帝国憲法ノ改正ニ関シ考査シテ得タル結果ノ要綱

帝国憲法ノ改正ニ関シ考査シテ得タル結果ノ要綱

昭和三十四年七月三十一日 (高橋)
この書類は、別添封筒に密封されたまま、総理官邸内の内閣参事官室の金庫に保管されていたものであるが、本日右金庫を整理した際に発見し、梅本首席内閣参事官が点検した結果、公文係倉庫に保存するよう指示されたものである。
昭和三十六年三月二十九日 (高橋)
昭和三十六年二月元法制局長官佐藤達夫氏が来庁の際同氏にこの書類を示し判断を求めたところ近衛文麿氏が天皇陛下に捧呈した憲法改正案の原本であると推定された。その後憲法調査会において当時の関係者について調査した結果、内閣参事官室金庫に収蔵されるに至つた経緯が次のとおりである旨本日同事務局大友参事官から報告があつた。
「この書類は、昭和二十年の末頃(日時不詳)宮中において天皇陛下から幣原総理大臣に対して下附されたものである。」
同大臣は帰邸後当時の次田内閣書記官長及び三好内閣副書記官長を呼び厳封の上金庫に保管方を命ぜられたので、三好副書記官長が封書に上書きして封印し、内閣書記官室(現在の内閣参事官室)の金庫に保管させたものである。」
なお、内閣保管の佐々木博士の「憲法改正の必要」は、天皇陛下から松本国務大臣に下附されたものである由を大友参事官から同時に報告があった。

帝国憲法ノ改正ニ関シ考査シテ得タル結果ノ要綱次ノ如シ

第一 帝国憲法改正ノ必要ノ有無

我国今回ノ敗戦ニ鑑ミ国家将来ノ建設ニ資スルガ為ニ帝国憲法改正ヲナスノ要アリ、単ニソノ解釈運用ノミニ頼ルベカラズ

第二 帝国憲法改正ノ要点

一、天皇統治権ヲ行フハ万民ノ翼賛ニ依ル旨ヲ特ニ明ニス
ニ、天皇ノ憲法上ノ大権ヲ制限スル主旨ノ下ニ
イ、帝国議会ヲシテ自ラ解散ヲ提議スルヲ得シムルコト、帝国議会ニ代ルベキ憲法事項審議会(両院議員ヲ以テ組織ス)ヲシテ直接天皇ニ召集ヲ奏請スルヲ得シムルコト、及濫リニ解散ヲ繰返スヲ得ザルコトトス
ロ、緊急命令ニ付テハ予メ憲法事項審議会ニ諮ルコトトシ、又所謂委任命令ノ規定事項ニハ一定ノ範囲ノ存スルコトヲ明ニス
ハ、宣戦講和及条約締結ニ付テハ帝国議会ノ協賛ヲ経ルコトトシ、開会ノ暇ナキ場合ハ憲法事項審議会ニ諮ルコトトス
二、他ノ憲法上ノ大権事項モ帝国議会ノ協賛ヲ経テ行ヒ得ルコトトス
三、軍ノ統帥及編成モ国務ナルコトヲ特ニ明ニス、第十一条及第十二条ハ之ヲ削除又ハ修正スルコトヲ考究スルノ要アリ
四、臣民ノ自由ヲ尊重スル主旨ノ下ニ
イ、現行帝国憲法ニ於ケル如ク臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テノミ行動上ノ自由ヲ有スル如キ印象ヲ払拭スルノ要アリ
ロ、外国人モ本則トシテ日本臣民ト同様ノ取扱ヲ受クルモノナルコトヲ特ニ明記ス
ハ、所謂非常大権ノ条項ヲ削除スルコトヲ考究スルノ要アリ
五、衆議院ハ一般国民ニ代テ活溌ニ国務ニ参加シ貴族院ハ平静ナル態度ヲ以テ国務ニ参加スル機関タラシムル主旨ノ下ニ
イ、貴族院ノ名ヲ改メ特議院(仮称)トシソノ議員ハ衆議院ト異リタル選挙其ノ他ノ方法ニヨリ選任ス
ロ、特議院ノ組織モ衆議院ト同ジク法律ニ依リ定メラルルコトトス
ハ、本来帝国議会ノ議決ヲ以テスルヲ妥当トスルモ議会ノ行動ヲ待ツヲ得ザル事項ヲ審議スル為両院議員ヲ以テ憲法事項審議会ヲ置ク
六、国務大臣ノ地位ヲ明確ナラシムル主旨ノ下ニ
イ、天皇ノ外帝国議会モ国務大臣ノ責任ヲ問フモノナルコトヲ明ニス
ロ、国務大臣ヲ以テ内閣ヲ組織シ内閣総理大臣ノ選任ニ関シ一定ノ手続ヲ定ムベキコトヲ特ニ明記ス
ハ、内閣総理大臣ハ内閣ノ統一ヲ保チ国務全般ニ付キ上奏シ之ヲ宣示スルコトヲ明ニス、ソノ結果内閣総理大臣ハ他ノ国務大臣ニ上奏ノ事項ニ付キ通告ヲ求ムルヲ得ルコトトス
七、枢密院ハ之ヲ廃止ス
八、帝国議会ノ予算審議権ヲ尊重スル主旨ノ下ニ
イ、皇室経費モ帝国議会之ガ変更ヲ議シ得ルモノトス
ロ、衆議院ノ予算先議権ノ主旨ヲ一層具体的ニ実現スル方法ヲ講ズルノ要アリ、其ノ例トシテ特議院ノ予算審議権ヲ制限スルコト必要ナルベシ
ハ、予算不成立ノ場合現行帝国憲法ノ下ニ於テハ帝国議会ノ監視ヲ不十分ナラシムル虞アリ、故ニ此ノ見地ヨリ之ヲ改正スルノ要アリ
九、帝国憲法改正発議ニ付キ帝国議会モ之ニ参与シ得ルコトトス、但改正ニ関スル手続ハ之ヲ慎重ナラシムルコト必要ナルベシ、之ニ関聯シ国民投票ニ依ル方法モ考究ノ要アルベシ

三、軍ノ統帥及編成モ国務ナルコトヲ特ニ明ニス、第十一条及第十二条ハ之ヲ削除又ハ修正スルコトヲ考究スルノ要アリ
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