海外移住組合の方針をめぐる現地公館と外務本省とのやりとり

Negociações entre o Ministério das Relações Exteriores e os órgãos diplomáticos sediados no Brasil a respeito das cooperativas de emigração ultramarina

Exchanges between the Japanese Embassy and the Consulate in Brazil and the Ministry of Foreign Affairs regarding overseas emigration cooperatives principles

この資料に引用する外交文書のオリジナルは、外交史料館で所蔵する。在外公館は、連合会の国家的組織、その現地での登記、各県が独立に移住地を経営すること、長野、鳥取、富山、熊本の四海外移住協会の肩代わりなどの問題点を指摘し、当初の方針通り実施したい外務本省との間でやりとりが行われた。

*原文にない、句読点、濁点を付加し、明らかな誤記を訂正した。

自昭和二年七月至昭和三年二月海外移住組合連合会移住地購入に関する経過概要

目次

(一)

サンパウロ本省  七月二十二日後着
赤松総領事
田中外務大臣


候補地物色中なるが見付からば、早速交渉を進むる必要あるべきに付左記事項御考量の上結果回電ありたし

(一)買主の名義を組合にするならば、組合を登記する必要ある処、其手続相当面倒なるのみならず、之を登記するときは其の組織の大掛りなる為、必ず種々の誤解を招く虞あり。

(二)一時の便法として個人名義にて買取ることは、差支なき如くなるも、名義人の中途死亡するが如きことあらば、当国にては遺産関係甚だ面倒にて手続に長時日と少なからざる出費とを要し、而も手続終る迄土地の処分も利用も出来ざる如き困難の事態を生ずべし。

(三)依て至急当地に於て株式組織の土地会社を起し、其の会社が組合より資金を借入れて土地を買ひ、之を組合員其他に売却する形式を取ることと致したし。
右土地会社の資本額は、百コントス(弐万五千円)乃至壱千コントスとし、株式の大部分は組合の代表者の名義とし、社員の頭数を揃へる為十数株を在当地有力日本人に持たしむれば足る、或は海興を名義人とすることも一案なるべし。

(四)買入れたる土地を各組合に分割し、各組合をして別々に植民地を経営せしむることは不可なり。土地は何個所に買ひても各組合は総て共同して植民地を経営し先づ一個所に手を着け、其の入植が終りて後、第二、第三と順次に手を着ける様にすべきなり。

(五)船中及上陸の際、海興扱の移民と協会又は組合所属の植民とを平等に一手に取扱ふ必要あり。現在海興と「アリサンサ」と別々に取扱ひ居る為、既に弊害あり。之に付ては別に報告の筈なるが、若し各組合が思ひ思ひに取扱ふに至らば、弊害計り難かるべし。

(六)組合の土地の半分は、本邦に於て売出し、半分は当地にて旧移民に売出す必要あり。全部を本邦に於て売出し、植民地を本邦直来者のみを以て固むるときは、純然たる日本村となり、言語、風俗、習慣容易に改まらず、為に有力なる排斥の原因となり、又植民地の発達を害すること鮮からず。現に「アリアンサ」には浴衣掛けのものを見受くることあり。又外人の談に依れば、同地の新植民者は、伯剌西爾式料理方に暗き為、移民に比し、二割方多額の食料費を支払ひ、然も比較的貧弱の食料を摂取しつつありと云ふ。

前記三乃至五は、是非実行致し度き処、若し実行困難の事情あらば、予め御来示ありたし。
在伯公使「バウルー」へ暗送せり

(二)

    昭和二年八月九日
       在サンパウロ赤松総領事                田中大臣
           海外移民組合土地購入の件

貴電第六七号に関し

(一)三重、岡山、広島、山口、和歌山、福岡、鹿児島の七県に於て夫々組合を設立せられ、此等を統括する聯合会は、八月一日成立し田付大使理事長に元長野県知事梅谷光貞専務理事に今井五介、藤山雷太、井上雅二、武富通商局長、守谷[注 守屋栄夫]社会部長等理事に就任せり(武富、守谷[ママ]の就任は過渡的にて追て辞任の筈)。貴地にては聯合会のみ登記し、其の名にて土地を購入することとせば余り目立たざるべし。

(二)聯合会役員一名、其の内渡伯の筈に付、見付かりたる土地に付ては、内密調査し置き、役員渡伯の上交渉を進められたし。

(三)貴電(三)は、権利関係を複雑ならしめ、実行し難し。

(四)は各組合の定款及事業資金の運用上実行困難なり。

(五)は研究中。

(六)は、割合は未定なるが、貴地にても売出す筈。但し公表は暫く差控へられたし。

(七)土地の分割購入は、已むを得ざるとするも少くとも一ヶ所に二組合の植民地を取れる程度のものとしたし。

(三)

        九月二十五日後着
                              サンパウロ  赤松総領事
         田中外務大臣

移住組合土地に関し

(一)当地方に於ける農業は、目下の処、珈琲栽培最も有利に付、組合の移住地も珈琲を主作物となし得る土地を選定したく、熱心物色中なるも、未だ本官の満足するものを見付け得ず。併し先々と思はるる候補地二、三あり。場所は何れもDiexe河の右岸にして、交通系統は、ソロカバナ線に属す。面積は五千乃至二万五千アルケールにて、価格は一アルケール百乃至五百ミルレイス。駅より土地の入口迄の距離は三十キロ以内なり。此の附近は売地多きも、一般に地権関係錯雑せりと称せらるる処、之れが調査は買主の主体が決定せざれば困難なり。地形地質等の実地踏査先代表者到着の上、右候補地を一般に巡回するを便利とす。従て当方にては、未だ実地踏査は行ひ居らず。右の外北パラナ州に一アルケール五十ミルレイスにて一〇万アルケールの売地あり。又故保科憲一郎[注 正しくは星名謙一郎]の所有地約一千アルケールあり。小面積なれども適地にして、考慮中に加ふる価値あり。

(二)往電第六十七号の土地会社は設立せず。聯合会を登記せらるる御意嚮の由なる聯合会登記の件は、本官に於て不賛成なり。
苟も本邦政府に於て対伯移民に相当重きを置き土地の購入等永続的施設を行はんとするならば、排日問題対策には最も慎重の考量を要す。聯合会を登記し政府の高官よりなる役員の名が発表せらるれば、直に問題を惹起する惧あり。今後永久に排日家に好材料を提供するに至るべし。先般リオに開かれたる議員商事会議に於ても移民を国家に於て取扱ふ事を否とする議論ありたりと聞けり。国家的の色彩濃厚なる聯合会を当地に登記し其の名にて購入せんとするが如きは、余り当地の事情に疎き企と謂はざるべからず。本官の今般視察したる処に依れば、南方諸州に於ける現在の独逸人植民地は、総て外形は土地会社の分譲地に外ならず、学ぶべき点なり。彼等は皆無限責任の合名会社なれども、我方に於ては株式組織とする方便利なるべし。

(三)代表者は、土地会社設立の暁、其の社長たるの諒解を以て、至急出発せしめられたし。
貴電第五〇号を以て許可を得たる弁護士は、前記土地会社の顧問として雇入るるを適当と思考し、未だ雇入れ居らず。
大使暗送済

(四)

                                                      通三
                    サンパウロ
本省               一月十五日前着
                                          赤松総領事

  田中外務大臣

第四号の一
梅谷より田付へ

赤松総領事、多羅間領事、青柳嘱託と慎重熟議を遂け、当地の実情をも参酌し尚且つ有吉大使の指揮を仰ぎ、当聯合会の当地に於ける経営方針を、左の如く決定実行せんとす。御承認を請ふ。

一、内務大臣を会頭とせる聯合会の定款を当地に於て登記するは、政治的に見て不得策なり。依つて当地に於ける聯合会の事業執行機関として土地会社を設立する事は、将来永久の策として適当なりと認む。其の株主及役員は凡て聯合会若くは組合関係者のみとす。尚其定款の要領は別紙第五号の通り。

二、土地の分譲は、経費の節約と複雑なる手数を避けん為め、適当なる方法に依り土地会社其物より直接各組合員に分譲するの方法を執る。

三、当地に於て各府県独立の組合を組織し、各独立して土地の経営に当るは弊害多くして利益少し。当地に於ては新設せんとする土地会社の名に於て統一管理し、以て其の事業の遂行を期せんとす。従て各府県の組合は単に内国的のものに止まらしむ可し。

第四号の二

四、移住地は府県別の区画を設けず。今後移住都市準備の整ひたる土地より到着順に入植せしむ。尚土地の割当は移住者相互の任意の協定を原則とし、協定成立せざる場合は抽籤に依る。

五、入植者は内地より移住の組合員のみに止めず、幾分当地在住者を湿するを適当とするのみならず、場合に依りては外人に向つても開放的の態度を示すことを賢明の策なりと認む。

六、「サンパウロ」州下に於ては、大衆団面積の土地を適当なる場所に於て獲得することは事実上極めて困難なり。依つて経済的必要限度を目標とし、約四、五百家族を収容し得べき面積を有する土地を以て満足し、大衆団地経営は之を他州に求むるの方針を採らんとす。

七、各府県組合の役員移住者等の出発は、土地購入決定の上、凡そ諸般の準備整ひたる後にするを可とす。貴地の事情は充分之を諒とするも、当地の実情に鑑みる時は準備整はざる前の出発は、百害ありて一利無し。充分に説得されんことを望む。

八、移住者送出の計画は、徐に之を樹つるも、何等不可無し。土地は適地を発見するに従ひ、随時成可く速に広大なる面積を購入し置くを最必要なりと認む。然らずんば経済的に非常の不利益を来すの虞あるのみならず、或は土地購入の機会を失ふに至るなきを保せず。我国将来の大局より特に深甚の注意を払ふの要あり。政府の予算編成に際しては此の点に特に重きを[置き、]充分に伸縮自由の余地を存し、臨機応変の処置を執るに便せられんことを切望す。

九、移住者の取扱に関しては、追て根本的方針を樹つる必要あるも、差当り乗船及上陸の手続は、海外興業会社をして便宜之を取扱はしむるを可なりと認む。

 

第五号
定款要領

一、土地会社は株式組織とし本社「サンパウロ」市に置き、存続期間を二十ヶ年とす。

二、土地家屋の売買、抵当、道路其の他交通機関の建設、経営、農場及付帯事業の経営等を目的とす。

三、資本金は五百「コント」一株二〇「ミルレイス」四分の一払込とす。

四、会社の役員は、法律の規定に依り二名の取締役会三名の常任監査役及三名の補充監査役よりなる監査役会よりなる。

五、設立当時の株主及役員左の通り
  取締役社長梅谷、取締役青柳、常任監査役武石、江越、大村、補充監査役北村、福川、畑中。
右は設立を急ぐ為の一時の便法にして、武石以下には何時にても組合又は聯合会関係者に其の地位を譲らしむる了解の下に少数の株を持たして就任せしむ。江越以下は全部総領事館農業部嘱託員なり。
大設立登記手続は二週間を要する見込。

(五)

(通)
通三機密第一五二号
昭和二年十一月二十三日
                       在伯  特命全権大使  有吉明
   外務大臣男爵田中義一殿
         海外移住組合に関し卑見稟申の件

曩に閣下が本邦駐箚ブラジル大使に声明相成りたる「日本は移民に依りて人口問題を解決するか如き考へを有せず」とは、蓋し従来政府当局の意志の存する所を更に此際明白に確言せられたるものと認むべく、仮令我朝野に於て内地に於ける人口食糧問題の解決を移民の奨励に依りて求めむとするも、目前の問題としては実際殆ど何等の用を為さざるは従来の実験に徴して略ぼ明白なりと断言し得べく、政府当局が常に移民の保護奨励の策を取らるる所以のものは、其の目的更に他の遠大なるものに存するを疑はずと雖も、然も他方本邦に於ける最近人口の激増及之に伴ふ諸現象を憂慮するの声朝野に洽く、政府に於ては特に右に関する調査会の設立せらるるあり。其他新聞に雑誌に常時大袈裟に論究せられ、為めに深く其の真相を確めざる当国新聞記者乃至識者間に在りては、我国は人口繁殖の捌け口を急に各方面、特に移民に何等の制限を設けず、日本に於ては其楽天地の称せらるる当国に求めんとするものなりとの誤解を惹起せしめつつある傾向あるを認む。其の一例は十一月廿三日附通三普通第一六〇号報告「ジヨルナル・ド・ブラジル」紙上「マリオ・ゲテス」氏の論説に見るべく、其の他此種危惧の念を有する分子他に少からざるが如く、其間海外移住組合法の制定あり。今や正に之が実行を見んとする。之れが規模実際甚だ大ならず、其実績尚未だ全く予見し得可からざるも、各計画の報道にして愈々当国に伝へらるるに至らば、或は甚だ好ましからざる反響を起す。掛念甚だ少からず。本件に関しては十一月廿二日附通三機密第一四六号本使視察報告中にも其の一端を稟申し置きたるも、更に多少の重複を厭はず、同組合の将来の施設に就き注意を要する諸点左に卑見稟申す。

一、同組合聯合会の組織は之れを変更せられて、全然民間の経営たるの態たらしむる要あり。
南米諸国殊に当国に於て移民輸出国が官営的機関を設けて移民を輸送するを、恰も侵略主義を実行するものにして甚敷之れを嫌忌し、其傾向顕著なる輸出国に対しては門戸を閉鎖すべしと迄極論するものすら之れあり。曩に本年九月当国に於て開催の万国議院商事会議の際、移民問題に関し其発送国と受入国の立場相違より、端なくも伊国委員と南米委員との間に論難を生じたる次第は、当時報告(九月二十三日公第一二八号参照)の通りにして、移民に関し其本国政府が多少なりとも干渉を為す事は、其の飽迄反対し居れる所なるは、独り当国のみならず、南米諸国亦然りと認めらるるに当り、我移住組合の枢軸たる聯合会が、(イ)政府の出資に依り、(ロ)内務大臣を会頭に特命全権大使を理事長とし、(ハ)理事中には内務、外務の局長亦其名を列ね、一見官営の感を懐かしめらるるが如きは、甚敷不用意と称せざるを得ず。斯る組織に依る聯合会が当国に幹部を派遣し、土地を物色し、大地積の耕地を買収し、企業移民の入植を行はるる際には、早晩必ずや排日の口実を与へ、種々の物論を生ずるの因たる可く、右は今に於て速に其の組織を変更せられて少くとも外見上のみなりとも全然民営的のものたらしめられ、始めより誤解の因なからしむる事、甚だ肝要なるべく、元来感情的の国民に対し、後に至りて真意を諒解せしめむとするは極めて困難なるべし。

二、集団的植民を行はんとするの弊
之れを移住組合の目論見書、其他に徴するに、之れが方針は可成一ヶ所に大地積を購入し、之れを各組合に分譲して集団的に移民を入植せしむるに在りと認むる所、既に屡次《るじ》報告の如く、同一人種の集団的移民はサンタ、カタリナ州等に於ける独逸人の集団的移民に依り、其全然独逸的色彩を帯びたるに懲り、成る可く之を回避すべしとの論、今や普く行はれて、殆んど与論と認むべく、レイス排日法案提起の際、当時の中央農会長リラ・カストロ氏より各地の団体、名士等の意見を徴したるに対する答申の大多数は、何れも集団的に日本人を入るるの弊を説き、成る可く諸方に分住せしむると要すとせるもの(大正十五年九月十四日附通三機密第一〇〇号参照)以て其全貌を察するに足るべく、官営的色彩を帯ぶる機関を以て、更に彼等の嫌忌する集団的移民を入植せしめんとす。他日必ずや排日論者の好辞柄たるに至る可く危険も亦甚だしと言はざる可からず。元より組合の事業の性質上、或程度迄の集団を必要とすべく、学校に、衛生設備に集団地の大なる程、便宜多かる可きは言を俟たざる可きも、叙上の事情に顧み、成る可く各地に小集団を組織せしめらるるを得策とす可か、将又事実大地積を一ヶ所に求めむとするに於ては土地分譲上幾多の支障を見るの弊をも免れざるべし。

三 当国の希望する労働移民を移入せずして、直にコーヒ園主の競争者を養成するの嫌ある矣。
本点は既に本使旅行感想中に稟申致置たるが如く、当国殊にサンパウロ州の目下最も要望し居れる処は、労働移民にしてコーヒ園主は之れが不足に苦しみ、今や之を中欧に需めポーランド、ルーマニヤ等より供給を仰ぎ、若は仰がんとしつつあり。然れども本邦より供給する所は最近の海興の報告に依れば、僅かに需要者の二割弱を出でず。若し夫れ政府の旅費補給にして、移住組合の渡航者若は海外協会の企業渡航者等に多くの配給を与へらるるに於ては、契約移民は更に一層の減少を見るの傾向あるべく、即ち一方には労働者の供給を絶ち、他方政府よりの補助を与へて土地を購入せしめ、然も我労働移民の需要者たるコーヒ園主の競争者としてコーヒの栽培に従事せしめんとす。向して如御承知、南洋及中米諸国に於けるコーヒ栽培の発達と共に、コーヒ生産過剰の声は今や各国に喧敷。当国に於ても著敷神経を鋭敏ならしめつつあり。中にはコーヒの生産費を低下して以て他の競争に当るべしとの論者なきに非ざるも、如斯は多数の生産者の首肯する所とならず。僅かにバロリゼーシヨンの方法に依り、各地の搬出を制限し輸出に制限を行ひ、必要に依りては、買上、貯蔵の挙に依りて市価を調節して生産者の保護を行ひ、以て現状を維持しつつある状況なるに当り、サンパウロ州内十億と称せらるるコーヒ樹中老齢漸く生産力を失ひつつあるもの亦少なからざるべきも、他方新たに裁信せらるるもの益々増加し、其の他々州の生産亦愈々増加するの状況にあり。其の間移住組合が政府の補助に依り、纏まりたる土地を購入し本邦より集団移民を入植してコーヒの栽培を行ふは、従来のコーヒ園主の神経を刺激するの因を為さるるなきやを憂へしむ。言ふ迄もなくコーヒは当国主要の産物にして其の耕主の主なるものは、政治上少からざる勢力を有し、其の言動は甚だ重きを為すは御承知の如く、若し如此にして我方が其の慾する労働移民を供せず、若は多くを移入せしめずして、却て直に其競争者たる企業移民の多数を政府補助の下に入植せしむるを感ずるに至らば、我方移民の将来に取り由々敷問題たらしむるの虞あり。

四 組合の当国に於ける経営者に直に適材を得難かるべき事
実際上本組合の成否の如何は、本邦に於ける幹部の適否に依るにあらず。主として当国に於て直接其衝に当るべき経営者に適材を得ると否とに存するものと認められ、仮令同組合が総領事の斡旋と今回特に派遣の梅谷理事の選定に依り、理想的地区を購入し得たりとするも、当国に於て之れが経営指導の任に当るべき適当なる人物を得ざる限り、其の将来の成功は甚敷之れを危惧せざるを得ず。然も此種の適材を直に之れを当国に求めむことは本使其の甚だ至難なるを感ずるもの。要するに同組合は、其の準備に於て、尚ほ甚だ欠くる処あるを認めざるを得ず。察するに本組合は当国に関する限り、元々各県海外協会の計画し現に実行しつつある所に則り、更に政府の補助の下に多少大仕掛に急速に土地を所有する移民を増殖せしめむ事を主たる目的とするものの如く、其趣旨に至ては本使又之れに賛同するに躊躇するものならざるも、然も各県海外協会の事業の成否に至ては今尚ほ未知数の間にあり。唯其現情に於て少くも多くの違算の存するありて、移民者は未だ予定せる収入を得るに至らず。為めに協会に納付すべき金銭の義務を怠るのみならず、生活品の供給等に負債を生ずるもの続出して、協会は為めに不少財政難に苦しみつつあるは、曩に赤松総領事の電報に依り既に御承知の如くに有之。我新聞紙の伝ふる如く、之等協会の土地を政府に肩代り方請求して略ぼ採納を得たりとの報道にして、信ならば蓋し財政難の結果とすべく、其の将来尚ほ甚だ危惧すべきもの不少現状なるに顧み、右と殆んど類似の採算の下に同様の企業を更に大仕掛に行はんとするは、甚だ大胆と称し得べく、然も当国に於て右を経営指導すべき適当の人物をも物色し居らざる情態なるに鑑み、当国に関する限り同組合の前途は今より甚だ憂慮に堪へざるものあり。如[ママ]之前述の如く同組合の組織と其実行の上には当国に於て排日論を醸成する幾多の危険性を含み居るに於て、本使の卑見として此際左の諸点御考量の程切望の至りに不堪。即ち、
  一 組合聯合会の幹部の組織に変更を加へられ、全然民営の形式とせらるること。
  二 聯合会の購入すべき土地は差当り本年度の予算内に止めしめ、若し海外協会の土地の肩代りを認めらるるに於ては須く右の整理発達を先とし、之等の成績を待て徐ろに第二段の  □□を講ぜしむること。
三 右等土地には成るべく当国に於て経験ある移民をも便宜を与へて収容するに努むること(七月二日付通三機密第七六号領事会議報告参照)。
四 組合としては出来得べくば、棉花、養蚕、小麦其他サンパウロ州朝野の歓迎するコーヒ以外の作物の栽培に注意し、其の方面に移植民奨励を為す事(サンパウロ現政府がコーヒ樹の栽培其他掠奪農業に依り荒廃せる土地を更に利用せんことを計画し、殊に小麦の栽培を奨励せる事実あるに鑑み(十一月廿三日附通三普通第一四八号報告ア・ノイテ新聞記事参照)、此方面にも相当の注意を払ふの必要を認む。)

五 サンパウロ州に限らず、可成他州に新規なる開拓を為さしむること。
畢竟本使の憂ふる所は、徒に其声のみ高くして、土地の購入等に世上の視聴を惹き、為めに排日論を醸成して、而して其実績の之れに伴はざる事に有之。右御含みの上、一に慎重御考慮を仰く次第なり。

更に一言申添へ度は、差当りサンパウロ州に対する移民の方針としては、成る可く労働移民を奨励して、一には当国耕主に満足を与へ、他方益々多く当国に経験ある労働者を養成するを得策とすべく、之れが為めには元より海外興業会社を鞭撻して耕主の選定等に其最善を尽さしむるを要するは勿論、当国に於て之等移民の保護誘導に就き政府としても尚ほ相当の施設を為すの必要あるべく、仮令ば曩に赤松総領事稟請の耕地通訳の改善の如き、其の一例なるべく、特に移住組合をして之に当らしむるか又は海外興業株式会社其他何れの機関たるを不問、速に相当の金融機関を設けて、之等労働移民の独立に援助せしむると同時に、現に土地を所有するもの若くは借地農等の助長発達に資する等を先決問題とすべきが如く、本邦に於ては新たに移民収容所の設立せらるるあり。其保護に就て相当の施設を加へらるるも、当国に於ける彼等到着後保護乃至誘導の途に至りては、尚甚だ不十分なるを免れず。之等も追々着手の要あるべく、要するに急に大地積を購入して当国に経験なき邦人を誘導し来りて、直に自作農を激増せしめむとする計画は、一見其の趣旨に於て可なるが如きも、実行上不少無理を伴ひ、一方には在留移民中独り同組合にのみ保護の厚きを怨嗟するものを生ずるのみならず、他方前陳の如く排日論者に口実を与ふるの因を為し、然も結局其実績の之に伴はざるの虞れなきに非るを以て、本件実行は差当り試験的に止めしめ、更に一般的に移民の将来を資益する他の方法を講ぜしむるを得策とすべきが如し。
最後に本組合に関しては、事前に於て当舘は勿論直接土地購入等に関係あるサンパウロ総領事にも何等の打合せ乃至予告をも与へられず。為めに採算の基礎、実際に適応せざるものあるを発見し若くは本件上申の如きを事後に余儀なくせらるるに至る等の事情をも発生する次第に付、将来に於ては成るべく予め当該出先官憲の意見をも徴せられ、出来得る限り其の機能を利用せらるる様致度し。

      本信写送付先
       在サンパウロ  赤松総領事
       在  秘     山崎公使
       在  亜     古谷公使

(六)

   田付より梅谷へ      第二号

赤松総領事発第四号に関し

一 第一項乃至第三項は、移住組合法の根本的改正を為すに非ざされば実行不可能なる処、同法実施日尚浅く且つ目下内地の情勢は到底之を容るるの見込なし。仍て将来は兎も角として目下の対応策としては同法の範囲内に於て之が活用の途を講ずる外なし。且組合法及関係予算は既に公表せられたるものなれば、貴電の如き方法に依るとするも、後日真相曝露するが如きことある場合には却て一層排日を険悪ならしむる虞あるやにも察せらる。就ては聯合会定款中内務大臣会頭を刪除し、聯合会及組合役員中可成民間の人のみを以て之を充つることとして登記を了することと致したし。

二 第四項に関しては、各府県は専属の移住地を希望し、法規其の他諸般の計画も此の立前に在り、各組合事業整理の上にも各府県別の区画は止むを得ざるものあり。将来は格別差当り此儘にて進みたし。同項后半は関係各組合に御主旨伝ふべし。

三 第五項に関しては、前半は組合法この主旨の規定を特設し居り、後半亦法の禁ずる所に非ず(法第三条参照)。

四 第六項に関しては、事実不可能ならば止むを得ざるも、移住組合の性質に鑑み、成功確実なる土地を得る様努められたし。尤も本年度内各別に八組合に対する土地獲得は必要なり。

五 第七項に関しては、組合の希望もあり。役員の先発は否むに由なし。其の他の移民に付きては御意見の通り努むべきか、此れを本年度内に出発せしめ得べき見込の有無折返し返あれ。

六 第八項に関しては大体同感当局に其の旨希望すべし。尚議会解散となれるも実行予算として土地購入費は本年度同額を要求せらるる見込。

七 第九項に関しては目下関係者と協議中

八 信濃、富山、鳥取、熊本の四協会より本年度に於て組合に肩代りしたき希望ありて協議進行中なり。御含みの上貴方事情も調査あれ

(七)

               赤松総領事来電
梅谷より田付へ(一月二十五日アリサンサに於て)


色々物色中なるも、今直に適当なる移住地を得ること困難なる処、此の度赤松総領事、多羅間領事、青柳嘱託と共にアリアンサ移住地の実況を視察、調査するに地味良好、交通便利、衛生状態亦佳なる上、既に相当の施設あり。尚且未処分の土地相当に存在し、外に接続地五百五十アルケイル買収し得る見込なるを以つて、此の土地と施設物とを利用して移住組合員の入植を試むるは、目下の急務に応ずる最良の方法なりとの結論に一致し、又当地アリアンサ関係の理事者の意見を徴するに何等異議なし。依て直に長野、鳥取、富山、熊本の四県をして移住組合を組織し聯合会に加入せしめ、其の所有地と買収の見込ある接続地とに対して右四県及昭和二年度成立の八組合の組合員中より百家族乃至百五十家族を今より三月迄の間に於て渡航せしめ度、御指揮を請ふ。


尚四協会の移住地経営に関し正当に発したる権利、義務は此の際一切現状の儘継承するを至当と認めらるるも、内地に関する点大なるものあるに依り、貴地に於ても特別の御研究を希望す。

(八)

           二月十日発
赤松総領事宛
田付より梅谷へ第四号


一月廿五日付貴電に関し、五百五十アルケールス買入れは、貴殿第四号第四項に半の主旨を前提とするものの様思考せらるる処、拙電第二号第二項の通りの事情に基き、是非共各組合専属の移住地を要する次第に付、八組合に割当つべき土地至急選定一層御努力ありたし。内地の事情は既成各組合共其の移住地決定と移住者の出発を極度に急ぎ居り中には、已に背水の陣を張り先発隊の選抜を終り、単に出発の期日を鶴首待て居る向もありて、此儘尚ほ遷延するに於ては組合の事業にも至大の影響を及ほし、惹いて組合法の将来に関しても憂慮に堪へざるものある様存せらる。貴方御困難の事情は充分之を諒とするも、組合法実施の初頭に於て一大蹉跌を生じ、世間の疑惑を生ずるか如きことなき様、篤と御考量の上拙電第二号の主旨に基き、当初計画通り迅速相運ぶ様此上共精々御配慮を祈る。

四協会肩代りの件は、目下協議進捗中なるが其の以前に於いて既成八組合の土地購入は最も急を要す。

本電及拙電第二号に関し至急何分の御返電を乞ふ

(九)

         二月十三日発
赤松総領事宛
田付より梅谷へ  第六号


一月二十五日附貴電に関しては、拙電第四号に依り当方の事情は御諒悉の事と存し、目下右に関し更らに至急御回電を待ち居る次第なるが、就中貴電に依れば長野、鳥取、富山、熊本の四県に海外移住組合を組織せしめ、其の移住地の購入を希望せらるの模様なるも、昭和二年度に於て設立したる八組合に先んじて右四海外協会の組織変更を認むるは、事情之を許さざるを以て、昭和三年度予算成立を条件として右移住地を購入致し度、至急何分の返電を乞ふ。

(十)

                                   二月十五日着
   田中外務大臣      サンパウロ赤松総領事
聯合会梅谷理事より田付理事長へ

一、内務大臣を会頭とする一条を聯合会の定款より削除したるのみにて、果して伯国政府の許可を受け、速に登記を完了し得るや否や疑問なるのみならず、移住組合及聯合会を前電記載の如く単に国内的のものと見るときは、此際取急ぎ定款を改正するの必要無かるべし。而して移住組合及聯合会の事業は、大体国内関係と国外関係に分ち伯国に直接関係を有するものに付ては、伯国の法規に準拠して、其本来の目的を達成する様、特殊の機関を設くる事は理論上正当なるのみならず、亦実際上然らざるを得ずと信ず。而して前電主張せし如き土地会社を設立する事を適切と認むるも、此際直に御承認を得難しとせば、差当り当面の応急策として適当の土地を発見次第、可成く速に梅谷個人名義を以て其購入手続を終へ、直接之を組合員に分譲するの弁法を採り、以て事業の実際上に進捗を期し度し。

二、各府県別に夫々専属移住地を設くるに於ては適当なる管理者を得る事困難なり。管理者としては伯語を解し、殊に経験ある者ならざれば、到底用を為さず。又一県人のみにては移住地の満員容易ならずして、其の完成遅延し、貧弱なる県の如きは其の成否さへも疑はるべく、尚又割拠の弊を生じ、共同を妨げ、教育衛生経済其の他一般公共的施設を為すにも不便不利多し。アリアンサの状態に鑑みるも事甚だ明白なり。而して実際の問題としては八組[合]に対する専属移住地を本年度内に設定し、且其入植準備を整ふる事は、到底不可能の事に属す。故に如何に努力工夫するるも之を明年度の計画に譲るの外無き結果に帰着し、従て今年度内は植民の出発も不可能にして、来年度に於て実現するの外無きに至るを頗る遺憾とす。尚混合移住地主義を認むると同時に、従来の八組合主義を捨て組合の組織はなるべく全国各府県をして之を実現せしめ、又なるべく多数の組合員を募集するも、海外渡航者は各府県の能力と実際とに応じて全く自由ならしめ、必ずしも一府県に百家族に限定せず、全国的に多数を得るの方法を講じ、他面当地に於ても亦毎年八組合に限定せる土地を購入するに非ずして、適地発見次第成るべく広大なる土地を購入し、着々として入植準備を進め、其準備の整ひたる後何等府県の別なく渡航順に入植せしめ、以て一団地の植民計画を速に完成すると共に順次他の土地に及ぼす時は、諸業労少なくして效果大に実際に合し、自然に従ひ植民計画の実現を期する上に於て最好都合なりと信ず。此の意味に於て将来は八組合主義を捨て、全国主義を採ると共に混合移住地主義を認むるを可なりと認む。固より毎年の事業は予算の範囲を超ゆる能はざるも、予算は極めて伸縮自由ならしむる方針を採る事必要なり。少くとも土地の購入に関して特に然りとす。

三、前電にも申述べし如く、熊本、鳥取、信濃、富山四協会の組合肩代りに関しては異議なし。昭和二年度より直ちに之が実行を希望す。但し実行の際各協会の貸借関係及其の責任に付貴地に於て詳細調査相成、後日面倒を生ぜざる様、之に対し適当なる措置を執られ度、当地に於ては未渡航者払込金に関する勘定不明なる為、其の詳細を知り難し。

右四協会のアリアンサ移住地は、総面積約二万町歩なるが之を統一し、聯合会の選択する適任者をして其の総てを管理せしむる様、組織を改むること必要なり。同地現住民は広く諸県人の入雑りにして右四県人のみに非ること御含みありたし。又同地接続地にして買収し得べき見込の土地若干存在するが故、之を買収併合すれば、同地には協会既契約者を除き少くとも百五十家族の各移住者を収容し得る見込なり。従て四協会の肩代りが速に実現し、前記の混合移住方針御承認相成に於ては、本年度内に第一回移住者を出発せしめ差支なく、アリアンサには現に一通りの施設あるが故、容易に新移住者収容の準備整ふべし。

当州内本邦人経営の植民地又は農民部落中右四協会の組織肩代りに関聯し、四協会同様聯合会又は政府より低利資金貸付の便益に与らんとする目的を以て、相集り相当大規模の運動を起すべく計画中の者あるに依り、組合肩代り実行の際は資金融通方法に関し、右計画者に口実を与へざる様、特に御注意ありたし。

四 移住者の企業準備金は、一家族(三人より成る)に付少くとも一千円其の他、一人を増す毎に大人二百円、小人百円を加算し、此の金額は渡航の際必ず取揃へ、聯合会を経て当地に送らしむる事に致したし。

五 移住地の選定購入に関しては、引続き極力尽瘁中なり。而して当国に於ける土地熟[ママ 熱ヵ]盛にして、多数人が売買に狂奔せるの状態は想像の上にありて、予め諸般の事項を報告して御承認を求むるが如きは、商機を逸するの恐あり。故に出来得べくむは、成るべく秘密に敏速に尚且経済的に土地購入の歩を進ましむる為、土地購入に関し一切の権能を一任あらむ事を切望す。此の旨、監督官庁の諒解を得る様、御尽力を請ふ。

尚、前電請求の土地調査費至急御電送ありたし。

六 貴電繰返し熱読。御苦心の状想像に余りあり。成るべく貴意に応ずべく慎重研究考慮を重ねたるも、当地の実情よりして貴意に応じ難きもの多きあるを頗る遺憾とす。何卒当地に於ける苦衷をも特に之を諒とせられむ事を望む。

以上は赤松総領事及青柳嘱託と協議済みなり。

(十一)

  赤松総領事宛             昭和三年二月二十七日発電
  田付より梅谷へ           第九号

総領事電報第十四号に関し関係当局と協議の結果左の通り

一、特殊機関に関しては、将来の研究に待つこととし当面の応急策として貴下の箇人名義にて適当の土地購入を急がれたし。尤も万一の場合に備ふる為め土地の相続に干する関係法規取調べ御報告ありたし。

二、各組合専属土地主義は変更し難きに付、飽迄此の方針にて進まれたし、尤も移住の際已むを得ざる場合、或程度迄混植は差支なかるべし。

三、四協会肩代りの件は協議中なるも、諸種複雑なる事情あり。調査に時日を要す。尤も熊本丈けは他の三協会に比し幾分簡単なるを以て他と引離し、来年度に於て其実行を見るや計り難きも、未だ何等確定するに非ず。兎も角御来示五百五十アルケイル取急ぎ購入し度き希望を以て、目下関係当局者と協議中なり。結果更に電報すべし。三重県よりの先発隊四家族は将来土地獲得の上は組合員として入植の予定にして、不取敢自由渡航として三月十七日の布哇丸にて出発に決定せるに依り、着の上は便利供与方御手配ありたし。尚第三項末段の資金融通に関しては考慮中なり。

四、移住者の企業準備金に干しては御来示の通り計ふ様致すべし。

五、土地購入に関しては一切の権能を一任す。但し大蔵省より資金借出しの都合上昭和三年十一月十六日附内務大臣指令第八項に従ひ電報ありたし。
土地調査費不日電送す。

(十二)

        電信写               二月十八日
                          在サンパウロ
                              赤松総領事来電

貴電並梅谷理事の接受せる諸電信に関し、貴方の事情は充分之を諒とし、篤と協議を重ねたるも、何分本問題は本邦移民の前途及帝国外交の将来に関係ある重要問題にして、遺憾乍ら貴方関係者当初の計画は到底之を其儘実行し難きに付、大局に鑑み従来の経緯を捨て一時の困難を忍び、此際枉げて是非梅谷発電の通処理する様、閣下より然るべく関係者に対し諭示ありたし。

一、凡そ移民受入国の最も神経に悩む所は、既に自由に入国したる移民の上に尚其本国国権の及ぶことなり。昨年リオに於ける万国議員商事会議の際、伊国代表の一人か端なくも大議論を誘起し、南米諸国代表か交々立ちて、移民は移住国の国権に服すべきことを論じ、内外人の注意を惹き、此の問題は又目下ハバナに開催中の汎米会議に於ても議論せられつつあり。北米に於ける排日論者が、常に日本移民の背後に日本国権の付随せる如く吹聴せることは、尚世人の記憶に新なる所なり。又数年前サンポウロ州と伊太利との間に移民契約を協定したる際、其中に伊国移民の子は伊国語を以て教育し得ること及在伯伊国領事は伊国移民と耕地主との争議に干渉し得ることの二ヶ条ありたる為、当時の同州統領ワシントン・ルイス(現聯邦大統領)は之を以て国家の面目を毀損するものとなし、遂に同協定を否認せり。

サンパウロ州は、労働者の不足に悩み、伊国移民を歓迎するも事国権の問題に触るる場合には、斯の如く敏感なりとす。本邦の法律に準拠して成立せる移住組合及同聯合会の定款を其儘当国に於て実施せんとするは、移民に本国法を適用せんとするものにして当国人の到底容認せざる処なるべし。又前記定款に対し聯邦政府の許可を受け登記を了し得るや否やは、疑問なる処、仮に許可及登記が順調に運びたりとするも、一方に於て其為排日論を惹起し、北米の轍を踏むに到らば、実際上百の組合も何等益なきに終るのみならず、現に当国に在住する七万同胞の前途にも一沫の暗影を投ずるに到らん。依て移住組合は之を内地関係に限るものとし、当地に於ける事業は別に機関を設け之を経営せしむることに改むる必要あり。

二、混合入殖の問題は梅谷理事の電信に尽されママる如く、各府県別とするときは各殖民地とも徒に浪費に陥り、困難を甞め、其発達を望み難し、而して植民地に於ける入植者は常に移動を免れさるが故に、最初同県人のみを集むるも数年ならずして混合植民地と化すべきは、数多の実例に照し火を睹るよりも明かなり。尤も事業遂行に差支無き限り可成く同県人を或部分に集団入植せしむる位のことは便宜取計ふへしと思考す。

三、御来示によれば、独立の機関を設くる事は法律の改正を要し実行不可能なりとあるも、梅谷個人の名義を以て土地を購入し得るものならば、独立の機関の名に於て購入し得ざる道理なしと存せざる。梅谷は目下極めて慎重に目立たざる様行動し居るも、尚新聞社等より態々其氏名身許等に付問合せ来るものあり。之に対し当館及関係者は、梅谷の投資の目的を以て数人の日本資本家を代表し下調査に来伯せるものにして適当の買物あらは追て「シンヂケイト」を組織する目論見を有すれども、未だ出来上り居る訳に非ず。又右「シンヂケイト」は日本政府とは何等関係無きものなりと答弁し居るも、梅谷の資格は多くの日本人の口より次第に諸方面に知れ亙るべきに付、至急会社を設立し、梅谷をして名実共に該会社の代表者となす必要あり。身分を偽り居る事は万事に不都合にして土地購入の交渉上にも不便多し