梅谷光貞書簡

下村宏宛　梅谷光貞絵葉書　昭和3年6月24日

下村宏関係文書　書翰の部 143-9

（表）
東京市麹町区数寄屋橋際
東京朝日新聞社
　　下村宏殿

不相変御健勝御活動の御
事と存候　小生頑健御安心可被下候
土地の選定と購入中々容易の事
にあらず日夜苦心焦慮いたし居候
渡伯以来幾多の困難に遭遇し
心身をなやます事少からず候ヘ共
事業の前途に光明あり極めて愉快
に活動いたし居候間此点特に御放
懐可被下候近々一応打合せの為め帰
朝可仕候

（裏）
下村老兄
　　　　　侍史

「ぶらじる奥地
大森林内視察
の状況。林相の美
御覧相成度候

六月二十四日　サムパウロ　梅谷光貞

下村宏宛　梅谷光貞絵葉書　昭和3年8月28日

下村宏関係文書　書翰の部 143-7

（表）
東京市数寄屋橋東京
朝日新聞社
　　下村宏殿

遥に御健康を祝す
小生至極健全御安心下
され度候　ブラジル植民
計画につきては帰朝の上小
生の腹案可申述候間何
卒御声援のほど奉願候
力の入れ方によりては余程有望
の所と存居候　　梅谷光貞

（裏）
十七日間の
熱帯海
上の航海を安全
且愉快に終
へたる所ミシシ
ツピー河
を遡航る
こと約百哩
昨夜当
地に着
数日間碇
泊の上ガ
ルベストン、
パナマに
向ひ
可申候
帰朝は
十月中
旬と相成候

八月二十八日
ニユーオルレアンス
　　　　　　　　梅谷

下村宏宛　梅谷光貞書翰　昭和4年1月14日

下村宏関係文書　書翰の部 143-3

拝啓　帰朝以来
彼是いたし御面会
の機を失し居遺
憾の至りに存上候
偖本日突然街
上に於て近藤
敏夫氏と面会いたし
候処老台には
本日人口食糧問
題の会議ヘ御
出席相成候処
少々御不快の気
味にて中途より退席御帰県
相成候由如何の御
様子かと御案じ
申上候　時下厳寒
の期節にも有之
折角十分の御注
意の上御静養
のほど奉祈候
小生帰朝以来植
民計画根本方針
建て直しの為め日夜
忙殺され各方面
の諒解を得て漸
く成案を得昨
年十二月我連
合会の理事会の
議を経て総会に
提案いたし候処一
部策士の猜怨に
反対する所となり
遂に審議を了す
るに至らず本年
に持越し去る十六日
総会再開いたし
候処依然として反
対の空気は存在せ
しも大勢如何とも
する能はずして遂に
原案通過小生の
腹案通り決定仕候
間乍憚御安心可
被下候　　小生は或は
再び此新方針の
本に来月中旬頃
迄に渡伯のことと
相成るやも知れず
候　併ブラジル植民
計画の基礎を確
定することに有之困
難には有之候へ共
快味も十分に有之
候に付思ひ切つて
奮発いたし度存
居候　過般東京御
社に赴き豊原氏に
面会十五日迄には御
上京の由に承り其
内御尋ね申上度
存居候に突然御
帰県相成候は残
念に有之候　何卒
早速御平癒の
ほど奉祈候
　　　　　　　敬具

一月十四日
　　　　　梅谷光貞

下村老台
　　　　　侍史

下村宏宛　梅谷光貞書翰　昭和4年11月24日

下村宏関係文書　書翰の部 143-11

拝啓其後甚だ御無沙汰いたし居候　益御健勝にて
不相変東奔西走御活動被遊候哉御伺申上候
小生幸に無事殆ど一瞬の休養を得るの暇もな
く日夜精励大和民族発展の為め微力を致し
居候条乍憚御休神可被下候
母国に於ては売勲事件を始めとして各種の疑獄
事件頻発いたし居候は遺憾の極みに有之候
此の如き上流社会の腐敗墮落は国民精神の鼓
舞振作と十分に廓清を期するの必要可有之と
存候何とか健全なる社会に浄化せしめ度ものに有之候
田中政友会総裁の頓死は誠に御同情の至りに奉存候
後任総裁も漸く決定の模様には有之候へ共政友会
としては各種疑獄事件と共に非常なる打撃を受け
候事と存候　之に反して民政党は党勢拡張の上に
好機会を捉ヘ得たることと存候
新内閣の緊縮政策は固より当然の主義方策とは
存候も如何なる程度迠徹底し如何なる反響を
呈すべきか何卒万全の効果を収めんことを切望
仕候
当地植民事業はバストス移住地チエテ移住地
共道路の開鑿、地区の分割、事務所、医局、移
民収容所、日用品販売所、製材所煉瓦工場等の
各種公共施設は完成し移住者は夫々自己の移
住地に住宅を築造し追々と安定の生活を営
み得る様相成申候間乍憚御安心可被下候
只本年度六百家族入植の予定が当地の真相十
分母国に徹底せず又悪宣伝を試みるものも少
からず又彼二割制限などの主張も多少の影響
有之たるべく従て漸く六七十家族位しか
渡伯するに至らざりしは返す返すも残念至極に
有之候　併之れは追々事情の判明するに従ひて予
定の渡伯入植者を得ることと確信いたし居候
夫れにしても有力なる新聞の御声援を得候事
は我植民事業達成の上に極めて必要に有之何
卒直接間接御援助のほど不堪切望候
小生過般ミナス州政府と直接交渉の上五万二千
ヘクタールス（約五万二千町歩）の州有地の無償下附を願
ひ之に十五ヶ年内に一千家族以上の日本移民を入
植せしむる契約を締結いたし申候　小生の考へとし
ては養蚕を主とし之に一般農作物及果樹の栽培
等を加へて移住者を指導いたし度存居候
期限は十五ヶ年なるも五六年間に全部完成せし
め度意気込に有之候　之又宜敷御援助の
ほど奉願候　来春は小生帰朝の心組に有之
其節は詳細御報告の上御高教をも仰ぎ
尚且十分の御援助をも願度存居候宜敷
願上候　若此ミナス問題が将来日伯親善の
関係に幾分にても貢献することを得るならば
幸甚と存候　此問題は多年の懸案なりしものを
今回漸く解決いたし候次第に有之候
現今の移住組合法を基礎とする組織の本に於て
は到底我植民事業は十分なる効果を挙ぐる能
はずと体験いたし居候是非根本より建直しの上
尚一層効果を収め得る方法組織に依り度存居候
之れも帰朝の上諸事申述度存居候　此点につきて
も宜敷御指導と御援助とを希望仕候
植民事業は其実行の衝に当りて如何にも容易の
業にあらざることを自覚いたし居候　併微力と
駑鈍に鞭ち最善の努力を試み国家重要政
策遂行と万遺漏なきを期し度専念いたし
居候
来年八月は任期満了と相成申候　植民政策の樹立に関
し小生の主義方針を採用せらるるならば引続き其
任にありて植民事業の遂行に当ることを辞せず候ヘ
共其根本方針を採用されざるに於ては到底其任
に留まるを得ずと存居候　固より再選さるるか否か
は疑問に有之候へ共たとひ再選さるるとも到底
引受け難きことと考へ居候　之等の問題は明春
帰朝の上諸般の事情を考慮し善処いたし
度存居候　之等の点につきても亦宜敷御指導の
ほど願上候
先は御無沙汰御詫旁々色々と御依頼申上度
如斯ニ御坐候
尚乍末筆奥様に宜敷御伝へのほど願上候
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　敬具
　　　ブラジル
　　サムパウロ　梅谷光貞

十一月二十四日

下村海南博士
　　　　　　　　侍史

［同梱の絵葉書］

当地本年コーヒー生産過
剰に加ふるに金融逼迫し
コーヒー市価暴落一般に非
常の不況を現出いたし居候
来年は大統領改選期政治
界混沌たるの、状況に相見え
申候　　　　梅谷光貞

ミナス州々有地実地踏査の為
め露営探検を試み申候
実に美事なる大原始林に有之候
　　　　　　　　　　　　　　　　　梅谷

下村宏宛　梅谷光貞書翰　昭和5年12月5日

下村宏関係文書　書翰の部 143-4

拝啓　過般御上京の際は久し振りにお目にかかる機
会を得御健顔に接し候は大慶の至りに存候　又
御多忙の時間を割き小生の身上に対し特別の御
厚情を寄せられ候は感謝の辞なき次第に有
之候　移植民の事業は小生の最も本懐とする事
業に有之候へ共当局に於て十分の理解なき限り
又十分に信頼するの雅量なき限り到底其地
位にあることを得ずと愚考いたし居候　只小生は
拓務当局者が策者の為めに迷はされ誤解せ
ざる様切望いたし居る次第に有之候夫以上
は自然の推移に任すの外無之と存居候
何卒今後共諸事宜敷御高配のほど奉
願候　有吉大使には昨日面会特に申述べ置候　同氏
は小生の立場は十分諒解いたされ居候
先は御礼迠如斯に御坐候
追々寒冷相加はり可申切に健康に御
注意のほど奉祈候
　　　　　　　　　　　　敬具

十二月五日　梅谷光貞

海南博士
　　　　　侍史

小生は六日より約一週間の予定にて長崎に参
り可申候