ボイコットの経緯

Detalhes do boicote

Detailed accounts of the boycott

1934年(昭和9)11月の仲買人ボイコット事件の顛末を記している。採録にあたり、「創業の跡を顧みて 四半世紀の歴史は生きる 初期苦難時代の思出座談会」 『農業と協同』1952.3 下元健吉発言を注記した。

コチヤ産業組合薯ボイコツトの観察(抄)   下元健吉


 過般我がコチヤ産業組合所産の馬鈴薯販売に対し、聖市の問屋商人が連盟して不買同盟を結成し組合と対立するに到りました事は当時一部邦字新聞で報導された事でありますが将来各地の産業組合が発展するにつれ斯る問題は今後もシバシバ繰返される事かも知れす、特に組合の何たるかを知らない一部の人士は、かかる問題を捕へて組合は恰もブラジルの経済機構を破壊し排日の種を蒔くものなるが如くに観察する者もある様に聞きましたので貴重なる本紙を借りて其の真相を報告し併て将来斯る問題を取扱ふ参考ともなればと考へ、敢て本文を草した次第であります。勿論本問題を直接取扱た小生の観点は、或は公平を期し難いかも知れませんが、其の点は諸賢の御判読を願つて置きます。

 コチヤ産業組合に於ける販売統制の必要性

 現在五百家族の組合員を有する当組合の販売物は其の九十%が馬鈴薯であり、コチヤと云へばバタタを連想する程昔から芋の産地として知られた所で、産業組合も又バタタの為に生れ、之を有利に生産し、之を有利に販売する機関として存在の必要性があるのであります、それで創立以来苦境に喘ぎつつも此の目的の為に、当事者も組合員も懸命の努力を致して来たもので、もし組合が存在せなかつたとすれば、おそらく当地方の芋作者は半分の生産も為し得なかつたであらうと推定されます、幸ひにして現在に於ては年額三十万俵の芋を生産し、之が販売市場たるピネーロスは、聖市唯一の芋市場であると同時に伯国芋市価の発源地であり、当地方の収穫期に於ては、全く市場の動向を一手に扼し得る状態であります。

 個人売りは如何に不利益をもたらすか

 茲に一同に四千俵を消費する市場に対し百人の荷主が自由販売を敢行せんか、商人は品質が優良で最も割安な物を先づ買求め、それがその日の市価の基準となつて、四千俵全部はそれ以上には絶対に売れない、もし四千五百俵出荷されたる時は僅か五百俵の余剰の為め、市場は各荷主の投売りとなり、何処迄惨落するか計り知れません、特に取引関係に於ては、農業者は商人の足許にも及ばず、全く彼等の蹂躙に委すより他に術なきに到る事は火を賭るより明白な事実であります。

 市価の統制を計らんとする組合

 当地方の芋の収穫は大体に於て二期に別れて居つて、其の最高潮時は五月と十一月とで就中十一月は聖州各地の収穫期と一致する為め、市価は漸落し行くのが普通であります、故に此の時季は迅速に収穫し敏速に販売するのが有利であるが、それも程度を越して数百家族の者が無理矢理に販売を急ぐ為め毎年当然に市価を惨落せしめ、思はざる莫大な損失を見るといふ結果を招来してゐるのであります。そこで組合では近年、収穫前にあたつて組合員の植付を精密に調査し進んで各地の生産状況をも研究して、販売市場の形勢と対照し市価の動向を予じめ察知し之れを基準にその販売上に遺憾なきを期して居るのであります。

 本年に於ける組合の市価統制の基準

 本年は其の成育期に於て旱魃続きであつた為、当地方も尠からず減収を予想せねばならぬ年であつたが、カンピーナス方面及び奥ソロカバナ線等の奥地生産地は特に旱害が激甚で、中央市場に出荷さる可き良品は極く僅少で然も年内には殆ど出荷されざる状態である事を知り得たので、組合所産芋は全く市場を独占し得る観があり、毎日当地方の出荷がリオ、聖市の需要大約四千俵を支配し得る見当をつけ得られたものであります。
        本年度下半期収穫予想高(省略)

 生産方面より見たる市価基準


 いずれの農業と雖も其の栽培には相当の労力と資金を要し、収穫物の売上高は何時でも其の労銀と投資を支払ふに足らねば経営されぬものである事は今更説明を要しないが、左に本季作の一俵当り平均生産費を、計算すれば左の通りとなる。
        平均一アルケル当り生産費(省略)

 最近に於ける組合販売部の活動

販売事業は創立以来組合事業の第一位に置き、之が万全を期する為め組合及組合員は多大の犠牲をさえ捧げて来たもので最近に於ては組合各般の事業の進展に伴ひ、聖市及リオ市場に於ける直接販売の充実を期すると共に、遠く進んで北伯地方への直輸出をも敢行して大変な好評を博しつつある状態であります、特に本年のリオ市場に於ける活躍は週余に亘て、毎夕ラヂオを通し組合芋の宣伝に努めた為め、一般消費者筋より、特に組合芋を要求し来り、卸小売商人は是が非でも組合芋を取扱はねばならないといふが如き状勢となり、十月以降は全く組合直送芋を以て全市場を圧倒するに至つたのであります。

 ボイコツトに至りたる主なる理由

一、遠因
前述した様に、逐年組合の発展し行く事は是まで種々の手段を弄して、勝手に振舞ひ、自己の腹のみ肥して居つた、仲間商人の為めには確に一大痛棒であり、組合は彼等の為に眼の敵とされる事は当然の成行きであつて、事あれば、組合の隙を窺ひ、組合の発展を妨害又は倒壊を謀らんとするは商人としで採る可き最後の手段であつたと思はれます


二、近因
イ、リオ取引を主とする有力なる数名の仲買商人は是迄多く奥地産の芋を取扱ひ相当の利益を上げて居つたけれども、本年は奥地方に見るべき生産無く、従て当地方産の芋を取扱ふ必要に迫られたるも、組合の存在が彼等の要求する利潤を与へざりし事。
ロ、商人も本年の芋不作を想像し、当地産の出盛期に於て、殊更らに市価を暴落せしめ、其の最低値に陥入るを待て大量買込みを行ひ之により収穫末期後に於て利益を上げんと企図し、盛に市場攪乱を策したけれども之を予知したる組合は成可く彼等に品を渡さず、リオ直送を倍加し、遂に前述の如く、結果は逆転し反つて彼等は之迄の常顧客を、組合の為めに失ふに至つた事。
ハ、組合は市価安定を謀る為め出荷の過剰を防止せんとして一時的出荷停止又は出荷制限を断行したるに、一部の無理解なる我利的な生産者は之に服せず、抜け売を行ひ、又之等の人々を煽動して自己の腹を肥さんとする、反産組合派の委託販売を業とする邦人商人の介在するありて、益々組合の統制は困難に陥りました[、]此の傾向は一般仲買商人をして、組合統制の実力を疑はしめ、組合をボイコツトすれば必ず大部分の組合員は自己の生産物を販売出来ない立場から、その苦痛を忍び得ず、直に組合の統制は破れ、遂に解散を余儀なからしめ得ると云ふ予想を与へたる事。

 ボイコツト連盟の活躍

斯くて、有力なる数名の商人は聖市の卸小売商人一同を叫合して遂に十一月二十三日、ボイコツト同盟を結成し、爾後一切コチヤ産業組合所産の芋は買はずといふ申合せをなし、一方聖市穀物中央取引所長をも加担せしめ、数名の弁護士を擁して、組合の違法手落等を摘発し、之を政府当局に起訴するなど、内外より組合をして倒壊せしめんとする方策に出たのあります(注1)

 ボイコツトに対する組合の対策

組合は商人のボイコツト連盟が結成されたるを知ると同時に直に役員会を開き、その対策につき熟議し、この際商人に兜を脱ぐが如き事あらば、直に組合の解散を意味し、組合の解散は当地方農業者の死滅を意味する以上、飽迄対抗すべく、先づ第一要件として内部の統制を厳にする必要上、此の際組合員と非組合員とを問はず、事件の落着する迄絶対に出荷を停止し、万一之を裏切る者あれば当地方邦人社会より、絶交を宣言し、社会的制裁を加へると云ふ申合せを為し、九名の理事、三名の監事、二十七名の区長は昼夜各部落を廻つて、其の実施に奔走努力したのであります。
一方商人組合に対しては、其の無謀なる事を諭し、組合は社会幸福の為めに、存在するものである以上、飽迄反省せざれば、これ迄の販売方法を改め、爾後一切仲買商人とは取引を断絶する、との意を印刷に付して各商人に配布しました。
その要点は
一、飽迄ボイコツト連盟を支持する者は爾後絶対に取引を断絶する。
一、速かにボイコツトを解消せざれば組合は、サンタローザ街及其他主要なる地に販売所を設置し、小売販売を開始すると同時に、必要に応じて組合員所有のカミニヨン[注 トラック]数百台をして、直接エンポリオ[注 市場]へ配給をも開始す。
斯くて直に実行に移る為め、サンタローザ街に一棟の倉庫を借家し、進んで事務員を派して各エンポリオの調査を始め直に実行に移る準備を整えました。
一方官庁に対しては農務局、市当局、並に産業組合保護局に、其の成行を詳細に陳述し、其の措置を仰ぎました処、何れも、組合に対し非常の同情を寄せられ、特に保護局長は、此問題はブラジルで始めての問題で、産業組合が発展すれば何れ起らねばならぬ問題であつたが、偶々コチヤ産業組合が最初に、ブツカツタ事は要するに、君達の組合が最も理想に近く発展しつつあるといふ事を意味するもので未だ発達の初期にあるブラジルの産業組合界の為めに飽迄戦つて呉れ、官庁は、どこまでも組合を保護してやるから決して心配は無用である、との激励を受けました。(注2)

 ボイコツト連盟遂に解散

 組合は官庁及一般市民の同情と支持を受けるに反し、商人連盟は一時新聞を利用して、排日問題に迄悪化せしめんとする方策を弄したり、更に肥料商をも叫合せんと策謀したるも遂にならず。
其の内ボイコツトが何の為め起されたるかを充分知りもせず加盟してゐた小商人から内部紛争が起きたりした為め、漸く事の不利を悟り、領事館に泣込み、和協斡旋方を依頼して来たのでありました、

 然し組合は本問題に就て、領事館を煩すの非なる事を知り、保護局の仲介か、又は直接の談合ならずば、一切御免との意を告げ、結局直接交渉に移り、双方共全くの無条件にて、昔の取引きに復帰する事にして、さしものボイコツト連盟も一週間の命が尽きて解消したのであります。

 ボイコツトの及したる損失と利益

損失の方面
一、ボイコツト中、組合は一週間の出荷停止を余儀なくされたる事。
一、ボイコツト中組合は、八千俵の滞荷を余儀なくされ相当の目減りと、品質を悪化せしめられたる事。
一、商人の悪宣伝に依り、リオ市場を混乱に陥入れ、当時リオ販売部にあつては、四千俵の滞荷を余儀なくされ、一俵当り五□見当の損失を受けたる事。

利益の方面
一、一般組合員が団結の意志を強固にしたる事。
一、是迄の無理解な組合員を反省せしめたる事。
一、新加入者を増加したる事。
一、一般市民に組合を理解せしめ、其実力を示し得たる事。
一、官憲方面に対し、組合の信用を増したる事。
一、商人に対し組合とは協調せねばならぬと云ふ事を知らしめたる事。

 今後の対策

 今回の事件は産業組合の発達途上に於いては当然遭遇すべき事であるかも知れぬが、さりとてかかる忌はしき問題は避けらるるものなれば、避ける方が利益なるは勿論の事であり、其の紛争中に於ては、敵も傷手を負ふたと同時に、我方にも尠からぬ損失を受けた訳であります。

 そこで組合は旧交に復したる以上、可能なる範囲に於ては、商人とも共調し、成可く彼等の憤激を買はぬ様に、心掛けねばならぬと考へます。尚又平時に於て、益々組合の機能を完備し置き、再び起きたる時決して狼狽せぬ丈けの準備をして置く必要があります。

差当り組合はサンタローザ街に販売所を新設する事。
各生産地と連絡を取り、其の販売に就き協調する方策を講ずる事。
リオ販売部を益々充実し一段取引をも可能ならしむる機関とする事。
北伯地方への輸出を益々盛んならしむる事。
この機を利用し、せめて聖市近郊に点在する芋作者を結合する事。
次期作より、表装は組合のマルカ[注 マーク]を附したる新袋に改め、其まま遠地発送を可能ならしめ、一般需要者に組合芋を宣伝する方策を講ずる事。
次期作より等級別による共同計算にして、不時の損失を全組合員に於て負担する様にする事。
今回のボイコツトに、最も大なる誘因となりたる反産邦商の、邪魔を排除する事。

 其後商人との関係

 ボイコツトを解散したる商人は翌日より組合に押掛け、八千俵の滞荷は僅かに、二日間にして売り尽し、我等の喜びは又彼等の喜びとなり旧に倍して親密な取引を続けて居ます。

 之れは要するに、組合の採つた態度に一点の我意なく、社会幸福を目標とする、誠の道だつたからだと考へます。

 終りに臨み本事件に対し、蔭乍御心配下さつた、地方有志の方々に厚く御礼申上ると共に、正当なる道に於て活動する、組合に対しては当ブラジル官憲や有力筋は強い味方に成つて貰へるものだと云ふ事を、御伝へして置きます。

 尚ほ又一部人士の様に邦人の産業組合が発展する事はブラジルの経済機構を破壊し排日の種を蒔くものであるとの考へ方は井中の蛙にも等しき姑息な考へ方であつて、政府当局は保護局を設けて指導奨励をして居り又心ある伯人は産業組合の社会的存在価値位は熟知してゐる筈であります。

 だのに彼等は邦人の知識階級を自認する者でありながら、産業組合が何んであるかさへ御考へなく、勝手に、恐々として自説を並べ邦人の経済的団結を拒むが如きは誠に遺憾の事だと考へます。   

一九三四、一二、二一

(注1) 「創業の跡を顧みて 四半世紀の歴史は生きる 初期苦難時代の思出座談会」『農業と協同』No. 9(1952.3)での下元の回顧談。
「話は土曜に決つたらしいが、始つたのは月曜だつた。朝組合に出たら中尾君が青くなつて飛んで来て、メルカード[注 市場]では商人が申合せて薯を買わんと言つてるというんだ。そこへイスパニヨールのぺーぺもきた。ペーぺが言うのには親しい仲買人は皆不買同盟に入っている。

 初め話を聞いたときそんなボイコツトをしてはいけないと言つたんだが、聞き分けない。それから僕らは皆してメルカードに行つてみた。メルカードには仲買人が皆集つていたが、どれもこれも、コチア組合の薯は一俵も買わんと言う。こちらもビツクリしたな。それから対策を講じようというので皆に集つてもらつた。」

(注2) 上掲座談会での下元の回顧談
「下元=一週間というものは全くの出荷停止だ。その間戸を閉めたんだ。組合の倉庫には薯が一ぱい残つているが、商人はカリネイロに至るまで誰も買いに来ない。ところがカリネイロのようにその日稼ぎの連中は、二、三日は我慢したが五日も休業が続くとやりきれない。食うに困つてくる。組合に薯買いには行げすかと言つてメルカードには全く出荷がない。どうして食わしてくれるんだと主謀者の大商人の所へ文句を言いに詰めかけた。これには主謀者も困つた。

 連中の考えではボイコツトをやれば必す組合員が抜け売りをやつてメルカードにどんどん出荷してくる。そうなれぱ組合はひとりでに潰れるだろうという算段だつたが実際には逆に行つた。メルカードには全く薯が出て来ない。裏をかかれる結果になつた。

山下=あの事件で領事館が何か言つて来たな。

下元=その前にね、僕等は産組奨励局へ行った。局長はルイズ・アマラールたつた。というのはボイコツトの主謀者が奨励局へ行つて何だ彼だと文句を言つたから、局長から僕の所へ使いがきて、奨励局へきてくれという。こちらは言葉がよく判らなかつたから緑川君を通訳に連れて行つた。

 ルイズ・アマラールが、君等は商人とえらい喧嘩をしてるそうだが一体どうしたんだと言うから、喧嘩を売つたのは商人で、怪しからん話ではないかと事情を説明したら局長もそれは怪しからんという。世界のどの国でも産業組合が盛んになると必ず商人側から反産運動が起る。商人がボイコツトをやる。こんどの事件は実に大がかりな反産運動で、もしコチア産組がこの運動で負けたらブラジルでの組合運動は発展の余地がなくなる。だからこの事件はどうしても組合が勝たねばならない。もし君達が困るような時には、政府の方で援助をしてやる。とまでルイズ・アマラールは我々を激励してくれた[。]

 その時分、ブラジルの新聞がぢやんぢやん書き立てた。これはボイコツト主謀者側の策動で、連中に都合の良いことやコチア攻撃の記事をどんどん書き立てた。それでこちらも何か声明書を出すことになつた。声明書の要旨はね、百姓が汗水垂らして作つたものを、生産者と消費者の中間にいる商人が暴利を貪つている、中間商人は百姓いじめをする許りでなく、消費者をも搾取しているのだ。

 我共はこんな中間商人は相手にしないで、消費者を相手にする組合の理想どおりに、商人の手を通さないで消費者へ直接配給をやるから大いに買つてくれ、という意味の声明書を檄文的な句調で書いた。それを緑川君が直訳的な句調の翻訳をやつた。こちらは新聞に書かせる様な力はないから、この声明書を何千枚か刷つてサンタローザやメルカード方面へ配布した。そしたらアルツール・ヴイアンナがきて、この儘ではどちらも大変なことになるから、この辺で仲直りをしたらどうかという。

西村=あの時、ヴイアンナはゲレイロを連れてきたよ。

下元=そうだつた。僕は二人を前に怒鳴りあげた(笑) 何言つたか憶えていないが、余り上手でもないブラジル語で怒鳴りあげて、さつさと帰れと言つてやつた。

長井=デフエンデル・ア・コペラチーヴア・エ・デフェンデル・ミンニヤ・フアミーリヤ[注 組合を守ることは、家族を守ることだ]と言つたよ(笑声)

下元=それから市毛総領事から使いが来て、ちよつと来いと言う。行つたら、市毛さんが言うのに、えらい大問題を起してる様だが、これが発展したら国際問題、外交問題になるから、妥協したらどうかと言う。これは商人側が、日本人対サンパウロ市民の問題だという様に話を持つて行つたんだね。そこで僕は、外交問題でも国際問題でもない[。]これは薯作り対商人の問題なのだ。そこへ領事舘が頭を突込んできたら、その事によつて問題が国際的になつてくる[。]それは以ての外だから、如何なることがあつても領事舘は干渉して欲しくないと言つてやつた。

 市毛さんは「君達にそんな元気があるなら仕方がない」と言つて引つこんだよ(笑声)次の日にヴイアンナがまたやつてきた。そして、何とかして仲直りしてくれ、実はボイコツトの側で参つていると言う、こつちは、前非を悔いて謝つてくれば仲直りをしてもいい、徹底的に謝つたら薯を売つてやろうと言つたら、ヴイアンナは、謝るから是非ボイコツト主脳部と会つてくれ、そんならコチアの事務所へ来いと僕が言つたんだが、気味が悪いから到底組合にはよう来ない。そこでヴイアンナの事務所で会つた。

 こちらは僕と山下君、それに緑川君も一緒に行つた。向うは主だつた連中五、六名がいたよ。ところが向うには条件があるのだ。リオ発送は商人に任せてくれ、組合はリオ販売をやらないことを約束してくれという。こちらは、そんな馬鹿な条件があるか、何処で売ろろとこつちの勝手だ、と突つばねた。

山下=そして、今迄と同じ条件なら売つてやろう(笑)

下元=向うも形勢が悪いのだから、今迄と同様でよいから売つてくれという。その日は確か土曜だつたと思うが、それで月曜から売ることになつた。