憲法問題調査委員會議事録

第一囘總會
第一囘調査會
第二囘調査會
第三囘調査會
第二囘總會
第三囘總會
第四囘調査會
第五囘調査會
第四囘總會
第六囘調査會
第五囘總會
第七囘調査會
第六囘總會
第八囘調査會
第九囘調査會
第一〇囘調査會
第一一囘調査會
第一二囘調査會
第一三囘調査會
第一四囘調査會
第一五囘調査會



(極秘)
八部ノ内第四冊

憲法問題調査委員会第一囘総会

日時 昭和二十年十月二十七日(土)午後二時―同四時
場所 内閣総理大臣官舎会議室
出席者 松本委員長、清水、美濃部、野村各顧問、宮沢、石黒、楢橋、入江、佐藤各委員、刑部、佐藤補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
○松本委員長
本調査委員会ノ使命ハ、既ニ新聞ニ発表シタ様ニ、憲法改正案ヲ直チニ作成スルトイフコトデハ無ク、其ノ必要ガ起ツタ場合、直ニ之ニ応ジ得ル様ニ周到ナル調査研究ヲ行ヒ資料ヲ整備スルニ在ルノデアツテ顧問及委員ニハ憲法問題ニ関スル老大家及少壮大家ヲ願ツタノデアリ佐々木博士ニモ顧問ヲ御願スルツモリデアルガ、佐々木君ハ、内大臣府ノ本問題調査ノ関係デ目下箱根ニ在リ、随テ未ダ面談ノ機ヲ得ナイ。尚委員ハ各位ノ御意見ヲ承ツテ増員シテモ良イト考ヘテヰル。
○美濃部顧問
内大臣府デ憲法改正問題ヲ公式ニ研究スルトイフコトハ絶対ニ理由ノ成リ立タヌコトデアル。其ノ関係者デアル佐々木君ヲ政府ノ委員会ニ参加セシムルトイフコトハ、宛モ内大臣府ノ改正研究ヲ是認スルコトトナルカラ、佐々木君ヲ顧問ニスルコトハ考慮ヲ要スル。
○松本委員長
内大臣府ハ唯、私的研究(スタデイ)ヲシテヰルモノト了解シタイ。
○美濃部顧問
私的スタデイナラバ差支無イガ近衛公ノ云フコトハ必シモ然ウデハ無イ様デ内大臣府ガ本格的ニ本問題ヲ取上ゲテヰル様デアル。佐々木君ガ之ニ加ハツタトイフコトハ全ク了解出来ナイ。
○松本委員長
松本委員会ガ何ヲ調査スベキデアルヤニ付テ、私ノ考ヘテヰル処ヲ述ベヤウ。憲法改正ノ要否ニ付テ議論スルコトハ此ノ際必要デハ無イト思。随テ改正ノ必要ノ有無ヲ調査スルコトヲ止メ、政治状勢上其ノ必要ヲ生ジタ場合如何ナル点ガ改正ノ対象トナルベキカ、トイフ点ヲ主トシテ研究シソレニ付テ参考資料ヲ整ヘル要ガアルト思フ。仍テ日本ニ於ケル学説先例ヲ各条ニ付テ調査シ一ツノ資料ヲ作リ又世界各国ノ立法例学説ヲ調ベ他方、改正スベキ点ガ現行法ノ追加ニアリトセバソレモ作ル。又同時ニ改正論ノ生ジサウナ箇処ヲ詳細ニ調ベルトイフ風ニシテユキタイ、会ノ委員ノ中ニハ九州東北等遠方ノ方モ居ラレルカラ正式ノ会合ハ成ル可ク囘数ヲ少クシ主トシテ各自ノ書斉研究室デ研究ヲヤツテ頂キ、本日ノ様ナ会合ハ一ケ月一囘乃至二囘程度開クコトトシ之ヲ調査総会ト名付ケ、随時委員ガ二三人集ツテ研究スルノヲ調査会ト称シ之ヲ頻繁ニ開クコトト致シタイ。
○美濃部顧問
至極結構デアルガ、各国ノ議会ニ関スル資料ガ議会ノ事務局ニ在ルト思フ。之ヲ借覧シタリ又種々連絡シタリスル為ニ貴族院及衆議院ノ書記官長ヲ委員トセラレテハ如何カ。
(本件ハ至極結構トノコトニテ、夫々ノ書記官長ヲ委員トスルコトニ決定セリ)
○宮沢委員
委員長ノ云ハレタ資料ノ整備ハ各条ニ付テ全部ヤルノデアルカ。
何カ改正ヲ要スル様ナ条文ヲ特ニ深クヤルコトニシテハ如何。
○松本委員長
改正ヲ要シサウナモノニ付テハ特ニ深ク研究スルコトトシタイト思フ
○宮沢委員
改正ヲ要スルト仮定シテ見タ場合、ソレハポツダム宣言ノ履行トイフ観点ニノミ限定シテ考フベキデアルカ、従来学説上我国憲法ノ不備ト云ハレテヰタモノニモ及ブベキデアルカ。
○松本委員長
必シモポツダム宣言ノ履行トイフ観点ノミニ限定セズ従来疑義ノアルモノニモ及ブベキデアルト考ヘル。
○美濃部顧問
広ク各条ニ亙ツテ研究スル必要モアルト思フガ、私ハ問題ヲ分ツテ調査研究ヲ為スベキデアルト思フ。私ハ問題ヲ四ツニ分ケタイト思フ。即チ第一ハ憲法ト皇室典範トノ関係デアル。例ヘバ、皇位継承、践祚即位、摂政等当然憲法ニ規定セラルベキモノガ、皇室典範ノ中ニ入ツテ居ル。又例ヘバ元号ヲ建ツルコトナドモ当然国務ノ範囲ニ属スベキモノト考ヘル。
第二ハ 天皇大権ノ問題デアル。外交大権、官制任官ノ大権、独立命令、緊急勅令、非常大権等ノ問題ガアル。
第三ハ議会制度デアル。両院制ノ可否ノ問題、貴族院制度ノ問題、両院ノ関係及協賛ノ問題等多々アルト思フ。
第四ハ会計制度ノ問題デアル
斯ノ如ク四ツニ分類出来ルト思フ。其ノ他ニモ、憲法第一章ハ 天皇トイフ章ニ成ツテヰルガ、之ナドモ総則トスベキモノデアリ、国土及国民ニ関スル事項モ此ノ中ニ加ヘラルベキデアルト思フ。領土ノ得喪ニ関スル事ナド現行憲法ニハ何等規定ガナイガ之等モ加ヘラルベキデアラウ。又臣民ノ権利義務ナドハ「日本臣民ハ法律ニ依ルニアラザレバ其ノ権利ヲ侵害セラルルコトナク又義務ヲ負ハセラルルコトナシ」トイフ様ナ条文一条アレバ足ル。従来ノ様ニ兵役納税ノ義務ノミヲ掲ゲテハ、国民ノ義務ハコレノミデアルカノ如キ錯覚ニ導カレル恐ガアル。兎ニ角全部ニ亙ツテ改正ヲ要スルト思フ。
○松本委員長
手分シテ調査スルコトハ必要デアルト思フ。美濃部顧問ニハ全般的ナ理論ヲ書イテ頂キタイ。理想的ナ改正案ヲ考ヘテ頂キタイ。
○野村顧問
全般的ニ改正ヲスルトイフ趣旨ハ結構デアルガ、私ハ重点的ニ部分的ニヤツテユキタイ。問題ハ差当ツテノ問題ヲ極限セラルベキモノト思フ。
私ハ三ツノ点ニ在ルト考ヘル。
即チ第一ハ軍備ノ撤廃ニ伴ヒ如何ナル改正ガナサルベキカ、軍ノ統帥編成ノ大権ノ規定ノ如キハ不要デアルカドウカトイフ様ナ問題宣戦戒厳ニ関シテモ同様ノ問題ガアルト思フ。
第二ハポツダム宣言ニ於テ将来日本ニハ国民ノ自由意思ニ依ル政府ヲ作ルベキコトヲ述ベテヰルガ、斯ノ如キ自由主義的内閣ヲ組織スル為ニハ如何ナル規定ヲ設クベキカノ問題、例ヘバ「国務大臣ハ国会議員タルベシトイフ様ナ規定ヲ設クルコトノ可否等デアル。
第三ハ同ジクポツダム宣言ニ於テ民主主義的傾向ヲ助長シナケレバナラヌト云ツテヰルガ、デモクラシーヲ行フ為ニハ如何ニスベキデアルカトイフ問題。
以上三ツニ分ツテ考ヘルコトガ出来ルト思フガ孰レニセヨ全般的ニ改正ヲヤルナドトイフ考方ニハ反対デアル。
○楢橋委員
私ハ本日新聞記者ヲ招待シテヰルノデ、コレデ中座スルガ、憲法改正案ハ来議会トハ関係ガアルカドウカ承ツテ置キタイ。
○松本委員長
来議会トハ関係ガナイ。
○美濃部顧問
私ハ野村君ノ云ハレル様ナ意見ニハ反対デアル。日本ハ現在ハ軍備ヲ撤廃シタケレドモ永久ニ陸海軍ハ無クテ良イモノデアラウカ。憲法ハ永遠ナモノデアル。故ニ私ハ早急論ニハ反対デアル。
○野村顧問
私ハポツダム宣言ヲ度外視シテ、独善的改正案ヲ考ヘルコトハ出来ナイト思フ。御承知ノ様ニトルーマンヲ始メ蘇聯、支那等ハ日本ノ統治権ノ基礎ニ付テスラ種々論及シテヰルノデアツテ、斯ル情勢下デハ理想案ナド云々シテヰルコトハ出来ナイト思フ。随テ狭イ範囲デヤルコトニシタイ。
○松本委員長
野村君ノ御意見モ尤デアルガ、私ハ根本的ナコトヲ研究シナガラ同時ニ如何ナル政治的ノ必要ガ生ジテモ之ニ応ジ得ル様ニシテユキタイト思フ。随テ美濃部君ニハ理想案ヲ考ヘテ貰ヒタイノデアル。
○宮沢委員
改正ヲ行フカ否カ又行フトスレバ何時行フカトイフ様ナ問題ハ政府ガ決メルベキモノデアルカラ、此ノ委員会トシテハ何時デモ応ジ得ル様ニ順序ト方法ヲ定メレバ良イト思フ。
○松本委員長
美濃部君、野村君ノ御説ハ孰レモ極端論デアル此ノ際中間ヲ採ツテユキタイ。
○野村顧問
憲法改正ハ第一条第四条ニモ触レルノデアルガ、アメリカノ要求スル所ニ忠実ニ従ヘバソコ迄行カネバナラヌヤウニ思フガ
○松本委員長
ポツダム宣言ニ於テ、アメリカハ此ノ問題ハ日本人ノ自由意思ニ基ク総意ニ依ツテ決定セラルベキモノデアルトシテヰルノデアツテ、アメリカト雖モ之ヲ我々ニ命令シ強制スルコトハ出来ナイノデアル。私ハ日本人ノ総意ハ絶対ニ 天皇制ヲ支持スルコトヲ確信スル。元ヨリ共産主義者ノ如キ例外ハアルケレドモ、日本人ノ総意ハ山ノ如ク動カヌノデアル。随ツテ一条四条ニハ触レ無クトモ良イノデアル。一体一条四条ニ触レナケレバデモクラチツクニナラヌナドトイフ馬鹿ナコトガアル筈ガナイ。改正スベキ点ハ幾多アツテモ此ノ問題ハ不変デアル。
○美濃部顧問
全然同感デアル。尚憲法改正ノ方向ハ現在ノ様ナ制限的主権状態ヲ前提トシテ定メラルベキモノデアルノカ、永久ニ陸海軍ヲ無クシテ良イノデアルカ。
○松本委員長
此ノ問題ハ良ク研究シナケレバナラヌト思フ。尚憲法第七十三条ハ先ツ研究ノ対象トシナケレバナラヌト思フ。
○宮沢委員
立法例及学説ノ調査ハ研究室デ十分デアルガ、各条項ニ亙ツテノ改正ノ要否ニ付テハ合議デユカネバナラヌ
○松本委員長
参考資料ヲ集メル内ニ色々意見ガ出ルト思フ。定日ヲ決メズニ頻繁ニ会合シテ行キタイ。唯都合ノ悪イ曜日ガアツタラ予メ承知シテ置キタイ。(野村顧問ハ金曜日、宮沢委員ハ火、木ガ困ル)土曜日ハ孰レモ御差支ナイ様ダカラ次囘ノ総会ハ十一月十日(土曜日)正午ヨリ首相官邸デ総理大臣ト食事ヲ共ニシタル後引続キ行フコトトシ、今後ノ具体的細目打合ノ為委員ノミノ会議ハ来週火曜日午后一時半ヨリ開クコトトシタイ。
尚会ノ成果ニ付テノ其ノ都度ノ発表ハ法制局長官ガ行フカラ顧問及委員各位ハ会議ノ内容ニ付テ絶対秘密トイフコトニ申合セタイ。本日ハ之ヲ以テ終ルコトトスル。
(以上)

(極秘)
八部ノ内第四冊

憲法問題調査委員会第一囘調査会議事録

日時 昭和二十年十月三十日(火)午後一時三十分―四時三十分
場所 内閣総理大臣官舎会議室
出席者 松本委員長、宮沢、河村、清宮、石黒、小林、大池、楢橋、入江、佐藤各委員、刑部、佐藤各補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
本日ノ会議ニ於テ、本調査会ニ於ケル発言内容ガ発言者ノ氏名ト共ニ外部ニ洩ルルトキ種々不都合ヲ生ズル虞アルヲ以テ、発言者ノ氏名ヲ書類ニ残スコトヲ避ケ度キ旨述ベラレタルニ依リ速記録的形式ヲ避ケ、唯議事要領ノミヲ記録スルコトトセリ
(一)前囘ノ第一囘総会ニ於テ、本調査委員会ノ使命ハ、憲法改正ノ草案ヲ直ニ作成スルコトデハ無ク、改正ノ必要ガ生ジタ場合之ニ応ジ得ル為ノ準備ヲ整ヘルニ在ル旨委員長ヨリ発言ガアツタ。今日ノ委員会ハ右ノ委員長ノ趣旨ニ基キ、ソノ方向ニ向ツテ、具体的ニ一体如何ニシテ進メテユクカトイフコトニ付テ、受持区分等ヲ定メル目的デ開カレタノデアル。
憲法改正ノ時期ニ付テハ、世上謂ハレテヰル様ニ来議会ヲ目途トスルトイフ様ニハ考ヘズ、決シテ軽率ニ取扱ツテハナラヌトイフニ在ル様デアル。即チ、仮ニ来ルベキ特別議会ニ付議セラルルコトヲ予想スルナラバ、其ノ特別議会ハ衆議院コソ新議員ヲ以テ構成セラレル、貴族院ハ恐ラクソレ迄ニ改革ハ行ハレヌデアラウカラ、此ノ議会ニ付議スルトイフ事ハ当ヲ得タ措置デハ無ササウデアル。斯クテ穏当ナ見方トシテハ、早クテモ来年ノ通常議会トイフコトニナリサウデアルガ、然シ政治情勢如何ニ依ツテハ或ハ来年早々ノ議会ニ付議セラレネバナラヌ様ナコトガ起ラヌトモ限ラナイ。
此ノ委員会トシテハ、来年ノ本会議迄ニハ相当深イ研究ガ出来ルト思ハレルケレドモ、一面本年中ニモ、仮令浅クトモ全般ニ亙ツテ或ル程度ノ成果ヲ得テ置カネバナラヌワケデアル。仍テ、憲法改正ノ可能性ヲ前提トシ、之ニ付テ考究スルノデアルガ、其ノ方法論トシテハ憲法各条ニ付テ其ノ立法例、学説ヲ調ベ且ツ各条ニ付改正ノ可能性ノ有無ヲ斯ル会合デ討議シテ行クコトトナツタ。而シテ改正ノ可能性ノ探究ニ当ツテハ、勿論ポツダム宣言ノ履行トイフ観点カラモ見テユカナケレバナラヌガ、他面従来ヨリ疑義ノアツタ条文ニ付テモ此ノ際考慮ヲ払ツテ行カネバナラヌ。尚、憲法ノ見方、考方ニ付テハ学者ノソレト、世間ノソレトハ相当異ツテヰル様デアルカラ成可ク広ク見テユクトイフ態度ヲ以テ之ニ臨ムコトニナッタ。
(二)本日ハ一応憲法ノ条文全部ニ付テ問題ノ所在ヲ発見スル意味デ全委員ニ依ツテ研討サレ種々ノ発言ガアツタ。発言者ノ氏名ヲ現ハサズ各条ニ付テ問題トナツタ点ヲ左ニ記述スル。
第一章
第一条 問題ナシ
第二条 皇室典範ノ或ル条文ハ之ヲ憲法ニ入レヨトノ学説ガアルガ差当ツテハ問題ガ無イ。
第三条 問題ガナイ。但シ先日ノ新聞ニ外国新聞記者ガ美濃部博士ニ質問シタ記事ガアツタ。法源的研究ハ必要デアル。
此ノ条文ハバイエルン憲法ノ直訳ラシイ。
第四条 触レル必要ナシ。
第五条 改正論ノ対象トハナラヌデアラウ。但シ調査ノ要ハアル。
第六条 両院ノ協賛ヲ経タ法律ヲ更ニ裁可スル点ニ付テ議論ガ生ズルカモ知レヌ。裁可権ノ制限ニハ反対デアルガ、或ハ二度以上両院ヲ通過シタル場合不裁可スルコトガ出来ヌトイフ様ナ説ガアリ得ルコトヲ予想シツツ調ベル要ガアル。
第七条 相当研究ヲシナケレバナラヌ。
英国ニモ会期不継続ノ原則ガアルカラ会期ハアル。大陸デハ立法期ハアルガ、会期ハ一選挙カラ次選挙迄ノ筈デアル。
召集ガ 天皇ノ大権ニ専属スルコトニ対シ、議会側ニモ召集ニ対スル或ル種ノ権限ヲ与ヘルコト、或ハ毎年一定ノ時期ニ当然召集サレルトイフ風ナ規定ヲ設クベシトイフ議論ガアリ得ル。
解散ニ付テモ衆議院ノ解散ニ対スル貴族院ノ解散トイツタコトモ議論セラレ得ル。
第八条 十分研究ヲ要スル
アメリカ側モ問題ニシテヰル条文デアル。
従来ノ解釈ガ区々デアリ、学説ガ分レテヰル学説ヲ統一スル上ニモ研究ヲ要スル。
第九条 学説立法例ニ付研究ヲ要スル。此ノ条文存置論ト之ニ反対スル学説トガアル。
第十条 文武官ノ武トイフ字ガ議論ノ的トナル。官吏トデモ表現スルノガ良イカモ知レヌ。
主要ナル官制ハ法律ヲ以テ定ムベシトイフ議論モ成リ立ツ。
現在ノ但書ヲ逆ニスルノデアル。
第十一条 第十二条 全部削除スルカ、或ハ此ノ儘ニシテ置クカ大問題デアル。存置スルトシテモ此ノ儘デ良イカドウカ。従来ハ解釈ガ悪カツタ為軍令ガ跋扈シタノデアル。削除スルニシテモ、其ノ形式ハ第十一条第十二条削除トイフ風ニスルカ、或ハ第十三条ヲ繰上ゲルベキカ、少ナイ問題ノ様デハアルガ、法制局枢密院側ノ委員デ十分研究シナケレバナラヌ問題デアル。
国際政治的ニハ存置スルコトハ不都合デアル。実害ノ無イモノハ削除シテ何等差支ガナイ。
斯ル規定ガ無クトモ統帥編成ハ統治権総攬ノ中ニ当然入ルカラ差支ナイ。
必要ナトキ官制ヲ制定スレバ足ル。
第十三条 軍備ハ無クトモ宣戦ハアリ得ルカラ存置論モ成立ツ。
然シ議会ノ協賛ヲ要スルコトニシナケレバナラヌトイフ説モアル。
宣戦講和ノ条文モ不要デアルトノ説モ成立ツ。
協賛ヲドノ程度ノ必要トスルカ外国ノ例ヲ良ク調ベナケレバナラヌ。
第十四条 戒厳宣告ハ存置シテオイテモ良イト思フ。
軍隊ガ無ケレバ不要デハナイカ従来ノ戒厳ハ軍隊ヲ前提トスル軍隊ノ無イ国ガ外国ニ在ルカ。
永世中立国モ軍隊ヲ有シテヰル。
モナコ公国ノ軍隊ナドハ禁衛府的ナモノデアル
露骨ニ表現スルワケニハ行カヌト思フ。
第十五条 実際ノ取扱ハ不可解デアル。爵位ハ宮内省ガ所管シテヰルガ位階令ハ勅令デアル。国務トシテ統一スル必要ガアルト思フガ、誰モ気ガ付カネバ其ノ儘ニシテ置クノモ一案ダ
其ノ儘ニシテ置クト気ガ付クモノダ
爵位ハ華族ヲ廃スレバ無クナルガ、貴族院ノ構成等ト関連シテ研究ノ要ガアル。
第十六条 此ノ条文ハ問題ガ無イ。
第十七条 反対論ガ多イ。皇室典範ハ議会ト全然関係ノナイモノデアルカラ国務ニ関スルモノヲ之ニ譲ツテヰルノハオカシイ。
第二章 学者ニ依ツテハ第二章ノ全般論トシテ独立命令ハ止メテ一条文デ足リルトイフ説ヲ為ス人モアルガ、ソレハ余リドラスチツクデアツテ、矢張リ仏蘭西憲法ノ沿革デ、ムシロ之ハ条章ヲ拡張シ、営業ノ自由等ニ及ビタル規定ヲ設クベキデアル。従来営業ノ自由ナドハ独立命令デ制限シテヰル。
第十八条 之ハ良ク立法例ヲ調ベルコト
第十九条 之モ文武官ノ武ノ字ガ出テ来ル。
平等権ノアラハレデアツテ、沿革的ニハ重大ナル条文デアル。
第二十条 第十一条及第十二条トノ関聯ニ於テ研究スルコト
第二十一条 沿革上ノモノデ議論ハナイ。
第二十二条 「法律ノ範囲内ニ於テ」トイフ制限ガツイテヰル。
第二十八条ノ様ニ「法律」スラ及バヌ様ナ規定ノ立方モ考ヘラレルケレド、之ハデモクラチツクデハ無イ。
憲法デ法律自体ヲ制限スル考方ハリベラルナ考方トシテアリ得ルノデアルガ、信教ノ自由ノ様ニ法律ニ依ツテモ制限セラレヌトイフト強サウダガ、実ハ逆ニ命令デモ縛ラレルノデアル。
第二十三条 同様デアル。命令ト関連シ問題ガアル。
第二十四条 良ク調ベルコトトスル。
第二十五条
第二十六条
第二十七条 所有権トイフノハプロプリエテノ翻訳デアラウ。然シ之ガ所有権トナツテヰルノハ可笑シイ。所有権ナラバ債権ヤ地上権ハ含マレヌノカトイフコトニナリヤウデアル。然シ財産権ト修正シテモ、ソレデハ親族法的権利ハドウカトイフコトニナル。マア私権トデモ云フ所カ。
右ニ関連シ営業ノ自由ヲ良ク調ベルコト
第二十八条 リベラルニ見エルガ実際ハ然ラザル運用ヲサレテヰタモノデアル。
第二十九条 言論ノ自由トイフ意味カラ「法律ノ範囲」ヲモハツセトイフ議論モ成リ立ツ。
第三十三条 問題ハナイ
第三十一条 此ノ条文ハ何ノコトカワカラヌ条文デアル。学士院デ調ベタコトモアルガ、解ラナイ条文ダ。
右翼共ニ一番利用サレタ条文デアル。
単ナル力ヲ意味スルモノナラ別ニ規定スル必要モナササウデアル
第三十二条 軍トノ関係ニ於テ研究スルコト
原則ト例外ガ逆立シテヰル
軍ノ方ノ規律モ法律デ規定スベキデアル。
第三章
第三十三条 一応材料ヲ取揃ヘタイ。
第三十四条 問題ガ多イ。貴族院トイフ名称ノ問題、華族ノ問題、貴族院令等モ問題ニナリ得ル。貴族院法ニセヨトイフコトニナルデアラウ。相当良ク研究スルヲ要スル。
第三十五条 議長ハ公選セラレナクテモ、当然公選セラレタモノト看做スベキデアルトイフ考方ガアル
第三十六条 問題ナシ
第三十七条 第五条トノ関係ニ於テ美濃部博士ノ得意ノ論題デアル。
第三十八条 問題ナシ
第三十九条 会期トイフコトニ付テハ後デ触レル
第四十条 之ハ建議ダケデアル
上奏ハ第四十九条デアル
決議ハ議院法ニモ無イ
質問ハ議員法ニ規定シテアル。
第四十一条 研究ヲ要スル
第四十二条 会期ハ議院法ニ譲ルベキモノト考ヘラレル。
会期ヲ議院法ニ譲ツタ場合会期ノミニマムノ保障ガ無クナル。
之ハデモクラチツクナ規定デアル。
A 「召集ス」トハ召集詔書ヲ公布スルトイフコトノミデハナイ
B 召集シテモ事実上開キ得ナケレバ仕方ガナイ
A 同一内閣ガ斯ル輔弼ヲスルノハ可笑シイ
B 臨時議会ヲ開ク場合、ソノ解散ヲ予想シテ通常議会ヲ召集スルノハ可笑シイガ、臨時議会ヲ召集スルノハ事ノ性質上緊急ヲ要シ通常議会ヲ待ツテイルコトガ出来ヌカラデアル。
A 其ノ緊急性ハ果シテ通常議会迄十日乃至二十日ノ短期間ヲ待テヌ性質ノモノカ。
B ソノ点ハ正ニ正論デアル
C 今囘ノ選挙法ニ関スル臨時議会論ハ東久邇宮内閣ノ解散論カラ出発シテイル。若シ通常議会デ選挙法ヲヤレバ改選ハ来年五、六月頃ニ延ビルカラ、早ク選挙ヲスル為ニ臨時議会ヲ開カウトイフノデアル。
A 其ノ議論ハ東久遷宮内閣ニ於テハ差支ナイガ今トナツテハ時期ガ遅ク、悪クスルト臨時議会ガ通常議会ノ会期ニオーヴアーラツプスル危険性ガアル。
B 其ノ点ハ若シ臨時議会デ通過シナケレバ通常議会ニ更ニ出シ直ストイフ風ニ説明スルヨリ外ニナイ
第四十三条 問題ナシ
第四十四条 貴族院ノ解散論アリ得ベシ。
第四十五条 五ケ月ハ長過ギルトイフ説ガアリ得ル
実際ハ短ク運用シテイルカラ、短縮シテモ良イト思フ
三ケ月位デ良イ
第四十六条 問題ナシ
第四十七条 議長ハ投票権ノ外ニ裁決権ヲ有スルノカ
衆議院ノ先例ハ次ノ様ニナツテイル
本会議ニ於テハ議長ガ投票権ヲ有スルヤ否ヤニ付テハ明確ニ決メタモノハナイガ、事実上ハ裁決権ノミヲ行使シ投票ハシナイ
委員会ニ於ケル先例ハ「未ダ嘗テ投票ニ加ハリタルコトナシ」トセラレテイルガ、事実ハ「正半数デアリマス。私ガ入ルカラ多数ト云ツタ例ガアル。此ノ場合ハ裁決権ヨリモ投票権ヲ行使シテイル様デアル。
貴族院トシテハ投票権ヲ行使セズ、裁決権ノミヲ行使ス之ハ本会議委員会何レモ同様デアル
第四十八条 此ノ儘デモ良イ。但シ現在ハ政府ガ秘密会ヲ要求スレバ之ニ応ジナケレバナラナクナツテイルガ、此ノ点改正論ハアリ得ル
第四十九条 外国ノ例ヲ調ベルコト
第五十条
第五十一条 「定ムルコトヲ得」トイフノハ同時ニ他ノ権力ニ依ル同種ノ規則ヲ排斥スル意味デアル
第五十二条 之デ良イ。然シ調ベルコト
第五十三条 良ク調ベルコト
第五十四条 国務大臣ハ兎モ角、政府委員ノ発言ニ付テ議長ノ許可ヲ要ストイフ風ニ改正スベシト為ス論ガアル
第三章関係ハ貴衆両院書記官長ガ主トシテ研究ヲ担当スルコト。本章ノ中ヘ例ヘバ選挙法ノ骨子トナル事項ヲ加フベシトイフ様ナ議論ガアリ得ル
第四章
第五十五条 国務各大臣ノ「各」トハ何カ。「責ニ任ス」トアルモ誰ニ対シ責ニ任スルヤノ問題アリ
第五十六条 枢密顧問廃止論ト関聯シ調ベルコト
貴族院ノリベラル化ニ伴ヒ枢密顧問的制度存廃ノ岐路ガ成立ツ
第五章
第五十七条 問題ナシ
第五十八条
第五十九条
第六十条 特別裁判所ノ存置ノ要否及特別裁判所ノ裁判官ノ資格法定ノ要否ノ問題ガアリ得ル
第六十一条 行政裁判所ヲ廃止シ司法裁判所ノミトスルトイフ議論ガアリ得ル
第六十二条 問題ナシ
第六十三条
第六十四条 第二項ニ付テ十分研究スルコト
第六十五条 予算ノ衆議院先議権ニ付テ、嘗テ勅裁ヲ経テ決メラレタル先例アルモ、貴族院ハ衆議院ノ議決ノ範囲外ニ出ルコトニナツテイルガ、コレハ先議権ノ実質ヲ害スル
第六十六条 皇室費ニ関聯シテ調ベルコト
第六十七条 問題ニナルカラ良ク調ベルコト
第六十八条 問題ナシ
第六十九条 予備費ハ必要デアルガ、其ノ限度ガ問題トナル
第七十条 第八条ト共ニ良ク調ベルコト
第八条ヨリモ規定ノ立方ガ良イ
第七十一条 相当良ク調ベルコト
第七十二条 決算ノ性質如何ノ問題アリ。現在ノ取扱ハ政府ヨリ貴族院衆議院ニ各別ニ提出シテイルカラ一院ノ判決ト他院ノソレトガ異ル場合ガアル。決算ハ議案デアルノカ、報告書デアルノカ其ノ解釈ヲハツキリスル様ニスル要ガアル。

第七章
第七十三条 此ノ解釈論、立法論ハ十分ニ研究ヲ要スル。議会ニ付議サレタル場合、議会ノ修正権ニ付テモ左ノ五通ノ説ガアリ得ル。
1、修正ヲ許サズ可否ノミヲ決スベキモノトスルモノ
2、修正追加可能ナリトスルモノ
3、改正セントスル実質上ノ事項ニ付テ其ノ目的ノ範囲内ニ於テ修正可能ナリトスルモノ
4、其ノ条文ノ範囲内ニ於テ修正可能ナリトスルモノ
5、改正セントスル実質ト形式的条項トノ両者ノ範囲内デ修正可能ナリトスルモノ
第七十四条 問題ニナリ得ルガ成ル可ク触レヌヲ可トスル
第七十五条 問題ニナリ得ル
憲法改正発案権ガ天皇ニ専属スルコトト関聯シ問題トナル
第七十六条 問題ナシ
(三)結論
先ツ問題ノ所在ヲ明ラカニシ、立法例、学説ノ研究調査ヲ為スノ要アルヲ以テ、本日問題トナツタ点ヲ纏メ上ゲ之ヲ議題ニ更ニ本日ノ如キ調査会ヲ催シ、其ノ議論ノ結果ヲ来月十日ノ総会ニ報告スルコト
次囘ノ調査会ハ来月二日(金)午後一時半ヨリ開クコト

(極秘)
八部ノ内第四冊

憲法問題調査委員会第二囘調査会議事録

日時 昭和二十年十一月二日(金)午後一時半―四時半
場所 内閣総理大臣官舎会議室
参集者 松本委員長、宮沢、清宮、石黒、小林、大池、楢橋、入江、佐藤各委員(河村委員欠席)刑部、佐藤補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
一、会議ニ入ルニ先チ、委員長ヨリ、司法及会計ノ章ハ司法省及大蔵省ヨリ適当ナル勅任官ヲ委員トシテ研究シテ貰フコトトシタキ旨提案サレ、近日中ニ夫々大臣ニ依頼セラルルコトトナレリ。
本日ハ前囘ノ第一回調査会ニ於テ問題トセラレタル所ヲ取纒メ議案トシテ配布シ、其ノ中ヨリ特ニ深ク検討スルヲ要スルモノヲ抽出スル目的ヲ以テ此ノ議案ヲ概観(ユーバーゼエーエン)スルコトトナリタリ。
二、第一章関係ヨリ各問題毎ニ研究ヲ行ヒタリ。其ノ要領左ノ如シ。
第一章関係(一、二、ノ番号ハ問題ノ番号ヲ示ス)
一、 憲法ト典範トノ関係ニ付テハ、先日依頼シタ美濃部顧問ノ論文ガ来ル六日ニ出来上ル筈デアルカラ、其ノ論文ヲ見タ上デノコトトスル。
二、
三、法律ノ裁可権ノ問題デアルガ、事実上従来不裁可トナツタコトガ無イカラ、世間モ問題ニハセズ、現実的ニハ問題ノナイコトデアルカラ、此ノ研究ハ差当ツテハ必要ガ無ク、後廻シニシテモ良イノデアルガ、米国憲法ハ大統領ノ拒否権ニ付テ、一囘シカ行使出来ヌトカ、一度拒否シタモノデモ、更ニ三分ノ二以上ノ多数デ議決サレタ場合之ヲ再拒否スルコトハ出来ナイトイフ条項ガアルカラ、米国憲法ニ付テ調査ノ要ガアル。
尚、第五条ノ「立法権」ノ意味ヲ明確ナラシムル要ガアルカラ、学者ノ委員ニ於テ研究スルコト、之ヲ問題トシテ「二ノ二」トシテ加ヘルコト。
四、英国ハ日本ト同様デアルガ、別ニ弊害ハナイ。議会側ニ召集ニ対スル権限ヲ有タシメヨトイフ議論ノ根拠トシテハ、臨時議会ハ政府ガ緊急ト認メタ場合ニ召集サレ、議院側ガ如何ニ緊急ナリト認メテモ召集スルコトガ出来ヌ点ニ在ル。
此ノ問題ハ会期ノ問題ト関聯シ調査スルコト
解散権ニ或ル制限ヲ加フベシトイフ説ガアリ得ル。他方今後議会ノ力ガ強クナレバ、之ニ対応シテ政府ノ解散権ヲ強カラシメネバナラヌトイフ議論モアリ得ル。
五、衆議院ニハ解散ヲ以テ臨ミ得ルガ、貴族院ニ対シテハ現在ハ停会シカ出来ナイ。嘗テ衆議院ノ可決シタモノヲ貴族院ガ之ヲ握ツテ可決シサウモ無カツタトキ、衆議院ヲ解散シタ例ガアル。解散ハ懲罰デハ無イカラ、理論上ハ何等差支無イガ、貴族院ニ対シテモ何等カノ措置ヲ要スルトイフ議論ハアリ得ル。現在ノ貴族院ノ組織デハ解散ハ考ヘラレナイガ、英国流ニ之ヲ弱クスルコトモ考ヘラレル。
六、緊急勅令制度ヲ廃止シタ場合、両院別々ニ構成サレタ委員会ニ付議シテ、之ノ可決ガ無ケレバナラヌ様ニスルコトモ一案デアル。然シ、議員ガ居ナイトキ例ヘバ交通杜絶、衆議院ノ解散中ナドニハ困ル。
米英ニ於テハ免責処分ニヨツテヰルノミナノカ、立法例ヲ調ベネバナラヌ。
第七十条ハ処分デアルノニ「勅令」トイツテヰルノハ可笑シイ。
既ニ必要ノ無クナツタ緊急勅令モ亦議会ノ承諾ヲ求ムル要ガアルカ緊急勅令ノ廃止ハ普通ノ勅令デ出来ルカ。
議会デ否決サレタ場合デモ、失効ヲ公布シナケレバ依然有効デアルノカ等従来学説ノ区々ニナツテヰル点モ研究ノ要ガアル。
七、従来此ノ条項ヲ根拠トシテ府県令等デ相当行過ギヲヤツテヰル。
稲ノ正条植、苗代田ノ耕作等ヲ府県令デ出シテ之ニ罰則ヲ附シテヰル。
全部法律デヤルト又煩瑣ニ絶ヘヌ。此ノ条文ハ存置シテモ、第二章ニ於テ法律事項ヲ多クスレバ良イ。
八、「他ノ法律」トハ憲法制定当時既ニ制定セラレテヰタ法律ヲ云フノカ、
今日デモ新ニ法律デ規定シテ良イカノ問題ガアル。
制定当時ハ前者ノ意味ニ解シテヰルガ、今後ハ法律ハ勿論勅令ニ優先スルカラ差支ナイ。
官制法律論ノ可否ヲ決スル場合結局大権事項ヲ如何ニ考ヘルカトイフコトニ帰スル。
九、常識的ニハ削除説ガ多数。
右ヲ存置スルトセバ如何ナル形式ニ依ルベキカハ研究ヲ要スル。
一〇、条約ノ中デ臣民ノ権利ニ関スルモノハ議会ノ協賛ヲ要スルトスルコトモ一案デアル。
一一、緊急勅令制度ヲ存置スレバ本条ハ無クトモ差支ナシ。
沿革的ニハ軍隊ノ存在ヲ前提トシテヰル。
統帥権ノ独立ガ無クナレバ本条ハ不要デアル。
非常状態法ノ如キヲ制定スレバ足ル。
一二、政治的ニ議論トナリ得ベキノミ。
第二章関係
一三、法律ヲ廃止シ、将来再ビ法律ヲ制定シナケレバ良イノダカラ本条ハ廃止シナクテモ良イトイフ立論モ成立ツ。
之ハ廃止シテモ強制労役制ニ関スル法律ガ必要ナ場合ガアルカモ知レナイ。
一般論トシテ兵役納税ノ義務ノミヲ掲ゲテヰルノハ可笑シイカラ新ナル義務ヲ負ハセルニハ法律ヲ要ストイフ条文ヲ追加シナケレバナラヌトイフ議論ガアリ得ル。
第二章ノ標題ハ「臣民ノ権利義務」トアルモ、「臣民」ダケデ良イトイフ論ヤ之ヲ「国民」ト改メヨトノ意見ガキツト出ルデアラウ。
一三ノ二 従来神社ハ宗教ニ非ズトシテ之ヲ国家ト結ビ付ケテヰタノデアルガ、今後ハ神社モ亦宗教ナリトシテ之ヲ一般宗教ト同列ニ置キ且ツ、国家ヨリ引離スベシトイフ議論ガアル。唯デサヘ問題ノアル神社ヲ新シク憲法ニ加ヘルコトハ出来ヌト思フ。
一四、此ノ考方ハデモクラチツクノ原理カラ来ルノデハ無クテ、リベラルノ原理ヨリ来ルノデアル。
一五、アメリカ憲法ニ於ケル様ニ「法律ノ前ニ平等」トイツタ考方ヲ入レル要モアル。
「所有権」ハ民法ノ「所有権」トハ異ル意味デアル。
一般論トシテ「臣民」ノ中ニ「法人」ハ入ルカ否カ
一六、良ク調査スルコト
一七、文献的ニ調ベルコト
三、本日ハ第一章及第二章関係ノミヲ審議シ、第三章以下ハ更ニ第三囘調査会ヲ来ル八日(木)午後一時三十分ヨリ開キ審議スルコトトナリタリ。

(極秘)
八部ノ内第四冊

憲法問題調査委員会第三囘調査会議事録

日時 昭和二十年十一月八日(木)午後一時半―五時
場所 内閣総理大臣官舎会議室
参集者 松本委員長、宮沢、清宮、石黒、小林、大池、佐藤各委員(河村、楢橋、入江各委員欠席)刑部、佐藤補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
(一)会議ニ入ルニ先立チ実際問題トシテ左ノ件ヲ討議セリ。
仮ニ臨時議会ガ開カレ、衆議院ノ解散セラレタ場合、総選挙後ノ特別議会ニ昭和二十一年度ノ総予算ヲ提出シ得ルヤ、又提出セザルベカラザルヤ。
会計法第七条ハ「歳入歳出ノ総予算ハ前年ノ帝国議会集会ノ始ニ於テ之ヲ提出スベシ」ト規定シテヰルカラ、之ヲ改正スレバ良イノカ
第一説 憲法第六十四条ハ「国家ノ歳入歳出ハ毎年予算ヲ以テ帝国議会ノ協賛ヲ経ベシ」ト云ヒ第四十二条ハ「帝国議会ハ三箇月ヲ以テ会期トス」ト云ヒ、又会計法第七条ニ「帝国議会集会ノ始ニ於テ之ヲ提出スベ」キモノトシテヰル立法精神ハ、予算案ハ重大デアルカラ、其ノ審議ノ為ニハ帝国議会ノ全会期(三ケ月)ヲ之ニ充テナケレバナラヌトイフ趣旨デアル。而シテ臨時議会解散後総選挙ヲ行ヒ、特別議会ガ開カレタ場合之ガ其ノ年度中ニ三ケ月ノ会期ニナルコトハ事実上アリ得ナイ。(尤モ通常議会ヲ九月頃召集スレバアリ得ルガ)
仍テ設問ノ如キ場合ハ予算ハ不成立トナリ、特別議会ニハ追加予算ヲ提出スベキモノデアル
第二説 会計法ニ謂フ前年ノ議会トハ通常議会ヲ指スモノデアルコトハ疑ノ無イ所デアルガ、総予算ハ憲法上帝国議会ノ協賛ヲ経ベシトイフノデアルカラ其ノ精神ハ前年度中ニ議会ガ開カレ予算ヲ審議スルニ十分ナ期間(少クトモ五十四日以上)ガアルナラバ、通常議会ナルト特別議会ナルトヲ問ハズ之ヲ提出スベキモノデアル。
以上両説ヲ参考トシテ、今後ノ実際問題ニ処スルコトトナリタリ。
(二)前囘ニ引続キ第三章関係第十八以下ヲ審議セリ。
一八 両院制ニ関スル規定ニツキ改正スベキ点アリヤ(Cf憲三三条)
(イ)両院制ヲ維持スベキヤ。
此ノ問題ハ大キ過ギル。実際問題トシテハ、二院制ヲ廃止セヨトイフ声ハ無イ。然シ問題ガ起ツタ場合ノ準備トシテ資料ハ作成シナケレバナラヌ。
(ロ)両院ノ権限ニ付差等ヲ設クベキヤ。
一ノ議論トナリ得ル。英国ノ上院ハ権限ガ少イガアメリカノ上院ハ人員ハ少イケレド権限ハ強イ。
貴族院ニ於ケル議論トシテハ、現在ノ機構ニ大ナル変化ヲ行ハズシテ権限ヲ縮少セヨトノ意見ガ多数デアルガ、此ノ際機構ヲ大イニ改メテ権限ヲ強化セヨトノ意見モアル。枢密院ノ改廃論ト密接ナ関係ガアル。
現在貴衆両院ノ権限ハ同等デアルガ、憲法制定会議ノ草案ニ於テハ金銭法案ニ対スル貴族院ノ権限ヲ現在ヨリ遥カニ縮少シタモノガアツタ。仍テ権限ニ関スル問題トシテハ次ノモノノ研究ヲ要スル。
(A)金銭法案ニ付テ貴族院ノ権限ヲ縮少スルヲ可トスベキヤ
(B)予算以外ニ付テモ英国式ニ権限ヲ縮少スルヲ可トスベキヤ
(ハ)一院制トスベキヤ。
之ハ問題トシナクテモ良イ。
一九 貴族院ニ関スル規定ニツキ改正スベキ点アリヤ(Cf憲三四条)
(イ)貴族院ノ組織ヲ貴族院令ヲ以テ定ムトスル点ヲ改ムベキヤ
(A)貴族院令ノ改正ニ両院ノ議決ヲ要スルトスベキヤ
結論トシテハ之ガ適当デアルト思フ。
(B)貴族院令ヲ貴族院法ト改ムベキヤ
制定当時ハ法律ニスルト不安心ダトイフ議論ト法律ニシナイト不安心ダトイフ議論ト両方ガアツタ。結局欽定憲法ノ趣旨カラモ、皇室ノ藩屏タル華族ノ地位カラモ貴族院令ノ法律化ヲ危険ナリトシテ現在ノ様ナ形式ヲトルニ至ツタノデアル
右ニ関聯シ貴族院令改正案ヲ政府ガ提出シタ場合、之ニ対スル修正権ニ付テ研究ヲ要スル。発案権ガ無イノダカラ、修正モ提案ト同一範囲ナラバ良イガ之ヨリ出テハイカヌトイフコトニナツテヰル様ダガ、同一ノ範囲内トハ何ヲ云フカガ問題デ提案サレタ条文ノ実質ノ範囲内デ他ノ条文ニ及バナイノカ、第七十三条ト関聯シテ問題ガアルト思フ。
(ロ)貴族院ノ構成分子ノ規定ヲ改ムベキヤ
貴族院令改正ノ研究ト相侯ツテ研究スルヲ可トスルガ、貴族院ノ構成ニ付テ、貴族院議員側ノ意見ハ左ノ五点ニアル。
1、皇族議員ヲ除クコト
2、公侯爵ノ世襲ヲ廃シ伯子男爵同様互選トスルコト
3、勅選議員ニ任期ヲ付スルコト
4、全体ノ数ヲ削減スルコト
5、職能代表的意味ヲ有スル地方選出勅任議員制ヲ設クルコト
右ニ対シテハ皇族議員ヲ存置シテモ良イデハナイカトイフ意見及存置シテモ皇族内ノ互選トシテ制限スル方法モアルカラ差支ナイトイフ意見ガアル。
尚別ノ意見トシテハ
1、議員ハ華族ニ付テハ互選トシ終身議員トスルコト但シ終身制ニ伴フ弊害ニ対シテハ心身ノ疲労ニ依リ職ニ堪ヘヌモノヲ罷免スルノ措置ヲ励行スルコト
2、地方議員ハ七年トシ各界代表者カラ選ブコト
トイフ意見モアル。
又勅任議員ヲ任ズル際ニハ貴族院側ニ銓衡機関ヲ設ケ之ノ銓衡ヲ経ルヲ要スルコトニスル案及少クトモ拒否権ヲ持タセタイトノ意見モアル。
二〇、選挙法ノ大原則ヲ憲法ニ定ムベキヤ(Cf憲三五条)
ワイマール憲法ニ例ガアル、然シ強イテ書クニハ及バヌ
二一 会期ニ関スル規定ヲ改ムベキヤ(Cf憲四二条)
「通常議会ノ会期ハ三ケ月以上ニ於テ議院法ノ定ムル所ニ依ル」トイフ様ナ規定ヲ設クルヲ可トス
会期中ヨリ停会ノ期間ヲ除算スルコト、或ハ少クトモ予算審議期間ヨリハ除算スベシトイフ意見ガアル。
二一ノ二 解散後新議会ヲ召集スベキ期間ヲ短縮スル要アリヤ(Cf憲四五条)
五ケ月以内トアルヲ三ケ月以内ト改ムル案
解散シタル場合ハ「何ケ月以内ニ選挙セシメ」トイフ条項ヲ旧プロイス憲法ノ様ニ織込ム案
第四十五条ノ衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ・・・・・・五ケ月以内ニ之ヲ召集スベシトアルモ「之」トハ文章上ハ衆議院又ハ衆議院議員ヲ指スカラ誤トイフベク、「帝国議会ヲ召集スベシ」ト改ムルヲ要スル
二二 議院ノ秘密会ハ其ノ院ノ決議ニ依ツテノミ之ヲ設クルヲ得ルモノトスベキヤ(Cf憲四八条)
事実ハ其ノ様ニ運用サレテヰル、秘密会ハ存置スベキモノデアル唯法文上「政府ノ要求又ハ」トイフ字ヲ削レバ良イ
二三、議会ニ於ケル公開会議ノ忠実ナル報道ハ民事判事ノ責任ノ原因ト為リ得ズトスベキヤ(Cf憲五二条)
此レハ行過ギデアル速記録ハ良イガ之ヲ抽出シテ公判シタリスルコトハ責任ヲ負ハシムベキデアル
二四 会期開始前ニ於テ逮捕セラレタル議員ハ其ノ院ノ要求アルトハ会期中之ヲ釈放スベキモノトスベキヤ(Cf憲五三条)
右ノ趣旨ハ相当デアル、逮捕ノミナラズ審問、拘留、捜索、押収等ヲモ含マシメヨトイフ意見モアル
現行法ノ運用ハ苟モ訴追ヲ受ケテヰル以上之ノ進行ヲ妨ゲ得ズトイフ司法省ノ通牒ガアツテ釈放ハ認メラレテヰナイ。
二五 第五四条中ニ議院法第四二条但書ノ趣旨ヲ規定スル要アリヤ「何時タリトモ」トイフ文字ヲ削ルベシトイフ案
議院側ヨリ各大臣ノ出席ヲ要求シタ場合必ズ出ナケレバナラヌトイフ条項ヲ加ヘヨトイフ案
尚第三章ニ関聯シ議院法第三十二条ニ「両議院ノ議決ヲ経テ奏上シタル議案ニシテ裁可セラルルモノハ次ノ会期迄ニ公布セラルヘシ」トイフハ大権ヲ法律デ制限シテヰルカラ可笑シイトイフ説アリ。
又ハ議会関係ノ問題トシテハ右ノ外常置委員制度ヲ如何ニスルヤノ問題アリ
第四章関係
二六 国務大臣ニ関スル規定ヲ如何ニ取扱フベキヤ(Cf憲五五条)
(イ)「国務大臣」ノ字句ヲ修正スル要アリヤ
之ハ国務大臣ノ連帯責任ノ問題、国務大臣ヲ一人ニ為シ得ルヤノ問題、総理大臣権限強化ノ問題等ト関聯シテヰル
(ロ)国務大臣ガ議会ニ対シテ責ヲ負フトスル趣旨ヲ規定スベキヤ
之ハ大キナ問題デアル、法文ニ書クトセバ「天皇及議会ニ対シテ責ヲ負フ」ト表現セネバナルマイ
(ハ)所謂大臣訴追制ヲ認ムベキヤ
外国ノ大臣訴追制トイフノハ政治上ノ責任追求ノコトカ或ハ行政上、官吏法上ノ責任ヲ追求スルトイフ意味デアルカ、或ハ大臣個人ノ普通犯罪ヲ訴追スルトイフ意味カ調ベルコト
尚議院ノ上奏権ノ運用ニ依ツテ或ル程度目的ハ達セラル
二七 枢密院制度ニツキ改ムベキ点アリヤ(Cf憲五六条)
枢密院制度ノ廃止論ハ貴族院ノ権限強化問題ト関聯シテヰル。
枢密院ハ皇室関係ノ機関トシテ必要デアルカラ政治的権限ヲ縮少シ専ラ此ノ方面デノ役割ハアルト考ヘル。
尚現在ノ組織機構ノ下ニ於テモ、其ノ運用ニ関シ、従来ノ秘密主義ヲ改メ、審議ノ内容ヲ或程度発表スルコトモ考ヘラレル
枢密院構成分子ハ各界ノ長老デアリ長老ハ概シテ保守的ナモノデアルカラ、場合ニ依ツテハ保守的ナチエツクモ必要デアルト考ヘラレル
枢密院制度ヲ存置スルトスレバ現在ノ条文ノ儘デ良イ。
(以上)

(極秘)
八部ノ内第四冊

憲法問題調査委員会第二囘総会議事録

日時 昭和二十年十一月十日(土)午後一時三十分―四時半
場所 内閣総理大臣官舎会議室
出席者 松本委員長、清水、美濃部、野村各顧問、宮沢、河村、清宮、石黒、小林、大池、奥野、楢橋、佐藤各委員(入江委員欠席)刑部、佐藤補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
(一)本日ハ委員長以下正午ヨリ幣原内閣総理大臣ノ午餐ニ招カル。
奥野司法省民事局長ハ委員トシテ本日ヨリ参加セラレタリ。
先ツ委員長ヨリ各顧問ニ対シ第一囘乃至第三囘調査会ノ経過ヲ説明セラレタリ。
(二)憲法ノ改正ハ日本自ラノ必要ニ基イテ之ヲ行ハネバナラヌノデハ無クシテ、聯合国トノ関係ニ於イテ政治的ナ要求カラ憲法ヲ改正シナケレバナラヌモノデアルトノ立場ヲトルナラバ必要最小限度ノ条項ヲ改正スレバ足リル。
若シ日本自身ノ必要ニ基イテ改正スル要ガアリトスルナラバ、殆ンド全部ニ亙ツテ之ガ改正ヲ為ナケレバナラヌガ一体我々ハ其ノ何レノ立場ニ立ツベキデアラウカ。
此ノ二ツノ立場ハ何レモ夫々理由ノアルコトデアル。後ノ見方ニ立ツテ全体ヲ改正スルトイフコトニナレバ決シテ急イデ事ヲ行フベキデハ無ク慎重ノ上ニモ慎重ヲ期シテユカネバナラヌ。然シ乍ラ、日本ヲ廻ル内外ノ情勢ハ誠ニ切実デアル。政治的ニ何事モ無シニハ済マシ得ナイ様ニ思ハレル。随テ憲法改正問題ガ極メテ近キ将来ニ於テ具体化セラルルコトモ当然予想シナケレバナラヌ。例ヘバ来年ノ特別議会ガ二月頃開カルルトシテ、之ニ付議セラルル様ナ事態ガ、仮ニ発生シタトスルナラバ、ソノ場合ニ於テモ決シテ間誤ツカヌ様ニ準備ト用意ハ整ヘテ置カナケレバナラヌ。
要スルニ、憲法改正ノ必要ハ、内ハ兎モ角、外カラ言ハレタ場合、何時デモ之ニ応ジ得ル様ニ、差当ツテ大キナ問題ハ研究スルトイフコトニ止メ、切実ニ已ムヲ得ヌト思ハレル条項ヲ深ク堀リ下ゲテ行カナケレバナラヌ。
以上述ベタ立場ニ立ツナラバ、先ツ差当ツテ問題トシナケレバナラヌ点ハ、天皇ノ大権、議会ノ権限、議会ノ構成、内閣ト議会トノ関係等トナル。
仍テ本日ハ第三囘調査会迄ニ行ツタ様ナ方法即チ各条文ニ対スル逐条的審議ヲ止メ特ニ必要ト思ハレル二三ノ問題ヲ取リ上ゲ之ヲ審議スルコトトセリ。
(三)本日審議シタル問題及審議意見ノ概要左ノ如シ
三四 憲法改正ニ関シ改正スベキ点アリヤ
(イ)憲法改正ノ発議権ヲ議会ニモ与フベキヤ(Cf憲七三条上諭五項)
憲法改正ノ発議ノ権ヲ議会ニモ与フベキヤ否ヤニ付テハ当然之ヲ与フベキモノナリトスル意見ト、之ヲ議会ニ与フルトキハ、毎議会ニ天皇制廃止論等ニ依ル憲法改正ノ提案ガ為サレル虞ガアルカラ成ルベク議会側ニ発議権ヲ与ヘナイコトヲ希望スル意見トガアル。
然シ、仮令議会ニ発議権ヲ認メテモ、之アルガ為ニ必シモ急進的憲法改正ガ絶ヘズ行ハレルトハ限ラナイ。議会ニ発議権ヲ与ヘテモ、結局愚論ハ輿論ヲ左右シ得ナイカラ、一部ノ急進的少数意見ヲ虞レルコトハ一種ノ杞憂ニ過ギナイデアラウ。他面帝国憲法ノ民主的改正ハアメリカニ於イテモ既ニ輿論トナツテヰル処デアルカラ、憲法改正ノ発議権ニ付テモ国民代表タル議会ニ対シ之ヲ与ヘナケレバナラヌ形勢デアル。之ニ対シテハ将来日本ニ議会ニ基礎ヲ有スル責任内閣ガ樹立セラルルナラバ、特ニ議会ニ対シ憲法改正発議ノ権ヲ与ヘナクトモ、此ノ責任政府ガ発議権ヲ補弼スレバ足ルデハナイカトイフ意見モアルガ、此ノ説ヲ貫ケバ法律ニ対スル議会ノ提出権ヲモ認メナクトモ良イトイフコトトナリ、ソレナラバ、憲法改正発議権ヲ議会ニ与ヘテ一向差支ナイトイフ結論ニモナルノデアル。
然ラバ発議権ヲ与ヘルトイフコトハ既ニ大勢動カシ得ヌモノトシテ其ノ態様ハ如何ニアルベキモノデアラウカ。
発案ニ当ツテ議員総数ノ三分ノ一以上ノ賛成ヲ要ストイフ様ナ条項ヲ憲法中ニ規定シナケレバナラヌトイフ意見ト、ソレハ議院内部ノ事トシテ議院法ニ譲ルベシト云フ意見ト二様ノ説ガアツタガ結局憲法ニ規定スベシトイフ説ニ落付イタ。
尚議会側ニ発議権ヲ与ヘヌ様ニシタイトイフ意見ヲ述ベル者ハ上諭五項ハ之ヲ改メ得ナイトイフコトヲ論拠ニシヤウトシタガ之ハ新ニ上諭ガ出レバ何等差支無イトイフコトニナツタ。
右ノ問題ニ関聯シテ現行法ノ解釈問題トシテ修正権ノ有無及修正可能ナリトセバ其ノ範囲如何ニ就テ審議シタ。
先ヅ修正権ガ全然無ク、議会ハ単ニ可否ヲ決シ得ルノミデアルトイフ説モ古クハ相当アツタノデアルガ現在ハ少イ様デアル。修正権ガアルトシテモ、発案権ガ無イノデアルカラ、無制限ニ修正スルコトハ出来ナイノデアルトイフコトハ通説デアル。
然ラバ修正ハ如何ナル範囲ニ於テ認メラルルヤ、此ノ問題ハ公法私法ヲ通ジテ最モ問題ノ多イ処デアルガ、結論トシテハ改正案ノ事項(ザツヘ)ト同一ナリト認メラレル範囲内ニ於テハ修正可能ナリトイフコトトナツタ。
(ロ)憲法中特定ノ条項(例第一条)ノ改正ヲ禁ズル旨規定スベキヤ
本問題ハ否
(ハ)憲法改正ニ議会ノ外人民ノ参与ヲ認ムベキヤ
人民投票制度ハ本問題ノミナラズ一般的ニ否定スベシ。
(ニ)摂政期間中憲法及典範ノ改正ヲ許サズトスル規定ヲ削除スベキヤ
削除スベシ。摂政期間ハ長期ニ亙ルコトアリ得ルヲ予想セネバナラヌ。又其ノ間ニ如何ナル重要問題ガ突発スルカモ知レヌ。
此ノ条文ハ摂政ガ其ノ期間中ニ自己ニ有利ニ皇位継承法ヲ変更スル如キコトヲ虞レテ規定ヲ設ケテヰルノデアルガ、之ハ外国ノコトデアツテ我邦ニ於テハ考ヘナクトモ良イコトデアルカラ削除スルノガ良イ。
三三 前年度予算施行制ヲ改正スル要アリヤ(Cf憲七一条)
此ノ問題ハ我国憲法ニ対スル米国側ノ批判ノ中ニモ謳ツテヰル所デアル。大蔵省当局ノ意見モ聴カナケレバナラヌト思フガ、英国ヤ仏国ノ憲法ニ於テハ前年度予算施行ノ問題ニ付テハ、仮令予算ガ不成立トナツタ場合ニ於テモ、翌年度ニ入ツテ其ノ年度ノ予算ヲ議会ニ出サナケレバナラナクナツテヰル、而シテ新予算ガ成立スルニ至ル迄ハ前年度予算ヲ十二分シテ其ノ一ケ月分ヅツヲ新予算成立迄使用スルコトトナツテヰル。仍テ此ノ制度ヲ研究シテ今後ノ問題ニ対スベキデアル。
六 緊急勅令ニツキ改正スベキ点アリヤ
帝国議会ノ会期ノ問題ト併セテ研究シナケレバナラヌ。即チ若シ帝国議会ヲ一選挙カラ次ノ選挙迄常時開イテ置クナラバ特ニ緊急勅令制度ヲ認メナクトモ差支ナイ様デアル。但シ其ノ場合ニ於テモ議会ノ解散ヲ予想スルナラバ何等カノ形デ本制度ハ之ヲ存置シナケレバナラヌトモイヘルノデアル。
議会ヲ現在通リノ運用トシタ場合、常置委員会ニ付議スベキモノトスルコトモ考ヘラレ、其ノ常置委員会ハ憲法ニハ規定シナイデ議院法ニ定メルコトモ一案ト考ヘラレル。
第八条ト第七十条ヲ区別スル要アリヤノ問題ハ第七十条ハ金銭ニ関スル処分ヲ定メテヰルカラ之ハ矢張リ区別スル方ガ良イトノ意見ガアル。
緊急勅令ヲ議会ガ承諾シタトキ、其ノ形式ハ依然勅令デアルカラ其ノ解釈及運用ニ形式論的疑義ノ生ズルコトヲ保シ難イ。
仍テ承諾シタ場合ハ之ト同一内容ノ法律ヲ新ニ制定スルノ案及ビ「法律タルノ効力」ヲ有スル旨規定ヲ設クルヲ可トストノ意見ガアル。
七 所謂独立命令ヲ存置スベキヤ(Cf憲第九条)
本件ニ付テハ第二囘調査会ニ於テ次ノ如キ両説ガ対立シタ。
(イ説)削除スベシ(削除ニヨツテ生ズル不便ハ法律ノ委任ニ依リ補フヲ得ベシ)
(ロ説)存置スベシ(存置ニヨツテ生ズル弊害ハ法律事項ノ強化ニヨツテ避クルヲ得ベシ)
扨テ、独立命令ヲ廃止シテ良イカドウカニ付テハ英国ノ立法例ニ於テハ国王ノ大権ニ依ツテ発シ得ル命令ハ植民地ニ関スル命令及ビ行政内部ノ官吏ニ対スル命令ノ二種ニナツテヰル。
独立命令ヲ全然廃止スルトイフ(イ)説ハ稍々行過ノ様デアル存置説ヲ相当ト思フ、但シ第二章ニ付テ包轄的ニ「前数条ニ掲グルモノノ外法律ニ依ルニ非ザレバ臣民ハ其ノ自由及権利ヲ犯サルルコト無シ」トイフ様ニ立法事項ヲ強化スレバ良イト考ヘラレル。
而シテ権利義務ニ関係ノ無イ独立命令トシテハ教育宗教等ニ関スルモノノ外補助、奨励等ニ関スルモノハ存置ノ理由アルベク例ヘバ勤労顕功章令ノ如キハ此ノ範疇ニ属スルモノト考ヘラレル。
現行憲法ノ解釈論的学説トシテハ第五条、第九条及第二章ノ関係ハ説明困難ナル問題トシテ各学者ノ今後ノ研究ニ俟ツベキモノガ多イ。
(四)本日ハ以上ノ諸点ヲ論議シタノデアルガ、今後ノ問題トシテハ統師編成ノ問題条約ノ問題等ヲ審査スル為十四日(水)午前十時半ヨリ更ニ総会ヲ開クコトトナレリ。

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第三囘総会議事録

日時 昭和二十年十一月十四日(水)午前十時半―午後四時
場所 内閣総理大臣官舎会議室
出席者 松本委員長、清水、美濃部、野村各顧問、宮沢、清宮、石黒、小林、大池、楢橋(途中ヨリ欠)入江、佐藤、奥野各委員(河村委員欠席)刑部、佐藤補助員、栗山内閣書記官、大友内閣属(岩倉内閣書記官ハ行幸扈従ノ為欠席)

記事
(一)本日ノ議事ハ第二囘ニ引続イテ重要ナル問題ニ付審議ヲ進メタリ、即チ第一章中第十条以後ノ項目及第二章、第三章、第四章迄行ヒ、司法及会計ハ次囘ニ之ヲ行フコトトセリ
(二)本日審議セル問題及審議意見ノ概要左ノ如シ
八、憲法中ノ「文武官」ノ文字ヲ如何ニ取扱フベキヤ(Cf憲一〇、一九条)
九、第一一条及第一二条ヲ如何ニ取扱フベキヤ
八、ト九、ハ軍関係ノ問題ナルヲ以テ一シヨニ審議スルヲ便宜トスルトノ意見出デ一括シテ討議セラレタリ。
軍ニ付テハ目下ノ情勢ヨリシテ之ニ関スル規定ハ停止スルカ又ハ削除スベシトノ論ハ勿論有力ナルモノナルモ、此際ハ存置スルトセバ如何ニスルカトノ審議ヲ為シ置ク方大切ナルヲ以テ此ノ線ニ沿ヒテ論議スルコトトセリ
「陸海軍」ヲ「軍」トシ統師権ノ独立ハ認メナイコトトスル又編成ハ議会ノ協讃ヲ経ル様ニ法律事項ト致シテオキタイ。
扨統師ニ付テハ独立サセナイトスルトスレバ如何ニ規定スベキカ第五十五条ニ於テ国務大臣ガ輔弼シ且ツ副書ヲスル様ナ規定ヲ捜入スレバヨイト考ヘラレル即チ同条第三項ニ「軍ノ統師ニ関シテモ亦前二項ニ同ジ」ト云フ様ナ文句ヲ入レレバヨイコトトナル。
編成ニ付テハ第十二条ヲ「議会ノ協讃ヲ経テ」又ハ「法律ヲ以テ定ム」ト云フ様ナ文句ニ改正スレバ良イト思ハレルガソウスルト第十条ノ行政各部トノ歩調ガ揃ハヌコトトナルモ、特ニ軍ニ関シテノミ窮屈ニ規定シテ置ク必要アリトモ考ヘラレル。
軍ノ編成ニ付テハ最初ハ法律、次ニハ勅令デ定メテヰタガ、最近ハ勅裁デ決定シテヰタト云フノガ実情デアル。
尚、憲法上削除スルトシテモ、将来、軍設置ノ場合ニハ、第十条ノ「文武官」ヲ「官吏」ト改正シテオケバ、後ハ法律デ定メ得ラレル。又軍ニ関スルコトヲ憲法中ニ規定スル必要アリヤ、法律又ハ勅令ニテ規定不可能ナリヤノ問題モ考究シテオク必要アリト思ハル。
一〇、外交大権ニツキ改正ヲ要スル点アリヤ(Cf憲一三条)
宣戦ハ軍ガ無クナツテモ有リ得ルカト云フコトデアルガ、相方ヨリシカケラレル戦争ハ有リ得ルカラ矢張此ノ文字ハ存置シテ置ク必要ガアル、此ノ場合受身ノ戦争ノ時ニハ宣戦ニ関シテハ議会ノ協讃ヲ経ル必要ガナイ旨ノ規定ヲスレバ良イト考ヘラレル尚宣戦ト云フモノハ形式デアルカラ戦争ノ開始ト云フ規定ニシテ議会ノ協讃ヲ経ル様ニスレバ所謂事変ト云フ様ナモノノ開始モ防止出来ルト云フコトモ考ヘラレル更ニ宣戦ハ憲法上規定セズニ事実上行フコトニ関シテハ却ツテ濫用ヲ招クトノ考ヘガ成立スル。
講和ニ付テハ休戦ヲモ含メテ之ハ条約ト考ヘ得ル。
然ラバ条約ノ点ニ付テハ如何ト云フニ外国ノ例トシテハ協讃ヲ経ベシト云フノト一院ノ承認ヲ経レバ宜シイト云フノトノ二種類アリ。大国ハ事後協讃トシテヰルガ、我国トシテハ矢張此ノ条文ハ存置シテ事項ニ依ツテハ協讃ヲ経ナクトモヨイヤウニスルコトガ良イト思ハレル。
即チ「国民ノ権利及義務ニ負担ヲカケ及国庫ニ負担ヲ生ゼシメル条約ハ議会ノ承認ヲ経ナケレバ効力ヲ生ジナイ」トスルカ或ハ「国家ニ重大ナル義務ヲ負ハセル条約ハ・・・・・・」ト云フ風ニスル、又ハドイツノ様ニ「立法事項ニ属スルモノハ協讃ヲ経ルヲ要スル」トスルノモヨイ、議会ノ協讃ヲ経ル時期トシテハ「批准ヲ経ル前ニ協讃ヲ経ル」ト云フ様ニ規定スル方ガ適当ト考ヘラレル
一一、戒厳ノ規定ヲ存置スベキヤ(Cf憲一四条)
仮令軍ガ存置サルルトシテモ此ノ規定ハ削除シタ方ガ良イト思ハレル外国ノ立法例トシテハ、憲法ニハ戒厳ニ関スル規定ハ存セズ之ハ旧イ形式ト考ヘラレ、非常状態法ノ形式ヲ用ヒテヰル、従ツテ他ノ形式デ行クコトトシ、結局緊急勅令ニテ行ヘバ良イト考ヘラレル
右ノ場合非常大権(憲三一条)トノ関聯ヲ考ヘテオカネバナラヌ
十六、第三一条(所謂非常大権ノ規定)ヲ如何ニ取扱フベキヤ
内容ガ明確デナク且ツ大抵ノコトハ緊急勅令デヤリ得ルシ或場合ニ於テハ却ツテ三一条ノ方ガ狭クナルコトモアル、従ツテ此ノ条文モ戒厳ト共ニ削除シタ方ガヨイ。
一三、兵役ノ義務ニ関スル規定ヲ削除スベキヤ(Cf憲二〇条)
一七、第三二条ヲ如何ニ取扱フベキヤ
此ノ二ツノ問題モ結局軍ヲ止メル否ヤト云フコトニ依リ決セラルルモノデアル
一二、華族制度ヲ存置スベキヤ(Cf憲一五条)
爵ハ特権的ナ制度デアル故之ハ廃止スベキデアルガ併シ他面英国式ノ名目ノミノモノナラバ存置シテモヨイ様ニ思ハレル
位ニ付テハ矢張封建制度ノ遺物ナリト考ヘラルルヲ以テ廃止スルヲ適当ナリト考ヘラルルモ反面単ニランク・オブ・コート(宮中席次)ヲ決定スル規準トシテ政治上ノ特権ガナクナルナラバ存置スルモ差支ナイ様ニ考ヘラレル
勲章ニ関シテハ廃止スル方ヲ良シト考フルモ文化勲章ノ如キモノハ必要ナリト思ハレル。
序ニ士族ト平民ノ区別ハ此ノ際撤廃致シ度イ
第一六条ハ問題ナシ
第一七条ニ付テハ差当リ触レズ
第三章関係
一八、両院制ニ関スル規定ニツキ改正スベキ点アリヤ(Cf憲三三条)
(イ)両院制ヲ維持スベキヤ
(ロ)両院ノ権限ニツキ差等ヲ設クベキヤ
(イ説)両院制ハ之ヲ維持スベシ但シ貴族院ノ権限ヲ制限スベシ
(1)予算ソノ他金銭法案ニ関スル貴族院ノ権限ヲ制限スベシ
(2)少クトモ貴族院ハ予算ニ関シ衆議院ノ削減セルモノヲ復活シ得ザルモノト為スベシ
(3)法律案ニ関シテモ貴族院ノ権限ヲ制限スベシ
(ロ説)両院制ハ之ヲ維持スベシ但シ貴族院ノ構成ヲ民主的ニ改ムベシ
両院制ハ維持シテ行キタイ貴族院ノ権限ニ関シテハ別ニ制限スル必要ヲ認メナイガ制限スルトスレバ(イ説)ノ(2)即チ予算ニ関シテハ衆議院ノ削減セルモノヲ復活シ得ナイモノトスル位ガ適当ト考ヘラレル。
一九、貴族院ニ関スル規定ニツキ改正スベキ点アリヤ(Cf憲三四条)
(イ説)貴族院令ノ改正ニ貴衆両院ノ議決ヲ要スルモノトスベシ(貴族院令ニ於テ此ノ趣旨ヲ規定スベシ本条ヲ改正スル要ナシ)
(ロ説)「貴族院令」ヲ「貴族院法」ト改ムベシ
(ハ説)「皇族」ヲ削除スベシ
貴族院ニ関スル規定ハ何レニシテモ両院ノ議決ヲ経ル様ナ制度ニスル必要ガアル。
貴族院ノ構成ニ付テハ議院ハ国民代表ノ府タルベキモノデアルカラ、何等カノ方法ニ依リ国民ノ中ヨリ公選スベキモノト考ヘラレルガ、其ノ場合ハ衆議院トハ特ニ異ツタ内容ニセネバナラヌト思ハレル併シ乍ラ他面実際上ノ見地ヨリスルトキハ貴族院ハ衆議院ノ番人タラシメル必要モアリ所謂出馬シタガラナイ人物ヲ勅選ニ依リ入レルコトモ考ヘラレル、ソシテ勅選ヲ置クトシテモソノ数ヤ権限ヲ縮少スレバヨイト思ハレル、皇族華族ニシテモソノ数ヲ少クシ憲法上ヨリハ取除イテ「貴族院法」ノ中デ規定スル方法モアル
二〇、選挙法ノ大原則(例、普通、平等、直接、秘密乃至女子選挙権)ヲ憲法ニ定ムベキヤ(Cf憲三五条)
現在ノママデ行ク
二一、会期ニ関スル規定ヲ改ムベキヤ(Cf憲四二条)
会期ハ三箇月以上ニ於テ議院法ノ定ムル所ニヨルト為スベシ
会期ニ付テハ矢張アル様ニシタ方ガヨイ又其ノ長サモ規定シタ方ガ良イ
二一ノ二、解散後新議会ヲ召集スベキ期間ヲ短縮スル要アリヤ(Cf憲四五条)
(イ説)「五箇月」ヲ「三箇月」ト改ムベシ
(ロ説)選挙法第一八条第三項ノ趣旨ヲ本条ニ規定スベシ
(ハ説)会期ヲ定ムルハ勅令ニ依ル旨ヲ規定スベシ
(ニ説)「之ヲ召集スベシ」ヲ「帝国議会ヲ召集スベシ」ト改ムベシ
詳シク研究スルコトニスル
○第四四条
第二項ニ停会トアルヲ閉会トシタラヨイト考フルモ其ノ場合ニ於テモ閉院式ヲヤラネバナラヌカドウカ研究ノ余地ガアル
二二、議院ノ秘密会ハソノ院ノ決議ニヨツテノミ之ヲ設クルヲ得ルモノトスベキヤ(Cf憲四八条)
「政府ノ要求又ハ」ヲ削除スベシ
研究課題トシテ置ク
二三 会期開始前ニ於テ逮捕セラレタル議員ハソノ院ノ要求アルトキハ会期中之ヲ釈放スベキモノトスベキヤ(Cf憲五三条)
(イ説)会期開始前ニ於テ逮捕セラレタル議員ハソノ院ノ要求アルトキハ会期中之ヲ釈放スベキ旨ヲ規定スベシ
(ロ説)会期中議員ノ住所ヲ侵ス場合ニモソノ院ノ許諾ヲ要スルモノトスベシ
イ説ノミハ良イト思フガロ説ニ付テハ必要ガナイト考ヘル
○議院ニ査問権及インピーチメント(訴追権)ヲ認ムルヤ
査問権ニ付テハ刑事上ノソレト競合スル懼ナキヤ研究スルコトトスル、実際上ノ問題トシテハ長短両所ガアルガ、之ヲ乱用スルト人民ガ非常ナル迷惑ヲ蒙ルコトニナルノデ認メルトスレバ或程度ノ制限ヲ加ヘル必要ガアリ、少ク共人民ニ義務ヲ負ハセルガ如キコトハイケナイト考ヘラル。外国ニ於テモ各国ニ此ノ規定ハアルガ、事実上実行サレルコトハ少ナイ模様デアル
○第四三条
臨時会ノ召集ニ付テハ議院モ之ヲ奏請出来ルモノトスル、此ノ場合奏請ノ要件ヲ法律デ定メ、此ノ要件ヲ充足セバ召集ヲセネバナラヌト云フ様ニスレバヨイト思フ
第四章関係
二五、国務大臣ニ関スル規定ヲ如何ニ取扱フベキヤ(Cf憲五五条)
国務大臣ガ議会ニ対シテ責任ヲ負フ規定ヲ設クベシ
(イ説)本条第二項ニ国務大臣ハソノ在職ニ就キ議会ノ信任ヲ必要トスル旨ヲ規定スベシ
(ロ説)第三章ニ両議院(或ハ単ニ衆議院)ハ国務大臣ノ不信任ヲ決議スルヲ得ル旨(或ハ更ニソノ場合ニ国務大臣ハ退任スベキ旨)ヲ規定スベシ
(ハ説)第一〇条中ニ右ノ如キ趣旨ヲ規定スベシ
議会ニ「責任」ヲ負フト云フコトニスルト、第五五条ハ第三条ノ不可侵権ト密接ナル関係アル故別条ニ於テ規定セネバナラヌコトトナルガ「責任」トセズ「信任」トアル(イ説)ヲ第五五条第二項ニ入レタラヨイト考ヘラルルモ、如何ナル規定ニスルカハ問題デアルカラ之ハ宿題トシテオク
両議院ニ不信任決議権ヲ認メル必要ハアルガ、問題ハ貴族院ニ於テ決議セル場合衆議院ノソレノ様ナ効果ガ生ズルヤ否ヤト云フ疑問ガ起ル。然シ乍ラ衆議院ノミニ不信任決議権ヲ認メルト貴族院ノ他ノ権限迄モ削ラルル懼ガ生ズルシ又一院ヨリ不信任ヲ表明サレタ大臣ハ事実上辞メザルヲ得ナイ立場ニナルコトトナルカラ、帝国議会ノ所ニ両院ノ不信任決議ノコトノミヲ規定シテ其ノ結果ドウナルト云フコトニ付テハ書カナイ様ニスルノガ良イ様ニ考ヘラレル
「内閣ハ国務大臣ヲ以テ組織ス内閣官制ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム」ト云フ風ニ規定スルノモ良イ方法デアルカラ斯ル条文ノ研究モ宿題トシテオク。但此ノ場合「内閣ヲ組織ス」トアルハ連帯責任ヲ意味スルモノナリヤ又ハ国務大臣ノ個々人ノ責任ヲ指スモノナリヤニ付明瞭ニスル必要ガアルト考ヘラレル若シ後者ノミナラバ斯ル規定ハ特ニ設ケル必要ハナイ様ニモ思ハレル
二六、枢密院制度ニツキ改ムベキ点アリヤ(Cf憲五六条)
(イ説)枢密院ハ之ヲ廃止スベシ
(ロ説)之ヲ存置シソノ権限ヲ縮少スベシ
内大臣府ト共ニ廃止サルベキモノト考ヘル、併シ乍ラソレハ現在ノ構成ヲ前提トシテデアツテ、御諮詢ノ府ハ必要ナリト考ヘラレル従ツテ憲法上ハ今ノママニシテオイテ構成員ヲ変更スレバヨイト思ハレル、即チ官制改正ヲ行ヘバヨイ少クモ国務大臣ガ構成員トナルノハ考ヘモノデアル。
権限ニ付テハ之ヲ強化シ後継内閣ノ奏請、貴族院ノ勅選議員ノ選任等ヲ加ヘル要スルニ元老府、重臣府トスル必要ガアル、ロ説ニ於テ権限ヲ縮少スベシト云フノハ諮詢事項ヲ少クスルコト、ツマリ全リ細少ニ亘ルコトハ之ヲ諮詢シナイ方ガヨイト云フ意味デアル
(三)次囘ノ総会ハ十一月二十四日(土)午前十時半ヨリ行フコトトシ審議未了トシテ残ツテヰル司法及会計ニ付テ審議スルモノトシ、ソノ前ニ調査会ヲ一九(月)二〇(火)ノ両日午後一時半カラ開催シテ問題ヲ整理シテ置クコトトセリ尚会計ニ付テハ専門家ガ委員ニ居ラザルヲ以テ大蔵省主計局関係官ニオ願スルコトトセリ

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第四囘調査会議事録

日時 昭和二十年十一月十九日(月)午後一時半―四時半
場所 内閣総理大臣官舎会議室
出席者 松本委員長、宮沢、小林、入江、奥野、中村各委員(河村、清宮、楢橋、佐藤、石黒、大池委員欠席)刑部、佐藤、窪谷各補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
(一)本日ハ第五章関係ノ全部ト第六章関係ノ一部ヲ議題トシ審議シタリ大蔵省側ノ委員補助員本日ヨリ参加セラレタリ
第五章 司法
第五十七条
司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ裁判所ノ構成ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
「天皇ノ名ニ於テ」トイフ字句ヲ今後モ存置スベキヤ否ヤトイフ問題ハアルト思フガ、之ハ 天皇制ソノモノガ問題ニナラナケレバ此ノ文字ヲ残シテ置イテモ何等差支ナシ。
「法律ニ依リ」トイフ字句ノ解釈ニ就テハ議論ノアル処デアル。此ノ法律トイフ文字ヲ形式的ナ意味ノ法律ト解シ、裁判官ハ法律ノミニ服従シ命令ニハ審査権ヲ有スルトイフ説ヲ為スモノモアル。一派ノ学説ハ司法行政ハ同格デアルガ、立法ハ此ノ両者ヨリ優位ニアルカラ、司法権ハ法律ヲ審査スルコトハ出来ナイガ行政権ニ基ク命令ニ対シテハ審査権ガアルトイフ。然シ通説ハ明ニ違憲ナル法律ハシヤインゲゼツツデアルカラ之ニハ服スル必要ナシトシテヰル。
「裁判所ノ構成ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム」トイフ条文ニ付テハ検事局ニ付テハ如何トイフ議論モ生ズルガ、之ハ第十条ノ所デ触レタ様ニ重要ナル官制ハ法律ヲ以テ定メテモ差支ナイノデアルカラ問題ニシナクテモ良イ。
第五十八条
「其ノ職ヲ免ゼラルルコトナシ」ノ其ノ職トハ官ヲ指スモノナルコトニ解釈ハ一定シテヰル、従ツテ停年退職ハ違憲デハ無イトサレテヰルガ、之ヲ官ト解スルコトニ付テ此ノ条文ハ裁判ノ独立ヲ保障スル精神カラ来テヰルノデアルカラ、公職併セテ保障シナケレバ徒ニ官ノミ有セシメ職ハ無クテモ差支ナイトイフコトニモナリ、実質的ニハ違憲デアルトモ考ヘラレル。
第六十条
特別裁判所トハ何カ、軍法会議領事裁判ヲ指ス様デアルガ、裁判セラルベキ事項ガ特別デアリ且裁判所トイフ以上其ニ相応シイ組織ヲ有タナケレバナラヌト解セラレル、ソノ定義カラスレバ領事裁判ハ果シテ特別裁判所ナリヤ否ヤ疑ガアル
司法裁判所ニ対シテ「特別」ナルモノトスルナラバ特許審判、家事審判、商事審判等ハ此ノ中ニ入ルモノデアル様ニモ考ヘラレル
特別裁判所ハ第五十七条、第五十八条ヲ排斥スルモノデアルトイフ説モアル。
第六十一条
行政裁判所ノ問題ニ付テハ米英系ト大陸系ト考方ニ相違ガアル。
米英系ハ司法裁判所ニ統合セラレテ居リフエルブルツングスゲリヒトヲ別ニ設置スルノハ独仏系ノ法律思想デアル。
此ノ両者ノ立法例ヲ良ク調ベル要ガアル
(二)次ニ「別紙帝国憲法ノ改正ニ際シ検討スベキ会計関係問題」ヲ逐条的ニ審議シタルモ結論的ニハ取纏メナカツタガ、各条ニ対スル主ナル意見ハ次ノ通リデアツタ。
第六十二条
租税的ナ性質ヲ有スル専売品ノ価格ハ例ヘバ煙草ノ定価ニ付テハ現在大蔵大臣ガ閣議ニスラ附議セズシテ之ヲ決定シテヰルガ、之ハ租税的性質ノモノデアルカラ法律ヲ以テ定メルノガ妥当デハナイカトノ意見ガアル。
郵便ニ付テモ、通常郵便物ノ料金ハ偶々郵便法トイフ法律デ定メラレテヰルガ、小包郵便物ノ料金ハ命令ニ委任セラレテヰル。鉄道運賃ニ付テハ特別ノ法律規定ガ無イ。然シ乍ラ此等ニ付テモ実費的ノモノナラバ使用料手数料トシテ考ヘテ差支ナイガ、其ノ範囲ヲ超エテ例ヘバ臨時軍事費ニ繰入レル目的ヲ以テ鉄道運賃ヲ値上スル如キモ鉄道大臣ノ恣意ニ委ネルノハ妥当デナイトノ意見ガアル。以上ヲ一元的ニ法律ヲ以テ定ムルトイフ意見デアル
第六十三条
一年税主義ハ立法論トシテハ考ヘラレルガ実際ニハ必要アルマイ。
第六十四条
憲法ニ規定スルトセバ、一年ヲ超ユル期間ヲ以テ一会計年度トスルコトヲナカラシムルコト及ビ特別会計制度ヲ廃止スルトイフコトモ議論セラレ得ル
所謂責任支出ノ問題ニ付テハ、政府ガ腹ヲ定メレバ之ヲ止メテモ良イガ、止メレバ都合ノ悪イコトモ出テ来ルト思ハレル。依ツテ存置スルトスレバ、ムシロ六十九条第二項ニ移シタ方ガ良イト思フ
第六十五条
議会ニ予算提案権ヲ認ムルヤ。之ハ認メタトシテモ結局ハ政府カラ資料ヲ得ナケレバ作成シ得ナイノデアルカラ形式的ナモノニナルニ過ギナイ。実際上ハ大ナル関心モ払ハレテヰナイ。
貴族院ノ予算修正権ノ廃除ニ付テハ既ニ論ゼラレタ所デアル
第六十六条
皇室経費ニ付テハ最近、禁衛費一〇〇〇万円ヲ政府ガ第二予備金ヨリ支出シタガ、之ガ実質的ニハ皇室費ノ増額デハナイカトイフ議論ト皇室費四百五十万円ハ其ノ他ニ御料林等ノ収入二千数百万円ヲ合セテ一年ノ経理ヲシテヰルノデアルカラ、ムシロ帝国議会ノ協賛ヲ経テ国庫ヨリ全部ヲ賄フ様ニシテハ如何トノ議論ガアリ得ル。後者ノ場合ニハ皇室費ノ多寡ガ問題ニナツテ来ル虞ガアル。
第六十七条
「憲法上ノ大権ニ基ツケル既定ノ歳出」トハ何カニ付テハ第一囘帝国議会ニ於テ法律ヲ以テ其ノ範囲ヲ定メテヰルガ、ムシロ此ノ規定ヲ「法律及法律ニ基ク経費」トイフ風ニ改正スルガ良イ様デアル。
但シ此ノ場合ニ於テモ法律ノ改正ニ依ツテ継続的支出即チ制度ガ急ニ廃止セラルル危険ハアルガ、現在デモ政府ハ行政機構ノ改正ハ一方的ニ行ツテヰルノデアルカラ、議会ガ或ル程度之ニ参加スルコトハ已ムヲ得ヌトコロデアラウカ。
以上

(極秘)
八部ノ内四冊

憲法問題調査委員会第五囘調査会議事録

日時 昭和二十年十一月二十日(火)午後一時半―四時
場所 内閣総理大臣官舎会議室
出席者 宮沢、佐藤、奥野、中村各委員(松本委員長、河村、清宮、石黒、小林、大池、楢橋、入江各委員欠席)刑部、佐藤、窪谷各補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
(一)昨日ニ引続イテ第六章会計ヲ逐条約ニ審議セリ
第六十八条
継続費ノ制度ヲ廃止スルヤ
継続費トシテ議会ノ協賛ヲ経タモノハ、其ノ事業ガ継続スル期間中ハ議会ノ協賛ヲ要セヌトイフ制度ハ、他国ノ立法例ニハ類ヲ見ナイノデアルガ、政府自ラ之ヲ打切リ或ハ繰延ベテ自由ニ行ツテヰルノデアルカラ、議会側ニ之ニ手ヲ触レサセヌコトハ妥当ヲ欠ク。仍テ、継続費ニ関スル制度ハ之ヲ廃止スベシトイフ議論モ成立ツノデアルガ、実際問題トシテハ之ヲ廃止セヨトイフ声ハ無イノミナラズ、継続的事業ヲ議会側ノ政党的利害関係カラ恣意的ニ廃止セラルル危険ガアル。本制度ハ特ニ廃止スルヲ要セヌデアラウ。
第六十九条
第一予備金即チ避クベカラザル予算ノ不足ヲ補フ制度ハ異論ノ無イトコロデアルガ、予算ノ外ニ生ジタル必要ノ費用ニ充ツル為ノ第二予備金ノ制度ニ付テハ、殊ニ戦時中、其ノ金額ガ極メテ多額ニ上リタル為ニ問題トサレテヰルノデアル。
第二予備金ハ之ヲ全廃スベシトイフ議論ハ極端デアルガ、予備金ノ限度ヲ制限スベシ(例ヘバ一億円)トイフ議論ハ有力ニ主張サレ得ル。第二予備金ノ支出ニ付テ議会ノ構成員ヲ以テ組織スル委員会ノ議ニ附スルコトヲ条件トセヨトイフ意見モアルガ、コレモ金額ガ制限サレテ居レバ差支ナイガ予備金ノ全体ノ額ガ現在ノ様ニ多額デアレバ、却ツテ議会其ノモノノ権威ヲ失墜スルコトニモナル。
府県ニ於ケル参事会ノ様ナモノヲ制限サレタ予備金ニ付テ設クルコトハ一案デアル。
責任支出ヲ認メルトスレバ第六十四条第二項ハ本条ト合セ規定スベキデアラウ。
第七十条
財政上ノ緊急処分ヲ廃止スルコトハ妥当デハナイト思ハレル。
財政上ノ緊急処分ノ先例ハ公債借入金ヤ国庫ノ負担トナルベキ契約ノ締結ニ関シテ行ハレテ居リ、本制度ヲ以テ増税ヲ行ツタ例ハナイ。
増税ヲ本制度デ行フ場合第七十条ノミデ出来ルノカ、第八条及第七十条ト両方デ行カネバナラヌノカハ議論ノアツタ所デアル。
外国ニハプロイセン憲法ニハ類例ガアルガ、其ノ他ノ国ニハ本制度無クシテ巧ク行ツテヰル様デアル
第七十条ト第八条トヲ比較スルト第七十条ノ方ガ条件ガ重クナツテヰルガ之ハ私有財産ヲ保護スル為ノ資本主義的イデオロギーノ発現デアルト考ヘラレル。
第七十一条
前年度予算施行ニ関スル問題デアル。
憲法上ハ単ニ前年度予算ヲ施行スル様ニ規定サレテヰルガ、行政実例ハ実行予算ヲ編成シ之ニ不足スルモノヲ追加予算トシテ施行シテヰル例デアツテ、実行予算ト追加予算トノ合計ガ其ノ年ノ予算トイフコトニナルノデアル。
次ニ此ノ制度ノ改革案トシテハ次ノ各説ガアルノデアル。
(イ説)前年度予算ヲ十二分シテ、其ノ年度予算成立ニ至ル迄月割的ニ施行スル案
本案ノ欠点ハ割ルコトノ出来ヌ経費ニ付テハ実行出来ナイコトニ在ル
(ロ説)議会ガ解散ニナレバ致シ方ナイガ、然ラズシテ審議未了ニナリサウナ時ハ骨格的ナ仮予算ノ審議ニ依ツテ次ノ議会迄此ノ仮予算ヲ施行スル案
本案ハ本予算ト共ニ仮予算ヲ必ズ提出セネバナラヌトイフ不便ガアリ、又議会側ニ於テモ予算ノ審査ヲ不必要ニ延長スル危険ガアル。
(ハ説)仮予算ニ付テモ、之ガ成立セヌコトモアリ得ルカラ、其ノ場合ハ前年度ノ予算ヲ執行スルトイフポーランド憲法ノ例モアル。
(ニ説)解散ノ場合ハ前年度ノ予算ヲ四ケ月間施行シ然ラザル場合ハ仮予算ヲ組ムトイフユーゴースラビヤノ立法例モアル。本制度ハ仮予算ナラバ短期間ノモノモ編成出来ルガ、前年度ノ予算ヲ四ケ月間施行スルトイフコトハ技術的ニ困難デアル。
(ホ説)前年度ノ予算ヲ三分ノ一ヅツ延長サセルトイフノハスペイン憲法ノ例デアルガ月割ヲ以テ使用シ得ルモノハ良イガ、ソノ何ケ月分ヲ使用スルトイフコトハイ説同様困難ガアルト思フ
(ヘ説)予算不成立ノ場合ハ前年度ノ予算ノ範囲内ニ於テ必要已ムヲ得ナイモノノミノ予算モ編成シ之ヲ施行シテ次ノ議会ノ承諾ヲ求ムルコト。
(ト説)仮予算ガ出来ナイトキハ財政上ノ緊急処分ニ依ツテ予算ヲ編成スルコトモ考ヘラレル
此ノ例ハ韓国ノ予算ヲ朝鮮ニ引継イダ時ニ実例ガアル。
(チ説)第七十一条ヲ全廃シテ責任支出デヤルコトモ考ヘラレル。
(リ説)一体三月三十一日迄ニ予算ガ成立シナケレバナラヌトイフ理論的ナ根拠ハ無イノデアルカラ例ヘバ四月ニ入ツテモ審議スレバ予算ガ成立スルトイフ見透ガ付キタル場合ハ、別ニ三月三十一日ヲ以テ不成立ニシナクトモ良イノデハナイカ
以上色々ナ意見ガアルガ(ヘ説)(ト説)ガ有力デアツタ
(二)次囘ノ総会迄ニ全部ノ整理ヲ了スルコトトナツタ。

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第四囘総会議事録

日時 昭和二十年十一月二十四日(土)午前十時三十分―午後三時
場所 内閣総理大臣官舎会議室
出席者 松本委員長、清水、美濃部、野村各顧問、宮沢、河村、清宮、石黒、小林、大池、楢橋、入江、佐藤、奥野、中村各委員、刑部、佐藤、窪谷各補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属(欠席者無シ)

記事
(一)前囘ノ調査会(第四囘及第五囘)ニ於テ審議シタル第五章司法及第六章会計ノ章ニ関スル諸問題ヲ、配布書類「第二囘乃至第五囘調査会並ニ第二囘及第三囘総会ニ於テ表明セラレタル憲法各条項ノ改正ニ関スル諸意見」ニ基キ再検討セリ。主要ナル意見左ノ如シ。
第五章 司法
三二、第五十七条 司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ裁判所ノ構成ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
(イ説)「天皇ノ名ニ於テ」ノ字句ヲ修正スルノ必要ナシ
(ロ説)法律審査権ニ付テハ特ニ規定スルノ必要ナシ
○右(イ説)及(ロ説)ハ孰レモ承認セラル。
三三、第五十八条 裁判官ハ法律ニ定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス、裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルルコトナシ
懲戒ノ条規ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五十九条 裁判ノ対審判決ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ法律ニ依リ又ハ裁判所ノ決議ヲ以テ対審ノ公開ヲ停ムルコトヲ得
現状ニテ可ナリ
○右モ亦異論ナシ
三四、第六十条 特別裁判所ノ管轄ニ属スベキモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム
(イ説)削除スベシ
(ロ説)現状ノママ存置スベシ
○両説対立シタ。
イ説ニ依ル論者ハ軍法会議ハ不要ニナツタノデアルカラ、特別裁判所ノ制度ハ之ヲ廃止シ通常裁判所ニ統合スレバ良イトイフノデアルガ、ロ説ヲ称ヘル者ハ、司法権ノ独立トイフコトノ意味ハ司法官ヲ行政官ト区別シ其ノ混交ヲ許サヌ趣旨デアルカラ行政官ヲシテ司法官ノ任務ヲ行ハシムルハ適当デナイトシ、例ヘバ特許審判ヲ例ニ挙ゲタガ、特許審判ハイ説ニ依レバ特別裁判所ノ範疇ニ入ラヌモノトサレタ。尚ロ説論者ハ将来軍ノ再建アル場合軍法会議ハ必要トナルベク又領事裁判ノ必要モ起ルデアラウカラ存置セヨト言ツタガ、イ説論者ハ軍備ヲ撤廃シ乍ラ尚将来之ガ必要ヲ予想スルハ聯合国ニ対スル誠意ヲ欠クモノトシ一蹴サレタ。
斯クテ折衷的意見トシテ、将来若シ所謂家事審判所商事審判所ノ設置ガ問題トナツタ場合、斯ル素人ヲ関与サセル制度ヲ現在ノ通常裁判所ノ組織ニ於テ実現スルコトハ至難デアルカラ、例ヘバ商事部、家事部トイフ様ナモノヲ通常裁判所ニ附設シ、此ノ上訴ノ系統ヲ三審制ト切離シテハ如何トイフ提案ガアツタノニ対シテイ説論者モ反対ハサレナカツタ。
尚右ニ関聯シ現在停止サレテヰル陪審制度ノ復活ニ付質問ガアツタガ、米国ノ或ル法律家ハ陪審制ハアングロサクソンニハ適シテヰルガ日本人ニハ適サヌデアラウト云ツタ由。
又、裁判官ノ停年制モ弊害ガアルノデ、将来ハ八十才ノ高齢者ト雖モ、適任ナラバ大審院長ニ補サレ得ベク又所謂若朽者流モ之ヲ淘汰シ得ル様考慮スベキモノトサレタ。
三五、第六十一条 行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ属スベキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラズ
行政裁判所ヲ廃止シ、行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ハ司法裁判所ノ管轄ニ属スルモノトスベシ。
(試草1)行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ハ法律ノ定ムル所ニ依リ司法裁判所ノ管轄ニ属ス
(試草2)行政官庁ノ違法処分ニ依リ権利ヲ傷害セラレタル者ハ法律ノ定ムル所ニ依リ司法裁判所ニ出訴スルコトヲ得
○本案ニ賛成スル論者ハ、現在ノ様ナコトデハ消極的権限争議ガ頻発シ行政訴訟ト司法裁判トノ両者ノ保護ヲ受ケ得ザル人民ガ出来ルノミナラズ行政裁判所ハ監督不行届デ人事停滞シ、優秀ナル人材ヲ得難ク、事務又停滞シテ一事件ノ裁判ニ十年以上ヲ要スルコト少ナカラズ人民ノ権利保護上欠クル所多キヲ以テ、之ヲ司法部ニ編入シ且ツ現在ノ一審制ヲ二審トスベキデアルトスル。
之ニ反シ法ヲ公法、私法ニ区別スル場合、公法即チ行政法ニ通暁シテヰル者ガ此ノ法ノ執行ニヨル結果果シテ権利ヲ傷害セルヤ否ヤヲ裁判スベキデアツテ、司法官ニ之ヲ掌ラシムルハ妥当デナイトスル論者ト、三権分立ノ思想ガ我憲政ノ基礎ヲ為シテヰル以上司法権ガ行政権ニ優位スル様ナ組織ニスルコトハ不可デアルトイフ論者トガ、前説ニ反対シタ。
然シ乍ラ、民事刑事ノ裁判ノミヲ司法ナリト考ヘルコトハ独断デアツテ、苟モ法ヲシテ真ノ法ノ姿タラシムルモノガ司法デアル。現ニ司法ノ章ノ中ニ行政裁判所ノ規定モ入ツテヰルノデアツテ、現在ノ機構ノ行政裁判所ニ依リ事ヲ行ハントスルハ百年河清ヲ待ツニ等シク、百害アツテ一利ガナイ。仍チ司法裁判所ニ行政部ヲ設ケレバ良イノデアル。司法部ガ行政ノ当不当ニ迄容喙スルトイフノデハ無イカラ、憲法ニ別ニ規定ヲ設ケル必要ハ無イトイフコトニ落着シタ。
第六章 会計
三六、第六十二条 新ニ租税ヲ課シ及税率ヲ変更スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ但シ報償ニ属スル行政上ノ手数料及其ノ他ノ収納金ハ前項ノ限ニ在ラス
国債ヲ起シ及予算ニ定メタルモノヲ除ク外国庫ノ負担トナルヘキ契約ヲ為スハ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ
(イ説)租税以外ニ於テ国民ニ財政上ノ負担ヲ課スル場合(例、郵便、電信、鉄道ノ料金乃至運賃ニモ法律ヲ要スル趣旨ヲ明示スベシ
(ロ説)特ニソノ旨ヲ明示セズトモ現状ニテ可ナリ
○主義主張トシテハ(イ説)即チ法定主義ヲ可トスベキモ、実際上ハ困難ガ伴フヲ以テ現状ノママニテ可ナリトノ意見多数。
三七、第六十三条 現行ノ租税ハ更ニ法律ヲ以テ之ヲ改メザル限ハ旧ニ依リ之ヲ徴収ス
(イ説)一年税主義ヲ採リ之ヲ憲法ニ規定スベシ
(ロ説)右ノ趣旨ヲ憲法ニ規定スルノ要ナシ
○ロ説多数
三八、第六十四条 国家ノ歳出歳入ハ毎年予算ヲ以テ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ
予算ノ款項ニ超過シ又ハ予算ノ外ニ生シタル支出アルトキハ後日帝国議会ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
(イ説)議員ニ予算ノ発案権ヲ認ムルノ要ナシ
○之ハ当然ノコトナリトセラル
(ロ説)一年ヲ超ユル期間ヲ以テ一会計年度トスルコトヲ禁ズル趣旨ヲ規定スベシ
(1説)憲法中ニ規定スベシ
(2説)会計法ニ規定スベシ
○之ハ臨時軍事費ニ於テ採ラレタル如キ制度ヲ禁止セントノ趣旨ナルモ、必要ナラバ会計法中ニ規定スベク、憲法ニハ規定スル要ナク、現行通リニテ可ナリトスル意見多シ。
(ハ説)特別会計制度ニ付憲法ニ規定ヲ設クベシ
○特別会計ガ多過ギルトイフコトハ云ヘルガ、之ヲ廃止スルコトハ出来ナイ。
一般会計ノ外ニ特別会計ヲ設ケ得ルトイフコトヲ憲法ニ規定スルコトモ一案デハアルガ強イテ其ノ要ナカルベシ。
(ニ説)責任支出制度ヲ廃止スベシ。而シテソノ趣旨ニ於テ本条第二項ヲ第六十九条第二項ニ移スベシ。
○剰余金ガ多クアルカラ此ノ問題ガ起ルノデアル、剰余金ガ多クアルノハ実ハ可笑シイノデアル。従来ノ例ハ剰余金ガアレバ責任支出ヲヤリ、剰余金ガ無イカ又ハ不足スル場合ニ予備費ヲ使ツテ緊急処分ヲヤツテヰタノデアル。予備費ノ制度ガアカラ此ノ方デユケバヨイノデアル。
三九、第六十五条 予算ハ前ニ衆議院ニ提出スベシ
Cf 第三十三条 帝国議会ハ貴族院衆議院ノ両院ヲ以テ成立ス
○既ニ第三十三条ニ於テ審議終了セリ。
四〇、第六十六条 皇室経費ハ現在ノ定額ニ依リ毎年国庫ヨリ之ヲ支出シ将来増額ヲ要スル場合ヲ除ク外帝国議会ノ協賛ヲ要セス
(イ説)本条ヲ削除スベシ
(ロ説)之ヲ存置スベシ
○本条ヲ削除スベシトノ論拠ハ、斯ル条文在ルヲ以テ皇室ハ特権的位置ヲ占ムルモノナリトイフ考ヲ抱ク者無キヲ保セズ、却ツテ累ヲ皇室ニ及ボス虞アルコト、及ビ現在ノ定額四五〇万円ハ僅少ナル金額デアルカラ、実際上ハ他ノ皇室財産収入ト合セテ経理シテ居ラレル、斯ル条文ハ之ヲ削除シテモ、日本人ノ信念トシテ皇室経費ヲ兎ヤ角論議スルコトガ議会ノ大多数ヲ占ムルトハ絶対ニ信ゼラレヌ所デアルカラ、ムシロ斯ル条文ハ削除スルガ良イ。
之ニ対シ、同ジク日本人ノ信念トシテ此ノ条文ハ存置スベキデアルトイフ説ガ多数ヲ占メタ。
細カイ問題トシテハ若シ之ヲ削除シタ場合皇室費モ他ノ各省所管ノ予算ノ様ニ款項ニ分ツテ計上シナケレバナラヌノカ或ハ補助金ノ様ニ一本ニナシ得ルノカガ論議セラレタガ、現在ハ所管外トシテ款項ナシデ一本デアル。即チ実質ハ皇室会計ニ対スル国ノ上納金デアル。従テ将来モ同ジ形式デ行ケルノミナラズ、之ガ議会ニ於テ論議セラルル場合ニ於テモ、皇室経費其ノモノガ論議セラレルノデハ無クシテ、皇室会計ニ対スル国ノ上納金ガ論議セラルルコトニナルノデアル。
又現行憲法ハ「将来増額ヲ要スル場合ヲ除クノ外」トアルガ之ヲ改正シテ「増減ヲ要スル場合ヲ除クノ外」トシテハ如何カトイフ説モアツタガ、然スルト発案シタ以上更ニ一層減ズルトイフコトモ議会ニ於テ出来ルコトトナリ結果ニ於テハ、本条削除説ト同様ニナツテシマフノデアル。結局存置カ削除カニ帰着シ多数ハ削除説ニ反対デアツタ。
四一、第六七条 憲法上ノ大権ニ基ツケル決定ノ歳出及法律ノ結果ニ由リ又ハ法律上政府ノ義務ニ属スル歳出ハ政府ノ同意ナクシテ帝国議会之ヲ廃除シ又ハ削除スルコトヲ得ス
(イ説)「憲法上ノ大権ニ基ツケル既定ノ歳出及」ヲ削除スベシ(重要ナル官制ハ法律ヲ以テ定ムベキモノトス)Cf第一〇条
(ロ説)右ノ場合ニ於テ条約ニ基ツク歳出ノ取扱ニ付考慮スベシ(Cf第一三条)
○英国ニモシヴイルサアヴイス・ペンジオン等ニ基ツク既定ノ歳出ニ付テハ同様ノ例ガアル、若シ之ヲ削除スレバ政府ハ毎年議会ノ鼻息ヲ伺ハネバ行政官府ヲ恣意的ニ廃絶セラレ、議会側ニ依ツテ行政整理ヲ行ハレル虞アリトノ削除反対説モアルケレド、官制ヲ法律ヲ以テ制定スレバ、同様ノコトハ起リ得ルノデアリ、実際上ハ削除シテモ差支ナイトノ意見ガ多数ヲ占メタ。
四二、第六八条 特別ノ須要ニ因リ政府ハ予メ年限ヲ定メ継続費トシテ帝国議会ノ協賛ヲ求ムルコトヲ得
(イ説)継続費ヲ廃止スベシ(之ヲ廃止スルモ必シモ実際上ノ不便ヲ生セズ)
(ロ説)之ヲ廃止スルノ要ナシ
○此ノ制度ヲ廃止スレバ議院ニ依リ、政府ノ企図スル継続事業ガ、恣意的ニ中止セラレタリスル危険ハアリ得ルノデアルガ、然シ継続費ニ付テモ政府ハ之ヲ勝手ニ繰延ベタリ打切ツタリシテ居ルノデアルシ、又初年度ハ少額ノ予算ヲ計上シ乍ラ次年度以降ニ於テ之ヲ膨張サセルコトモ多ク財政ノ放慢ヲ来ス虞モアルカラ之ヲ削除スルコトモ已ムヲ得ナイ
サリナガラ、本制度ハ存続スルガ政府トシテハ好都合デアリ斯カル行政ノ技術的ナ条項ハ存置スベキデアルトイフ説ガ多数ヲ占メタ。
尚此ノ条文審議ニ際シ関聯シテ国庫ノ負担トナルベキ契約ヲナスノ件ヲ包括的ニ決メルノハ違憲デハナイカ、之ハ特定ノ契約デナケレバナラヌノデハナイカトイフ議論ガアリ、其ノ沿革ヲ調査スルコトトナツタ。
四三、第六九条 避クヘカラサル予算ノ不足ヲ補フ為ニ又ハ予算ノ外ニ生シタル必要ノ費用ニ充ツル為ニ予備費ヲ設クヘシ
(イ説)予備費ノ全廃ハ実際上適当ナラズ
(ロ説)予算外支出ノ為ノ予備費ハ之ヲ一定額以内ニ限ルコトト為スベシ
(ハ説)予備費ノ支出ハ委員会ノ審査ヲ経ベキモノトシ、貴衆両議院議員中ヨリ其ノ委員ヲ選任スベシ
(ニ説)第六四条第二項ヲ本条第二項ニ移スベシ(Cf第六四条)
○(イ説)ハ当然ナリト為ス意見多シ
(ロ説)ニ付テハ総予算ノ何分ノ一トイフコトニシテハ如何トイフ論ト議会ガ適当ニ削減スレバ良イノダカラ別段憲法ニ規定スル要ナシトノ意見ガアリ、必要ナシトイフ意見ガ多数デアル。
(ハ説)之ニハ賛成ノ意見ガ多ク、此ノ制度ヲトレバ予備費ノ限度ヲ設クル要ナシトノ意見ニ帰着シタ。
(ニ説)永年ノ慣習ニ基クコトハ急ニ変ヘル要ハナイ、行政技術ニ属スルコトハ現在ノ儘ニテ差支ナシトノ意見多シ。
之ニ付テハ第六十四条第二項ヲ参照スルヲ要スル。
四四、第七十条 公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需要アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ帝国議会ヲ召集スルコト能ハサルトキハ勅令ニ依リ財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
(イ説)財政上ノ緊急処分制度ハ之ヲ存置スルヲ妥当トス
(ロ説)ソノ発布ハ(第八条ノ緊急勅令ノ場合ト同ジク)可能ナル限リ帝国議会ノ常置委員会ノ議ヲ経ベキモノト為スベシ。
○(ロ説)ガ多数デアル。尚其ノ常置委員会ハ両院別々ノモノトスルノガ適当デアルトイフ意見ガ多イ。
四五、第七十一条 帝国議会ニ於テ予算ヲ議定セズ又ハ予算成立ニ至ラサルトキハ政府ハ前年度ノ予算ヲ施行スヘシ
(イ説)前年度ノ予算ヲ施行スル場合ハ速カニ議会ヲ召集シ予算ヲ提出スヘキ旨ヲ規定スヘシ
(試草)(第一項)会計年度開始前ニ予算成立ニ至ラサルトキハ(会計年度開始後ニ於テ)予算成立ニ至ル迄ノ間政府ハ前年度ノ予算ヲ施行スヘシ
(第二項)前項ノ場合ニ於テ会計年度開始後ニ於テ帝国議会閉会中ナルトキハ速カニ帝国議会ヲ召集シ予算ヲ提出スヘシ
(第三項)第一項ノ規定ニ依リ施行セラレタル予算ハ其ノ後ニ於テ成立スル其ノ年度ノ予算中ニ編入セラルルモノトス
(ロ説)予算不成立ノ場合ハ国ノ常務ヲ継続スルニ必要ナル歳出及ビ法律ノ結果ニ由リ又ハ法律上政府ノ義務ニ属スル歳出ノ為ノ経費ヲ限リ前年度ノ予算ヲ施行スベキモノト為スベシ而シテ此ノ場合ハ次ノ議会ノ承諾ヲ要スルモノト為スヘシ
(ハ説)前年度予算施行ノ制度ヲ廃シ、一定期間ヲ限リ仮予算ヲ設クベシ
(ニ説)仮予算ノ制度ヲ設ケタル場合ニ於テ仮予算不成立ノ場合ハ前年度ノ予算ヲ施行スベキモノトナスベシ
(ホ説)本条ヲ削除スベシ
○本条文ニハ以上ノ如ク種々ノ説ガアルノデアル。本条ヲ削除スベシトイフ説ハ之ヲ廃止シテ第七十条ノ緊急処分デ足リルトイフノデアルガ結論トシテハ(イ説)ノ修正ニ落着イタ、即チ前年度予算ノ範囲内ニ於テ実行予算ヲ編成シ、例ヘバ之ヲ三ケ月施行シ更ニ之ト残リノ九ケ月ノ予算トヲ合セテ次ノ議会ニ提出シ既ニ実行セル部分(之ハ多分月割デ決メルコトトナラウ)ノ承諾ヲ求メ将来ニ対スル予算ノ協賛ヲ求メル方法デアル。此ノ説ハ現在政府ノ行ツテヰル行政実例トモ一致スル方法デアルカラ、最モ実行シ易イ手段デアル。大勢ハ此ノ説ニ賛シテヰル。
(二)次ニ別刷ノ問題集ヲ議題トシテ更ニ審議ガ続ケラレタ。
1、帝国議会不開会ノ間ニ之ニ代ハルヘキ両院議員組織ノ審議会ヲ設ケ諮問ニ当ラシムルノ可否
○両院議員ヲ構成要素トスル委員会ヲ各院別々ニ設ケ、之ヲ諮問機関タラシメ、衆議院ノ解散ノ場合モ尚資格存続スルモノトシテ之ヲ法律ヲ以テ定ムルヲ可トストイフ結論トナツタ
例ヘバ緊急勅令ハ其ノ委員会ニ諮問セラルルノデアルガ、枢密院ニハ其ノ場合モ尚諮詢セラルベキモノトイフ意見ガアル蓋シ帝国議会ニ正式ニ提出セラレ其ノ協賛ニ依ル法律デモ枢密院ニ事前ニ諮詢セラルルモノガアルカラデアル。
2、帝国議会ヲシテ自ラ解散ヲ提議セシメ得ルモノトスルノ可否
○議会ノ召集、開会、閉会、停会、解散等ニ関スル立法例ヲ見ルト其ノ権限ヲ行政府ニ属セシムルモノト議院即チ立法府ニ属セシムルモノトノ二様ガアル。我国ハ前者ニ属スル。
又、若シ行政府以外ニ解散ノ提議権ヲ有セシムルトスレバ、ソレハ国民ニ与ヘラルベキモノデアラウ。
仍テ本案ニ対スル意見ハ否デアル。
3、皇室予算ニ付議会ノ変更ヲ認ムルノ可否
○之ニ対シテハ既ニ第六六条ニ於テ研究ヲ了シタ。
4、外国人モ原則トシテ日本臣民ト同様ノ取扱ヲ受クヘキ旨ヲ定ムルノ可否
○立法例ヲ調査スル要アルモ斯ル規定ヲ設クルノ要ナシ
5、貴族院ヲ特議院ト改称スルノ可否
○元老院、第一院、第二院等ノ名称ナラバ未ダシモデアルガ特議院ハ可笑シイ。我国ニハ法令上貴族ナルモノハ無イノダカラ現状ノ儘デモ差支ナイト思フガ、孰レニセヨ特議院ハ否デアル
6、天皇ノ統治権ノ行使ハ万民ノ翼賛ニ依ル旨ヲ特記スルノ可否
○大日本帝国憲法上諭ニ「・・・・・其ノ翼賛ニ依リ与ニ倶ニ国家ノ進運ヲ扶持セムコトヲ望ミ・・・」トアル所カラ之ヲ本文ニ加フベシトイフノデアラウケレドモ、「万民」トイフ文字ハ可笑シク、ムシロ臣民トイフ所デアラウ。翼賛トイフコトモ大政翼賛会ニ先例ヲ見ル通リ意味ノワカラヌコトデアル。又臣民ノ翼賛ニ依リトシテモ、統治権ノ行使中例ヘバ裁判権ナドハ臣民ノ翼賛ニ依ルトハ考ヘラレヌ。要スルニ本案モ否デアル
7、委任命令ノ規定事項ニ一定範囲ヲ定ムルノ可否
○本条ニ関シテハ第九条関係ノ(ロ説)「独立命令ヲ廃止シ、委任命令ニ就キ規定スベシ」ヲ参照セラレタイ。然シ一定ノ範囲ヲ劃スルコトハ不能デアル仍テ本案モ否。
8、同一事由ニ依リ同一ノ内閣ガ二囘以上ノ衆議院ノ解散ヲ為シ得ヌト規定スルコトノ可否
○同一事由、同一内閣ノ定義ハ困難デアル。斯ルコトハ明文化セズ、政治ノ運用デヤルベキデアルト思フ。此ノ点ワイマール憲法ニ先例ガアルカラ良ク調査スルコト
(三)以上ヲ以テ全部ノ審査ヲ終了シタ。来ル二十六日カラ臨時議会ガ始マルガ臨時議会中ハ頻繁ニ委員会ヲ開催スルコトハ出来ナイ、仍テ従来ノ諸意見ヲ取纏メタモノヲ資料トシテ再調製シ之ヲ基礎トシテ、各委員ニ於テ改正草案(仮案)ヲ起草スルコトトシ、該草案ハ臨時議会終了後間モ無キ十二月十七日(月)迄ニ之ヲ提出シ、同月二十二日(土)午前十時三十分ヨリ総会ヲ開催之ヲ検討スルコトニナツタ。

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第六囘調査会議事録

日時 昭和二十年十一月二十四日(土)午後五時―九時
場所 内閣総理大臣官舎放送室
出席者 宮沢、河村、清宮各委員、佐藤補助員、岩倉内閣書記官

記事
(一)此ノ第六囘調査会ハ従来ノ会合ニ、公務ノ都合上、欠席ノ多カツタ河村、清宮両委員ノ為ニ、ソノ間論議セラレタ多クノ論点ヲ詳細ニ亙リ宮沢委員ヨリ説明スルト共ニ、両委員ノ意見ヲ聴キ今後ノ研究ニ資スル為ニ開カレタノデアツタ。従ツテ会議ハ主トシテ従来ノ論議ヲ綜合復習スルコトニ終始シ、新シイ論点ガ討議サレタコトハ少ナカツタノデアル。
(二)主ナル意見ヲ条文ヲ逐ツテ記述スレバ次ノ通リデアル。
第一条 大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス
○此ノ文句カラ統治ノ客体ハ大日本帝国(領土及臣民)ニシテ、天皇ハ大日本帝国ノ外ニ在ルトノ印象ヲ受ケルノデアルガ、ソノ点ヲ改正スルノ必要ガナイカ。此ノ疑問ニ対シテハ「○○中将ハ第○師団ヲ指揮ス」トイフ場合、○○中将ハ師団長トシテ第○師団ノ中ニ在ルノデアルカラ何等差支ナイ。
大日本帝国ノ「帝国」トイフ語ハ帝国主義ヲ聯想セシメルカラ大日本国、又ハ日本国トスルノ要ナキヤ。其ノ要ナシ。
第三条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
○「神聖」ノ語ハ神ノ子トシテノ天皇ト云フ日本独特ノ基礎付ケノ動機トナリ、アメリカノ好マヌ所デアルノミナラズ、現在天皇制ニ対スル自由ナル批判ヲ促進シツツアルアメリカノ態度ハ、憲法義解ノ本条文ノ解釈タル「指斥言議ノ外ニ在リ」トノ観念ト真正面カラ衝突スル。仍テ之等ノ見地ヨリ、「天皇ノ一身ハ」トスルカ或ハ天皇ハ政治上無答責ナルコトヲ挿入スル必要ナキヤ。十分考慮ノ要アリ。
第七条 天皇ハ帝国議会ヲ召集シ其ノ開会、閉会、停会及衆議院ノ解散ヲ命ス
○議員ノ議会召集権ノ規定ハ、本条デハ無ク第四十三条「臨時緊急ノ必要アル場合ニ於テ常会ノ外臨時会ヲ召集スヘシ臨時会ノ会期ヲ定ムルハ勅命ニ依ル」ノ条ニ入ルルヲ可トスル。
い説ノ「解散以外ニ於テ何等カ貴族院ノ反省ヲ求ムル方法ヲ考慮スベシ」ニ付テハ別ニ方法ハ存在シナイト思ハレル。
第八条 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス此ノ勅令ハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出スヘシ若議会ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ将来ニ向ツテ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ
○緊急勅令ヲ議会ノ常置委員会ニ諮問スル場合ニ於テモ尚枢密院(若ハ参議院)ニ諮問スベシトイフ意見ガ総会ニ於テ述ベラレタノデアルガ、更ニ枢密院ニ諮詢スル必要ハ無クナルト思フ。
(ハ説)乃至(ヘ説)マデ即チ試草(第三項)乃至(第六項)ヲ此ノ条文ニ入レルト、本条文ガ他ニ比シ頗ル長文トナツテ他トノ均衡ヲ失スルコトトナル。現在マデノ緊急勅令ノ慣行ハ大体(ハ説)乃至(ヘ説)ト同様ニナツテヰルノデアルカラ、特ニコンメンタール式ニ明記シナクテモ良イノデハナイカ。
第九条 天皇ハ法律ヲ執行スル為ニ又ハ公共ノ安寧秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福ヲ増進スル為ニ必要ナル命令ヲ発シ又ハ発セシム但シ命令ヲ以テ法律ヲ変更スルコトヲ得ス
○ロ説即チ「独立命令ヲ廃止シ、委任命令ニ就キ規定スベシ」ノ試草ノ様ニ規定スルト、却ツテ委任命令ヲ大々的ニ認メルコトニナル虞ガアル。委任命令ハ慣行上認メテヰルノデアルカラ、特ニ憲法ニ新シク定メル必要ハ無イ。
イ、ロ、ハ説共ニ、所謂独立命令ヲ認メナイコトニナルガ、実際上独立命令ノ弊害ガ問題ニナルノハ地方令等細カイ所ナノデアルカラ、ソレハ委任命令デヤツテユケル。
第十一条 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
第十二条 天皇ハ陸海軍ノ編成及常備兵額ヲ定ム
○潔ク裸ニナツテ平和国家トシテヤツテ行クノダトイフコトヲ明ラカニ示ス方ガ内外共ニ必要デアルカラ、第十一条及第十二条ハ削除スルヲ至当トス
第十三条 天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス
○防禦的戦争ノ場合ハ議会ノ協賛ヲ経ナクトモ良イトイフコトニスルト、議会ノ協賛ヲ経サヘスレバ、侵略戦争モ、シテ良イト云フ様ナ印象ヲ受ケル。
宣戦ニ付テハ全然規定シナイトスルノモ一ノ方法デアル。若シ規定スルトスレバ攻撃的防禦的ノ区別ヲツケナイ方ガ良イノデハナイカ。
第十五条 天皇ハ爵位、勲章及其ノ他ノ栄典ヲ授与ス
○勲章ダケガ残ルノナラ、ムシロ本条ハ全然削除シテモ良イノデハナイカ。
第二章表題 臣民権利義務
兵役ノ義務ハ無クナリ、納税ノ義務ハ第六二条ノ納税法律主義デモ示サレルノデアルカラ、義務ガナクナルトイツテモ良イ、随テ臣民権利義務ノ表題ハ適当デハナイ。「臣民権利」ダケデハ非難モサレヤウカラ、単ニ臣民デモ良イ。包括的ニ「臣民ハ此ノ憲法及法律ニ服従スベキ義務ヲ負フ」ト規定スレバソコニ義務ハ現ハレルガ、コレハ余リニモ当然ノコトヲ言フニ過ギナイ。
第二十七条 日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルルコトナシ
公益ノ為必要ナル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル
○憲法ハ私法デハナイノデアリ、又「所有権」トハ私法ノ所謂「所有権」ノミヲ指スモノデハナイト云フコトハ一般ニ認メラレテヰルノデアルカラ「所有権」ノ意味ヲ一層明確化スル字句ヲ入レル必要ハナイ。
第二十八条 日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス
○神道ノ問題ハ第三条トモ関聯シテ大イニ重要デアリ神社ヲ普通ノ宗教トシテ取扱フ旨ヲ明示スル要ガアルノデハナイカ。
第三十四条 貴族院ハ貴族院令ノ定ムル所ニ依リ皇族華族及勅任セラレタル議員ヲ以テ組織ス
○(ロ説)「皇族議員、華族議員及ビ勅任議員ヲ全廃シ、選挙ニ依ル議員ヲ以テ組織スルモノトスベシ」ノ(3説)「議員ハ地域代表的性質ヲ有スルモノノ外職能代表的性質ヲ有スルモノヲ置クベシ」ノ(試草)「貴族院ハ貴族院法ノ定ムル所ニ依リ選挙セラレタル議員ヲ以テ組織ス」ノ「選挙」ヲ「特選」トシタラ如何。
「貴族院」ニ代ル名称トシテ「審議院」ハ如何
第四十二条 帝国議会ハ三箇月ヲ以テ会期トス、必要アル場合ニ於テハ勅命ヲ以テ延長スルコトアルヘシ
○(ロ説)「会期ハ三箇月以上ニ於テ議院法ノ定ムル所ニ依ルト為スヘシ」憲法デ「三箇月以上ニ於テ」トシ、法律デ「五ケ月」トスルノナラバ一層ノコト憲法デ「五ケ月」ト定メタ方ガ良イノデハナイカ、法律故容易ニ変更セラレナイノデアルカラ何モ二段ニ分ケル必要アルマイ。
第四十五条 衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ勅命ヲ以テ新ニ議員ヲ選挙セシメ、解散ノ日ヨリ五箇月以内ニ之ヲ召集スヘシ
○「三ケ月」トイフコトガ確定スルナラバ選挙法第一条第三項ノ趣旨ヲ本条ニ規定スル要ハナイ。
第五十五条 国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス
凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス
○(ロ説)「国務大臣ガ議会ニ対シテ責任ヲ負フ規定ヲ設クヘシ」ノ色々ノ説ノ中(1説)「本条第二項ニ国務大臣ハソノ在職ニツキ議会ノ信任ヲ必要トスル旨ヲ規定スベシ」ガ一番良イデアラウ。
(5説)ノ様ニ貴族院モ不信任決議権ヲ有スルトスレバ其ノ権限ヲ弱クスル意味ガナクナル
以上ノ外ハ特ニ格別ノ意見ナシ

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第五囘総会議事録

日時 昭和二十年十二月二十二日(土)午前十時半―午後四時
場所 内閣総理大臣官舎会議室
出席者 松本委員長、清水、美濃部、野村各顧問、宮沢、河村、清宮、石黒、大池、入江、佐藤、奥野、中村各委員、古井嘱託、刑部、佐藤、窪谷各補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属(小林、楢橋委員欠席)

記事
一、先ツ松本委員長ヨリ第八十九囘帝国議会ニ於ケル憲法問題ニ関スル質疑応答ニ関シ報告アリ、即チ帝国議会ニ於テハ憲法改正問題ニ関スル根本方針トシテ
(イ)天皇ガ統治権ヲ総攬セラルル原則ニハ変更ナキコト
(ロ)議会ノ権限ヲ拡張シ、所謂大権事項ヲ制限スルコト
(ハ)国務大臣ノ輔弼ノ責任ハ国務全般ニ及ビ帝国議会ニ対シテ責ヲ負フコト
(ニ)臣民ノ権利自由ヲ保護シ、其ノ侵害ニ対スル国家ノ保護ヲ強化スルコト
ノ四原則ヲ明ニシ、尚右ノ他、国民労役義務、宣戦布告等ニ就テモ若干ノ答弁ヲ行ヒタル旨報告セラル
次デ新聞ノ報ズル近衛公草案ニ依ル天皇ノ御下命問題ニ付其ノ事実ニ非ザルコトヲ説明セラレ、本件ニ付テハ本日正午新聞記者ト会見シ事実無根ナル旨ヲ言明セラルル予定ナルコトヲ語ラレタリ。
尚本日ヨリ前内務次官古井喜実氏本委員会ノ嘱託トシテ会議ニ出席セラルルコトトナリタリ。
二、本日ハ別冊「憲法問題調査委員会第一囘乃至第四囘総会並ニ第一囘乃至第六囘調査会ニ於テ表明セラレタル諸意見」ヲ議題トシ逐条的ニ審議スルコトトナリタリ。
第一章 天皇
第一条 大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス
改正ノ要ナシ、天皇ノ統治権ノ行使ハ万民ノ翼賛ニ依ル旨ヲ特記スルハ妥当ナラズ(多数)(Cf第四条)
○我国ハ戦争ニ敗レ現在「大」ノ字ヲ冠スルハ妥当ヲ欠クノ感アルコト、又「帝国」トイフ語モ感ジガ悪イカラ「日本国」ト改メテハ如何カ、外交文書ニハ「日本国」トノ文字ヲ使ツテヰルカラ日本国デ良イノデハナイカ、トノ意見ガアリ
(A案)日本国ハ君主制(君主政体、君主国)トシ万世一系ノ天皇ヲ君主トス
(B案)第一項 現行ノ通
第二項 統治ハ臣民ノ輔翼ニ依リテ行フ
B案ノ論拠ハ次ノ如クデアル
(イ)憲法第一条ハ従来専制主義的ニ解釈セラレル虞ガアツタコト
(ロ)民主主義トナツタトイフコトヲ表現スルジエスチユアートシテ必要ナルコト
(ハ)古来我国ハ君民一体、君民共治等トイハレテヰルカラソノ旨ヲ表明スルコト
而シテ「臣民」トイフ文字ハ之ヲ「国民」ト改メタイノデアルガ、之ヲ国民ト改メルト影響スル方面ガ大キク例ヘバ憲法第二章臣民ノ権利義務ニモ及ビ又従来ノ詔勅ノ用語ニ「臣民」ヲ使ハレテヰルノデ全部国民ト改メルノモ困難ト思フ旨ノ意見アリ。
尚国家総動員法ニハ臣民ノ徴用ニ付規定シ之ニ基ク勅令ハ国民徴用令デアツテ国民トイフ字モ相当ニ熱シテヰル文字デアルトイフ説アリ。「輔翼」トイフ文字ハ「協賛」ト相違スルカ、司法権ハ臣民ノ輔翼ニ依ラヌノデハナイカトノ意見ガアツタガ、斯ノ様ナ条文ハ政治的理念ヲ掲ゲルニ過ギヌノデアルカラ必シモ実定法的ニ細カニ議論スルヲ要セザルベク、例ヘバ「主権ハ人民ニ発ス」トイフ共和国憲法ノ条項ノ如キモ其ノ例デ之ガ無クテモ共和国タルノ実ヲ失フモノデハナイカラ、要ハ斯ル政治理念ヲ掲ゲルヤ否ヤトイフ点ニ存スル
尚本条ニ関聯シテ第四条ノ「国ノ元首ニシテ」ノ字句ヲ削ツテモ良イデハナイカトイフ意見モ出タ。即チ第一条ニ於テ天皇ガ君主デアルコトガ明カナラバ重複ノ要ガナイトスルノデアル。
要スルニ結論トシテハ第一条及第四条ハ其ノ根本精神ハ毫モ之ヲ変更スルノ要ハ無イケレドモ、現行条文ノ「言葉ツキ」ガ強過ギル様デアルカラ改メルトスレバ其ノ意味デ改メルヲ可トスル、然シ出来レバ現状ノ儘デユキタイトイフコトニナツタ。
第二条ハ皇室典範規定ノ事項ヲ憲法ノ中ニ加ヘル案モアルガ之ハ現行通リトシテユキタイトイフコトニナツタ。
第三条 天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
之ハ表現ヲ改メル要ガアルトイフ意見ガ多イ、私案トシテハ
(A)天皇ハ国務ニ付責ニ任スルコトナシ
本案ハ国務ノミナラズ道徳的ニモ法律的ニモ一切ノ責ニ付セズトイフ従来ノ感方ト一致シナイ
(B)天皇ノ尊厳ハ侵スヘカラス
コレハ尊厳ハ侵スヘカラサルモノナルモ尊厳以外ハ侵シテモ良イカトノ疑問ガアル。
其ノ他ノ案トシテハ
(C)天皇ハ至尊ニシテ侵スヘカラス
(D)天皇ハ尊厳ニシテ侵スヘカラス
(E)天皇ハ国ノ元首ニシテ侵スヘカラス
(F)天皇ハソノ行為ニ付責ニ任セス
(G)天皇ノ身位ハ侵スヘカラス
(H)天皇ハ侵スヘカラス
(I)天皇ハ悪事ヲ為ス能ハス
(J)天皇ハ統治権ノ行使ニ付責ニ任セス
等ノ案ガアルノアルガ、要スルニ現行憲法ノ「神聖」トイフ文字ニ伴フ形而上的色彩ヲ払拭スルコトガ対外的ニ必要デアルトイフ結論ニ達シタ。
第四条 之ハ第一条ト関聯シ第一条ト共ニ論ゼラレタ処デアル
第五条 天皇ハ帝国議会ノ協賛ヲ以テ立法権ヲ行フ
之ニ付テハ人民投票制度ヲ採用スルトスレバ此ノ条文ノミデハ足リナイトイフ問題ガアル。人民投票ハ或ル特定ノ問題ニ対スル人民ノ賛否ヲ投票ニ依ツテ決メル方法デアツテワイマール憲法ニ先例ガアル。然シ日本ニ於テ之ヲ採用スル積極的ナ必要モ乏シイ様デアル若シ行フトスレバ憲法改正ノ要否ヲ問フトイフガ如キ場合ニ過ギナイデアラウ。
第六条 天皇ハ法律ヲ裁可シ其ノ公布及執行ヲ命ス
本条ノ「及執行」ヲ削除セヨトノ意見ガアル。
尚両院ヲ通過シタ法律ノ裁可ノ時間ノ限度ヲ憲法ニ定ムベシトイフ意見ガアル。即チ裁可ノ期限ハ現在議院法ニ依リ次ノ議会迄ニ為サレナケレバナラヌノデアルガ、此ノ「次ノ議会」トハ次ノ通常議会迄ニトイフ立法精神デアルト思ハレルガ実際上ハ臨時議会モ含マレルトイフ取扱方デアル為ニ両議会ノ時期ガ切迫シテヰル際ニ於テハ非常ニ忙シイコトニナル。又理論的ニ言ツテ法律ノ裁可ハ大権事項デアルニ拘ラズ法律ニ依ツテ其ノ裁可ニ期限ヲ附スルコトハ大権ヲ犯スモノデアルトモイヘルノデ若シ規定ヲ要スルトスレバ憲法ニ規定ヲ設クベキデアルトスルノデアル。
第七条 天皇ハ帝国議会ヲ召集シ其ノ開会閉会停会及衆議院ノ解散ヲ命ス
貴族院ノ機構ノ改革ニ伴ヒ衆議院ノミナラズ貴族院ニ対シテモ解散ヲシナケレバナラヌ要ヲ生ズルヤモ知レヌノデアルガ之ハ貴族院ヲ考究スル際ニ検討スルコトトシタイ。
第八条 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス此ノ勅令ハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出スヘシ若議会ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ将来ニ向ツテ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ
緊急勅令ノ発布ハ帝国議会ノ常置委員会ノ議ニ附スへシト為ス意見ガ殆ンド全員賛成スル所デアルガ、其ノ常置委員会ノ構成ニ付テハ両院各別ノ常置委員会ヲ設クベキカ、両院議員ヨリ成ル単独ノ常置委員会ヲ設クベキカニ付テハ必シモ意見ガ一致シナイ。即チ議会ニ代ハルベキモノトシテ各別ノ委員会ノ必要ヲ論スル者ト緊急勅令ノ如キ緊急ヲ要スルモノヲ各別ノ委員会ニ附議スルハ適当デ無ク両院議員ヲ構成分子トスル単独ノ委員会ニ附議セラルル様ニスルノガ便宜デアルトイフ説トガアル。色々組合セヲ研究スルコトニ申合セタ。更ニ七〇条ノ条件ト同ジニ「帝国議会ヲ召集スル能ハサルトキ」トイフ文句ヲ入レル案モアリ、又「新ニ法律ヲ制定スヘキ緊急ノ必要ヲ生シタル場合」ト改メテモ良イガ、然スルト逆ニ緊急勅令ヲ拡メルコトニモナル印象ヲ与ヘルコトニナルトノ意見ガアツタ。
尚事後承諾ヲ得ルコト能ハザリシ場合緊急勅令ガ自動的ニ効力ヲ失フト実際上困ルトイフ意見ガアリ、矢張公布ヲ以テ失効スル様ニスルガ良イトイフ意見ガアツタ。
第九条ニツイテハ、美濃部案ノ様ニ独立命令ヲ行政規則ノミニ限ル様ニスルノナラムシロ憲法ニ規定スル必要ガナイデハナイカ、又、「法律ノ委任ニヨリ」トシテ委任命令ヲ認メルコトハ従来ノ委任命令ヲマスマス広メルコトニナルカラ、ソレハ実際ニ任セテモイイノデハナイカトノ意見アリ。
独立命令ヲ廃止シテシマフコトハ実際行政上絶対ニ困ルノデアルガソレガ濫用サレタノハ、警察命令ニ関スル限リハ立法事項ノ例外ト見ル見解ガ原因トナツテヰルノデアルカラ、「法律ヲ以テ定ムルヲ要スルトセラルル場合ヲ除クノ外」ト云フ意味ヲ入レテソノ範囲ヲ限定スレバヨイノデ、モシサウスレバ「行政ノ目的云々」ト云フ様ナコトハ不要トナル、トノ意見ガアリ、コレニ対シテハ、美濃部案ソノ他モソノ趣旨ハソレト同ジデ実質上ソノ様ナ場合ニノミ独立命令ヲ限定スルタメニ右ノ様ナ文句ニスルノデアルトノ弁解ガアツタ美濃部案ノ但シ以下ハ第二章ニ入レルベキデハナイカトノ意見モアツタ。
宮沢委員案ハ第九条ノ次ニ典範ニ関スル規定ヲ置クコトニナツテヰルガ、憲法ト典範トノ関係ハ事皇室ニ関シ、及ブ所重大デアルカラモシ出来レバソレニ触レナイコトトシタイトノコトデアツタ。
第一〇条ニツイテハ
(1)枢密院、内閣等ノ官制ハ夫々ソノ条項デ「法律ヲ以テ定ム」トスレバヨイノデ宮沢委員案ノ但書ハイラナイデアラウ。但書ハ現行通リデヨイ
(2)「重要ナル官制」ノ文句ハ莫然トシテヰル。
(3)現行憲法ガ官吏ノ俸給ノミヲ定メテヰルノハオ笑シイガソレニ代ヘテ「官規」(宮沢)トイフ様ナ語ヲ入レルト、官吏ノ俸給ハ大権事項デナクナリ、議会ノ勝手ニナルトイフ風ニ解サレテハ困ルト云フ意見アリ
第一一、一二条ノ問題ハ、外ノ情勢ニヨツテ決マルコトニナルト思ハレルカラココデハコノママ通過スルガ、削除スレバ一層簡単、モシ削除シナイノナラ二ケ条ヲ一ケ条トシ、更ニ軍事ニ関シテモ大臣ノ輔弼事項ナルコトヲ明文化スルコトニハ異議ガナイ、第一三条ノ宣戦ニツイテモ同様。
第十三条 河村委員案但書ハ「諸般ノ条約」トスレバイカナル種類ノ条約デモ締結サレルコトトナリ、例ヘバ津田三蔵ノ様ナ場合ハ裁判所ノ権限ニ関スルコト、又日独条約ニヨツテモシモ日本ノ政治体制ヲナチス的ニスルコトヲ約スルト云フ様ナ場合ハ、行政機関ノミニヨツテ、立法部、司法部ノ決定スベキコトガ決メラレテシマフ危険ガアルノデソレヲ防グ意味デアル。
之ニ関聯シテ国際法上、憲法上ノ条約一般ノ性質ニツイテ議論ガ闘ハサレタ
○外務省ノ意見参照。即チ外交大権ニツイテ議会ノ協賛ヲ必要トスルコトトスルト、議会閉会中急イデ条約ヲ結ブ必要生ジタトキハ第八条式ノモノガ必要トナルシ、議会ノ事後承諾ヲ条件トシテ条約ヲ締結スルコトニスレバソノ承諾ガ得ラレナカツタ場合ソノ条約ノ効力ハドウナルノカ等ノ問題ガ論ゼラレタ。前者ニツイテハヤハリ常置委員会ニ俣ツコトトスベキデアラウシ、後者ニツイテハ、条約当事者ハ相手国ノ国内法ニ関スル智識ヲ有スベキコトガ前提トサレルノデアルカラソノ様ナ場合ニハ条約ノ失効止ムヲ得ナイトノ説ト、相手国ニ対シテハ議会ノ承諾不承諾ニ拘ラズ効力ガ発シ、唯国内的ニノミ政府ノ責任問題ガ生ズルノミデアルトノ説ガ争ハレタ。
第十四 条戒厳廃止異議ナシ。

以後特記スベキコトナシ

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第七囘調査会議事録

日時 昭和二十年十二月二十四日 午後一時半―五時半
場所 内閣総理大臣官舎放送室
出席者 宮沢、河村、清宮各委員、古井嘱託、刑部、佐藤各補助員

記事
二十六日ノ第六囘総会ノ議事進捗ヲ図ルタメ第二章以下ニツイテ各委員起草ノ試案ヲ網羅的ニ参照シツツ予メ重要ナ問題ノ所在ヲ明カニシテ置クタメニ小委員会ヲ開イタ。
○第二章ノ表題、兵役ノ義務ガ削カレ、納税ノ義務ダケトナリ、又ソレモ第六二条ノ規定デ充分ナリトシテ第二章カラ削除サレル様ニデモナレバ、臣民権利義務ト云フ表題ガ問題トナル。但兵役ノ義務ニ変ル他ノ義務ヲ新タニ設ケルコトモ考ヘラレルカラ表題ニツイテハ後デ考ヘルコトトスル。
○第一九条ニ平等権ヲ規定スルコトニツイテハ、特ニ議論モナク、総会デ研究スルコトトスル。
○兵役ノ義務ニ代ル義務トシテ、河村委員案ハ第二一条ノ次ニ「勤労ノ義務」ヲ規定シテヰルガ、コレハ精神的、肉体的両方面ノ意味ヲ含ムツモリデ、第二章ニ手ヲ入レル以上ハ、カウ云フ社会的ナ要素ヲ入レルコトガ考慮ノ価値ガアル。
労働ノ権利ニツイテ規定スルコトハ実際上極メテムツカシイノデ、ワイマール憲法的ニ法律ハ労働者ノ保護ト救護ニツイテ定ムベシト云フ風ニシタ。即チ勤労ハ国家ノタメニ働クト云フコトデナシニ、働カザルモノハ食フベカラズ式ノ考ヘデアリ、従ツテ働キタル者ハ生存権ヲ保障セラレネバナラヌト云フ考ヘデアル。
「勤労ノ権利ヲ有シ義務ヲ負フ」ト云フ形ハ如何?
以上ノ意見ニ対シテハ、実際問題トシテ将来ノ日本ハ失業問題ガ必至デアルカラ、カウ云フコトヲ憲法デ規定スルト、出来ナイ相談ヲ掲ゲルト云フ結果ニナリ、憲法ト実際トノ間ニ大キナギヤツプガ出来テクル、政府ハソレニヨツテ束縛サレルコトニナツテ困ルコトニナルノデハナイカ、折角規定ハシテモ空文ニナツテシマフノデハナイカト云フ意見ガ出タ。
之ニ対シテハ、タトヒ出来ナイコトデモ今日ノ社会状態上、国家ノ最高方針トシテ掲ゲル必要ガアルノデハナイカ、凡ソ変革ノ際ノ憲法ハ、出来ナイコトデモ施政ノ大方針トシテ掲ゲル必要ガアルト云フ反対論ガ出タ。
ドノ程度マデソレヲ入レルカハ問題ダガ、勤労ノ権利位ハ当然入レルベキデハナイカ。
今日ノ状勢ハドウセ改正ヲスルノナラ相当積極的ニヤラネバ乗リ切レナイ状勢ニ近ツキアルノデ、第一条乃至第四条スラヤハリ手ヲ入レネバスマナイ勢ニナリツツアル。サウ云フ点ヲ考慮シテ、調査会トシテモモツト積極的ニ手ヲ入レル方針ヲトラネバナラナイト云フ意見ガ支配的ナ空気デアツタ。
○個別的ナ自由ヲ増ヤスコトデハ「営業ノ自由」ガ問題ニナルガ、第二章ノ最後ニ河村案第三〇条ノ様ニ、包括的ニ権利自由ヲ規定スルコトモ問題トナル。
○各個ノ自由ノ定メ方ニツイテモ、現行第二七条ノ様ニシテ、法律ニヨル制限デモ無制限ナ制限ハ許サレナイノダト云フコトヲ明カニスル方ガイイノデハナイカ。タトヘバ河村案第二八条ノ様ナ形ヲ全部ニ亘ツテトルコトハ出来ナイカ。
○第二八条、神社ヲドウスルカノ問題ハ、最近ノ政治ト神道ノ分離ニ関スルマツカーサー指令ニヨツテモウ解決セラレタガソノ趣旨ヲ追認的ニ掲グル必要アリヤ。
○請願ニツイテ、小林案、大池案ハ、「相当ノ敬礼ヲ守リ」ヲ削除スベシトシテヰルガ、封建的ナ匂リヲ払拭スル意味モアリ、アツテモナクテモイイモノナライツソノコトトツテシマツテモイイデアラウ。
○第三章ニツイテハ両院制ヲ維持スルコトハ異論ガナイトシテ、マダ貴族院ヲイカニスルカニツイテ決マツテヰナイノデ調査会トシテモソレガ決マラナイ中ニハイロイロ考ヘテモ何ニモナラナイ。憲法改正ト貴族院改革ヲ何レヲ先ニスルカノ問題ト共ニ、早ク政府ノ最高方針ヲ明カニシテモラヒタイトノ意見ガ強カツタ。
○貴族院ノ改称ニツイテ、今マデ出タ名称ハ
上院下院、第一院第二院、左院右院、南院北院、元老院衆議院、参議院衆議院、公選院特選院、特議院衆議院、公議院衆議院、耆宿院衆議院、審議院衆議院 等々
ノ組合セガアルガ、参議院アタリガ無難ト云フベキデアラウカ。
○衆議院優越ヲ明カニスルタメニ、三四条ト三五条ヲ逆ニスルコトガ必要デアラウ。
○三四条ニ選挙法ノ大原則(美濃部案、宮沢案)ヲ掲グベシ。ジエスチユアトシテモ必要。
○会期ハ、五ケ月位ニノバスノナライツソノコト万年制ニシタ方ガイイデハナイカ(休会ニヨツテトキドキ休ムコトニシテ)。万年制ニシナイノナラ三ケ月ノママデモイイデハナイカ。
○小林案ハ大臣ニ対スル議会ノ弾劾権ヲ定メテヰルガ、コレハ規定ノ要ナカラン。
○大臣ノ議会ニ対スル責任ヲ第三章ニ書クベキカ。美濃部案ハ書イテアル。ヤハリ五五条ノ所デ書ク方ガヨイ。ソノ書方モ宮沢案ノ様ニ「信任アルヲ要ス」ニ止メ、退職スベシマデ書カナクテモイイノデハナイカ。イロイロノ書方ヲ試ミテミルコトニスル。
○内閣ヲドウ書クカ。美濃部案参照。
○宮沢案ノ様ニ枢密院ヲ皇室事務ダケノモノニスルノナラ、タトヒ廃止シナクテモ憲法ニ書ク必要ハナイデハナイカ。
抑テ枢密院ハ廃止スルノカシナイノカ。将来政党政治ニ対スル防塞トシテノ役ガアルカモシレナイガ、ソレマデニ二段構ヘ三段構ヘヲ設ケテ置ク必要ハナイデアラウ。憲法ノ番人トシテノモノハ、ムシロ大池案ノ様ニ憲法裁判所ヲ新設スベシ。
○第五章ニツイテハ、特別裁判所ト行政裁判所ノ問題ダガ、前者ニツイテハ、現行法上何ヲ特別裁判所トスルカガ学説的ニモキマツテヰナイ、ソレヲモツト研究シテ決メテカラ考ヘル必要ガアル。
行政裁判所廃止論ガ調査会ノ多数ノ意向デアルガ、要スルニ司法裁判所ニ合併シテモ、非常ニ結果ガチガフト云フコトモナク、又理論的ニモドチラニセネバナラヌト云フモノデモナイ、タダ日本ノ行政裁判ノ実情カラ見テ、合併シタ方ガイクラカイイダラウト云フ程度ナノデアラウ、ト云フコトニナツタ。
○第六章ニツイテハ各委員トモ大体ニ於テ一致シテ居リ、タダ文句上ノ差異ガ少シアルニスギナイ。
皇室費ニツイテノ中村委員案ハ今マデト余リニ違ハナイ様デ、ドウ云フ意味ナノカヨク判ラナイカラ総会デ説明ヲキクコト。
○第七条ガ最モ問題デアルガ、中村案ハスベテヲ会計法ニユヅツテシマツテ、政府トシテハ今ヨリモ一層ヤリヨイコトニナル様デアルガサウ云フ印象ヲ与ヘテハイケナイノデハナイカ。
○憲法改正手続ニツイテハ、発案権ヲ議会ニモ与ヘルコトニツイテハ全員一致シテ居リ又ソレダケデアルガ更ニ憲法改正ニツイテダケデモレフエレンダムノ制度ヲ設クベキデハナイカ、或ヒハレフエレンダムデナクテモ諸外国ノ憲法ノ様ニ、憲法改正ガ発議サレタルトキニハ国民ノ総意ニ問フ意味デ議会ガ当然解散サレルコトニスル位ハ考慮スベキデハナイカ。

以上コノ小委員会デハ、各委員ノ案ヲ参照シテ問題ノ所在ヲ検討シタガソノ際特ニ新シク問題トナツタノハ
一、今迄アマリニ注意サレテヰナカツタ第二章関係ヲモツト重視シテ行カネバナラヌコト
二、右ト関聯シテ特ニ社会的ナ規定ヲ設クベキコト
三、七三条ヲ更ニ考ヘル必要アリ
ト云フ三点デアツタ。
コノ三点ニツキ総会デハ特ニ研究シヨウト云フコトニシテ散会シタ。

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第六囘総会議事録

日時 昭和二十年十二月二十六日(水)午前十時半―午後四時
場所 内閣総理大臣官舎会議室
出席者 松本委員長、清水、美濃部、野村各顧問、宮沢、河村、清宮、石黒、大池、入江、佐藤、奥野、中村各委員、古井嘱託、刑部、佐藤、窪谷各補助員、大友内閣属(小林、楢橋委員欠席)
岩倉内閣書記官ハ予算兼務ノ為欠席、本日ノ議事録ハ佐藤補助員執筆ス

記事
○一九条、「法律ノ前ニ平等ナリ」ハアマリニモ直訳的。旧通リデイイデハナイカ。
公務、就職ノミナラズ他ノ点ニツイテモ平等ト云フコトヲ云フ必要ナキヤ。
○二〇条、兵役ノ義務ニ代ルベキ義務ノ諸案。
勤労ノ権利義務ハ現状カラミテ空手形ニナル虞アリ、サウ云フ時ニ困ラナイ様ニウマク書ケレバ書イテモイイダラウ。
ロシヤ憲法的ニ、休養ノ権利マデ列挙スル必要ハナイ。
大改正ヲスル場合ハ入レテモイイ。
教育ニ関シテハ従来スベテ勅令デヤツテルガ、ソレヲ法律事項ニスルコトハ必要。
○二一条、美濃部案ノ「貢献」ニハ納税モ入ル。六二条ガアツテモ納税ハ大キナ義務ダカラ入レテモヨイ。
納税ダケデハ表題ガ問題ニナルカラ列挙的ニイロイロ書クベシ。
○自由権トシテ営業ノ自由ヲ入レルベキヤ。小改正ニトドメルナラ特ニ営業ノ自由ヲ書カズニ最後ノ所デ総括的ナ規定ヲ置ク方ガヨイ。
○自由権ノ書キ方。現行二七条ノ様ニシテ、法律ヲ以テシテモ公益、公安ノタメ以外ノ制限ハ出来ナイト云フコトヲ明カニスベシ。
○二八条ニ神社ノコトニツイテ規定スル必要アリヤ。(マツクノ先日ノ指令ヲ追認スル意味デ)ソノ場合ニモ「従来神社ノ有セシ特権ハ之ヲ廃止ス」トカ、「神社ハ特権的地位ヲ有セズ」トカハ書キタクナイ―一般的ニ特殊ナ宗教ニ対シテ差別待遇ヲシナイト云フコトヲ書イテ、ソノ結果トシテ神社モ従来ノ特権的地位ヲ喪フコトニシタ方ガヨイ。
国体ノ問題ト関聯シテ神社ハ大問題ダカラ、ヤハリハツキリ神社ノ地位ヲ否定スルコトヲ書イタ方ガヨイ。又神社ハ宗教デハナイノダカラ差別待遇ヲシテモイイト言ハレル危険モアル―コンナ理論ハ将来ハモウ起ラナイダラウ。
大改正ノ場合ニハ右ノ主旨ヲ第一項ニ入レルコト。
○二九条。美濃部案、二七条式ニスル。他ノ自由ニツイテモスベテソノ様ニシタイ。
唯ソノ要件ハ余リ使ヒ分ケガ出来ナイカラ公安、公益ノ二ツ位ニスル。
○請願ヲ重要視スル意味デ請願法、トシ「法律ノ定ムル所ニヨリ」トスル。「相当ノ敬礼云々」ヲトルヨリモコノ方ガヨイ。
従来言論ノ自由ガナカツタタメニ請願ト云フコトガ重要視サレテヰタノダカラ今後ハ言論ノ自由ニヨツテ民意ガ反映スルノダカラ請願権ナドハ削ツテモイイデハナイカ。
憲法自身デ定メレバ民意尊重ノ精神的効果ハアル。
○貴族院ノ名称。両議院ト云ヒタイカラヤハリ衆議院ハソノママニシテ×議院ト云フ風ニシタイ。参議院位ガイイ。宿題。
○貴族院ノ権限ト関聯シテ、貴族院ノ解散ハドウシテモアル程度ノ条件ノ下ニ必要デハナイカ。
○例ヘバ三年ノ中ニ三囘衆議院カラ囘附シタ同一議案ヲ貴族院ガ可決シナカツタ場合ニ貴族院ヲ解散スル。政党政治ニ対スル防塞トシテ貴族院ノ権限ハ余リニ縮少シタクナイ。将来衆議院ガ憲法改正ヲ発議スル場合ヲモ考ヘテ、シカシ権限ヲ対等ニスルト貴族院ガツヨクナルカラ解散ヲ一定要件ノ下デ認メル。ソノ程度ハ右ノ位デイイデハナイカ。
○両院制度ヲ維持スル以上両院ノ特質ヲ生カスベシ、将来ハ衆議院ト政府ハ一体トナリ之ニ対シ貴族院ガ対立スルト云フコトニナルノダカラ貴院ニ解散ヲ認メルノハ適当ナラズ解散ヲ認メル位ナラ右ノ様ナ場合ニハソレハ法律トナルト云フ風ニシタ方ガイイ。
○解散シナクテモ両院ノ間ニゴタゴタガ生ジタトキニハ両院ノ合同会議又ハレフエレンダムニヨツテ裁決スルコトノ方ガヨイ。以上三案ニツイテナホ考ヘル
○貴族院ノ組織
○色々アルケレドモ法律ニヨルコトトスルコトハ異議ナシ
皇族議員、華族議員廃止モ異議ナシ、議員全部ヲ選挙ニヨルトスルカ、勅任ヲ認メルカガ問題。スベテ法律ニ委ネテモイイデハナイカ(衆議院ハ公選ト云フコトガ絶対ノ要件ダガ、何デモ入ツテイイト云フノナラスベテ法律ニ委ネテモ可ナラン)
○折角改正ヲスルノナラ大方針ヲ規定スベシ。法律ニシタダケデハ別ニ改正シタコトニナラナイ。
○選挙セラレタモノ(職能、地方)ト勅任ニヨルモノ、ノ二種類ニシタイ。
○衆議院ノ方ハ選挙法ノ定ムル所ニヨリ、トシテ憲法改正ノ煩ヲサケタ。今後モコレト同ジニ貴族院ノ方ヲシテハイカガ。
○衆議院ノ方ハ「公選」ト云フコトニ大キナ意味ガアル。ソレニ対照トナル様ナ原理ヲ貴族院ノ方ニモ書クベキデ、タダ法律ニシタダケデハ足ラヌ、職能ト云フ様ナ語ニ熟シナイ語デハアルガ、ムシロソレヲ熟サセル様ニ努ムベキデハナイカ。色々ノ書キ方ヲ研究スルコト。
○選挙法ノ大原則ヲ書ク必要アルベシ。
○会期。議院ノ方カラ会期延長ヲ求メラルコトトシテハ如何、サウスレバ憲法デ特ニ会期ヲ長クスル必要ナカルベシ。
一院ノ要求アレバ他院ガ希望シナイニモ拘ラズ政府ガ従ハネバナラヌコトニナルノハ不穏当ナラン。ソンナコトヲ認メナクテモ政府ハ議院内閣ナノダカラ延長スルダラウ。―議会主義化ノヂエスチユアトシテ書イテモイイダラウ。
○不信任決議権ヲドコデ規定スルカ、美濃部案ハココデ書イテヰルガ大臣ノ進退ノ方ガ主ニナツテヰルカラヤハリ大臣ノ所デ書キタイ。
四九条ノ次アタリニ、両議院トモ不信任決議ヲナシウルコトトシテ五五条デハソレニ対応シテ衆議院カラ出サレタトキニハ退職スル様ニ書イテハイカガ。
貴族院ノ決議ニハダマツテヰテモイイト云フ考ヘハ考慮ノ要アラン。右ノイロイロノ場合ノ組合セヲツクツテミテ研究スル
○普通ノ常置委員会ハ議院法ニ委セル。緊急勅令ノタメノモノハ必ラズ憲法デ書ク。
○第四章 大方針ハ異論ナシ
問題トシテ残ルノハ不信任決議ハ衆議院ノミカ、貴族院モカ。
大臣訴追制度―裁判所デヤレバヨイダラウ。議会デヤレバ泥試合ニナル。日本ノ場合デハムシロ裁判所ノ方ガ信用デキル。言論自由ナラ訴追制度ガナクテモ大臣ハヤメサセラレル。
○内閣ニツイテ憲法デ規定スルカ。サウナラ官制ハ法律デ定メルコトハ当然。各省官制モ法律事項トスベキダガ憲法ニハ書ク必要ナシ。
国務大臣行政長官兼任制モ憲法デハ書ク必要ナカラン。美濃部案ハ書イテヰル。
内閣官制ノミ法律トシ、各省官制ハ法律デナクテモイイダラウ。
省ノ数ト名称ハ内閣官制ノ中ニ入レタイ。
○枢密院ハ廃止スレバ簡単。残スナラソノ官制ハ法律トスル。
廃止スルナラ皇室事務ノタメニ別ノ機関ヲ設クベシ
○司法。検事局独立論ハ問題トスベキヤ。検事局モ司法権ノ一部ナルコトヲ明カニスベシ。
○陪審制違憲論ノ起ラナイ様ニ、二四条「裁判官」ヲ「裁判所」トスベシ。
○六一条、行政裁判所廃止ハ大体異議ナシ、ソノ書キ方ヲドウスルカ、六一条削除ハ如何―削除スルト行政事件ノ救済ハ全然ナクナツテモイイト云フコトニナル危険ガアル。
「権利ヲ傷害セラレタルトキ」ト云フ丈デハセマスギル。「行政事件ニ関スル訴訟」ト漠然ト書ク方法。「(現行通リ)ソノ他行政事件ニ関スル訴訟」トスル方法モアル
○会計。中村委員案参照。
責任支出ハミトメ常置委員(緊急勅令ノタメノモノト同一デヨシ)ノ承認ヲ要スルトスル、予備金モ第二予備金ニツイテハ右ト同様。即チ六四条ハソノママトシ六九条二項ヲ加ヘル。
○国有財産ヲ民間ニ払下ゲルニハ議会ノ同意ヲ要ストスル必要ナシ
○「皇室内廷経費」トハプライベートノ経費ノ意味。ソレニツイテハ議会デ論議セズニ差上ゲル。コレニ対シパブリツクナモノ(宮内省費用、行幸費等)ハ普通ノ予算トスル、ソノ方ガ皇室ノ尊厳ヲ守ルタメニナル。後者ハコレニヨツテ国務ニナルト云フ考ヘデハナクテ議会ノ納得ヲ得タ用途ニ使フト云フ風ニスル目的。
○御料林ナドハ国有財産ニ組入レル。財産税ヲカケルナドト云フコトヨリモコノ方ガヨイ。
○七一条。憲法ニハアマリ書カナイデ、具体的ニハ、会計法ヲ憲法上ノ法律マデ格上ゲヲスル。
コノ中村案デハ現行法ヨリモ更ニラクニナルノデハナイカ。
○「暫定」ト云フコトト「成立ニ至ル迄」ト云フコトトデ、拘束ヲ受ケルコトヲ現ハシタ。
文句トシテ、出来ルダケ早イ時間ニ於テ予算ヲ出サネバナラヌ、ソノ間ヤムヲ得ズ暫定予算ヲ施行スルノダト云フコトヲ明文化シタイ議会主義化ノ印象ヲ与ヘルタメニ。
○憲法裁判所。ホトンド実際ニ働ク場合ガナイ。ムシロ実際ノ政治ニ任セテヨイ。諸国ノ実例ハ不成績デアル。憲法ニハ書ク必要ナシ。
七三条。総意ヲ反映セシメル意味デ国民投票デナクテモ、大綱ヲカカゲテソレヲ問題トシテ総選挙ヲ行ハシメルコトハ如何。解散ヲ恐レテ頻々タル憲法改正ヲヤラナクナル効果モアルダラウ。―シカシ他方少数党ガ総選挙ヲ目的トシテ憲法改正案ヲ出スコトニモナルダラウ。

以下雑談的ニ
憲法改正案提出ノ形式
公布ト施行ノ時期、ニツイテ話ヲシタ。
委員会ノ今後ハ、大改正、小改正ノ二ツノ場合ノタメ二案ヲ、宮沢、古井、入江、佐藤ノ四人デツクツテミルコト、ソレヲ材料トシテ一月下旬ニ又総会ヲ開クコト。

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第八囘調査会議事録

日時 昭和二十一年一月四日(金)午前十時三十分―午後五時
場所 内閣総理大臣官舎放送室
出席者 宮沢、入江、佐藤各委員古井嘱託刑部補助員大友内閣属

記事
(一)本会ハ新年最初ノ会合ニシテ、旧臘ノ第六囘総会ノ議ニ基キ従来ノ会議ニ於テ一応纏リタル意見ヲ条文的ニ表現スル目的ヲ以テ開カレタリ。
本日ハ第一章第一条ヨリ第十三条迄ヲ審議シ第十二条迄ヲ条文化セリ。
嚢ノ第六囘総会ニ於テハ現行憲法ニ徹底的改正ヲ行ハレタル場合ノ案ヲ「甲案」トシ、改正ヲ最小限度ニ止メタル場合ノ案ヲ「乙案」トシ、「甲案」及「乙案」ヲ併行的ニ起草スルコトトセラレタガ、本日ノ申合ニヨリ、本調査会ニ於テハ先ヅ甲案ヲ作成スルコトトシ此ノ「甲案」ヲ修正削減シテ「乙案」ヲ得ルコトトナツタ。
(二)先ヅ全般的問題トシテ論議セラレタノハ次ノ諸点デアル。
1.「大日本帝国憲法」ヲ「日本国憲法」ニ改ム
2.「日本臣民」ヲ「日本国民」ニ改ム
此ノ場合国民ノ中ニ天皇ガ含マルノカ否カニ付テ議論ガアリ、含マヌトスレバ治者ト被治者ガ対立スル感ガアルノデアルガ、第二章トシテハ「国民」ノ中ニハ「天皇」ヲ含マヌ解釈デ行フコトトナツタ「国民」ノ語ニ代フルニ「国人」トイフ語ヲ用ヒルコトモ一案トナツタ。尚此ノ問題ニハ元旦ノ詔書ニ「国民」ト云フ語ヲ用ヒサセラレタ点ガ参考ニナツタ。
3.「帝国議会」ヲ「国会」ト改ムルコト。
外ニ「議会」「日本国会」「国議会」案モアツタガ少数デアツタ
4.「大日本帝国」ノ国号ハ、国家ノ正式ノ名称ナリヤ否ヤガ論ゼラレタガ、此ノ表現ハ必シモ正式ナ呼称トイフモノデハ無ク単ニ憲法上斯ク呼称スルニ止ルモノト解セラレタ
(三)次ニ第一条ヨリ逐条的ニ審議シタ。
第一条(併セテ第四条)
(イ)日本国ハ君主国トシ万世一系ノ天皇ヲ君主トス
(ロ)日本国ノ統治権ハ万世一系ノ天皇之ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行使ス
(ハ)日本国ハ万世一系ノ天皇之ニ君臨ス
以上三案ヲ検討シタ。
(イ)案ハ端的ナ表現ハ結構デアルガ、「君主トス」トイフ表現ハ創設的ナ印象ヲ与ヘルカラ宣言的表現ヲトル為「君臨ス」トイフ表現ヲ可トスルトイフ意見ガアツタ。
(ハ)案ハ「君臨スレドモ統治セズ」ノ趣旨デアツテ斯ノ如ク改正スル以上ハ天皇ハ統治ノ実権ヲ行使セラレザルコトヲ表明セントスルモノデアル。又此ノ案ハポツダム宣言ノ徹底的履行トイフコトノ外ニ、ポツダム宣言ニ残サレタ国体ノ問題ニ対スル国民ノ信念ヲ表明セントスル含ミモアルノデアツテ、天皇制ハ之ヲ維持スルガ天皇ハ実際ノ統治ヲ行ハザルモノトセントスルノデアル。
(ロ)案ハ現行憲法ノ一条及四条ハ重複シ従来誤解ノ多カツタ条文デアルカラ、此ノ際一ケ条ニ纒メントスルモノデアル。
尚此ノ一条四条ノ問題ニ関シ(ロ)案ハ統治権ノ実体ハ天皇カ国民カ明瞭ニナラヌカトイフ点ガ論ゼラレ、之ハ学者ノ議論ニ委スベキモノデアルト為ス説ト明文化セヌトイフ説トガアツタ。
又(ハ)案ノ「君臨」トイフ意義ハ「君主トシテ臨ム」意デアリ、「統治」ヨリ一歩退ク意味ナリト論ゼラレ、如何ニ「君臨」スルカハ他ノ条文ニ依ツテ定ムベキモノトセラレタ。
次ニ(イ)案、(ハ)案ヲ採ル場合、「君主トス」又ハ「君臨ス」トセラルル天皇ハ如何ナル地位ヲ有スベキカ換言セバ第四条ハ如何ニアルベキカガ論ゼラレタ。
1.「国ノ元首」ヲ削リ「統治権ヲ総攬ス」ノミニセントスル案ハ国家ノ代表者タル意味ヲ憲法ニ存スル必要アリト批判セラレ、「天皇ヲ元首トス」トノ案ハ代表タル意デアツテ君主タル意ガ表ハレヌト批判セラレタ。
2.「統治権ヲ総攬ス」ニ付テハ語感ガ強過ギル様デモアルガ、総攬ノ実質ハ別ニ後ノ条文デ規定スレバ良イノデアルカラ、之ヲ入レネバナラヌト論ゼラレ従ツテ二案ガ立案セラレタ。
第二条
皇室典範関係ハヤラヌトイフコトニナツテヰルガ、典範ト憲法ガ並立スル状態ニアル事ヤ宮内大臣ガ国務ノ外ニ在ル事ハドウデアロウカトミラレルカラ全面的改正ノ場合ハ考慮セラルベキデアルトシ其ノ場合皇位継承、摂政等若干ノモノヲ憲法ニ移スコトガ考ヘラレ根本的問題トシテ典範ヲ憲法ノ基礎ノ上ニ置クカ否カノ点ガ指摘サレタガ、猶従前ノ方針ニ依リ之ハ後デヤルコトトシタ。
第三条
改正ヲ要スル重大問題トシテ取上ゲラレ左ノ諸案ガ起草サレタ。
(イ案) 天皇ハ(干)侵スヘカラス
(ロ案) 天皇ノ一身ハ侵スヘカラス
(ハ案) 天皇ハ統治権ノ行使ニ付責ニ任スルコトナシ
方針トシテハ神秘的ナモノヲ払拭シ、法的ニ実質上意義アル表現ヲ行フヤウ考案スルコトトシ
(イ案)ハ其ノ最モ簡潔ナモノトシテ提案セラレタガ意義ヲ具体化スルタメ「一身」ヲ入レルコトガ主張セラレ、本(ロ案)ヲ以テ一応起草スルコトトナツタ。
尚「一身」ノ語ニ「身位」トシヨウトノ案ハ「身位」ノ語ガ熟セズ意味ガ平明デナイトノ理由カラ不適当トサレタ。
尤モ(ロ案)ニ於テハ刑事上ノ責任ノ無イコトハ意味サレルガ政治上ノ責任ノ無イコトヲ意味スルカ否カ疑問ノ余地ガアリ其ノ点カラ(ハ案)ガ起案セラレタ。(ハ案)ノ難ハ政治的ノモノニ止マルコトニアル。
此ノ問題ニ付外国ノ立法例ハ
(ロ案)的ナモノト(ロ案)(ハ案)両方書クモノト両者ガアリ(ロ案)的ノモノ一ツダケノ場合其ノ一身Personノ語ガ両方ヲ意味スルカ否カヲ更ニコンメンタールヲ研究スルコトトシタ。
第五条
問題ナシトセラレ、ソノママトシタ。
第六条
(案) 「及執行」ヲ削ル
此ノ「執行」ハ監督・確保ノ意デアリ政府機関ニ法律ヲ実行サセルコトヲ天皇ガ責任ヲ有タレル事ヲ規定スルモノト考ヘラレ、又之ヲ削除セル場合執行ハ誰ガヤルノカトイフ事ガ問題トナサレル事ガ考ヘラレルガ、特ニ意味ナク又害モナイモノダカラトロウトイフコトニナツタ。
第七条
解散ハ両院ノ解散カ否カノ問題アリ之ハ七条デナク議会ノ構成ノ問題トシテ取扱ヒソレニ応ジテ起案スルコトトス。
第八条
(案) 「閉会ノ場合ニ於テ」ノ次ニ「国会常置委員会ニ諮詢シ」ヲ加フ緊急勅令ハ存置シ常置委員会ニカケルコトトシ此ノ常置委員会ハ議会ノ一ツノ常置委員会―緊急勅令ノタメノ特別ノ常置委員会ニシテ且両院各自ノモノデナク両院一本ノモノトシ、之ニ諮詢スル―決議機関トセズ―コトトスルモノデアル。
此ノ常置委員会ガ議会ノ一ツノ常置委員会タルコトカラ名称ノ問題ガトリ上ゲラレ特ニ名前ヲ冠スルカ又常置委員会ノ名ヲ之ニ独占セシムルカ等ノ案ガ出タ。
諮問カ決議カハ此ノ際ニ於テモ最モ検討セラレタガ、
政府ガ民主的ナモノトナル以上政府ヲ拘束スルノハ適当デナク又議会ノ非能率性カラシテモ政府ノ自由行動ヲ広クスルノガヨイカラ諮詢ヲ以テ足ルコトトシ、又「緊急イトマナキ場合ヲ除クノ外」ノ限定ハ憲法ノ民主化ノ趣旨ニ反スルシ全クノ緊急ノ時ハ政府ノ責任ヲ以テ事実上ニ於テ処理スベキモノデアルカラ之ヲ加ヘナイコトトシタ。常置委員会ノ規定ノ場所トシテ項ヲ別ニスル案モ出タガソレマデニセズ一項中ニ挿入スル方法ヲトツタ。
第二項ノ事項ハ現状ノママトシ緊急勅令施行後ノ諸問題ニ付細々ト規定スルコトハナサズ解釈ヲ改メル方法ニ依ルコトトシタ。
尚八条、七十条ノ対比ニ於テ七十条ガ政府トナツテヰルガ八条モ政府ト改メル方ガヨイト指摘セラレ、
ソウスレバ一章全般ニ渉ツテ天皇ノ用語ニ付検討ヲ及ボスベキデアリ根本的改正案トシテハ政府ト改メ、天皇ノ大権デハナクシ、天皇ノ名ヲ出スコトヲ限局スルヤウニスベキデアルト論ゼラレタ其場合一章条文ノ順序「第一章 天皇」トアル点ニモ及ブベキコトガ考ヘラレタ。
第九条
(イ案)天皇ハ法律ヲ執行スルタメニ又ハ此ノ憲法ニ於テ法律ヲ以テ定ムヘキモノトセラレタル事項ニ関ル場合ヲ除ク外行政上ノ目的ヲ達スルタメニ必要ナル命令ヲ発シ又ハ発セシム
但シ命令ヲ以テ法律ヲ変更スルコトヲ得ス
(ロ案)現九条中「又ハ」ノ下ニ「此ノ憲法ニ於テ法律ヲ以テ定ムヘキモノトセラレタル事項ニ関スル場合ヲ除キ」ヲ加フ
第二章ニ於テ立法事項ヲ全面的ニ拡ゲルナラバ九条ハコノママデモヨイトモ考ヘラレ又実際ニ於テ九条ノハタラク余地ガナイカラ削除スルコトモ考ヘラレタガイズレモ行過ギトミラレ、
先ズ現状ニ近イママデ警察命令ナラ法律事項デモヤツテヨイトイフヤリ方ダケヲ改メルタメニ(ロ案)ガ考ヘラレタノデアルガソレハ警察命令ヲケンカノ相手ニトリスギル感ガアルシ且臣民ノ幸福ヲ増進スルモノハ不要ト論ゼラレ然シ又執行命令ダケヲ残スコトニスルノハコレ亦不十分ト考ヘラレ(イ案)ヲ以テ適当トセラレタ。
同様ノ意図ヲ「又ハ」以下ヲ「憲法上ノ大権ヲ施行スル為其ノ他行政ノ目的ヲ達スル為ニ必要ナル命令(以下同シ)」ト表現スル案モアルガ大権施行ノ命令ハ実際ニ於テ場合ハ極メテ少ナク且此ノ案ニ於テハ殊ニ行政ノ限界ガ問題ニナル等ノ点カラ(イ案)ヲ択ンダ。
第十条
(案) 天皇ハ官吏ヲ任免ス
但シ本案ハ第九条ヲ(イ案)ニ改ムルコトヲ前提トス。
則チ本案ハ天皇ノ条文ハ他ハ処分行為デアルノニ十条ノミガ法規的規則ヲナシテヰルトコロカラ之モ任免権ノミヲ定メテ天皇ノ条文ハ処分行為ヲ以テ一貫スルヤウニ改メル意図カラ考ヘラレタノデアルガ九条ヲ(イ案)ニ改メレバ現行十条ノ官吏ノ任免以外ノ事項ハ全テソノ中ニ含マシメルコトガ出来ルトシテ起草サレタノデアル。
官制ニ付テハ先ヅ重要ナルモノヲ法律トストスル案ハ限界ガアイマイデアルカラ不適当トサレ是非法律ヲ要スルモノハ憲法ニ於テ規定スルヲ可トストサレ次ニ其他ノモノハ法律・命令イヅレデモ行ヒ得ルヤウニスルヲ可トサレ―官制ハ行政ノ実際上全テ法律トスルコトハ困難デアリ、政府ガ民主的ノモノトナル時ハ官制権ヲ与ヘテモ害ハナイト主張サレソウスレバ九条(イ案)ノ行政上必要ナル命令ノ中ニ含マセレバ丁度ヨイト考ヘラレタ。俸給ニ付テモ大権デモ法律デモドチラデモヤレルヤウニシタイ趣旨カラヤハリ含メテヨイトサレタ。尤モ官紀等ガ現在任免権ノ中カラ出テクルト考ヘラレテヰルヤウデ問題ガアルガ任用規定ヲ法律ヲ以テ規定スルガヨイトノ意見カラ之モ同様ニ行政上必要ナル命令ニ含マシメルコトガ出来ヤウト考ヘラレタ。
尚ココニ至ツテ九条(イ案)ノ「行政上」ノ語及但書ニ付更ニ検討ガ加ヘラレタ。
第十一条及第十二条
(甲案) 削除
(乙案) 残置シ国務ニ包摂セシメ編制ハ法律タラシム
(甲案)ニ対シテハ改正憲法ヲ暫定憲法タラシメルモノニシテ且軍復興ノ時ニシバル規定ヲ欠クコトニナルト批判サレタ、(甲案)カラハ五十五条、九条、十条ヲ適用スレバ足ルト主張サレタガ、猶編制ノ法律化ノ点ガ欠ケルト指摘サレタ。
第十三条
審議未了ニシテ起草ニ至ラズ明日ニヒキツガレタ。

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第九囘調査会議事録

日時 昭和二十一年一月五日(土)午前十時三十分―午後五時
場所 内閣総理大臣官舎放送室
出席者 宮沢、入江、佐藤各委員、古井嘱託、刑部補助員、大友内閣属

記事
第十三条
(甲案)天皇ハ諸般ノ条約ヲ締結ス
但シ此ノ憲法ニ於テ法律ヲ以テ定ムヘキモノトシタル事項ニ関ル条約又ハ国家ニ重大ナル義務ヲ負ハシムル条約ハ国会ノ協賛ヲ経ルヲ要ス
天皇ハ条約ノ公布(及執行)ヲ命ス
条約ハ公布ニヨリ法律ノ効力ヲ有ス
(乙案)天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス
戦ヲ宣スルハ国会ノ協賛ヲ経ヘシ
此ノ憲法ニ於テ法律ヲ以テ定ムヘキモノトシタル事項ニ関ル条約又ハ国庫ニ負担ヲ生ズル条約ノ締結ニ付亦同シ
国会閉会ノ場合ニ於テ緊急ノ必要ニヨリ前項ノ条約ヲ締結スルハ国会常置委員会ニ諮詢シ後日国会ノ承認ヲ求ムヘシ
(甲案)ハ宣戦ヲ規定セズ従テ講和ヲ条約中ニ包摂セシメ条約ニ対スル議会ノ参与ヲ拡クシ政治的義務ヲ生ズル条約ニモ其ノ協賛ヲ要スルモノタラシム。
タダシ国庫ニ負担ヲ課スル条約ニ付明言セズ
且常置委員会設置ニ関シ規定セズ
尤モ規定スル場合政治的義務ノ条約ニ於テ困難トセラル条約ノ公布執行ノ件ヲ規定ス
猶特ニ一項ヲ設ケズ第一項ニ挿入スル案モ考ヘラル
公布セラルル条約ヲ法形式上法律ノ効力ヲ有セシム
(乙案)ハ宣戦講和ヲ残置ス
而テ宣戦ハ防禦ノ場合ノミニ限定セズ議会ノ協賛ヲ要セシム
条約ハ法律事項、予算事項ニ付議会ノ協賛ヲ経ルモノトシ 条、七十条ノ場合ト同様常置委員会ヲ設クルコトトス
公布執行ニ付テハ特ニ規定セズ
宣戦ニ関シテハ削除残置両説存シ
削除説ハ世界最初ノ平和国家非武装国家タラントスル国家方針ヲ闡明セントスル理想主義的見地ヨリモツトモ主張セラレタガ
残置説ハ削除ハ改正憲法ヲ暫定的ナラシムルモノニシテ又軍設置ノ時ニ何等ノ拘束―議会ノ制約無カラシムル結果トナルト反駁シタ。
条約ニ関シテハ議会ニ於テ行ハレル法律予算ノ事項ニ付テノ条約ヲ議会ニカケル事ハ異論ナク、問題ハ最モ重大ナルベキ同盟条約等ノ政治的条約ヲ極力議会ノ干与スルモノタラシメントスル点ニアリ政治的条約ハ事実上ニ於テ議会ニカケラレカ否カ疑ハレ且之ヲ加ヘタ場合常置委員会ヲ如何ニ取扱フカニ付難点アリトサレタ。
更ニ条約ノ公布執行ニ関シテハ
国庫ニ負担ヲ生ズル条約ハ如何ナルヤ、又政治的条約ハ秘密ヲ要スルモノ尠カラズ
従テ公布ノ規定ノ仕方ニ注意セラルベク、公布ヲ以テ法律ノ効力ヲ生ズルコトニ就テハ常置委員会ノ権限ノ問題ト相侯チ条約ノ効力ノ問題ガ討議セラレタ。
第十四条
削除
第十五条
(甲案)天皇ハ栄典ヲ授与ス
(乙案)天皇ハ勲章其ノ他ノ栄典ヲ授与ス
第十六条
現行通
尚「天皇ハ恩赦ヲ命ス」ノ案注意セラル
根拠法ヲ法律タラシムルヤウ規定スヘシトノ案ハ命令デヤル事項ハ法律デモヨイコトニナルカラ反ツテ其ノ要ナシトセラレタ。
第十七条
典範ヲ動カサズトスレバ先ツ現状通
第二章
第十八条
現行通
第十九条
(甲案)「均ク文武官ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就クコトヲ得」ヲ「均ク公務ニ参与スルコトヲ得」ニ改ム
(乙案)現行通
(甲案)ニ於テハ「文武官」ヲ「官吏」ニ改メ「官吏ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就ク」トスルノハ官吏ノミヲ特ニ取上ゲルコトニナリ民主的憲法ニソグハナイカラ「官吏ニ任セラレ」ハ「公務ニ就ク」ニ含マシメ政治的平等ヲ定メル本条ノ意義ヲ更ニ公明ナラシムベシト主張サレソレニ伴ヒ「就ク」ヲ「参与ス」ニ改ムルヲ可トストセラレタ。
(乙案)ニ於テハ「文武官」ヲ「官吏」ト改ムルハ十一、十二条ヲ残ス場合ヲモ考ヘ特ニ其ノ要ナシトセラレタ。
以下乙案ニ於テハ
第二十条ヨリ第三十条迄現行通トシ、唯第二十条中「兵役ノ」ヲ「国家ヲ防衛スル」ニ改メ第二十八条中「臣民ノ義務ニ背カサル限ニ於テ」ヲ削リ
第三十一条、第三十二条ヲ削除シ
第三十条ノ次ニ新ニ「日本国民ハ本章ニ掲ケタルモノノ外凡テ法律ニ依ルニ非スシテ其ノ自由及権利ヲ侵サルルコトナシ」ノ一条ヲ加フ
甲案ニ於テハ
(1)法律ノ前ニ平等ノ趣旨ヲ特ニ規定スルコト
(2)新ラシイ権利義務―就中教育労働―ヲ掲ゲルコト
(3)自由権ノ規定ニヨリ自由主義的ナラシムルタメ二十七条ノ如ク書クコトヲ目標トスル改正ヲ意図シ
(1)ハ「法律ノ前ニ平等ナリ」ト特ニ一条ヲ設クルハ現代ニ於テハ既ニ其意義ニ乏シイモノデアルカラ第十九条ヲ先ノ如ク改ムレバ足ルコトトシ
(2)ハ社会的色彩ノ条文モ甲案トシテ一応取入レルコトヲ希望サレ教育ノ権利義務、労働ノ権利義務ヲ新タニ規定スルコトトシ
(3)ハ二十二条ヨリ二十九条迄逐条検討ヲ加ヘ此ノ方針ニ則リ規定ノ仕方ヲ改メタ。
此ノ際「公益ノタメニ」ヲ以テ一貫スルコトノ適実デナイ事ガ指摘サレ条項ニヨリ「公安ヲ維持スルタメ」ト為スコトガ考慮セラレタ。
更ニ甲案ニ在リテハ第二十条ヲ削除シ又之ヲ勤労ノ義務ト為スコトガ考案セラレ新シク公務ニ就ク義務ヲ定メルコトモ考ヘラレタ。
第二十八条ニ付テハ神社乃至国教ノ件ハ特ニ書カヌコトトセラレタ。

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第十囘調査会議事録

日時 昭和二十一年一月九日(水)午前十時半―午後五時十五分
場所 内閣総理大臣官舎放送室
出席者 松本委員長(途中退席)宮沢、入江、佐藤各委員、古井嘱託、刑部、佐藤補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
(一)前囘ニ引続キ第三章以下ヲ審議セリ。最初ハ甲案ヲ先ツ纏メ、次ニ乙案ヲ取纏ムル予定ナリシ処、甲案及乙案ヲ同時ニ審議スルヲ便宜ト認メ、本日ハ同時ニ審議スルコトトナレリ。
宮沢委員起草ノ甲案、乙案ハ一月四日第八囘調査会ノ参考ノ為作成セルモノニシテ、之ニ拘泥セズ新ナル見地ニ於テ検討スルコトトナレリ。
尚前囘「教育ヲ受クル権利義務」ニ付規定ヲ設クベキ旨論ゼラレタルモ、「教育ヲ受クル権利」ハ兎モ角、「教育ヲ受クル義務」ハ国民ノ義務デハ無クシテ「親ノ義務」即チ親ガ子ヲ教育スル義務デアルカラ表現ヲ変ヘル必要ガアル旨意見ガ出テ、更ニ立法例ヲ調ベルコトニナツタ。
(二)第三章
第三十三条ニ付テハ両院制ヲ採ルコトニ付テハ異論ガ無イ。問題ハ其ノ名称ト順序デアルガ、貴族院ニ代ルモノノ名称トシテハ「参議院」ガ多数説デアル。
順序ニ付テハ、所謂貴族院ノ権限ヲ縮少スレバ、現在トハ反対ニ衆議院ヲ先ニ出シテ、衆議院、参議院トシ又「帝国議会」ト云フ名称モ、「国会」ト改メタ方ガ良イトノ意見ガ多カツタ。即チ
○国会ハ衆議院及参議院ノ両院ヲ以テ成立ス
トイフ様ニスルノデアル。右ニ伴ヒ三十四条ト三十五条ハ入替ヘルコトトナル。
次ニ参議院ノ構成ニ付テ色々ノ意見ガアツタ。
参議院ハ構成法ノ定ムル所ニ依リ各地方及各界ヨリ特選セラレタル議員ヲ以テ組織スルトイフ案ガアツタ。
右ニ対シテハ「特選」トハ公選ニ対スル観念デアツテ、法律ニ依ル選挙デアツテモ、資格ヲ限定シ、銓衡機関ヲ設クル等限定的選挙ヲ意味スルノデアル。
之ニ付テハ「各地方」トイフ観念ガ不明瞭デアルトイフ意見ヤ、学識経験者ヲ含ムコトニシタイトイフ案ガ出タ。
(三)松本委員長出席セラレ、次ノ様ニ話サレタ。
新年ノ休暇ヲ勉強シテ一応ノ成案ヲ纏メタ。本案ノ取扱ニ付テハ機密保持ニ十分注意シテ頂キタイ。本案ニ対スル各委員ノ忌憚無イ批判ヲ望ム。
一昨日 天皇陛下ヨリ突然御召ガアツタ。陛下ヨリ憲法改正問題ニ付種々御下問ガアリ、仍テ本調査委員会ノ構成並ニ其ノ運用及今日迄ノ成果ニ付テ奉答スルト共ニ、自分ノ案ヲ御説明申上ゲタ。陛下ニ於セラレテハ良ク御了解遊サレタ様ニ拝察シタ。二三御質問ガアツタガ孰レモ内容的ニ非常ニ良ク御理解遊サレタ御現レト思ツタ。尚其ノ際所謂「近衛案」及「勅命問題」ニ付テ政府ノ意ノアル所ヲ詳細言上シタ。最後ニ、佐々木博士執筆ノ「帝国憲法改正ノ必要」ト題スル文書ヲ、単ナル参考文献トシテ、御下渡ニナツタノデ之ヲ拝受シテ来タ。本文書ハ之ヲ印刷配布スルヤ否ヤ本委員会デ決メタイト思フ。
次ニ大臣ハ「憲法改正私案」ヲ朗読セラレ、大体ノ説明ヲセラレタ
(昼食ノ為休憩)
(四)午後一時再会。大臣案ヲ検討シタ。(大臣中座)
第三条 異議ナシ。但シ英訳ノ際ノ訳語ヲ注意スルコト
第七条 異議ナシ
第八条 第二項ノ「若シ」ノ「シ」ヲ削ルコト
第九条 「行政上」ノ「上」トイフ字ハ要ラヌノデハナイカ。
第十一条 異議ナシ
第十二条(イ)「帝国議会ニ報告シ其ノ承諾ヲ求ムヘシ」トアルモ、第七〇条ハ「提出シ」トイフ字ヲ使ツテヰル。区別セル理由如何。承諾セザルトキト雖モ効果ニ変リガ無イトイフ意味デ報告トイフ字ヲ用ヰタノデアラウカ。
(ロ)宣戦講和ノ如キ大事ヲ常置委員会ニ諮詢スルヲ以テ足ルトスルコトハ事柄ノ実質上、軽過ギハセヌカ。
第十三条(イ)「・・・・・・ニハ・・・・・・ヲ要ス」トイフ表現ハ一寸気ニナル。第六十二条第三項ノ様ニ「・・・・・・・・ハ帝国議会ノ協賛ヲ経ベシ」トスル方ガ良クハナイカ。
(ロ)「法律ヲ以テ定ムヘキ事項」トアルモ「此ノ憲法ニ於テ法律ヲ以テ定ムヘキモノトシタル事項」トスル方ガ正確デハナイカ。
第十五条 異議ナシ
第二十条 「役務」トハ何ヲ意味スルノカ。ワイマール憲法ノDienstノ如ク「公職」ヲ意味スルノカ。労役ノ如キヲ指スノカ。稍々意味内容ヲ捕捉シ難キ感アリ。
第二十八条 異議ナシ
第三十一条 「法律ニ依ルニ非サレハ」ハ第二十三条ト同様ニ「法律ニ依ルニ非スシテ」トシテハ如何
第三十三条 異議ナシ
第三十四条 同右
第三十九条ノ二 同右
第四十二条「三ケ月以上ニ於テ議院法ノ定メル所ニ依リ」トイフ意味ハ議院法デ五ケ月六ケ月トイフ風ニ決メレバ良イトノ趣旨カト思フガ、然リトセバ何故憲法デ決メズニ法律ニ譲ツタカトイフ疑問ガ起キル。ムシロ三ケ月以上ニ於テ勅命ヲ以テ之ヲ定ム」トイフ風ニシテハ如何。尚研究スル余地ガアルト思フ。
第四十三条(イ)第二項ノ議院ノ要求ハ誰ニ要求スルノカ「政府ニ」トイフコトヲ明ニシテハ如何(反対説アリ)
(ロ)第二項ノ議院ノ要求ニ依ル場合ノ会期ハ第一項ニ戻ルノデアルカ。
第四十四条 異議ナシ
第四十五条 同右
第四十八条 同右
第五十三条 同右
第五十五条(イ)本条ハ国務大臣ノ連帯責任ヲ規定セルモノナリヤ。
(ロ)「一切ノ国務」トイフ点ニ語弊ガ生ジハシマイカ。一切ノ国務トイフ中ニ「裁判」モ含マレルコトハ無イト思フガ如何
(ハ)「一切ノ国務ニ付帝国議会ニ対シ其ノ責ニ任ス」トアルモ「其ノ」トイフ字ハ「一切ノ国務」ヲ受ケテヰルガ責ニ任スルノハ輔弼ニ付テ責ニ任スルノデアルカラ、ムシロ
○「国務各大臣ハ一切ノ国務ニ付天皇ヲ輔弼シ、帝国議会ニ対シテ其ノ責ニ任ス」トスル方ガ正確デハナイカ。
(ニ)「帝国議会ニ対シテ」ハ「帝国議会ニ対シ」デ良イト思フ
(ホ)天皇ニ対スル責任ハ一般官吏ト同様デアルトイフコトニナルノカ。ソレトモ本条ガ特別規定トナツテ、大臣ハ天皇ニ対シテハ責ニ任ジナイトイフコトニナルノデアラウカ。
(ヘ)「帝国議会ニ対シ其ノ責ニ任ス」トアルモ帝国議会ノ問責方法如何、本条ノミデハ問責的効果ヲ生セズ後ノ条文ニ於テ不信任決議権ガ議会ニ在ルノデアルカラ、本条文中「帝国議会ニ対シ」ハ要ラヌノデハナイカ。
(ト)本条文ハ天皇ハ国務ニ付テ責任ガ無イトイフ趣旨ヲ明ニスレバ足ルノデアリ、大臣問責ノ方法ハ別ニ国民投票法デモ制定シテ大臣ガ国民ニ対シテ責任アルコトトスルコトモ出来ルノデアリ、本条ノ様ニ「帝国議会ニ対シテ」トイフト斯ル法律ノ制定ハ不可能ニナルカラ、此ハ削ツタ方ガ良クハナイカ。
(チ)第二項ニ「亦同ジ」トアルノハ軍ノ統帥ハ国務ニ非ズトスル思想デアルカノ如キ印象ヲ与ヘル。
○国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス軍ノ統帥ニ付亦同ジトシテハ如何
(リ)第三項 此ノ規定ノミデ議院内閣主義ハ現レヌト思フ。国務大臣ハ其ノ在任ニ付国会ノ信任アルヲ要スル様ニシタ方ガ良イト思フガ之ハ規定ノ立方ノ問題デアル。
(ヌ)不信任ノ議決ハ普通議決デ良イノカ少クトモ「定足数ノ過半数以上」トシナケレバナラヌノデハナイカ。
第五十五条ノ二(イ)「内閣ノ組織」トアルモ、枢密院ヤ会計検査院ト同様ニ「組織及職権」トスル方ガ良イノデハナイカ。
(ロ)「内閣官制ノ定ムル所」トヤリ、「内閣ノ官制ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムトスル案モアル。
第五十六条 異議ナシ
第五十七条(イ)「別ニ」トイフ語ハ要ラヌノデハナイカ。恐ラク、第六〇条及第六十一条ト用例ヲ一ニシタ趣旨ト思フガ新ニ書クノダカラ要ラヌト思フ。
(ロ)「行政事件ニ関スル訴訟」トイフ表現ハ学問的ニハ正シイガ、ムシロ行政裁判ニ関スル古典的表現トシテ現行憲法ノ用語デ良イノデハナイカ。
第六十五条 異議ナシ
第六十六条 内廷ノ経費ハ原則トシテ国費ヲ以テ支弁スルトイフ印象ヲ与ヘルガ如何。ムシロ現行通リデ良クハナイカ。
第六十七条 異議ナシ
第六十九条 議会開会中第一第二予備金ヲ支出シ得ルヤ、之ヲ禁止セル法令ハ無ク、唯第二予備金ニ付テハ行政実例トシテ之ヲ支出セヌ様デアルガ、若シ支出スル場合常置委員会ニカケルノハ可笑シイノデハナイカ。
第七十条 異議ナシ
第七十一条(イ)「議会ヲ召集シ」トアルモ、開会中ノ場合モアラウカラ之ハ要ラヌノデハナイカ。
(ロ)「承諾」トアルモ「協賛」トスベキデハナイカ
(ハ)再度不成立ノ場合如何ニスルヤ
第七十三条(イ)「裁可シ其ノ公布ヲ命ス」トアルモ「裁可シ其ノ公布及執行ヲ命ス」ル方ガ良クハナイカ
(ロ)「議案ヲ発議」トイフ語ハ議院法ニ用例ハアルガ「改正ヲ発議」トスル方ガ語トシテ良イト思フ。
補則
第一項(イ)「抵触スルモノト雖モ」トイフ表現ハ強過ギルノデハナイカ「法律ヲ以テ定ムベキモノトセルモノヲ内容トスル命令ハ引続キ効力ヲ有ス」トイフ風ニシテハ如何
(ロ)第三十三条ハ第三十四条トノ関聯アルカラ之モ直グ施行出来ヌノデハナイカ。
第六十六条ハ直ニ施行出来ルノデハナイカ。
(ハ)本改正ハ公布ノ日ヨリ之ヲ施行ス但シ・・・・・・・・トスル方ガ良イト思フ。
以上

(極秘)
八部ノ内第四号

憲法問題調査委員会第十一囘調査会議事録

日時 昭和二十一年一月十二日(土)午前十時―午後四時
場所 内閣総理大臣官舎放送室
出席者 宮沢、入江、佐藤各委員、古井嘱託、刑部、佐藤補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
(一)前囘ニ引続キ第三十三条以下ヲ審査シ第五十六条ニ至ル。前囘ハ甲案及乙案ヲ同時ニ条文化スルコトニ申合セタルモ、乙案ハ前囘示サレタル委員長案ニ依ルヲ可ナリト認メラルルヲ以テ、甲案ヲ作成スルコトトナリタリ。
第三十三条
甲案
国会ハ衆議院及参議院ノ両院ヲ以テ組織ス
次ニ参議院ノ構成ニ付キ如何ナル形式ヲ採ルベキヤガ論ゼラレタ。
(二)松本委員長出席、前囘ノ調査会ニ於イテ各委員ヨリ批判ノアツタ委員長案ハ大部分之ヲ訂正シタル旨ヲ報告セラレ、唯第五十五条ハ「国務各大臣ガ天皇ヲ輔弼シ帝国議会ニ対シテ其ノ責ニ任ス」トイフコトト、「国務各大臣ハ一切ノ国務ニ付テ天皇ヲ輔弼ス」トイフコトヲ同一条文デ表現シヤウトイフ意図ノ下ニ、多少非論理的ナルコトヲ自認シツツモ委員長案ノ如キ表現ヲ採リタルモノナルコトヲ説明セラレ或ハ
○「国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ帝国議会ニ対シテ其ノ責ニ任ス軍ノ統帥ニ付亦同シ
凡テ法律勅令其ノ他一切ノ国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス
トイフ様ニスルノモ一案ナリトセラレタ。
次ニ第三条「天皇ハ至尊ニシテ侵スベカラス」トイフ場合其ノ至尊トイフ語ノ英訳語トシテハmost reverendガ考ヘラレルガ之ハ英国デハarchbishopニ用ヰル字デアルノデ尚考究ヲ要スル
次ニワイマール憲法ガ制定以来今日迄如何ナル変遷ヲ辿ツタカニ付テ調ベテ貰ヒタイ。即チ現在我国民間ノ学者ヤ思想家ガ考ヘテヰル憲法草案ノ中ニハ随分ワイマール憲法ニ做ツテ之ヲ其ノ儘ニ取入レ様トスル気運ガ見出サレルノデアルガ、ワイマール憲法ハナチス独逸ニ於テ事実上蹂躙セラレタノデアリ彼ノ宣言的規定ヲ豊カニ有シタワイマール憲法ガ決シテ独逸ノ民主主義ニ役立タズ、如何ニモ美辞麗句ノ羅列ニ過ギナカツタコトヲ現シテヰルトイフコトヲ説明スル為ニ之ヲ調ベテ頂キタイ
次ニ乙案即チ委員長案ハ出来ル限リ必要最少限度ノ改正ニ止メントシタノデアルガ、其ノ理由トシテ議会ニ附議セラレタ場合従来ノ貴族院令ノ改正ノ場合ノ先例ニ拠レバ、提案セラレタ条文ニ付テハ内容ニ修正ヲ為シ得ルトイフコトニナツテヰルノデ、出来ルダケ修正権ノ発動範囲ヲ制限スル為ニ多数ノ条文ニ亘ルコトヲ避ケタノデアル。
各委員ニ於テモ議会ニ於ケル修正権ノ問題ヲ研究セラレタイ。
次ニ憲法改正ノ為ノ具体的手続デアルガ、本調査委員会ノ案ヲ直チニ正式上奏スル方法モ考ヘラレルガ一応憲法改正審議会トイフ様ナ正式ナ機関ヲ設ケ之ニ附議シテ正式ニ決定スル案モアル。勿論官制ニ基ク委員会トシ、其ノ委員ノ人選ニハ慎重ヲ期シ少クトモ委員ハ親任待遇ノ扱ニセネバナルマイ。官制案ヲ準備シテ貰ヒタイ。
(昼食ノ為委員長退席)
(三)午後再会後先ヅ憲法改正ノ具体的措置ニ付テ次ノ如ク論ゼラレタ。之ニハ二ツノ説ガアツタ。
(イ)説 今次総選挙モ早急ニハ行ハレズ多少延期セラルルデアラウ
ソノ場合、選挙ニ臨ム政府ノ態度トシテハ、先ヅ次ノ議会ニ憲法ノ改正モ附議セラレルノデアル。随テ次ノ議会ノ構成員タル議員ハ憲法改正ニ参与スベキ重大ナル責任ヲ有スルノデアルカラ、国民モ之ニ適ハシキ人物ヲ選挙スル様ニシナケレバナラヌトイフコトヲ先ヅ宣明スル必要ガアル。而シテ次ノ総選挙ノ目標ヲ明確ニシテ総選挙後ノ議会ニ附議セラルル様ニシナケレバナラヌ。
(ロ)説
(イ)説ノ第一段階即チ選挙ニ臨ム政府ノ態度ヲ明確ニスル点ニハ賛成スルガ、総選挙後ノ議会ハ衆議院ハ新選挙法ニ依ツテ一新セラレテハヰルケレドモ、貴族院ハ何等変更ガ行ハレヌ、尤モ先般ノ指令ニ依ツテ現在ノ貴族院議員ニハ多クノ更迭ガアルデアラウガ貴族院令ガ改正セラレタ以上ハ其ノ根本ハ変化ガ無ク果シテ之デ日本国民ノ自由ニ表明セラレタル意思ヲ代表スルモノトイフコトヲ得ルカ否カトイフコトニ付テハ甚ダ疑問ガアル。仍テ準序トシテハ
(1)今次衆議院議員総選挙ニ関シ、憲法改正ヲ議シ就中天皇制ニ対スル国民ノ信念ヲ表明スベキ衆議院ヲ作ルコトガ其ノ目的ノ一ナル趣旨ヲ闡明スルコト
(2)特別議会ニ於テ貴族院改革案ヲ提出シ、衆議院ト相侯ツテ国民ノ自由真正ナル意思ヲ表明スベキ議会ノ体制ヲ整フルコト
(3)貴族院ノ構成ヲ新ニシタル後、貴衆両院ヲ根幹トシタル憲法改正審議会ヲ設ケ其ノ審議ヲ経ルコト
(4)最後ニ、臨時議会ヲ召集シ憲法所定ノ手続ニ依リ改正案ノ議決ヲ経ルコト
尚、本改正順序ヲ安固ナラシメル為、政府部内ニ於ケル研究略々一段落トナラントスル此ノ際ニ於テ、之ニ付聯合軍司令部ノ諒解ヲ取付クルヲ極メテ必要トスル。
以上ノ(ロ)説ニ対シテハ、(イ)説論者ハソレハ形式論デアツテ、徒ニ時間ヲ遷延スル結果ヲ生ズルニ過ギナイノデアツテ、現在ノ如キ場合ニ於テハ、早クヤルコトガ必要ト思フノデアル。民意ヲ問フトイフコトモ勿論必要デアルガソノ為ニハ衆議院ノ一院ヲ改正スレバ足ルトイヘルノデアル。又若シ貴族院ヲ改正シテモ果シテソレデ真ノ民意ガ反映シテヰルカトイヘバ絶対的ニ之ヲ肯定スルコトハ必シモ出来難イノデアル。現行憲法ノ改正手続ニ依レバ、ソレハ依然政府案ガ原案トナルノデアツテ、議会側ニ「改正ノ発議」ヲ認メントスルノハ、改正後ノ憲法ナノデアルカラ今囘ノ改正ガ必ズシモ最終案ナリト断言ハ出来ナイノデアル。
勿論改正ノ事ニ参画シテヰル吾々トシテハ之ガ決シテ暫定的改正デアルトハ思ヒタクナイノデアルケレドモ、果シテ絶対不動ノ最終案ナリト言ヒ切レルカ否カニ付テハ、疑無キヲ得ナイノデアツテ、吾吾トシテハ成可ク速ニ改正ヲ行フコトヲ目途トシナケレバナラナイノデアル。
即チ(イ)(ロ)両説ハ改正ノ時期ノ決定ニ付テ所見ヲ異ニスルノデアルガ其ノ改正手続トシテ今次ノ選挙ヲ憲法改正ニ参与スル議員ヲ選ブ為ニ行ハレルノデアルトイフコトヲ目標ノ一トスルコトニ付テハ完全ニ意見ガ一致シテヰルノデアリ、先ヅ聯合軍司令部ニ対シテ憲法改正ノ準序方向ヲ説明シ其ノ了解ヲ求ムベキデアルトスル点ハ両者ノ斉シク論ズル処デアル。
斯クテ政府トシテ其ノ大方針ヲ宣明スルニ当ツテハ須ク此ノ際ノ内閣ノ改造ヲ機会トスルヲ可トスルトイフコトモ全員ノ一致スル意見デアツタ。
(四)次ニ第三十五条以下ニ付テ甲案ノ条文ヲ作成シタ。
第三十五条(イ)参議院ハ法律ノ定ムル所ニ依リ職域地域並ニ学識経験ニ拠リ選挙又ハ勅任セラレタル者ヲ以テ組織ス
(ロ)参議院ハ構成法ノ定ムル所ニ依リ職域地域ヲ代表スル者並ニ学識経験アル者ノ中ヨリ選挙又ハ勅任セラレタル者ヲ以テ組識ス
第三十四条 衆議院ハ選挙法ノ定ムル所ニ依リ普通平等直接及秘密ノ原則ニ従ヒ選挙セラレタル議員ヲ以テ組織ス
第三十六条 現状
第三十七条 同右
第三十八条(大池案)両議院及政府ハ各々法律案ヲ提出スルコトヲ得(前条ニ依ツテ、両院ノ法律案議決権ヲ特ニ規定スル要ナシ)
(佐藤案)本条第二項ニ左ヲ加ヘル案
但シ参議院法ノ改正案ハ衆議院之ヲ提出スルコトヲ得ス
右ノ二案アルモ、其ノ必要ナカルベク現状ニテ可ナリトノ結論ニ達シタ。
第三十九条 現状通リ
第三十九条ノ二(委員長案)
右条文ハ衆議院ニ於テ二囘可決シソノ儘貴族院ノ審議未了トナリタルモノデモ第三囘目ニ貴族院ニ移セバ法律トナルトイフ趣旨デアルカ、
貴族院ニ移シタル場合、貴族院ガ修正議決ヲ行ヒタル場合如何、貴族院ガ修正シタ場合ニ於テモ其ノ修正議決ハ効果ハ無ク、単ニ政治的意味ガアルノミデアルト思ハレル。蓋シ、議決シナクテモ移セバ協賛アリタルモノトナルノデアルカラ元ヨリ修正ハ効果ガ無イモノトイハナケレバナラヌ。
第四十条 但書ヲ削除スベシトイフ小林、大池案アルモ現状ノ儘ニテ可ナルベシ
第四十一条 現状通リ
第四十二条 国会ノ会期ハ三ケ月以上トシ勅命ヲ以テ之ヲ定ム必要アル場合ニ於テハ勅命又ハ国会ノ議決ヲ以テ之ヲ延長スルコトヲ得
第四十三条 臨時ノ必要アル場合ニ於テ常会ノ外臨時会ヲ召集スヘシ
両議院ハ各々其ノ総議員ノ三分ノ一以上ノ賛成ヲ以テ臨時会ノ召集ヲ求ムルコトヲ得
臨時会ノ会期ヲ定ムルハ勅命ニ依ル必要アル場合ニ於テハ勅命又ハ国会ノ議決ヲ以テ之ヲ延長スルコトヲ得
第四十四条(第一項)現状
(第二項)衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ参議院ハ同時ニ閉会ス
右ノ趣旨ハ行政行為ヲ不要ナラシメ当然閉会セントスルモノデアル
第四十五条 衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ直ニ議員ヲ選挙シ解散ノ日ヨリ三ケ月以内ニ臨時会ヲ召集スヘシ但シ其ノ期間内ニ常会ヲ召集スル場合ハ此ノ限ニ在ラス
第四十六条 現状通リ但シ、「総議員」ナル現行法ノ文字ヲ生カス為ニ他ノ新条文ヲ修正スル要ガアル
第四十七条 現状
第四十八条 「政府ノ要求又ハ」ヲ削ルコト
第四十九条 現状
第五十条 「臣民」ヲ「国民」ニ改ム
第五十一条 現状
第五十二条 現状
第五十三条(附加)会期前ニ逮捕セラレタル議員ハ其ノ院ノ要求アルトキハ会期中之ヲ釈放スヘシ
第五十四条 現状
第五十四条ノ二 国会ニ議院法ノ定ムル所ニ依リ常置委員会ヲ置ク
右ノ条文ヲ設クル位置ニ付テハ五十条ノ次ニ置ク案ト本章ノ最後ニ置ク案トガアツタガ結局本章ノ最後ニ置クヲ可ナリトスル結論ニ達シタ。
尚常置委員ハ会期外ニ於ケル院内ノ発言ニ付責ヲ負フヤ否ヤハ之ヲ議院法デ規定スルコトトナツタ。
第四章
第五十五条 国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス
(第二項)現状
国務大臣ハ衆議院ニ於テ不信任ヲ議決セラレタルトキハ解散アリタル場合ヲ除ク外其ノ職ニ留ルコトヲ得ス
第五十五条ノ二 国務各大臣ヲ以テ内閣ヲ組織ス
内閣ノ官制ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
第五十六条 枢密院ハ之ヲ廃止スルコト
以上ヲ以テ本日ノ会議ヲ終ル次囘ハ十六日(水)午前十時ヨリ開クコトトナリケリ。

(極秘)
第八部ノ内第四冊

憲法問題調査委員会第十二囘調査会議事録

日時 昭和二十一年一月十六日(水)午前十時―午後一時半
場所 内閣総理大臣官舎放送室
出席者 松本委員長、宮沢、入江、佐藤各委員、石井嘱託、刑部、佐藤補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
劈頭松本国務大臣出席アリ、前囘ノ小委員会ニ於テ憲法改正事業ノ今後ノ方針ニツイテ、小委員会トシテ松本委員長ニ進言スベキコトヲ申シ合ハセテ居タノデ、先ヅ入江委員ヨリ、
「小委員会トシテノ権限デハナイカモ知レヌガ、憲法改正ノ今後ノ方針ニツイテ進言ヲイタシタイ」ト発言、松本委員長ヨリ
「ソレハ是非オ願ヒシタイ」トノコトニテ
宮沢「今般内閣ノ改造アリ、松本大臣ハ憲法改正ノタメ留任セラレ、又総選挙ハ幸カ不幸カ相当ニ遅レルコトトナツタガコノ機会ニ於テ、憲法改正ニ関スル政府ノ従来ノ曖昧ナ態度ヲ改メ、ヤルナラヤル、又何時頃ヤルト云フコトヲ天下ニ宣明スル必要ガアルト思フ」
松本「ソノコトハマサニ私ガ最近大イニ考ヘテヰタ所デアル。元来私ハ去ル臨時議会デ声明シタ様ニ、衆議院ヲ今度ノ総選挙ニヨツテ更新シ、又貴族院ハ来タルベキ特別議会ニ貴族院令ノ改正ヲ行ツテ、両者共面目一新シタ議会ニヨツテ憲法改正ヲ行ヒタイト考ヘテ居タ。シカシ乍ラ実ハ昨年ノ暮頃カラ考ヘガ変ツタノデアツテ、貴族院ノ改革ハ行ハズ特別議会ニ憲法改正ヲ附議シタイト思フ様ニナツタ。ソノ理由ハ、先般ノ聯合国ノ指令ニヨリ、総選挙ハ三月半バ以降トナリ、特別議会ハ四月トナリ、従ツテ貴族院ノ改革ガ完了シテ臨時議会ヲ開キ得ルノハ早クトモ八月カ九月頃ニナル訳デアルガ、ソレデハ余リニ遅スギル。
政府ガ怠慢デアルト云フ非難ニ対シテハ何トデモ答ヘ様ガアルガ、私ノ最モ恐レルノハ、最近ニ於ケル様ニ天皇制ノ論議ガ激シクナツテ来ルト、附和雷同的ナ日本人ノコトデアルカラ、タトヘ現在デハナホ天皇制廃止論ナドハ全国民ノ中真ニ九牛ノ一毛ニ過ギヌト思フケレドモ、コレカラ半年以上モ今ノ様ナ新聞ノ論調ガ続クト、ヤハリ国民ノ思想ニ甚ダ面白カラヌ影響ヲ与ヘルト思フノデアツテ、従ツテ、サウナラナイ中ニ、一応憲法ヲ改正シテ天皇制ニ対スル論議ニ一応ノ終結ヲ与ヘタイノデアル。勿論新憲法デハ憲法改正ノ発案ヲ議会ニモ認メルコトニナルノデアルカラ、今後又憲法改正ガ生ジルトモ考ヘラレルガ、ソレハソノ時ノコトデ、今トシテハナルベク早イ時期ニ改正ヲ断行シタイト思フ。ナホ先日ノ小委員会デモ言ツタ様ニ、ソノタメニハヤハリ憲法改正審議会ノ様ナモノヲ官制ニヨツテ設ケソレニハ、憲法改正要項ノ様ナモノヲ附議スルコトニシタイト思ツテ居ル。審議会ノ委員ハ出来ルダケ少人数トシタイ考ヘデ貴衆両院ヨリ議長及ビ副議長タリシ人、及ビ両院ノ代表的人物枢密院ヨリ清水副議長他一名位、ソレニ美濃部博士、高野岩三郎博士(憲法研究会ノメンバーデモアルカラ一層出テモラヒタイ)衆議院カラハ斉藤隆夫氏ナドヲ考ヘテ居ル。但シ先日ノ指令ニ該当スル者ハイケナイカラ、両院ノ議長副議長タリシ者ノ中カラモ慎重ニ人選ヲシナクテハナラヌ。徳川現貴族院議長ハ指令ニ該当スルラシイカラ、議長ガ代レバソノ新議長ニネガヒタイシ、又副議長タリシ佐々木行忠侯ニハ是非出テモラヒタイ。衆議院ノ方モナカナカムツカシイガ、小山松寿氏、内崎作三郎氏等ハヨイト思フ。斉藤隆夫氏ヲ進歩党ノ代表トスレバ、自由党カラハ鳩山氏ニ出テモラツテモイイト思フ。
コノ様ナ委員ハ親任官待遇トシタイ。ナホコノ審議会ノ第一囘会合ノ際ニ改正要項ヲ附議スルガ、ドウセ洩レルコトデモアルシ、ソレト同時ニ一般ニモ発表スル考ヘデアル。ソシテ審議会デハソノ要項ヲナルベクハ全然変ヘササナイデ通過サセル様ニ努力スルツモリデアル。
コノ順序デ行ケバ、貴族院改革ハ憲法ヨリ遅レルコトニナルガ国民ノ意思ハトニカク衆議院ニ代表セラレルト考ヘラレルシ、又コノ時節デアルカラ衆議院ヲ通過シタ改正案ヲ貴族院ガ呑マヌト云フコトハ万ガ一ニモアリ得ナイト考ヘテヨイト思フ」
コレニ対シテ宮沢委員ハ非常ニ賛成デアルト述ベタガ
古井嘱託ハ
「来タルベキ憲法改正ハポツダム宣言ニ基ク日本ノ民主主義化トナランデ、日本ノ窮極ニ於ケル政治形態即チ天皇制ノ問題ヲ日本国民ノ意思ニヨリ決定スベキ機会トナルノデアルカラ、ソレニ参与スル議会ハ能フ限リ民意ヲ代表スルモノデナケレバナラナイ。従ツテ衆議院ト共ニ貴族院モ改革セラレテカラ後ノ方ガ正道デアル。又実際ノ問題トシテ現内閣ハ総選挙施行ノタメノ中間内閣デアルカラ、現内閣ガソノ様ニ改正ヲ進メテモ、来タルベキ多数党内閣ガソレヲドウ取扱フカ判ラズ現内閣ガ特別議会ニ改正案ヲ以テ臨ンダ時モ、又ハ臨時議会以前ニ辞職シテ改正案ヲ新内閣ニ受ケツイダ時モ、何レノ場合ニモ厄介ナコトガ起キル。」
ト述ベ、憲法改正ハ出来ルダケ遅クシ、将来ノ多数党内閣ノ仕事タラシメル方ガ適当デアルト云フ趣旨ヲ主張シタ。
之ニ対シ松本委長長ハ、前段ノ趣旨ハ尤モデアルガ客観的状勢ハトテモ八月、九月マデノ遵延ヲ許サヌト考ヘラレル事情ナルコト、又後段ノ点ニツイテハ、
「私モ幣原内閣ガ特別議会ニ臨ミソノ手デ改正ヲ行フコトニナラウトハ思ツテヰナイ、総選挙後内閣ハ更迭スベキモノト考ヘ且ツソレヲ望ンデハヰルガ次ノ多数党内閣モサウラデイカルナモノデナイトスレバ、寧ロソノ責任軽減ヲ図ル意味デ現内閣ノ改正案ヲ踏襲スル可能性モ相当ニアルノデハナイカト思フ。又我々トシテハ我々ノ改正案ガ最善ノモノト考ヘルノデアルカラ辞職ノ時マデ一定ノ方向ノ下ニ最善ヲ尽クシタイト考ヘルシ、改正案モ審議会ヲ通過サセテシマヒタイト考ヘテヰル」ト述ベ
又宮沢委員ハ
「現内閣ハ成程中間内閣デハアルニシテモ中間内閣タルガ故ニ何事モナシ得ナイト云フ理由ハナク、来タルベキ多数党内閣ガ民意ノ上ニ立ツテ行フデアラウ所ノ政治ヲ現内閣ガスルノダト云フ自信ヲ以テ憲法改正ヲ進メテ行クコトニ何ノ差支ヘモナイ。ソレガ実際ニ於テ多数党内閣ニヨツテ覆ヘサレルカ否カハ別問題デアルガ多数党内閣モソノ様ニヤルダラウト云フ政治ヲ自ラモ行ツテ行クベキデ、現内閣ノ方針ヲ多数党内閣ガ変ヘテシマフダラウト云フコトヲ前提トシテ物事ヲ考ヘルノハ道理ニ反スルモノデアル」ト主張シタ。
古井嘱託モ諒承シコノ方向ニヨツテ進捗セシメルコトニ決シ、審議会ノ官制案ノ作製ヲ佐藤委員ニ、委員ノ人選ノ準備ヲ古井嘱託、岩倉書記官(内閣人事課)ニ依嘱シ併セテ、審議会ニ附議スベキ改正要項ノ作製ニハ小委員会ガ当ルコトヲ申シ合ハセタ。

以後 第五章ノ検討
入江、佐藤委員ノ公用、古井嘱託ノ私用ノタメ、本日ノ小委員会ハ早目ニ切上ゲ。
一九日 一〇時ヨリ小委員会
今月末頃ニ委員会ヲ開キ、小委員会作製ノ甲案及ビ乙案(松本案)ヲ報告検討シ、来月初旬ニ総会ヲ開キ、一方審議会ノ方モ成ルベク早ク設置スベク諸般ノ準備ヲ進メルコトトシタ。

(極秘)
八部ノ内第四冊

憲法問題調査委員会第十三囘調査会議事録

日時 昭和二十一年一月十九日(土)午前十時―午後三時半
場所 内閣総理大臣官舎放送室
出席者 松本委員長、宮沢、清宮、入江、佐藤各委員、刑部、佐藤補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属

記事
(一)前囘ニ引続キ第六章会計ヨリ審議シ本日ヲ以テ全部ノ条文ヲ調査シアリタリ。
第六章
第六十二条 現状
第六十三条 同右
第六十四条 第一項 現状
第二項 削除
第二項ヲ削除シタル理由ハ予備費ヲ認メタル以上、憲政ノ常道ヲ践ンデ予備費、追加予算ノ方法デ行クベキデアルカラ、所謂責任支出ノ手掛ヲ無クセントスルノデアル。
第六十五条 第一項 現状通
第二項 参議院ハ衆議院ヨリ移シタル予算ニ付増額ノ修正ヲ為スコトヲ得ズ
第六十六条 「内廷」トイフ文字ニ付テ、宮内省高尾参事官ニ訊ネタル処、天皇ノ御身ノ廻リノ仕事ヲ「内禁」ト云ヒ、侍従職ノ取扱事項ヲ内禁ヨリ稍々広ク内廷ト云フノデアルガ、皇族ヲ含マナイ観念デアル。又内廷トイフ語モ一般ニハ熟シテヰナイカラ次ノ調査会ニ於テ大蔵省側ノ委員ノ意見ヲ良ク訊ネルコトニシタイ。
第六十七条 「憲法上ノ大権ニ基ツケル既定ノ歳出及」ヲ削ル
第六十八条 現状
第六十九条 第一項 現状
第二項 予備費ヲ以テ予算ノ外ニ生シタル必要ノ費用ニ充ツルハ国会常置委員ノ諮詢ヲ経ヘシ
第三項 予備費ヲ支出シタルトキハ後日国会ノ承認ヲ求ムルヲ要ス
第七十条 公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需用アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ国会ヲ召集スルコト能ハサルトキハ国会常置委員会ニ諮詢シ勅令ニ依リ財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ国会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
第七十一条 予算成立ニ至ラサルトキハ政府ハ三ケ月以内ヲ限リ一ケ月ニ付前年度ノ予算ノ十二分ノ一ノ範囲内ニ於テ暫定予算ヲ調整シ之ヲ施行スヘシ
此ノ場合ニ於テハ速ニ前項ノ暫定予算ニ定ムルモノヲ除キ其ノ年度ノ予算ヲ調製シ国会ノ協賛ヲ経ヘシ
第一項ノ暫定予算ハ前項ノ国会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムヘシ
第七十二条 現状
第七章 補則
第七十三条 第一項 現状
第二項 両議院ノ議員ハ其ノ院ノ総議員ノ三分ノ一以上ノ賛成ヲ得テ憲法改正ノ議案ヲ発議スルコトヲ得
第三項 両議院ハ各々其ノ院ノ総員三分ノ二以上出席スルニ非サレバ憲法改正ノ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲ為スコトヲ得ス
第四項 天皇ハ帝国議会ノ議決シタル憲法改正ヲ裁可シ其ノ公布及執行ヲ命ス
第七十四条 現状
第七十五条 削除
第七十六条 現状
(二)松本委員長ヨリ近日中ニ幣原総理大臣ヲ訪ネ本問題ヲ相談スル予定デアル。而シテ憲法改正審議会ヲ設置スルコトニナレバ之ニ附議スル為ノ憲法改正要綱ヲ作成シ又其ノ英訳ヲ作ラネバナラヌ要綱ニハ簡明ナル説明ヲ附スルヲ要スル旨御話アリ。
審議会ノ官制ハ法制局ニ於テ研究シ、要綱ハ宮沢委員ガ担当スルコトトナツタ。
(三)要綱ヲ研究スル為来ル二十三日(水)午前十時ヨリ再ビ会合スルコトトナツタ。

(極秘)
八部ノ内四冊

憲法問題調査委員会第十四囘調査委員会議事録

日時 昭和二十一年一月二十三日(水)午前十時―午後三時
場所 内閣総理大臣官舎放送室
出席者 松本委員長、宮沢、入江、佐藤三委員、佐藤補助員、大友内閣属(古井嘱託、刑部補助員、岩倉書記官欠席)

記事
劈頭松本大臣出席アリ
前囘ノ小委員会ニ於テ審議会ニ提案スベキ改正要綱ヲ作製シテミルコトヲ申合セ、宮沢委員モソノ案ヲ提出サレタガ、松本大臣モ試ミニ之ヲ作ツテミラレタ由ニテ、ソレハ新聞ニ発表スル時ノコト等ヲ考ヘテ出来ルダケ平易ナ表現ヲ試ミテミタトノコト。シカシ乍ラ、コノ要綱ヲ審議会デ固執スルツモリデハナイ。審議会ニ代表セラレルイハバ左翼カラノ攻撃ニ対シテハ、甲案ノ中カラ若干ノモノヲ採用スル用意ガアル、例ヘバ勤労教育等ニ関スル条文等。之ニ反シイハバ右翼カラノ攻撃ニ対シテハ何ヲ譲歩スルカノ問題ガアル。カウ云フ点ハ政策的ニ考慮スルコトガ必要デ、要スルニ弾力的ニ考ヘタイト思ツテヰル
以下甲案ニツイテ雑談的ニ意見ヲ交換シタ
一、「宮沢」甲案ニツイテモ国会常置委員会ハ諮詢機関トナツテヰルガ更ニ一歩ヲ進メテ議会ヲ尊重スルト云フ建前ニ立ツナラ、議決機関トスベキデハナイカ。諮詢機関トシテモ充分ニ委員会ヲ尊重スルナラソレノ意見ヲ充分ニ参考スルノダカラ、イツソノコト議決機関トスベキデハナイカ。
佐々木案デモ憲法事項審議会ハ常ニ「議決ヲ経テ」ト云フコトニナツテヰル。
入江「政府的ナ考ヘデハヤハリ「諮詢」ト云フ所ガ適当デアラウ。今後モナホ執行権ノ地位ヲ過度ニ弱クスルコトハ避ケネバナラナイノデアルカラ、ヤハリ「諮詢」デイイデハナイカ」
宮沢「実際的ニハ「諮詢」デモ「議決」デモ同ジコトニナルケレドモヤハリ精神的ニ考ヘルト、議会トシテハ「議決」ト云ハレレバ自分ノ地位ガ重クナツタ様ニ思フカラ「議決」ヲ要求スルダラウ。
先ノ松本大臣ノ言ハレタ政策的考慮ノ一ツトシテ、要求ガツヨケレバ「議決」ニ改メテモイイダロウ」
二、甲案第一条 日本国憲法ト最初ニアルノダカラ、A案ハ「統治権ハ・・・・・」トシテモイイデハナイカ、
三、甲案第三〇条ノ四 佐藤「其ノ自由及権利ヲ侵サルルコトナシ」トアルガ、自由ヲ侵ス、ト云フノハ判ルケレドモ権利ヲ侵スト云フコトハイカナル意味カ。自由トカ権利トカノ観念ハ元来不明瞭ナモノデアルガ、第三〇条ノ四ノ様ニ書クトソノ権利ハ実定法上ノ権利デハナクテ、何等カ自然的ナ権利ノ意味トナル。自然法的ト言ハナクテモ立憲政体下ニ於ケル日本国民ノ何等カ包括的ナ、実定法上ノ各種ノ権利トハチガフ権利ノコトデアル。サウナルト具体的ニ各個ノ場合ニドノ権利ヲ侵害スルカト云フコトガ問題ニナツテクル。
カウ云フ思想ガ憲法ノ中 入ツテモイイノカ。何カ他ニ書キ方ガナイカ。調査会デナホ検討ヲ要スル。
四、入江第三〇条ノ二 「教育ヲ受クルノ権利及業務」トアルガ
文教政策ハ重大故法律事項トスルコトハ当然デアルガ、就学資格等ノ規定ハ勅令デヤルノガ適当デアル。従ツテ「教育ニ関スル重要事項」ハ法律ノ定ムル所ニヨルト云フ趣旨デアル。サウ考ヘレバムシロ一九条的ニ「日本国民ハ法律命令ノ定ムル所ノ資格ニ応シ均ク教育ヲ受クルノ権利及業務ヲ有ス」ト云フ表現ノ方ガイイノデハナイカ、ナホ「教育ヲ受クルノ業務」モ厳密ニ考ヘレバ保護者ガ教育ヲ受ケシムルノ義務ノコトナノデアルカラ、コノ表現モ考ヘル必要ガアル。三〇条ノ四ト共ニ総会デモ考ヘルコトニシヨウ。

以後 松本案要綱ノ検討
三ケ所訂正

(極秘)
八部ノ中四冊

憲法問題調査委員会第十五囘調査会議事録

日時 昭和二十一年一月二十六日(土)午前十時―午後五時
場所 内閣総理大臣官舎会議室
出席者 松本委員長、宮沢、河村、清宮、諸橋、小林、大池、石黒、入江、佐藤、奥野、中村各委員、古井嘱託、刑部、佐藤補助員、岩倉内閣書記官、大友内閣属(楢橋委員、窪谷補助員欠席)

記事
一、本日ハ前囘迄ノ小委員会ニ於テ得タル成案「憲法改正要綱」(甲案)及「憲法改正案」(乙案)ヲ議題トシ、之ヲ審議シタ。
午後臨時閣議ガ開催セラルル為、松本国務大臣ハ之ニ出席セラルル為午前中甲案ヲ検討スルコトトナツタ。甲案ハ委員長ガ之ヲ朗読セラレ且説明セラレタ。各委員ヨリ極メテ熱心ナル意見ノ陳述ガアツタ。其ノ主ナルモノハ次ノ通リデアル。
第一章 天皇
一、異議ナシ
二、同右
三、「帝国議会常置委員ノ諮詢ヲ経ルヲ要ス」トアルモ議決ヲ経ルヲ要スルコトニ改ムル要無キヤ、研究スルコト
四、「行政ノ目的ヲ達スル為必要ナル命令」ト改ムルト従来ヨリ却テ広クナツテ何デモ命令デ出来ル様ナ印象ヲ与ヘハセヌカ。勿論要綱十ニ明ナ様ニ「本章各条項ニ掲ケタル場合ノ外凡テ法律ニ依ルニ非スシテ其ノ自由及権利ヲ侵サルルコト無」イノデアルケレドモ一見スレバ広クナツタ様ニ思ハレル。仍テ「法律ノ範囲内ニ於テ」トイフ句ヲ「行政ノ目的ヲ達スル為必要ナル命令」ノ上ニ冠スルノガ良イノデハナイカ。
五、削除説モアルノデアルガ、国家ノ将来ヲ考ヘレバ「軍」ノ存在ハ自然デアルト考ヘ甲案デハ存置スルコトトナツタ。
六、本項ニ対シテハ次ノ二ツノ意見ガアツタ
1、宣戦、講和ハ之ヲ削除スル方ガ良クハナイカ
2、敵カラ仕掛ケラレタ戦争ノ場合ハ常置委員会ニ諮詢スルヲ以テ足ルモ、コチラカラ仕掛ル場合ハ如何ナル事情ガアツテモ必ズ議会ノ協賛ヲ要スルモノト改ムルヲ可トス。
七、異議ナシ
第二章 臣民権利義務
八、「役務」トイフ概念ハ稍々不明ノ様デアルガ、身体的ナコトノミデハナイ将来国防ガ復活セラレタ場合之ノ条項デ行ケルト考ヘル
九、「臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ」ヲ削除シタノハ、臣民タルノ義務ニ背ケバ勿論安寧秩序ヲ妨ゲルカラデアル
十、異議ナシ
十一、異議ナシ
十二、異議ナシ
第三章 帝国議会
十三、「参議院」トイフ名称ハ両議院トイフ場合「○議院」トシタ方ガ良イト考ヘ一応コノ名称トシタノデアル。
十四、皇族及華族議員ハ之ヲ除ク趣旨デアル。尚小数意見デハアルケレドモ「参議院法」ハ「参議院令」トスベキデアルトイフ意見ガアル。
十五、異議ナシ
十六、同右
十七、同右
十八、参議院ノ閉会ニ関シテハ「帝国議会ノ開会中ニ衆議院ガ解散セラレタルトキハ参議院ハ同時ニ閉会セラルベシ」トスルコト。
十九、異議ナシ
二十、会期中之ヲ釈放スベキノミナラズ「召集後会期中ニ亙ツテ之ヲ釈放スルヲ要スル」コトニ改ムベシトノ意見アリ。
第四章 国務大臣及枢密顧問
二一、異存ナシ
二二、同右
二三、同右
二四、枢密院ノ廃止説ハ勿論アルノデアルガ、天皇ノ側近ニ練達ナル重臣ガ官制上存在スルコトハ必要デアルト考ヘ之ヲ存置スルコトトシタノデアル。但シ要綱ノ文字ニ付テハ
第一項 枢密顧問ハ枢密院官制ノ定ムル所ニ依リ云々
第二項 枢密院官制ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム
トスベキデアルトイフ意見ガアツタ。
第五章 司法
二五、第六十一条デモ良イケレドモ第五十七条ヘ規定スルナラバ第二項ニ規定ヲ設クルヲ可トスル。
第六章 会計
二六、異議ナシ
二七、皇室財産ノ大部分ハ之ヲ国有財産ニ組込ムトイフコトヲ前提トシテノ立案デアルコトヲ明ニシタイ。
二八、異議ナシ
二九、要綱第三ト同ジク諮詢ナリヤ議決ナリヤガ問題トナル
三〇、同右
三一、本要綱デハ予算不成立ノ場合ハ暫定予算ヲ何ケ月カ施行シ、其ノ年度ノ予算トシテハ通年予算カラ暫定予算ニ相当スル何ケ月分カヲ除イタモノニナル様デアルガ、主計局トシテハ暫定予算ヲ施行スルト同時ニ之ヲ含ム通年予算ヲ作成シ之ガ議会ノ協賛ヲ経レバ自動的ニ暫定予算ハ通年予算ノ中ニ溶込ンデシマフコトトスルノガ良イト考ヘテヰル条文的ニ表現スレバ、次ノ様ニナル。
第七十一条 会計年度開始前ニ予算成立ニ至ラザルトキハ政府ハ会計法ノ定ムル所ニ依リ暫定予算ヲ調製シ予算成立ニ至ル迄之ヲ施行スベシ
前項ノ場合ニ於テ帝国議会閉会中ナルトキハ速ニ之ヲ召集シ其ノ年度ノ予算ヲ提出スベシ
而シテ、議会開会中ナルトキハ不成立ニ至ツタ予算ガ継続審議セラルレバ良イノデアル。
第七章 補則
三二、乃至三五、孰モ異議ナシ。
以上ヲ以テ要綱甲案ノ審議ヲ了シ、委員長中座後論議セラレタ意見ハ之ヲ取纒メ報告スルコトトナツタ。
(二)次ニ憲法改正案乙案ヲ審議シタ。主要ナル意見ハ次ノ通デアル。
「大日本帝国憲法」ヲ「日本国憲法」ニ改ムルコトニ付テハ、天皇制ヲ存置スル以上ハ「帝国」トイフ文字ヲ存置スベキデアルトイフ意見ガアツタ。
第一条 A案ノ「日本国ノ」トイフ文字ハ不要デアルトイフ意見ト之ヲ存置スベシトイフ意見トガアツタ。
B案「日本国ハ君主国トシ」トスルヨリモ「日本国ハ立憲君主国トシ」トスル方ガ良イトノ意見ガアツタ。
尚新ナル意見トシテ、
日本国ハ万世一系ノ天皇統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ政府ヲシテ之ヲ行ハシム
トイフ案ガ提示セラレタ、之ハ天皇親政トイフ観念ト矛盾スルモノデハ無ク直接ニ行使セラレズ太政官時代ノ様ニ政府ガ奉勅施行スルモノデアルト説明セラレタ。
第三条 「天皇ハ不可侵ニシテ政治上法律上其ノ責ニ任スルコトナシ」トイフ案モ提示セラレタ。
尚「天皇ニ責任ナシ」トイフコトヲ露骨ニ書クコトノ可否ニ付テ、苟モ人間ガ理性アル生物デアル以上行為ニ対シテ責任ノアルコトハ倫理上道徳上ノ大原則デアルニモ拘ラズ天皇ガ統治権ヲ行使シナガラ其ノ責任ガ無イトイフコトハ法律学ヲ学ンダ者ナラバ了解出来ルガ然ラザル者ニハ怪奇ナ印象ヲ与ヘルノデアル仍テ成ル可ク露骨ニ表現セヌ方ガ良イトイフ意見ガアツタ。
第一章ニ付テハ右以外ノ議論ハナカツタ。
第二章 別段ノ意見ナシ
第三章
第三十四条、第三十五条
衆議院ハ選挙ノ方法ノミヲ規定シ参議院ハ内容ヲモ規定シテヰルガ之ハ抽象的ニ「参議院法ノ定ムル所ニ依リ選挙又ハ勅任セラレタル議員ヲ以テ組織ス」トイフ甲案ノ方ガ良イ。
若シ三十五条ヲ乙案ノ様ニ内容モ規定スルトスレバ三十四条ハ「地域ニ拠リ」ノ趣旨ヲ加ヘラレタイ。
第四章
乙案ニ於テモ枢密院ノ性質ヲ変更シテ存続スル様ニセラレタイ。
第五章
第五十七条 第三項ヲ二項トセラレタイ。
第六章
第七十二条 決算ニ関シテハ責任ヲ問フ趣旨ヲ明ニスベキデアル
会計検査院ヲ帝国議会ニ附属セシメタラ如何トイフ意見モアツタガ政党関係上不適当ト考ヘル旨ノ反対説ガアツタ。
二月二日(土)総会ヲ開ク予定。
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