新憲法草案修正ニ關スル會談ノ件(第二次第三次及第四次)

二一、四、一五
終戦連絡中央事務局政治部

新憲法草案修正ニ関スル会談ノ件 (第二次第三次及第四次)

本件ニ関シテハ曩ニ四月二日総司令部ニ於テ第一次会談ヲ行ヒタルガ其ノ後検討ノ結果尚修正ヲ要スル箇所ヲ生ジタルヲ以テ四月九日午後入江法制局長官、佐藤同次長及加藤連絡官総司令部政治部「ケーデイス」大佐及「ハツシイ」中佐ト別添第二及第三質問書ニ関シ第二次会談ヲ行ヒタル処其ノ要点左ノ通
一、同日午前本会談トハ別個ニ別添第一「対外関係ニ関聯スル憲法草案上ノ諸問題」ニ付白州中央連絡事務局次長及萩原条約局長ト総司令部政治部長「ウイトニイ」准将トノ間ニ会談行ハレタル処先ヅ右ニ付「ケ」ヨリ「ウイトニイ」准将ノ意見トシテ
(一)天皇ヲ条約ノ締約国トスルコトハ単ニ条約前文ニ於テノミ締約当事国元首ト並ベテ大日本国 天皇トシ条約本文ニ於テハ大日本国ト謳フ限リニ於テ単ニ形式的問題ナルヲ以テ一向差支ナシ新憲法ノ大権事項ヲ実質的ニ拡張スルコトナクシテ 天皇ノ尊厳ヲ高ムルガ如キコトナレバ何ナリトモ反対ノ理由ナク之ヲ要スルニ此ノ点ニ於テハ現在ノ習慣(Present practice)ヲ踏襲シテ差支へナシ
(二)批准書及全権委任状ノ署名ニ付テハ 天皇ガ之等ニ署名セラルベキコトヲ第七条ニ加フルモ差支ヘナシ
(三)条約締結ヲ秘密ニシ置ク要ニ関シテハ午前ノ会議ニ於テ御話アリタルモ寧ロ斯ルコトナカラシムルコトガ第六十九条ノ目的ナリ
ト述ブ
仍ツテ(二)ニ関シテハ協議ノ結果
第七条第五号ヨリ「大使」ヲ削リ「法律ノ定ムル所ニ依リ其ノ他ノ官吏ノ任免」ノ次ニ「及大使ノ全権委任状並ニ信任状」(-----other officials and of full powers and credentials of Ambassadors as provided for by law)ヲ加へ同条第七号栄典ノ授与ノ次ニ第八号トシテ批准書及法律ノ定ムル其ノ他ノ外交文書ノ認証(Attestation of instruments of ratification and other diplomatic documents as provided for by law)ト規定スルコトトセリ
(四)次ニ一切ノ「条約、国際約定及協定」ニ付議会ノ協賛ヲ必要トスル点(第六十九条)ニ関シテハ当方ヨリ日本ニ於テハ条約ト協定ノ間ニ米国ニ於ケルガ如キ明瞭ナル区別ヲ設ケ居ラス例ヘバ防共協定ノ如キ明ニ所謂行政取極ニ非ザルモノモ条約ト謂ハス協定ト呼バルルコトアリ何ヲ以テ行政取極(Executive agreement)何ヲ以テ然ラザル協定(agreement)トスルカハ判定ニ困難ナル点ヲ指摘セル処「ケ」ハ米国ニ於テハ議会ノ協讚ヲ必要トセザル協定ハ行政府限リニ於テ之ヲ締結シ居リ本憲法ノ下ニ於テ何故右ノ如キ協定迄議会ノ協讚ヲ必要トスルヤ了解ニ苦シムモ単ナル用語上ノ困難アレバ「協定」ナル語ヲ削ルモ差支ヘナカルベシト述ベタルヲ以テ右ノ如キ解釈ヲ下シ得ルナレバ別ニ其ノ必要ナシト答フ
尚「ケ」ハ第五十六条条約締結ニ対スル議会ノ承諾ノ手続ニ付何故法律案ノ議決ノ手続ヲ採ラズ予算協賛ノ手続ヲ採リタルヤ右ハ日本政府自身ノ案ニシテ自分等トシテモ之ニ異議ヲ唱フルモノニ非ザルモ次ノ議会ニ於テ右ガ問題トナリタル場合ニ備へ十分ノ理由ヲ用意シ置ク要アルベシト述ブ
二、次デ別添第二質問書ニ付逐条審議ニ入レル処其ノ結果左ノ通
(一)(第八条)解釈トシテ先方ハ
(イ)本条ハ皇室ニ対シテ国民ノ為ス贈与ヲモ含ム
(ロ)個人トシテノ 天皇ニ対スル贈与ハ考ヘラレズ若シ之ヲ認ムレバ三井財閥ガ全財産ヲ個人トシテノ 天皇ニ贈与シ得ルコトトナル惧アルヲ以テ凡ユル贈与ハ議会ニ依リ議決セラレザルベカラズ
(ハ)皇室トハ皇族ヲ含ム又本条ハ個人トシテノ皇族ニ対スル贈与モ含ム
(ニ)天皇ト皇族ノ間ノ一切ノ贈与ハ議会ノ議決ノ要ナシト述ブ尚本条中「---又皇室ハ如何ナル受領及支払ヲモ行フコトヲ得ズ」(---and no receipts and disbursements can be made thereby,)トアルヲ「又皇室ハ如何ナル下賜ヲモ行フコトヲ得ス」(---and no gifts can be made thereby)ト改ム
(二)(第二十三条)本条ヨリ「自由、正義並ニ民主主義」ヲ削ル
(三)(第二十八条)(新)「刑罰」ノ前ニ「其ノ他ノ」(any other criminal penalty)ヲ加フ
(四)(第三十五条)(新)其ノ儘トス
(五)(第四十三条)(新)本条但書「第一期ノ任期ヲ了セル議員半数ノ除キ」ヲ削リ補則ニ第九十九条トシテ「此ノ憲法ニ依ル第一期ノ参議院議員ノ中其ノ半数ノ者ノ任期ハ三年トシ其ノ議員ハ法律ノ定ムル所ニ依リ之ヲ定ム」ト規定ス
(註)当方提出ノ案ニハ「---法律ノ定ムル所ニ依リ抽籤ヲ以テ之ヲ定ム」トアリタルヲ「抽籤ヲ以テ」ヲ削ル
(六)(第四十八条)(新)「国会ハ少クトモ毎年一同之ヲ召集スルコト」トアルヲ「国会ノ常会ハ毎年一同之ヲ召集ス」ト改ム
(七)(第五十一条)(新)本条第二項ヲ第一項但書トス
(八)(第五十三条)(新)留保
(九)(第五十四条)(新)本条ヨリ"regulations"ナル語ヲ削リ「其ノ他ノ手続」ノ後ニ「及内部ノ規律」ヲ加フ
(十)(第五十八条)(新)留保
(十一)(第七十三条)留保
(十二)(第七十五条及第七十六条)両条中「裁判官ハ満七十歳ニ達シタル後ハ---」ヲ「---法律ノ定ムル年齢---」ト改メ第七十六条ニ於テハ之ヲ第二文ノ但書トシ第二文後段ヲ第二項トス
(十三)(第八十条)本条第二項ヲ削ル
(十四)(第八十四条)留保
(註)先方ハ本条ニ関シテハ経済科学部長「マクアート」少将及宮内省代表トノ間ニ世襲財産ノ限界ニ付交渉中ナルヲ以テ右決定セバ明瞭トナルベシト述ブ
(十五)(第九十四条)本条第一項ヲ第九十三条(新)トシ第九十三条(旧)ヲ第九十四条(新)トシ本条第二項ヲ独立ノ条文トシ第九十五条(新)トシ以下一条宛ヲ増ス
(註)先方ハ当方ノ提案通本条第二項ヲ独立ノ条文トセバ第一項ノ意義ナクナルベク而モ本項ハ本草案中ノ傑作トシテ米国ニ於テモ評判良ク之ヲ削ル訳ニ行カザルヲ以テ之ヲ第十章最高法規ノ冒頭ニ移スベキコトヲ提案シ右ノ如ク決定ス
(十六)(第九十六条)(新)留保
(十七)(第九十七、八、九条)(新)別添第二ノ通決定ス
(十八)(第百条)(新)留保
以上ニ於テ逐条審議ヲ終了セル処留保セラレタル諸点ニ関シテハ「ケ」ハ「ウィトニイ」准将ト協議ノ上明後日返答スベシト述ブ
三、次デ当方ヨリ別添第三質問書ヲ提示先ツ議会解散中ニ於ケル議会職能代行措置ノ必要ニ付第一次会談ノ際行ヒタル議論ヲ重ネ併セテ別添第一条約締結ニ際シテモ右措置ノ必要ナルコトヲ説明セル処先方ハ議会解散中内閣ニ非常権力ヲ与フト謂フハ勿論法律ニ依リ予メ之ヲ定ムルヲ要シ別ニ憲法ヲ超越スルガ如キ非常権ヲ謂フニ非ズ又第八十三条ノ予備金ハ必スシモ制限付トハ限ラズ議会ガ内閣ニ対シ其ノ解散中ノ不慮ノ災害ニ備へ予メ白紙小切手ヲ切ルモ本憲法違反トハナラズ更ニ予算成立セズシテ議会解散トナルガ如キコトハ考ヘラレス蓋シ予算ナクバ内閣ガ困惑スルノミナルヲ以テ内閣ハ之ガ成立スル迄解散ヲ見合スベシ之ヲ要スルニ本憲法ニ禁止シ居ラサル限リ議会ハ法律ヲ以テ何事ヲモ定メ得ベク右ノ如キ懸念ノ要ナカルベシト答フ
四、第八十七条第二項中県知事公選ヲ間接選挙トスベシトノ当方提案(能フレバ其ノ他ノ地方吏員公選ニ付テモ間接選挙トシ度シト述フ)ニ対シテハ「ケ」ハ実ハ地方自治ノ問題特ニ県制度ノ民主化問題ハ自分等トシテハ総司令官ヨリ最重要課題トセラレ居リ又極東委員会ニ於テモ聯合各国ハ均シク本問題ヲ日本民主化ノ重要課題ト看做シ居ル次第二シテ軽々ニ即答シ難シト前置キシ乍ラ先ツ第一ニ直接選挙トセバ費用ヲ要スト云フ点ニ関シテハ選挙運動費ヲ制限スルカ又ハ政府ガ其ノ費用ヲ支弁スル方法ヲ考へ得ベシ次ニ投票ガ分散スル可能性ニ付テハ必スシモ絶対多数トスル要ナカルベク又貴方ハ政党状態不安ヲ云々サレルモ日本ノ政党ガ永久ニ不安定状態ニ置カルル見透シニモアラザルベシト述ブ仍ツテ当方ハ右ハ理論的ニ斯ク云ヒ得ルト云フヨリ現在ノ地方ノ実情ニ照シ斯ル可能性アリト云フ訳ニシテ例ヘバ府県知事ガ次点ノ者ト僅カ二、三票ノ差ヲ以テ選出セラルルコトハ面白カラズ又実際府県知事立候補十数名ニ及ブ場合僅カ全投票ノ十分ノ一ヲ以テ当選スルコトモ有リ得ベシ、従ツテ先ツ候補者数名ヲ府県会議員又ハ之ニ市町村会議員ヲ加へ之等ヲシテ選出セシメ之等ヲ更ニ一般国民ヲシテ選挙セシメル方法ヲトルコトモ考慮中ナリト述ブ「ケ」ハ純然タル自治団体タル府県乃至市町村会議ガ間接選挙ノ仲介トナルナレバ話ハ全然別ナリト称シ急ニ乗気ヲ示シ併シ其ノ場合ニモ寧ロ一般市民ニ依ル投票ヲ先ニ行ヒ法定得票数ニ充タザル首位ヨリ第三、四位迄ノ者ノ中ヨリ府県会議員ヲシテ更ニ選挙セシムル方ガヨリ民主的ナリ斯ル例ハ旧米国憲法ノ下ニ於ケル大統領選挙ニ付認メラレタル所ナルモ(旧米憲法第二条第一項第二号参照)右ハ其ノ後改正セラレタリ(改正ノ理由ハ米大統領及副大統領ヲ同一政党ヨリ選出スル必要ヲ生シタルコトニアリ別ニ右方法ガ反民主的ナリトノ理由ニハ非ザリキ)自分トシテハ本憲法草案ノ下ニ於テモ右ノ如キ方法ヲ法律テ以テ定ムルコトハ違憲ニアラズト考フト述フ当方ヨリ然ラバ第八十七条ニ「選挙方法ハ別ニ法律ノ定ムル所ニ依ルベキコト」ヲ規定スル要ナキヤト質セルニ対シ「ケ」ハ別ニ其ノ要ナカルベシト答フ
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