついたのでありまして、第二回国会の改正でこの閉会中審査のものは後会に継続しないというのを改めて、継続するような実体をつくつたわけであります。同じような法律でありますが、地方自治法には、この第一回国会でわれわれが使つておりました国会法すなわち但書のないもので、ただ単に「会期中に議決に至らなかつた案件は後会に継続しない」ということだけしか書いてなくて、しかも、現在自治庁においては、自治法に基くものについては但書があるのと同様だというような説が行われているのは、ちよつと私としては、おかしいような気がするのです。
なお、第二回国会で委員会の数及び名称を変更いたしまして、従来事項別であつたものを、省別の委員会といたしているのであります。これは議案附託の便宜上の問題であります。すなわち事項別の委員会でありますと、権限争いが起りまして、議案の附託の際に議長が委員会からつつつかれまして、ひどい目にあうことがしばしばあつたのであります。そこで、議案の奪い合いをなくする意味からいたしましても、省別の委員会とした方が楽ではないか、というので改めたのであります。それはなぜかと申しますと、内閣から提出して来るときにはその責任大臣というものがはつきりわかつております。その委員会へ持つて行けば間違いないわけでありますから、省別の委員会の方がよくはないかというので省別の委員会に改めたわけでありますが、しかし、この点については別に指示があつたわけではございません。なお、省別にいたしましたにも拘らず、その後引続いてやはりこの権限争議は今日でも続いておりますことは、まことに私どもとして困つたものだと考えております。のみならず、今度は、省別になつたがために、委員会が省の出先機関になつてしまつたというところからして、省の間の争いが委員会の方に持ち込まれて来る、こういう欠陥を今日暴露しているわけであります。たとえてみますと、最近問題になりました水道法案、これはこの十九国会開会中に、御承知のように政府側としては厚生省の方の言い分を通して、建設省の言い分を通さなかつた。それがために水道法案は厚生省の案が出て来て、それを厚生委員会に附託した。ところが、建設省の肩を持つ建設委員会がこれに不満を抱いて、建設省の主張する案を議員提出の形において提出して来て、そしてこれを建設委員会に附託せよといつてがんばる、こういつたことが今日でも行われているのは、はなはだ遺憾だと考えております。
以上が、委員会制度の問題についてのずつと一貫したお話を申し上げたわけであります。

一三 立案過程における審議手続の変遷

次に、議案の審議手続について申し上げてみたいと思います。第二次案が決定いたしましたときに新聞紙に発表いたしましたものに、三読会制度は廃止するということを申しております。しかしながらこの点は、法律案の審議については三読会の制度こそ廃止すれ、当然本会議で提案理由の説明を聞き、それに対する質疑が行われた後に各常任委員会へ付託するものとの建前で第三次案まで進んで来たわけでありますが、十二月六日の指示でこの建前がすつかりこわれてしまつたことは、先ほど申し上げた通りであります。すなわち十二月六日の指示には、提出された議案は議長が適当な委員会に付託するということになつているのであります。従つてわれわれの従来の考え方はここに一変いたしまして、新たな条文を四次案に入れたわけであります。すなわちそれを朗読してみますと、
すベて議員は議案を発議することができる。
議案が発議又は提出されたときは、議長は、これを適当の委員会に付託し、その審査を経てこれを会議に付する。但し、特に緊急を要するものは、議院の議決で委員会の審査を省略することができる。
ということにいたしたのであります。
なお、指示の後段の先ほど申しましたデイスチヤージの関係でありますが、指示には、「付託された議案は、当該委員会の承諾がある場合及び二十人以上の議員の賛成がある場合においては、本会議で直接審議することができる」ということになつていたのでありますが、これがはつきりわからなかつた関係上、われわれの方の第四次案にはこういうふうな表現が用いられております。「委員会において議院の会議に付するを要しないと決定した議案につき議員二十人以上の要求があるときは、これを会議に付さなければならない」ということにいたしまして、結局委員会限りで一種の廃案的な取扱いができるようにしたのであります。
この指示により、結局常任委員会というものが完全にアメリカ式となり、そして審議の方法が委員会中心主義となつたと私は考えております。しかしながら、先ほど申しましたように、第一回国会でこの方法で運用してみますと、従来の本会議中心主義への郷愁と申しましようか、あこがれとでも申しましようか、そんなものが現われ始めて来たのであります。すなわち、どうしても重要法案については本会議で提案理由の説明を聞き、これに対して質疑したいとの強い要望からいたしまして、たしかこれは臨時石炭国家管理法案であつたと思いますが、議院運営委員会の申合せで、法案は国会法の規定によつて委員会に付託する、従つて、委員会では審査を進めてもよろしい、しかしながら、本会議ではこの法案を議題とするわけではないけれども、その提出理由を聴取する、そして、その説明について質疑を行うということはさしつかえないじやないかというので、申合せができたのであります。そこで、第二回国会で国会法の改正が行われました際にこの点が取上げられまして、この申合せ通りの条文が加わつたのであります。これが現行法第五六条の二でありまして、「各議院に発議又は提出された議案につき、議院運営委員会が特にその必要を認めた場合は、議院の会議において、その議案の趣旨の説明を聴取することができる。」といたしたのであります。この点につきましては、ここ二、三年来の国会法改正小委員会におきましてしばしば論議が行われたのでありますけれども、いわゆる読会制度を復活しようということは、今のところ消えてなくなつたように思います。ただ本会議で説明を聞いて、そして全議員に全部の法律案についての興味を持たせたいというその考え方は、私どもとしてよくわかりますが、つまらない事務的な改正案等についても一々本会議で趣旨弁明を聞いていたのでは、今度は能率の上から非常に問題が起つて来るのじやないか。その意味において、現行五十六条の二の議院運営委員会が特にその必要を認めた場合だけ趣旨弁明を聞くというこの条文をもう少し事務的に生かして行けばいい問題ではないかと考えております。諸先生方の御意見もいろいろあるかと思いますが、事務的の面からはそれで十分ではないかと考えております。ただ、これは非常に政治的に取扱われやすいのであります。そして、われわれでもこれは聞いた方がいいじやないかというようなものが、与党の側の反対によつて本会議で説明が行われないというようなことがしばしばあるのは、むしろ多数横暴じやないかとも考えております。
なおデイスチヤージの問題でありますが、これは先ほどもちよつと申しましたように、石炭国管法案のときにやはりこれが問題になりまして、中間報告を求めた後に本会議で取上げるという方法をたしか第一回国会でやつたのでありますが、そのときは取上げなくともその審査期間のうちに終了したので、本会議で報告を受けた後に審議はいたしておりますが、それを五十六条の三といたしまして、デイスチヤージの関係をはつきりいたしました。すなわち
各議院は、委員会の審査中の事件について特に必要があるときは、中間報告を求めることができる。
前項の中間報告があつた事件について、議院が特に緊急を要すると認めたときは、委員会の審査に期眼を附け又は議院の会議において審議することができる。
委員会の審査に期限を附けた場合、その期間内に審査を終らなかつたときは、議院の会議においてこれを審議するものとする。但し、議院は、委員会の要求により、審査期間を延長することができる。
ということにしたわけであります。この五十六条の三がまたしばしば政治的に大きな波紋を投げていることは、皆様方の御承知の通りでございます。
以上で、ほぼ重要な事項についてのお話が終つたかと思いますが、以上のほかに、先ほどちよつと触れましたGHQのサゼスチヨンによつて規定したものでおもしろいと思われるのは何かといわれれば、議員の官公吏兼務の禁止規定、議案の予備審査、これは確かに私は成功だつたと思います。しかしながら、そうかといつて、指示がすべてよかつたわけではない。例えば自由討議、両院法規委員会というものが今日あのみじめなことになつてしまつたということを考えますと、必要から生じたものであればこれらの制度もおもしろいものではあると思いますが、どうもこれは国民性の相違といいましようか、上から押しつけられたというような感じのためでしようか、この二つの制度が十分の効用を発揮していない。両院法規委員会は、今度の改正案では廃棄の運命にならうとしています。自由討議が辛うじてその形骸だけをとどめようとするばかりになつていることを思いますと、うたた感概にたえないものもあるわけでございます。
はなはだ不完全だつたと思いますが、これでひとまず話を終えさせていただきたいと考えております。

質疑応答

宮沢 自由討議というのは、アメリカで成績をあげているのですか。
西沢 アメリカにもございません。
宮沢 何を考えてこういうことを言つて来たのですかね。
西沢 これは最初の考え方は、この指示にもありますように、誰でも、小会派の人でも発言の機会を与えたいというのが狙いらしいのです。「国家の政策及び重要なる施策に関し壇上に立ち自由に演説する機会を与うるよう規定を設けよ」というのでありまして、この指示が出ますまでに、小会派が圧迫されているということを小会派の諸君が盛んにGHQに直訴しております。少数意見を尊重せよということも強く申して来ておりました。ところが、いよいよ先方が議会の実際にタツチしてみると、いかにも小会派のやり方がひどいというので、今度は、委員の割当なんかについては所属議員数に比例したものでやれ、のみならず、あの場合に私どもの方では、但し、割当てられたものは協議によつて他の会派すなわち、小会派にも譲ることができるということを書いておいたのです。そうしたら、こんな規定があつたら、小会派の連中に運営委員会でがんばられたら困る、削つてしまえ、と言つて、参議院でそれを削らされた。そこのところ、小会派というものに対する考え方がちよつとガバメント・セクションの中でかわつて来ているように思います。それは、ちようど共産党のいろいろな動き等からしてぐーつとかわつて来ているように思うのです。それで、最後には私たちの方では、やはりあくまでも議員の比例によつてやれ、小会派なんか発言権が少くなつてしようがないのだといつたような考え方を持つて来たのです。ですから、このときにはおそらく、どういう小会派でも、一人でも二人でも立ててやらなければかわいそうだというような考え方があつたものではないかと私は想像いたしております。アメリカでこれに相当するものといえば、毎日、開会直後ワンミニツツ・デイベイトという、一分間だけしやベらせる、例えばこの手紙は国家政策上役に立つと思うから、この手紙を会議録に載せる許可を与えよとかというような発言があります。そうしてこれは一分で、一分たてば、例のギヤベルを議長はぽんぽんとやつて、次の発言者をしてやらしています。ですから、この自由討議を新設した理由はどうもはつきりしないのですが、・・・・・・。
○今一つ・・・・・、アメリカでは日程が議了された後、特に全会一致の承認を得て、たとえば、十分間なり、十五分間なり、長いときは四十分間もの承認を得て、議院に演説する(to address the House )ことがあります。その内容は、外交であれ、経済問題であれ、何でもかまわないで演説しています。強いていえばこれが自由討議とみなしてよいと思います。しかし、これをやるには、その時間についても、全会一致の承認を得なければならないのです。なお、この承認は、当日得てもまたは予め得ておいても差支えないことになつているようです。
(○印は、補足しました)
林 それが実行されてから、アメリカあたりで批判とか批評とかいうふうなものは出ておりませんですか。
西沢 出ておりませんですね。
芦部 常置委員会にアメリカで反対したのは、先ほど言われた政府が二つできるという。その理由だけだつたのですか。
西沢 結局今から考えますと、アメリカ式のスタンデイング・コミテイヘ来るために一段、二段と作戦を顧慮して来たのではないかと思うのです。
芦部 ワイマール憲法のときも常置委員会というものがつくられて、議院内閣制の原理に反するという理由で大分反対した学者もあつたのですが、そういう理由から反対したという・・・・・・。
西沢 いや、そうじやございません。憲法論では全然なかつたように思つております。
芦部 リオーガニゼーシヨン・アクトの中には常任委員会と特別委員会で、常置委員会というのはないようですが、事実上常置委員会式のものがあるのじやないのですか。
西沢 それはインヴエストゲーシヨン・コミテイ、調査特別委員会は全部閉会中もやつております。あちらの方は----普通のスタンデイング・コミテイはあまりないようですね。
佐藤 今のアメリカの調査委員会というのは、常任委員会のつながりとしてのものではないわけですか。
芦部 あれは常任委員会じやないのですか。
西沢 いや、インヴエストゲーシヨン・コミテイですね、あの案でアンアメリカン・アクテイヴイテイ・コミテイ、あれなんか、規則の中に閉会中もやれということが書いてある。インヴエストゲーシヨンのための特別委員会には、その設置の決議で書いてある。ところが、スタンデイング・コミテイの方はあまり書いてないですね。
高柳 建前として、スタンデイング・コミテイに調査権を発動させる場合には、インヴエスゲーシヨン・コミテイと同じことになるわけですか。つまり閉会中もできるということになる・・・・・・。
西沢 そうです。
佐藤 さつき言われた作戦だつたというのは、十二月六日の最後のサゼスチヨンのときに、常任委員会は閉会中も特に議決があつた場合はできるということを、最後に言つて来たわけですね。
西沢 そうです。
佐藤 それは初めから腹の中にはあつて、それをそこまで出さなかつた・・・・・・。
西沢 それよりも、むしろスタンデイング・コミテイをアメリカ式のものにしたい、それでアメリカにないこの常置委員会は削りたいという考え方のもとに次から次へずつと押し寄せて来たものではないかと思うのです。しかし、その辺は想像ですから、はつきりはしませんけれども・・・・・。われわれの方の常任委員会の考え方は、事ほどさようにアメリカナイズされていなかつたつもりですが、最後にそこへひつぱり込まれてしまつた。そこまでひつぱり込んでおいて、今度は、常置委員会はいけない、こう来ているのですから・・・・。
佐藤 そうすると、こちら側では、その常任委員会というのは会期中だけのものだという気持が最初からあつたわけですね。
西沢 そうです。そうゆうわけです。
佐藤 それはやはり旧憲法時代からの会期、そういう観念があつたからなのでしようか。
西沢 それは御承知のように帝国議会末期におきましては、特別委員会と申しましても、ほとんど各省別に設けたんですね。そして例えば赤字公債発行の委員会となりますと、大蔵省関係の出て来る法律はその委員会にみな併託してしまうのです。そうすると、政府委員の方も楽です。大蔵大臣も楽です。常任委員会的な色彩を帯びていたのです。われわれは、それに毛が生えたような程度のものをあちらの最初のサゼスチヨンのときには考えていたわけなんです。ところが、実体がすつかりかわつて来ているのです。最後に来てアメリカナイズされてしまつた。
芦部 特別委員会については、向うでは希望というか、あまりつくつちやいけないというようなことは言わなかつたのですか。
西沢 ございません。
芦部 アメリカなんかですと、リオーガニゼーシヨン・アクトをつくるときに、大部特別委員会はつくらないように・・・・・。
西沢 そうなんです。それでも現在では相当つくつていますが、つくらせない建前なのです。もしつくれない場合にはスタンデイング・コミテイのサブ・コミテイをうんとたくさんつくる。サブコミテイだけで九十幾つあるということを聞きました。だから、委員会を整理したが、何の役にも立たないということを言つておりました。
林 抜け道ができているわけですね。
西沢 できているわけです。
佐藤 話はちよつと違いますが、国会法の最初できたとき、つまり九十二議会ですか、その際、貴族院はどういう態度だつたのでしようか。
西沢 貴族院で修正を受けましたのは、例の両院協議会関係のところが少しございます。そのほかに大したことはなかつたように思つておりますが・・・・・。
佐藤 この場合は議員提出ということだつたわけですけれども、それは当然貴族院は無視といつては悪いのですが、問題にしないので、衆議院だけでやるということだつたのですね。
西沢 そういうことです。そして、第二次案か第三次案あたりのときに参議院の方にまわして、参議院の事務局の意見を聞いたことはございます。
佐藤 ウイリアムズが法律タイムズの二巻七号、八号に「日本議会法の今昔」という論文を書いておりましてね、寺光さんが翻訳しております。これでみると、貴族院を無視したということを、国会法制定の際の一つの特徴として、貴族院は全然問題にしなかつたのだ、非常にそれがいいのだということを盛んに言つているのです。そして貴族院を非難しているのですね。つまり非常に冷淡だつたとか・・・・。
西沢 なるほど冷淡だつたと言われるけれども、むしろ貴族院そのものが消滅するからという考え方をわれわれの方は強く持つていたものですから・・・・・。
佐藤 佐々木惣一先生ががんばつておられるのですね。九十一議会に出したのでしよう、初め、そうしたら、貴族院にまわつたのが閉会の二、三日前なんですね。それで佐々木先生がこんな手はないと言つて大いに憤慨しておられるのですよ、そして、なぜ政府が提案しないかということを先生は言つておられる。
西沢 そういうことがありました。
宮沢 そのためまた延びたのですか。
西沢 ええ、それで握りつぶしになりまして、九十二回になつてようやく決定したわけです。
林 さつき、自由討議の制度が設けられたのは小会派のGHQへの直訴が理由になつたというお話がありましたが、大体において小会派だろうと思いますが、ほかの項目についての直訴をして、そのためにどの程度かにGHQを動かしたというふうな事例はございませんか。
西沢 それは全体を通じて見まして、少数意見の尊重ということを起案中にずつと言つて来ております。委員会における少数意見を本会議にいかに反映させるかという点については、ずいぶんこまかい注文をあちらがつけて来ております。しかし、注文はつけられましたけれども、われわれの方は当時の衆議院規則でそのことがはつきり書いてありまして、実際その通りやつていたものですから、そう困らなかつたのです。別に反駁する必要もなしに、規則で書いてあることをただ法律に移せばいいだけのもので、どうせ規則には書かなければならない事柄だと思つているような事項だつた。先方はそれに気がつかなかつたわけです。
宮沢 これは、あとの規則の段階になると、全然司令部は関係ないのですか。
西沢 やはりございます。ございますけれども、国会法のときほどあれはございませんでした。
宮沢 やはり前に一応OKをもらうのですか。
西沢 ええ、もちろんOKは全部もらつております。
宮沢 今から考えると、どうもおかしな話みたいだけれども、そのころはちつともおかしくなかつたからね。私はウイリアムズは知らないけれども、どつかで変な奴に会つたんですよ。あとで聞いたら、それがウイリアムズで、あれはある方面で有力でね。それぞれ専門があるので・・・・・。
佐藤 ウイリアムズが実際の議事を指導しに議事堂にやつて来たことがあるわけでしよう。
西沢 ありました。二回ぐらいあります。
佐藤 何の事件のときですか。
西沢 それは例の芦田内閣から第二次吉田内閣に移りかわるときの例の・・・・・。
佐藤 山崎首班問題・・・・・。
西沢 あの問題とも関連したのですが、公務員法の改正問題とそして追加予算の問題解散の方法論がからんだのです。公務員法はぜひあげろというのであげまして、野党が多数のままで公務員法をあげさせておいて、それからすぐ引続いて通常国会があつたわけですが、そのときに追加予算をあげなければいけないというので、その追加予算をあげたときに、野党の社会党の側から不信任案を出すのだ、そしてそこで解散をせよ、こういうことになつて妥協ができ上つたのが第三回国会の終りのときです。そのときに、第三国会で、こういう条件だからひとつ公務員法の改正をあげろ、それから追加予算の方の見通しもつけて、そのかわり社会党は不信任案を出せ--不信案を出さないでいじめるつもりでいたのですから、それで不信任案を可決して解散になつているわけです。それから、予算を今日中に送れということを言つて来まして、今日中に衆議院であげろというのです。夜十時過ぎになつて・・・・・。もちろん時間がない。時間がなければ午前零時から開けというので、深夜議会が始まつたわけです。翌朝四時か五時ころまでやつて、そして参議院がその日から審査に着手し得るようにしてやれ、こういう話です。
林 そういう直接的な干渉というのではなくて、国会法をこういうふうに規定することによつて占領統治がアメリカ側にとつて楽に行われる、そういうふうな含みでこういう規定を置け、あるいはこの規定をこうしろというふうな指示があつたのだと想像されるようなことはございませんか。
西沢 それは私、なかつたように思います。こういうと、何んですが、ウイリアムズはそういつた点よりも、国会の権威をいかにして高めるかという点に非常に心を注いでくれたことは、私としては今日でも感謝しております。それは、最初にこういうことを言つて参りました。その当時国会で今の議員会館などつくるのはぜいたくだという話が一般にあつたのです。ところがウイリアムズはあれなんか、どんどんつくれ、国の予算として困るじやないかと言つたら、国会が十ドル使うことによつてその他の行政的な経費を百ドル節約できたら、一体どちらが得なのだ、こう言つて来たのです。だから、国会で経費を使うということは、その他の行政費を節約するということになるものだから、国会ではどんどん仕事をやれ、こういうことを言つて、われわれの方を非常にバツクしてくれたのです。非常にありがたかつたのです。それが議員さんによつて十分了解されないで、むしろ今日のようなことになつちやつたのは遺憾なのですが・・・・・。それはほんとうに私なんかでもそう思いますね。議員さんが百円の金を使つて、そして千円の国費節約の道を考えてくれれば、これに越したことはないと思うのです。そうあるべきだと思うのです。
宮沢 あそこでけちけちしてやつてもしようがないな。
西沢 それは秘書一人つけてぜいたくだと言われるか知れませんけれども、あれによつてもし議員の能率が上るとすれば、安いものです。
(了)

資料

資料 一
新憲法ニ基キ国会法ニ規定スル事項
議院法規調査委員会
一、題名ハ国会法トスルコト
二、会期
1.常会ノ会期ハ五箇月ト法定スルコト(毎年一月召集スルコト)
2.常会ノ召集ハ集会期日ヲ定メテ少クトモ二十日前ニハ公示セラルルコト
3.臨時会及ヒ特別会ノ会期ハ両院合議ノ上之ヲ決定スルコト
4.会期ハ召集ノ日カラ之ヲ起算スルコト
5.会期ノ延長ハ両院合議ノ上之ヲ決定スルコト
三、開会式
1.開会式ハ国会ノ主催スル儀式トシ両議院成立ノ後合会シテ之ヲ行フコト(陛下ノ親臨ヲ仰クコト)
2.開会式ニ於テハ衆議院議長、議長ノ職務ヲ行フモノトスルコト
3.開会式ノ場所ハ衆議院ニ於テ行フコトトスルコト(予定)
四、第五十三条ノ臨時会要求ノ手続
臨時会召集ノ要求ハ議員連名ヲ以テ議長ヲ経由シテ之ヲ為スコトトスルコト
五、休会
国会ノ休会ハ両院合議シテ院議ヲ以テ両院同時ニ休会ヲ為ス場合ヲ指スコト
六、歳費ニ関スル規定
1.歳費、調査費、旅費、手当等ニ付テハ単行法ニテ規定スルコト
2.歳費ノ額ハ国務大臣以外ノ官吏ヨリ高級ナルコト
七、各議院ノ予算ハ之ヲ独立セシムルコト
八、第五十条ノ開会中ノ議員不可侵権ニ対スル例外
両院議員ヲ会期中逮捕シ得ル場合ハ
イ、現行犯罪
ロ、内乱外患ニ関スル罪
ハ、其ノ院ノ許諾アル場合ニ限リ
又会期前ニ逮捕セラレタル議員ハ右ノ(イ)(ロ)ノ場合ヲ除キ其ノ院ノ要求アルトキハ会期中之ヲ釈放スヘキモノトスルコト
九、参議院ノ緊急集会ニ関スル手続
緊急集会ハ内閣ヨリ参議院議長ニ対シテ集会ヲ請求シ議長ヨリ参議院ノ各議員ニ対シテ右ノ請求アリシ旨ヲ通知シテ集会セシムルコト(集会中ノ参議院議員ノ身分保障ハ国会開会中ニ準スル旨法定スルコト)
十、秘密会ニ付キ(第五十七条)
1.秘密会ヲ開ク場合
イ 議員十名以上又ハ議長ノ発議ニ依リ院議之ヲ決定シタルトキ
ロ 政府ノ請求ニ基キ院議之ヲ決定シタルトキ
2.会議録中公表セサル範囲ハ院議ヲ以テ決スルヲ原則トシ散会後特ニ秘密ヲ要スルト認メラルルモノアリタル場合ハ次ノ会議ニ於テ議院ノ承認ヲ得テ公表セサルコ卜卜為ス
3.第三項ノ表決議員ノ記載ハ記名投票ニ依ルコト
十一、役員ノ範囲及選任方法
1.議長 選挙
2.副議長 選挙 員数ハ一名トスルコト
3.仮議長 原則トシテ選挙トシ、選挙ヲ議長ニ委任シ得ル途ヲ開クコト
4.常任委員長及常置委員長 選挙
5.事務総長
イ 議員以外ノ者ヨリ選挙スルコトヲ規定スルコト
ロ 身分ハ公務員トシ任期ハ四年トシ再選ヲ妨ケサルモノトスルコト
ハ 事務局員ハ公務員トシ議長ニ於テ任命スルコトトスルコト、尚事務局員ニハ従来官吏トシテノ身分上ノ権利ハ之ヲ保有セシムル卜共ニ将来ニ於テモ之ヲ認ムルコト
ニ 議長、副議長倶ニ欠ケタル場合ハ事務総長、議長ノ職務ヲ行フコトトスルコト
ホ 議長、副議長任期満限ニ達シタルトキハ後任者ノ選挙セラルルマテハ事務総長、議長ノ職務ヲ行フコ卜卜スルコト
解散ノ場合モ亦同シ
(備考)全院委員会制度ハ之ヲ廃止スルコト
十二、第五十九条ニ依リ衆議院ニ於テ法律案ヲ再議スル場合
両院協議会ヲ設クルノ必要ナシ
十三、両院協議会規定
現行規定ニ準シテ之ヲ定メ意見一致シタル場合ノミ成案ヲ作成スヘキモノトスルコト
十四、第六十二条ノ調査及ヒ証人喚問等ニ関スル規定
証人ノ出頭ニ関シ旅費、日当等実費弁償ノ規定ヲ設クルコト
十五、資格ニ関スル争訟(第五十五条)
1.現行資格審査ノ規定ニ準シ之ヲ規定スルコト
2.被申立議員ハ弁護ノ為五人以内ノ弁護士ヲ附スルコトヲ得ルモノトスルコト
十六、常置委員ヲ設置スルコト
(備考)継続委員制度ハ之ヲ廃止スルコト
十七、総理大臣指名ノ規定ハ議院規則ニ之ヲ設クルコト
十八、弾劾裁判所(第六十四条)
1.裁判所ニ委任シテ独立ニ裁判セシムルコト
2.裁判所ノ構成及裁判手続等ヲ法定スルコト
3.罷免訴追ノ場合ヲ法定スルコト
4.罷免請願手続ヲ法定シ之カ処置方法ヲ規定スルコト
5.国民ヨリ裁判官ノ罷免ヲ請求シタル場合ハ弾劾裁判所トノ関係ヲ考究スルコト
十九、国会ニ両院共同ノ国会図書館ヲ附置シ国会議員(出来得レハ一般民衆ヲモ加ヘテ)ノ調査研究ニ資スルコトトスルコト

資料 二
議院法改正の項目
昭和二十一年八月十三日臨時法制調査会第二部会決定
(一)題名は国会法とし全文改正すること。
(二)会期。
(イ)通常会の会期は、四箇月とすること。
(ロ)臨時会及び特別会の会期は、召集の際内閣がこれを定めるものとすること(第四十九条後段の場合も亦同じ)
(ハ)会期延長は、(通常会、特別会、臨時会の各場合ともに)いづれかの一院が議決し他の一院がこれに同意するものとすること。政府は、両議院の同意を経て会期延長を定めることができるものとすること。
(ニ)通常会の召集は、集会の期日を定めて少くとも二十日前に公示せられること。
(ホ)会期は、国会召集の日からこれを起算すること。
(三)開会式。両議院成立の後にこれを行うものとし、国会の主催する儀式として、これに陛下の親臨を仰ぐものとすること。
(四)第四十九条後段の場合には、各議院の議員は連署の書面を以てその議院の議長を通じ、要求の趣旨及び会期予定日数を具して、臨時会の召集の決定を政府に要求すること。(この場合にも会期の決定権は内閣にあること。前述参照)
(五)第五十条の緊急集会に関しては、内閣から参議院議長に対し、集会を請求し、議長から参議院の各議員に対し、右の請求のあつた旨を通知すること。(なお、集会中の参議院議員の身分保障は国会開会中に準ずるものとすること。)
(六)第四十五条に関連しては、歳費の費額を国会法中に法定すること。費額は三万円と定め、議長及び副議長には、職務手当の如きものを別に支給するものと法定すること。旅費、無賃乗車等の規定は現行通りに存置すること。
(七)第四十六条に関連しては、両議院の議員が会期中逮捕されるのは、(イ)現行犯罪(ロ)内乱外患に関する罪(ハ)その院の許諾のあつた場合に限り、又会期前に逮捕された議員は右の(イ)(ロ)の場合を除いては、その院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならないものとすること。
(八)第五十三条第三項に規定する事項は、現在の記名投票の方法を利用するものとすること。
(九)第五十四条第一項に関しては、役員の範囲は議長、副議長、仮議長及び全院委員長とし、両議院において、おのおの、これを選挙するものとすること。
(備考)同項の役員の内には入らないが、両議院事務局の職員は官吏とせず、公務員たるものとし、事務総長は、議院において議員以外の者から選挙するものとし、その他は事務総長の任命するものとすること。
(十)両院協議会の規定を設けること。
(十一)休会は、両院の決議の一致した場合に限るものであることを法定し必要があれば手続を定めること。
(十二)第五十八条に関しては、所要の手続を法定し、旅費、実費弁償等の規定を整備すること。
(十三)第六十三条及び第六十四条に関して所要の規定を設けること。
(十四)継続委員会及び常置委員会に関する規定を設けること。
(十五)第五十一条に関しては、資格審査に関する手続を法定すること。
(十六)憲法に特別の規定ある場合(例へば第五十五条)を除き、両議院の一において否決した法律案は同会期中において再び提出することができない旨の規定を設けること。
(十七)政府委員に関する規定を設けること。
(十八)国会に両院共同の国会図書館を附置し、国会議員(できれば議員外一般民衆をも加へて)の調査研究に資することとすること。

資料三
1. Standing Committees
a. One for each major field of activity.
b. Each standing committee ( and budget sub-committee ) to be furnished office space, secretarial assistance, and expert assistants at State Expense.
c. Members of standing committees, once appointed, to remain on such committees from session to session, or as long as they desire.
d. Set of parliamentary rules to be drawn up for conducting committee hearings, and uniform system of recording and reporting such hearings to be devised.
e. Standing committees to hold public hearings on all bills of general interest and purport: all persons and organizations having real interest in the bills may attend the public hearings and present their observations and arguments.

2. Legislative Council
a. To be composed of members from both Houses.
b. Functions: to advise Cabinet and both Houses on legislative needs and problems: to study and propose constant revision of the Diet Law and Regulations of the Houses.

3. Diet Library and Diet Legislative Bureau and Reference Service

4. Plenary sessions and committee hearings
a. To be open to general public without discrimination, except for executive sessions.

5. Debate
a. Provision to be made for all members at least once every two weeks to take the floor and speak freely on national policy and important measures (possibly in the Committee of the Whole House).
b. If a time limit on speaking is fixed, speakers to be privileged to have their remarks extended in the official record.

6. Interpellations
a. To be subject to a definite time limit and thus permit more members to interpellate the Government.

7. Dignity of elected representatives
a. Practices, procedures, ceremonies, and rituals that tend to dignify Government officials at the expense of Diet members to be forbidden.

8. Contingent funds for the Diet
a. To be provided in the budget.
b. To be determined by each House and to be used as each House sees fit.

9. Franking privileges
a. Diet members to be privileged to send through the mails free of charge public documents printed by order of the Diet and all other mail matter of an official nature, under conditions to be prescribed by the Diet.

10. Office space and secretarial assistance
a. To be provided each member at State expense.

11. Salaries of Diet Members
a. To be not less than total pay and all allowances of highest career officials.

資料 四
新国会法に就いて (二一、一一、二一)
立案の趣旨
現行議院法は、すべて政府中心に規定ができており、議会は、国権の協賛機関となつてゐるため、その規定は、全般的にみて政府に極めて都合のよい手続や運用になつている。そこで、今度の国会法では、国会が、国権の最高機関となつた建前から上述のような規定は、これを削除し、又今後の国政運用の上から必要と思はれる新しい制度を設け、現行規定中今後も必要と思はれるものについても適当な改正を施し、もつて、新憲法の下に、国会として遺憾なき活動をしたいとの考へで立案した。
改正した主要な点は
一、召集
(1)常会の召集時期を法定した(毎年一月)
(2)臨時会の召集要求の手続、及び参議院の緊急集会手続を定めた。
二、開会式
国会の主催する儀式として、議場の設備の関係上、参議院にてこれを行ふこととし、衆議院議長が、司会者となることにした。
三、会期
(1)常会は、五ケ月、即ち、百五十日間と法定した。
(2)臨時会及び特別会の会期、並びに会期の延長は、国会が、これを自主的に決定することにした。
(3)(2)の場合両院の意見が一致しないときは、已むを得ず衆議院の議決によることとした。
(4)国会の休会
国会の休会は、両院一致の議決を必要となし、各院のみの休会は、その院の自由とした。
四、議員の歳費
最高機関の構成員としての権威と機能とを充分発揮させるため、議員は、一般官吏の最高のもの以上の金額を受くべきものとした。
五、委員会
(1)全院委員会は、数十年来の議会運営の実際に鑑み、これを廃止することにした。
(2)常任委員会は、従来の制度では将来に処して不十分であり、且つ、将来国会の審議の中心となるべきものたるに鑑み、一定の部門別に、これを設けることにした。
(3)予算の審査期間は、廃止することとした。
六、本会議
(1)法律案について、三読会の制度を廃止した。
新に国会法に規定した重要な点は、
一、公聴会的な制度の新設
一般的関心及び目的を有する重要法案については、委員会において、公聴会的な制度を採用することとした。
二、自由討議制度の新設
本会議において、成るべく全議員に発言の機会を与え、国政全般に関し、自由に質問討論の出来るよう、自由討議の会議を開くことにした。
三、発言に対する時間制限制度
本会議における発言に対し、時間制限をなし得るの権を議長に認めた。
四、両院法規委員会(仮称)の新設
常時、両議院及び内閣に対して法制的必要及び法制的問題につき勧告をなし、且つ、国会法及び両院規則の改正を絶えず研究提案するやうに、両院議員で、組織する両院法規委員会(仮称)を設くることとした。
五、弾劾裁判所
弾劾裁判所に関しては別に法律でこれを定むべきものであるが、必要と認められる若干の規定を挿入した。
六、国会図書館及び議員会館
国会図書館及び議員会館を設置することとし、その原則的規定を設けた。

昭和二十九年十一月十日

占領体制研究会出席者

東大法学部長室にて

東京大学教授 宮沢 俊義
成蹊大学教授 佐藤 功
東京大学助教授 林 茂
東京大学助教授 芦部 信喜
東京大学助教授 高柳 信一

(速記 石井 千穂子)

Copyright©2003-2004 National Diet Library All Rights Reserved.